AC3SL PW 第3話
「何か依頼は……」
冷蔵庫に常備してある缶ビール片手にメールを確認してみると、依頼のメールが2通来ていた。
『依頼主 ミラージュ
報酬 後払20000C
我が社が開発した新型MTのテストの相手になって貰いたい。
この新型MTは、AI研究所の技術提供により開発したAI搭載の無人MTである。
小隊行動も可能になっており、今回は小隊行動のデータを取ることが目的だ。
3機によって小隊化されたMT部隊2小隊との戦闘をしてもらう。
このMTが実戦に配備されることによって、防衛力の向上はもちろんコストの面でも効率化が進められるだろう』
「これからこっちの仕事が減るような依頼は却下だ。次」
『依頼主 クレスト
報酬 後払50000C 結果により減算
我が社から、グローバルコーテックスのパーツ格納倉庫群まで輸送する輸送車団を護衛して貰いたい。
普段なら輸送機を使用するのだが、輸送航路の中でも大事な中継地点であるバルガス空港が先日襲撃され、多大な被害を受けてしまった。
現在復旧作業を急がせているが、次の輸送までに間に合いそうにない。
期日までに納品できないとなると、企業としての信用は地に落ちてしまう。
なんとしても成功させてくれ』
「護衛の依頼か。報酬も高めだし、承諾だ」
荒野地帯に通る1本道を、我がACプライオリティーと護衛対象の輸送車5台が移動している。
「こちら輸送車。レイヴン、後30分ぐらいでグローバルコーテックスのパーツ格納倉庫群に到着する。後少しだ、よろしく頼む」
「レイン、こちらでは何も機影は見つからないが、そちらから何か機影のようなものは発見できるか?」
「いえ、相変わらず何も無いようで……、バースト! 進行方向右後方からACらしきものが接近しているようです! 数は2機!」
「クソッ、後少しで到着だって言うのに! レイヴン、頼むぞ!」
「迎撃を開始する。ここで食い止めるから、輸送車は先行してくれ」
機体のレーダーではまだ捉えられてはいないが、遠くの方から接近してくる2機の機体が視認できる。
「レイン、機体の識別は?」
「機体名は過去のランカーAC、インターピットとルージュ。おそらく無人ACと思われます!」
レインからそれぞれの機体データが送られてくる。
インターピットは、黒系統に塗装された重量2脚AC。
コアはクレスト重量OBコア。EXにはターンブースターが装備されている。
武装は、右肩18発大型ロケット、左肩14発地上魚雷ミサイル、右腕66発ハンドロケット、左腕30発拡散投擲銃となっている。
ルージュは、淡いピンクに暖色系という塗装がされた中量2脚AC。
コアはミラージュ軽量EOコア。EXに50発ミサイル迎撃装置が装備されている。
武装は、右肩レーダー、左肩15発オービットキャノン、右腕90発レーザーライフル、左腕にブレードが装備されている。
「同時に2機はキツイから、引き離さないとな……」
肩のレーザー砲からレーザーをルージュに向かって連射する。
難なく回避されて命中することはないが、インターピットとの距離が離れていく。
OBを持たないルージュでは、インターピットに追いつくまでに時間がかかる。
狙いをインターピットに切り替えてマシンガンを発射させていく。
インターピットは頑丈な装甲にものをいわせて、回避もせずに接近しながら大型ロケットと拡散投擲銃を発射してくる。
「マシンガン程度じゃダメか……」
ロケットのみに気を付けて回避をしながら、武器をレーザー砲に切り換えてインターピットに向けてレーザーを発射する。
流石に今度は回避運動を取るが、重量級では避けきれずに左肩にヒットし、左半身が吹き飛ぶ。
「ちっ、左だけか!」
続けてレーザーを発射しようとすると、モニターの隅にダメージという表示がされる。
「インターピットの攻撃は受けて無いはず……。もう追いついてきたのか!」
追いついてきたルージュがオービットキャノンを発射したらしい。
機体の周囲を3基のビットが囲みレーザーを発射してくる。
攻撃を中断し、ビットレーザーを回避しようとすると、機体に大きな衝撃が走る。
モニターに映る自機ACの武装欄から左腕と肩の武装が消えている。
「こちらの左腕も!?」
