サイドストーリー

Underground Party 12話 終末への序曲
Title:僚機依頼
先日はわざわざ見舞いに来て貰ったのに、何も出来ずに済まなかったな。
クレストから依頼があったのだが、何分退院したてでな。
良ければ僚機を引き受けて貰いたい。
下に、依頼文を転送しておく。

>管理者の部隊がセクション422への一斉侵攻を始めました。
>同セクションは我がクレストが本拠をおく場所であり、ここが被害を受ければ我々はまさに致命的なダメージをこうむります。
>部隊はいくつもの小隊に分かれ、各地から同時に進撃を始めています。我々の持つ兵力では対応し切れません。
>中でも通気用のダクトを進行している部隊は驚異的な速度で防衛網を突破しています。
>このままでは、まもなくセクション内へ到達してしまいます。
>ダクト末端の隔壁で待機し、敵部隊を全て撃破してください。
>ここで止めなければもう後はありません。一機たりとも撃ちもらさないでください。



青髪のレイヴン、ブルーローズ――リーズは、その時遅い昼食をとっていた。
今日のメニューは、茸入りのパスタとコンソメスープである。
くるくるとフォークでパスタを巻き取り、口に運んでいく。

ぴろん♪

ふと、コンピュータがメールの着信を告げる電子音を鳴らした。
いつ依頼が来るか判らないレイヴンという稼業上、メールは即座に確認する癖が付いている。
食事を中断させられて、少々気分を害しながらも、リーズはコンピュータへと向かったのだ。


「僚機・・・ホントに頼まれちゃった・・・」

表示されたメールを読んで、リーズが呆然と呟いた。
先月見舞いに行った際に『頼むかもしれない』とは言われていたが、まさか本当に依頼されるとは思っていなかったのだ。
何せ、相手は憧れのファナティックである。
信じられないと思いながらも、了解の返事を送り、急いで身支度を整え始める。
この依頼内容からして、時間の余裕は余り無い。
昼食もそこそこに、家を飛び出すリーズ。
オペレータのセリアへと連絡を入れつつ、駐車場の愛車へと走る。
車に飛び乗ると、拙い運転技術の中で出来る限りの速度でガレージへと向かう。
リーズが車を走らせていると、突然クラクションの音が大きく響いた。

「わっ!?」

真っ赤なスポーツカーが、凄い勢いで追い抜いていったのだ。
確実に制限速度を倍以上オーバーしているその赤いスポーツカーは、見る見るうちに遠ざかっていく。
見れば、どう見ても赤信号の交差点に突入して、視界から消えていった。

「なに、あれ・・・」

憮然としながらも、制限速度一杯の速度で車を走らせる。


リーズがガレージに到着したのは、家を出てから15分ほどが過ぎてからだった。
駐車場に車を停めると、先程の赤いスポーツカーが停まっているのが目に入った。
どうやら、レイヴンかコーテックスの関係者が乗っていたようだ。

「・・・全く。乗ってた人の顔を見てみたいわ」

呆れたように呟いて、車から降りる。
小走りで駐車場を抜けて、急いで更衣室へと向かう。
更衣室のドアを開けて室内の光景が目に入った直後、リーズが憤慨して声を上げた。

「・・・また同じ人かしら、もう!」

半開きのロッカーから、誰かのYシャツの袖がはみ出していたのだ。
リーズはそれをちゃちゃっと畳んで、扉をしっかりと閉めた。
自分の服もきっちりと畳んでロッカーに仕舞ってから、パイロットスーツに着替えたリーズ。
更衣室のドアを閉める際の音が随分と乱暴だったのは、気のせいではない。



「ブルーローズか、どうやら間に合ったようだな」

セクション421から通ずる通気口を通って、セクション422側の隔壁に到着したリーズに、ファナティックから通信が入った。
間に合ったということは、まだ戦闘は開始されていなかったようだ。
だが、その口振りからして敵部隊はそろそろ到達するのだろう。
周囲を見渡せば、幾つもの足場と、配備されている数基の砲台が見えた。
どこから敵部隊が来ても対処出来るようにと、中頃の高さの足場へと昇って集中力を高める。
適度に集中したところで、ファナティックへと通信を送った。

