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 反撃へのプレリュード・前編 
「・・・・俺だ」
 
「イレギュラーのACの反応が止まった。今データを送る」
 
「・・・受け取った。今データを開く」
 
「ああ、そうしてくれ」
 
「・・・・この辺りには何も無いエリアじゃないのか?」
 
「ところがそうでも無いらしい」
 
「何?」
 
「昔の資料をサーチしてみたんだが、古い格納庫がその付近にあるらしい」
 
「なるほど・・・、奴はそこにいるのか」
 
「そう言う事だな」
 
「で、格納庫の詳しい場所は?」
 
「待ってろ、今詳しいデータを送ってやる」
 
「・・・・ここか。急げば2時間半で着くな」
 
「待て、ここで無理してエネルギーを使うことも無いだろう」
 
「・・・そうだな」
 
「相手はイレギュラーだ。注意し過ぎる事は無い」
 
「最小のエネルギー消費だと、大体4時間ぐらいか」
 
「よし、行こう」
 
 
 
日光とラスカーがレインの指定した古い格納庫に辿り着いたのは、
 
あの戦闘から1時間後の事だった。
 
彼等がACを降りると、油まみれの作業服を着込んだメカニックが歩み寄ってきた。
 
「あんたが日光かい?」
 
歩み寄ってきたメカニックが、日光にそう尋ねる。
 
「そうだが、あんた等は?」
 
「俺か?俺はこいつ等のチーフだ」
 
彼は整備ドックで作業をしているメカニック達を、指差しながらそう答えた。
 
言われてみると、なるほど、確かにチーフっぽい。
 
「さて、早速だがACを動かすから機動キーを貸してくれ」
 
2人は、言われた通りチーフに機動キーを手渡す。
 
「仕上がるまで仮眠室で休憩でも取っててくれ。
 
 そこのドアを開ければ判るはずだ」
 
そう言うと、チーフは向こうにいた若いメカニックを数人呼び寄せ、
 
一つ一つ詳しい指示を出す。
 
日光とラスカーは、彼等の仕事の邪魔にならぬよう、
 
早歩きでチーフが教えてくれたドアに向かう。
 
「ああ、そうだ」
 
ドアノブに手を掛けた時、チーフは思い出した様に日光を呼びとめる。
 
「アンタのオペレーター、レインとか言ったか。
 
 あのお嬢ちゃんならここのオペレータールームにいるぞ」
 
「そうか、悪いな」
 
日光が軽く礼を言うと、チーフは手を上げて合図する。
 
 
 
「久し振りだろ、レインと会うの」
 
「そうだなあ、あれからだからもう2週間ぐらいかな」
 
仮眠を取る前にレインに会う事を決めた二人は、
 
オペレータールームに続く通路を雑談をしながら歩いていた。
 
「どうだ、久々に自分の彼女に会う気分は?」
 
日光は煙草に火をつけながら答える。
 
「どうって・・・別にどうでもないよ」
 
「そう言うもんか?」
 
「そう言うもんだよ。ラスカーはどうなんだよ?」
 
ラスカーの質問を軽く受け流すと、今度は日光が彼に質問を返す。
 
「俺はそう言うのに興味がないんでね」
 
「20の男が、寂しいの〜」
 
ラスカーは顔に青筋を立てているが、日光はあえてそれを無視して歩き続ける。
 
しばらく歩き、2人はオペレータールームの前に着いた。
 
「・・・別になんとも無いんじゃなかったのか?」
 
日光の明らかな様子の変化に気づいたラスカーは、そう言って日光を茶化す。
 
「うるせえな、緊張するモンは緊張すんだよ」
 
今度は日光が青筋を立てるが、ラスカーは無視してドアを開けるように促す。
 
「・・・判ったよ」
 
日光は大きく深呼吸した後、意を決してドアを開く。
 
その音に気付いたレインは、レシーバーを外しながら静かに振り向く。
 
「日光・・・・・」
 
椅子から立ちあがりながら、レインは日光にゆっくりと近づいて行く。
 
「レイン、ただいま」
 
日光は目に涙を浮かべているレインに、優しくそう囁く。
 
その言葉を聞いた途端、レインは日光に飛びついた。
 
「よかった・・・、本当に・・・・無事でよかった・・・」
 
泣き咽ぶレインを、日光は何も言わずに強く抱きしめた。
 
「・・・そろそろいいか?」
 
しばらく黙って成り行きを見ていたラスカーであったが、
 
いい加減寂しくなって二人に声をかける。
 
「そうですね、ごめんなさい」
 
日光から離れ、涙を指で拭きながらレインは笑って見せる。
 
部屋に入った2人に、レインはコーヒーと一緒に数枚の紙を差し出す。
 
「これは?」
 
この二つを受け取りながら、日光は尋ねた。
 
「貴方がいない間の事をまとめた報告書です」
 
日光がそれに目を通そうとした時、不意に通信が入った。
 
「あ、俺が出るよ。多分俺だから」
 
日光は通信に出ようとするレインを止めると、通信機に近づいて回線を開いた。
 
「日光・・・・判った、すぐに行く」
 
通信を着ると、日光はコーヒーカップをテーブルに置いてドアを開けた。
 
「そうだ。レイン、『管理者』について調べておいてくれ」
 
「判りました」
 
彼女の返事を聞く前に、日光は整備ドックに向かって走っていた。
 
 
 