発射されてくるビットレーザーは無視し、インターピットのみに攻撃を集中する。
インターピットの残った右腕から発射してくるハンドロケットを回避しながら、OBを起動させる。
「装甲がない左からなら!!」
OBによってインターピットの破壊された左半身に回り込みレーザー砲を発射させる。
インターピットも残った右肩のターンブースタを使ってこちらを向こうとするが、片方だけでは出力が足りずにこちらを向ききれない。
機体の機関部が剥き出しになったところにレーザーが直撃した事によってインターピットは動きを停止し、爆発を起こした。
レーダーで位置を確認し、機体を旋回させてルージュの方に向ける。
ルージュは、またオービットキャノンを発射させてくる。
発射されてくるビットレーザーを地上ブーストダッシュで回避しながら、マシンガンを放ち接近する。
ルージュ自身はリロード時間の関係で右腕のレーザーライフルは撃てないが、コアに搭載されているEOを起動させて攻撃してくる。
だが、ロック精度の悪いEOでは横にブーストダッシュをするだけで回避できてしまうので、全く当たらない。
その間にもマシンガンがルージュの装甲を破壊していき、機体からは煙が噴きだし始める。
ルージュは全身から煙を噴き出しながらこちらにレーザーライフルを構えたところで動きを停止し、爆発する。
「撃破完了。機体は、左腕大破による肩と腕の武装強制パージに、残弾がマシンガン204発にレーザー砲21発か。レイン、輸送車団は?」
機体のチェックをしながらレインに輸送車の位置を尋ねる。
「かなり先行していますが、追いつける距離です」
「了解した。今から輸送車団に追いつく」
「待って、付近にAC反応!? 注意して下さい!」
レインの警告でレーダーに目をやると、後方から接近してくるものを表示している。
「3機目だと!?」
レーダーで確認すると同時にOBを起動させ、接近してくるACとの距離を取りながら、機体を旋回させて接近してくるACの方へ向ける。
こちらのマシンガンの射程ギリギリの距離に、紫の濃淡によって彩られた中量2脚ACが立っていた。
コアは、ミラージュの軽量OBコア。
武装は、右肩42発小型ミサイル、左肩300発チェインガン、右腕1000発マシンガン、左腕が月光と呼ばれる高出力ブレードとなっている。
「2機でもダメとは……。不安要素は……、抹消する」
いきなりの通信が終わると同時に、OBによって急速接近して月光を振ってくる。
「なっ!?」
ギリギリその1撃を回避し、レーザーを放ちながら後退して距離を取る。
相手ACは難なく発射したレーザーを回避する。
「レイン、あの機体は?」
距離が離れたので、レインに相手ACの情報を求める。
「あのACは、アストラル・リーネのようです。搭乗者はグイン。ですが、このレイヴンは行方不明になっていた筈……」
「筈も何も、生きてたって事だろ!」
「とにかく、コーテックスに連絡を入れて、倉庫群を防衛しているAC2機の内1機を増援としてこちらに回して貰いました。
増援が来るまで何とか撃破されないようにして下さい」
アストラル・リーネが発射してくるミサイルを右肩に残っているデコイ発射で回避しながら、レインと通信をする。
「撃破されないようにと言ったってな……。ちっ、強化か!」
上空に上がり発射してくるチェインガンを連続で受け続けるのを何とか避けつつ、レーザー砲をパージする。
「唯でさえ残弾が少ないってのに……」
こちらはマシンガンを5・6発間隔で発射させながら、一定の距離を取り続けようとする。
しかし、アストラル・リーネはOBを起動して、地上を急速接近しながらマシンガンを発射してくる。
「これ見よがしに撃ちやがって!」
何とか接近される前にこちらもOBによって急速離脱し、近場にあった岩場の陰に入る。
「レイン増援はまだか!?」
「後少しです! 頑張って下さい!」
岩場を盾にしながら何とか時間を稼ごうとするが、今度は上空からミサイルを撃ち下ろしてくる。
飛んでくるミサイルを最後のデコイで対処し、後退しながらマシンガンで牽制する。
アストラル・リーネは上空にいるまま、チェインガンに切り替えて発射してくる。
付かず離れずのままの距離を何とか維持していると、男の声で通信が入る。