「今回は宜しくお願いします、ファナティックさん」
「ああ、こちらこそ宜しく頼む――敵は精鋭とのことだからな、注意しよう」

何でも、クレストの敷いた防衛網を一瞬にして突破し、恐るべきスピードで進撃を続けている部隊だということだ。
今までの交戦で判明した情報といえば、敵は飛行型でレーザーが主兵装ということぐらいだ。
リーズもファナティックも、管理者の部隊と戦闘するのはこれが初めてとなる。
この世界を支配する管理者の部隊というからには、やはり通常のMT等とは一線を画した物なのだろう。
緊張と恐怖と、ほんの少しの期待が入り混じった感情がリーズの思考を支配している。
そこに、やはり緊張しているのか、少し高いファナティックの声が響いた。

「――来るぞ!」

その言葉に、集中を一気にハネ上げ、モニタを注視するリーズ。
ゴォン、とダクトのゲートが開く。
いよいよか、と2人の緊張が最高潮に高まる。
遂に、驚異的な速度で進撃してきたという管理者部隊が姿を現したのだ。
――その敵MTを見て、リーズが呟いた。

「――ぼーる?」
「・・・原作が違う」

ファナティックの言葉に、もう一度そのMTをじっくりと見て、更に続けた。

「ぼーるにしては、キャノンが付いてないですね」
「・・・だから、違うと」

が、何にせよとにかく敵は敵だ。
3機小隊で現れた敵MTに向かって、リーズが連動ミサイルを含めて10発ものミサイルを叩き込む。
ファナティックもスラッグガンの散弾を、編隊の中央に炸裂させた。
ミサイルの爆煙で、敵MTの姿が見えなくなる。

「流石ぼーる、弱い・・・」
「――いや、まだだ!」

ファナティックの言葉どおり、煙の中からブロージットへ向けて3条のレーザーが伸びる。

「っと――ぼーるの癖に頑丈ね!」

舌打ちして、機体を足場の影に下がらせるリーズ。

「・・・進攻が早かったって、転がってきたとか・・・」
「・・・流石に壊れると思うが」

MTは装甲を開いたまま上昇し、ブロージットへと射撃を続ける。
そのMT小隊に、真下からレッドアイのスラッグガンが撃ち上げられた。
拡散した弾丸が、次々に露出している内部構造へと炸裂する。
先程見せた耐久力とは裏腹に、あっけなく炎と煙を噴いて墜落する3機のMT。

「ブロージット、奴が射撃体勢に入ったところを狙え」
「了解しましたっ」

次々にダクトから小隊単位で現れるが、装甲を開いた瞬間に撃墜されてゆく。
ブロージットを狙えばレッドアイから、レッドアイを狙えばブロージットからの弾丸を浴びて堕ちるMT。
どう考えても、設計者は何処かぬけていたとしか思えない。
恐らく射撃地点に到達するまで、強靭な装甲で敵の攻撃を防ぎ――という設計思想なのだろう。
確かに、この装甲ならグレネードの1・2発は耐えられるだろう。
・・・だが、マシンガンを数発受けただけで黒煙を噴き出して堕ちるというのは、流石に脆すぎる。

「――これが精鋭部隊とは・・・クレストも随分と舐められているようだな・・・」

ブレードでMTを切り裂いて、ファナティックが嘲笑うように呟いた。
着地したレッドアイの背後に、ブロージットからのチェインガンの砲弾が降り注ぎ、レッドアイを狙っていたMTが吹き飛んだ。
27機目のMTが地面に落ちたのを確認して、ファナティックがふと呟いた。