日光が整備ドックに着くと、チーフが難しい顔をして待っていた。
 
「どうしたんだい、チーフ」
 
「アンタのACな、損傷がひど過ぎて、直しても使いモノになりそうに無いぞ」
 
「やっぱりなあ、大分無茶したからなあ」
 
日光も薄々はこうなると予想していた。
 
一切整備しないで2週間も戦い続ければ、どんなACだっておかしくなるだろう。
 
「これなら新しく組んだ方が安くつくな」
 
「金はいい。今ここにあるパーツで組めないかな?」
 
ここがいつばれるとも判らない限り、ここに長居する必要も理由も無い。
 
「大体のパーツは揃ってるからな、大抵のACなら組めるぞ」
 
「そうか、そりゃ助かるな」
 
「安くて速くて高性能。それがウチの信条だからな」
 
チーフは整備ドックの隣にあるパーツの山を指差しながら得意げに話す。
 
「チョット待ってくれないか、アセンを考えるから」
 
「決まったらその辺の奴等に言ってくれ。ウチのスタッフは優秀だからな」
 
チーフが再び陣頭指揮に戻るのを見送って、
 
日光はこれから自分が乗る事になるACの構造を考えた。
 
2、3分その場に立ち尽くして考え、日光は近くにいたスタッフに声を掛ける。
 
「こんなアセンはどうかなあ?」
 
日光は彼が持っていた紙に、考え付いたACの構造を書いていく。
 
「なるほど・・・、これなら空中と地上の両方で高い機動性を発揮できますね」
 
「しかもエネルギー回復が早いから、相当長い間空中に浮いてられるしな」
 
日光は得意げにそう話す。
 
スタッフは、構造が書かれた紙を持ってチーフのもとに駆け寄る。
 
しばらく話し、スタッフは日光の方へ戻ってくる。
 
「OKだそうです。組み上がるまで大体2時間ぐらいです」
 
「そうか」
 
「ネーム登録はどうしますか?そのまま月光で?」
 
そのスタッフの言葉に、
 
日光はしばらく考え込み、思い付いた言葉を口に出す。
 
「・・・いや、月光改『飛天』ってしといてくれ」
 
「判りました、仕上がり次第連絡を入れます」
 
「判った、それじゃあヨロシク!」
 
そう返事をして、日光はオペレータールームに戻る。
 
「チーフ、なんだって?」
 
部屋に戻るなり、ラスカーが日光に尋ねた。
 
レインは部屋に備え付けの端末を使って、「管理者」について調べていた。
 
「月光はもう無理だってさ。だから新しい機体を組んでもらう事にしたよ」
 
日光は先ほど置いていったコーヒーを飲みながら平然と答える。
 
「そうか」
 
「2時間はかかるとさ」
 
「それまではここで足止めか・・・」
 
ラスカーはコーヒーを飲み終え、カップをテーブルに置く。
 
「俺は先に仮眠室に行ってるぞ。お前も早めにこいよ」
 
ラスカーは日光にそう言って、部屋から出ていく。
 
日光は今までラスカーが座っていたソファに腰を下ろすと、ゆっくりとコーヒーを啜る。
 
そして先ほどラスカーが読んでいた報告書に目を通す。
 
「この2週間、どうしてたんですか?」
 
不意にレインが日光に聞いてきた。
 
声はこちらに向けても、顔は画面に向けたままだ。
 
「レイヤードのあちこちに逃げてたよ」
 
日光も眼を報告書から離す事無く答える。
 
「大丈夫だったんですか?」
 
「俺はね、月光は聞いての通りさ」
 
日光は報告書をテーブルの上に置き、レインの方を見る。
 
彼女はそれに気付いたのか、画面から目を外して日光のほうを向く。
 
「貴方の操縦は荒いですからね」
 
「そうか?自分では普通だと思うんだけどな?」
 
そうしてしばらくの間、2人は久し振りの2人だけの会話を楽しんだ。
 
そして一通りの会話が終わると、日光は空になったカップにコーヒーを入れる。
 
「じゃあ、俺そろそろ寝るから。あんまり無理するなよ」
 
カップを持って立ちあがると、日光はレインに声をかける。
 
「大丈夫です。貴方よりは無理してませんから」
 
レインは笑いながら、日光にそう返す。
 
日光はその答えに苦笑しながら、部屋を後にする。
 
仮眠室に着くと、既にラスカーがベッドの上で規則正しい寝息を立てていた。
 
日光は彼の隣のベッドに腰を掛けてコーヒーを小さなテーブルに置き、
 
ベッドに横になると、そのまま彼は久々の深い眠りについた。
 
しかしその時、2機のACが彼等の隠れる格納庫に迫っていた・・・・
 
作者:暴走天使さん 
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