「レイヴン、援護開始します!」
その通信と同時に、巨大なエネルギーの固まりとグレネード弾がアストラル・リーネに向かって飛んでいく。
アストラル・リーネは右肩にかすめながらも直撃は受けずに、一旦その場から後退する。
「増援来ました! ランカーAC、スパイラルランスです」
「増援……、撤退する」
アストラル・リーネは、増援が来たとわかるとすぐにOBを起動させ、この場から離脱していった。
「潔い引き際ですね。レイヴン、大丈夫ですか?」
目の前に停止したスパイラルランスから通信が入る。
コアは、ミラージュ軽量OBコア。
先程撃ったのは、どうやら右腕の20発プラズマライフルと左腕の20発グレネードのようだ。
両肩には50発小型ロケットも装備されている。
「助かった。礼を言う。俺はバーストって名前だ。もし良かったら名前を教えてくれないか?」
「私はスピロヘータといいます。それでは、一緒にコーテックスの倉庫群まで行きましょうか。まだ動きますか?」
「ああ、一応大丈夫そうだ。倉庫群までよろしく頼む」
損傷の激しいプライオリティーを何とか動かして、スパイラルランスと共に倉庫群に向かって移動し始めた。
何とかコーテックスの倉庫群まで着き、自分が借りているガレージまで輸送車で輸送して貰うと、ランドルが出迎えてくれた。
「おいおい、随分派手にやられたようだな。よし、機体をガレージの中に入れとけよ!」
「「わかりました!!」」
プライオリティーが、他の一般作業員によって専用の大型台車に乗せられてガレージの奥へ消えていく。
「AC3機を相手にしているんだ。増援が来てくれなかったら、機体はスクラップで俺もここには居なかったよ」
「まっ、良く戻ってきたよ。で、どうする? 見た感じだと、修理には1週間以上が掛かるぞ。唯一残ったマシンガンも……、廃棄だな」
「そうか……。機体の方は、時間が掛かっても良いから修理で頼む。武装については、考えが纏まったらメールを送っておく」
「わかった。それじゃあ、お前もゆっくり休むんだな」
「ああ。それじゃあ、帰らさせてもらうよ。他の奴にもよろしく頼むと言っておいてくれ」
帰宅するとキッチンに向かい、缶ビールを取り出す。
「流石に今日はしんどかったな……」
缶ビールのプルトップを開け、パソコンのスイッチを入れる。
「さて、考えた武装についてランドルにメールを送っておくか……。んっ? メールが来ているな」
モニターには、2通のメールの着信が表示されている。
「最初はクレストか……」
『今回の護衛ご苦労だった。
AC3機という予想以上の襲撃の中、よく守ってくれた。
バルガス空港の修理も順調に進んでいて、次の輸送までには間に合いそうだ。
これからもよろしく頼む』
「目的は俺だった可能性が高いがな……。次は、レインから」
『本日、バーストの所だけではなく、他の場所にもAI機が出現したようです。
今回出現したACとその機体に対する対応結果は以下の通りです。
インソムニア ミラージュの地上輸送ルート襲撃。DT搭乗のACオーバードライブによって、撃破。
クラッシュボーン ミラージュの地上輸送ルート襲撃。同じく、DT搭乗のACオーバードライブによって、撃破。
ボルケイノ キサラギ管轄の沿岸の浄水場施設襲撃。バスター搭乗のACディグニティーによって、撃破。
メガラオ キサラギ管轄の沿岸の浄水場施設襲撃。同じく、バスター搭乗のACディグニティーによって、撃破。
ただ、DTとバスターはミッション終了後に識別信号が消失し、現在も帰還していません。
それと、今回現れたグインですが、彼もミッション終了後に行方不明になったようです。
また、彼の話していた言葉から、彼がAI研究所と何か関係があるのは間違い無いと考えられます。
そして今回行方不明となった2人も、AI研究所と何らかの接触があったのではないでしょうか?
謎の多いAI研究所ですが、こちらで調べてみます。
調査でき次第、またメールを送ります』
「AI研究所……。いったい何が目的なんだ?」
※今回登場のグインはフドーケンさん(現バルサラさん)より提供して貰いました。
作者:キャップさん
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