「――しかし、妙だと思わないか?」
「――ええ、ぼーるにしては変な設計ですよねぇ・・・」

リーズの答えに、ファナティックが苦笑して続けた。

「そうじゃない、まあ・・・確かに妙な形だが――これだけの数のMTが一斉に進攻してくれば、此処を突破される可能性は高いだろう?」

その言葉を聞いて、リーズもそれに思い当たり、はっとした。
ファナティックが頷いて、ゆっくりと口を開く。

「戦力の逐次投入は下策だが――」

そのファナティックの後を継いで、リーズが言葉を続けた。

「時間を稼ぐにはもってこい、ですか・・・」
「そういうこと、だな・・・」

沈黙が走る。
これが陽動と判ってはいても、ここを動くわけにはいかないのだ。
ここを通せば、セクション422内部に突入され、再編成中のクレストの本隊が被害を受ける。
そうなれば、最早クレスト本社は保つまい。
――そして、そもそも2人はレイヴン。
ビジネスとして成り立っている以上、依頼された任務以外の事は行わないのだ。

「まあ・・・精々、クレストの連中の奮闘を祈ろうか・・・」

諦めが漂っている口調だ。
管理者が本気でクレスト本社を攻略しようとしているのなら、止める術は無いだろう。
まして、クレストの誇る"Last Supper"も先日の戦闘で壊滅状態だと聞く。
しかも、参加した部隊の6割以上が未帰還となったという話もある。
主力の"Last Supper"がそれでは、本社の防衛すら覚束無いだろう。
ちなみに、ユニオン・キサラギ合同部隊に至っては、ほぼ文字通りの全滅だということだ。

「・・・また来ましたね」

再び現れた3機編成の小隊に、2機が銃口を向ける。
MTを攻撃しながら、ファナティックが静かに呟いた。

「・・・今頃は、敵の大部隊がクレスト本社に進撃しているだろうな・・・」


ファナティックの危惧の通り。
各地から進撃してくる管理者部隊は、その殆どが陽動だった。


――読者の皆さんは、ランチェスター方程式というものを御存知だろうか。
戦力自乗の法則と言ったほうが判り易いかもしれない。
簡単に言えば、両軍の兵力数の自乗の差の平方が、勝者側の残存兵力数になるという法則だ。
例を挙げれば、50人と30人が同じ性能の兵器で戦ったとする。
2500−900=1600で、勝者側は40人残るということだ。
つまり、兵力差が開けば開くほど、数の多いほうが有利になるという法則なのだが――

進攻してきた部隊のそれぞれに迎撃部隊を向かわせたクレストの本隊は、本来の半数程度に減少していた。
そして、それは実際の戦闘力は1/4程度にまで落ち込むということだ。
そこに、圧倒的な数の管理者部隊が、正面から押し寄せてきたのだ。
クレスト側は、航空部隊・本社警護隊・その他全ての予備兵力をそれに対して投入した。
無論、"Last Supper"も出れる機体は全て出撃しているが――。
先日の戦いで、出撃31機中19機が撃破されているのだ。
第4・第9小隊は全滅、第7・第11小隊も小隊長を残して壊滅。
第1・第8小隊は残存2機、第6・第13小隊が残存3機となっている。
定数を満たしている小隊は、先日の作戦に出撃しなかった第2・第3・第5・第10・第12小隊のみ。
そのうち第12小隊は、現在は遠く離れたルグレン研究所だ。
そこで、第7・第8・第11小隊の残存機を集め、第4小隊として再編。
第1・第6・第13小隊はそのまま据え置きとなった。
そして、第1・第12小隊を除いた7個小隊26機が、恐るべき数の管理者部隊との戦闘の最中に在った。



「全機急降下しつつ搭載弾を全てバラ撒け!ミサイルもクラスターも1発も残すな!」

戦場に到着した航空部隊が、一気に上空から襲い掛かる。
数百ものミサイルが白煙の尾を曳き、集束爆弾の子弾が雨のように敵部隊に降り注ぐ。
だが、爆発で立ち上る土煙の中から、何発ものレーザーが打ち上げられ、次々と戦闘機が撃墜されてゆく。
レーザーに補助翼を吹き飛ばされた1機が、引き起こせずにそのまま地面へと激突して吹き飛んだ。

「くそ!何だあの装甲はっ!!」

それでも、後続の機の投下したクラスターの子弾が内部構造に命中し、全体で数十機もの敵MTを撃破する。
しかし、それでも敵部隊のほんの一部を削っただけだ。

「全機、全速で離脱!――弾薬補給が終わり次第すぐに戻るぞ・・・!」

眼下で戦っている味方部隊に、機体を2・3度軽くバンクさせて声援を送る。
恐らく気付いた者は居ないだろうが、同じクレストを守る為に戦っている仲間への礼だ。
航空部隊は、反復攻撃を掛ける為に、付近の飛行場へと向かう。
その航空部隊が後にした戦場は――最早、絶望的であった。


砲撃しつつ後退する戦車部隊に、レーザーが降り注ぐ。
薄い上部装甲を貫通され内部の弾薬が誘爆したのだろう、数両の戦車が吹き飛んだ。
その開いた装甲内に戦闘ヘリからのロケットが命中し、MTが爆散する。
だが、次の瞬間には戦闘ヘリは何条もの光に貫かれて空中分解を起こして爆発した。
クレスト部隊も善戦してはいるが――時間の経過につれ、段々と劣勢になってゆく。
1000とも1500とも言われる数の敵部隊を前に、セクション614で疲弊したクレスト部隊は押されてゆくばかりだ。


ゴオン!
と、突如グレネード弾がカース・オブ・カオスの手前で炸裂する。
MTから放たれるレーザーとは違う、その凶悪な破壊力を持つ砲弾が飛んできた方向へと機を旋回させる。
見れば、管理者部隊のACがグレネードの第二射を放ちながら接近してくるところだった。

「実働部隊ACを確認!大物が来たっ!」

その報告を受けて、それぞれMTと戦闘中だったウラノスとセニアが即座に援護に回る。
レーザーライフルを放ちながらカース・オブ・カオスに突進するACに、横合いからディヴァイドがアサルトロケットを浴びせて足を止める。
そこへウラノスが一気に機体を接近させ、ブレードを発振して切り掛かる。
だが、そのACは見た目とは裏腹に、急激な上昇を行ってそれを紙一重で避ける。

「流石は実働部隊か!」

吐き捨てて、ウラノスは実動部隊ACの追撃を避けるため、思い切り機体を振って回避機動を行う。
案の定、後ろからはレーザーライフルとオービットの追撃が迫ってくる。
と、ディヴァイドの放ったグレネードライフルの砲弾が、追撃する実働部隊ACの前で警告のように炸裂した。

「周りのMTを抑えて下さい!ここは私が!」

叫んで、アサルトロケットを牽制で放ちつつ実働部隊ACに接近戦を挑む。
そんなセニアに、カーティスが声を掛けた。

「1人で大丈夫なのか?」
「大丈夫だから言ってるんです!」

もっともだ、とウラノスが笑った。
カーティスは少々憮然としながらも、周囲のMTをディヴァイドに近付けさせまいと戦闘に入る。
頭の中で、美人には違いないんだけどな…とか、やっぱラスティアちゃんのが可愛いよなぁ…とか考えていたのは秘密である。
どうも、カーティスは気の強い女性は苦手らしい。
・・・話を戻そう。


実働部隊ACと相対したセニアは、正面戦闘を避けて死角に回り込もうと機体を動かす。
あんな重量級の敵と正面から撃ち合っては、装甲・火力に劣るディヴァイドに勝ち目は無いからだ。
だが、敵もさるもの。
そのACは重量級のわりに素早い機動性を持ち、それを巧みに操ってディヴァイドを後ろに回らせんとする。
一瞬でも足を止めれば後ろに回れる。
そう判断して、セニアは右腕のグレネードライフルを近接信管にセットして実働部隊ACへと放つ。
だが、その目論見は通じなかった。

「どういう性能してるのよっ!」

榴弾の至近爆発を浴びても、それを意にも介さない様子で煙の中から飛び出すACに、憤慨して声を上げる。
機動性は中量級だが、安定性や装甲は紛れも無く重量級のものだ。
報復とばかりに、実働部隊ACからレーザーライフルが連射される。
それを回避しながらアサルトロケットを放つが、セニアは射撃戦は余り得意ではない。
まして、ノーロックのロケットでは尚更だ。
舌打ちして一気に決着を着けようとOBを起動する。
実戦ではこれが初めてだが、きっと成功するだろう。
シュミレータでは何度も成功している、出来るはずだ。
深呼吸して、腹に力を入れる。
直後。
ドォ、という音と共に、セニアの身体がシートに押し付けられる。

「うっ・・・!」

シュミレータでも、Gや被弾の衝撃などは再現されている。
だが、矢張り実際に行ってみるのとでは、天と地ほどの違いがある。
内臓を押し潰されるような感覚に、呻き声が漏れた。
OBで加速するディヴァイドは、一気に敵ACへと迫る。
此処から先は、一瞬。

「うあああああ!」

意味の無い叫び声とともに、OBを解除すると共にブレードを振り下ろす。
しかし、それはギリギリのところで敵ACに回避をされる。
だが、それに対応出来るように考えたのが、これだ。
OBの勢いを殺す為、前方の地面に榴弾を撃ち込んで爆風を起こす。
当然、爆風を浴びたディヴァイドはあちこち損傷するが、既にそれは関係ない。
ブレードを発振させたまま、刹那の間、敵ACの真横で停止するディヴァイド。
次の瞬間、ドン、とターンブースターが火を噴いた。
ザン、と敵ACのコアが半ばまで切り裂かれる。
――失敗だ。
セニアは舌打ちした。
本当なら、これで上半身を斬り飛ばしてやるつもりだったのだ。

「シュミレータで完全に覚えているつもりなのに・・・こんなにGが凄いなんて・・・!」

OBとTBの併用による多大なGが、セニアに予想以上の負担を掛け、今一歩の結果となったのである。
だが、それでも効果はあった。
背面から思い切り食い込んだブレードは、そのACのブースタを破壊し、行動不能にさせていたのだ。
それでも歩行移動で最後の抵抗をするACに、至近距離からのアサルトロケットが次々に命中し、遂には黒煙を上げさせた。
その光景を見て、ウラノスが口元に笑みを浮かべて呟く。

「俺も、うかうかしてはいられんな」

"双龍の剣鬼"が駆ける。
一閃したブレードの後に、強靭な装甲を誇るはずの敵MTが次々に爆砕される。
MTの装甲の開閉部の僅かな隙間へと、ブレードを正確に通しているのだ。
その歴戦の手練の前には、そんな装甲など関係ないと言わんばかりだ。
――だが、彼らの奮戦も、全体を押し流すような流れを変えることは出来ない。
エースパイロットが幾ら敵を落としたとしても、最後に物を言うのは、やはり物量なのである。


「――ダメだっ・・・!」

また1機のACが力尽き、撃破された。
クレストの誇る"Last Supper"と云えども、自軍の3倍近い敵が相手では限界がある。
本社へは通すまいと、味方部隊の負担をなるべく減らそうと奮闘している彼らだが――
櫛の歯が欠けていくように、1機、また1機とすり減らされてゆく。
敵を混乱させ、進撃を少しでも遅らせようと、敵隊列の中に突入して全滅した小隊もある。
戦線の後退に取り残され、圧倒的多数の敵に包囲されて果てた小隊もある。
被弾した戦友を庇って撃破された者、管理者部隊のACと遭遇して撃破された者――
既に、"Last Supper"残存機は出撃時の半数に減っていた。


「第3・第5・第10小隊全滅・・・か」

その他、MT部隊や機甲部隊も甚大な損害を受けている。
管理者の部隊の圧倒的な数に、自軍は津波に飲まれるように押し捲られている。
――恐らくは、この本社は守りきれないだろう。
次々に飛び込んでくる敗報。

「私が生き延びねば、クレストは失われる――」

クレスト社を仕切る女性は、ある1つの決断を下した。
そう、それはつまり――



本社の放棄が決定された。
それは、必死の防戦を続けるクレスト残存部隊にも伝わっていた。

「各部隊は人員・データの移送が終了するまで防戦に努めよ・・・か。ふざけるな!俺達は、御偉方の為の捨て駒か!?」

伝えられた命令を聞いて、ケインが憤慨する。
戦って死ぬこと自体は、別に構わない。
ACに乗っている以上、そんなことは覚悟の上だ。
しかし、こんな意味も無い死に方は――犬死にはごめんだ。

「ケイン隊長・・・?」

沈黙したケインに、アリシアが幾分トーンを落として声を掛けた。

「俺は・・・御偉方の為に戦ってるんじゃない、このレイヤードが少しでもマシになればと・・・」

搾り出すように独白するケイン。
管理者の代行者たるクレストに入社したのも、その為だった。
クレストの命令に沿って、管理者の決定に逆らう者達を始末していった。
それが、このレイヤードの秩序を守る行為だと信じて。
だが、それがこの結果だ。

「――隊長・・・逃げましょう」

ヘレナが、ゆっくりと口を開いた。

「何を言ってるんだ、敵前逃亡は重罪・・・」

そこまで言いかけて、ケインは口を噤む。
今、自分達に戦わせて後方で逃げる準備を整えているのは何処の誰だ?
それこそ、敵前逃亡ではないのか?
その思考に、アリシアの声が重なる。

「そうですよ・・・代表が逃げちゃったんだし、こんなところで無理する必要はありません!」

そうだ、あの代表は逃げたのだ。
そんな卑怯者の為に、自分達が死ぬ必要はない。

「一緒に逃げましょう。私は、隊長となら何処へでも行きます・・・」

ケインは、そのヘレナの口調に何か引っ掛かるものを感じた。
だが、その言葉に含まれたヘレナの感情には気付かなかったようだ。

「そうだな、3人揃って生き延びよう・・・よし、一気に離脱するぞ」

その言葉に、アリシアとヘレナが溜息を洩らす。

「やっぱ、ケイン隊長鈍感・・・」
「・・・いいわよ、その辺はもう諦めてるから・・・」

それを聞いて?マークを幾つも浮かべながら、ケインはタウロスにOBを起動させる。
アリシアのシグナス、ヘレナのガングートが続く。

「第6小隊、行くぞ!」

3機のACが、敵中を一気に突き抜けていく。
――クレストの公式記録では、この3機を含めて出撃した"Last Supper"は全機未帰還とある。
彼らが戦いの渦の中で散っていったのか、無事何処かへと離脱出来たのかは定かではない。


「移送が完了した。各機戦闘領域より離脱――これより本社は放棄される、御苦労だった」

そして、戦いは終わりを告げる。
戦場に残されたのは、見捨てられた兵士達の屍だけだった。







前条です。
どうもノリが悪くて纏まりの無い話に。
第13話のが先に出来てるというヘタレっ振り・・・w
あっちは、サブタイトルに南海の大決闘とか付けたいですねぇ・・・w
確か、ゴジラとモスラとエビラの出てくる映画だった気が(古
タイトルを水上決戦にしようか迷ったんですけどねー。
それは、後々に取っておくことにしました。
で、それで判る通り、次は巨大兵器撃破です。
先日募集したフロートの皆様の大活躍で御座います。
作者:前条さん