サイドストーリー

地下輸送路護衛
「腑に落ちないな・・・」
俺は今、ミラージュが建造中の地下輸送通路にいる。
どうやら、輸送には列車を使う予定らしく。通路の中央にはレールが走っていた。
あの日、機体の組み替えを終えた俺は自宅でミラージュからの依頼のメッセージを受け取っていた。
”発信元・・・ミラージュ、報酬・・・40000Cr、
 レイヴン、今回はあなたへの直接の依頼です。 建造中の地下輸送路の護衛を依頼します。
 当輸送路は輸送方法として全く新しいシステムを取り入れる予定ですが、まだ試作段階で、
 防衛機構も不十分な状態です。現時点で敵の進行を受ければ厳しい状況となるでしょう。
 なお、同じ依頼を別のレイヴンにも送信しています。彼と協力し、確実に遂行して下さい。”
もちろん、俺がここに居る以上、依頼を受けたという事なのだが・・・疑問が多すぎる。
「何が腑に落ちないのかね?ホワイト。」
その・・・依頼を回されたもう一人のレイヴン、シルバーフォックスが尋ねてきた。
フォックスの機体の肩武装はアリーナでの垂直ミサイルかデュアルミサイルに変更されていた。
まあ、この地下通路の天井の低さじゃ、垂直ミサイルは役に立たないからな。妥当な判断だろう。
「・・・俺は、こういったうまい話には疑いの目を向ける主義でね。」
「この依頼が信用できないのか?」
「・・・ああ、俺とランカーであるそっちが同じ護衛の依頼を受けている時点でおかしいだろ。」
「ミラージュは君を重要視している。私はいざという時のためのバックアップさ。」
「まるでテストでも受けているような気分だな。」
「・・・そうかもしれんな。」
「・・・だがな。そうすると、フォックス。そっちが襲ってくる可能性すらある。」
「そうくるか・・・ったく、君はとんでもない人だよ、ホワイト。」
「誉め言葉と取っておいて・・・!、フォックス!」
俺はOBを起動しフォックスの機体に体当たりをかける。
重量差があるとはいえ、OBを使用しているACの体当たりには耐えられるはずもなく、横に滑る。
「!、ホワイト何を?」「・・・来た!」
暗闇から一本の光源が飛んでくる。それは4つに分裂し、俺達に襲い掛かる。
俺は光・・・つまりミサイルに対しマシンガンで迎撃に入った。
まさに芸術ともいえる射撃で3発のミサイルを落とし、最後の1発は地面に落ちる。
(敵ACを確認。クライムブレイカーです。)
オペレーターは冷静に、そして、冷酷に今の状況を伝えた・・・

「オペレーター、当たったかい?」
コックピット内は光源は少なく、モニターの明りだけが彼の顔を照らし出していた。
(被弾は確認できません。全弾、撃墜に成功した模様です。)
「そうか・・・ホワイトランス、楽しめる相手のようだね。」
その声を聞いて、オペレーター、エマ=シアーズは不安げな声を上げた。
(クライム、作戦を忘れないように。)
「わかっているよ。こちらクライム、作戦行動を開始する・・・」

「・・・ったく、エマはクールだな。俺の初仕事にACが来たってのに。」
(仕事ですから、がんばってください。)
・・・そうですか。どうやら、俺に彼女は俺に惚れる事はなさそうだな。
「今のは?」
「多弾頭ミサイルだ。」
俺はそう言いながら、先程のミサイルが着弾した地面を見つめていた。
どういう訳かミサイルは地面を傷つけるわけでもなく、焦げ跡のみを残していた。
「威力を抑えてあったのか・・・?」
俺は正面の闇を見据える。ミサイルはそちらから飛んできた・・・
「フォックス、援護は任したぞ。」
俺のセリフに対し、フォックスはがらになく心配そうな声をあげた。
「ホワイト、無茶はするなよ。」
「ああ、わかっている。」
俺の機体はブーストをふかし、通路の奥に消えていった・・・

「しかし、暗いな・・・」
地下通路は多少外からの光が入ってきているとはいえ、大半は闇に包まれていた。
おそらく、相手も、この闇に隠れているのだろう。
俺はブーストを止めた。レーダーに反応がある、距離はおよそ500。
レーダーの指す方向を凝視してみるが、ACは確認できない。
「モノアイの光まで消している・・・、厄介な相・・・!」
嫌な予感がし、とっさに飛び上がる。
逆関節のジャンプ力は想像以上に大きく、頭の上から何かがぶつかる音が響く。
跳びあがると同時に闇に二つの青い炎が生まれ、そこから光が放たれる。
光は機体の足元に突き刺さり、地面に小さな穴を開けた。
「EOか!」
突然、闇から暗めの赤を基調としたACが飛び出し、こちらに銃口を向ける。
二挺の銃器から放たれた圧倒的とも言える弾幕が俺の機体を飲み込もうとする。
「そんなものを食らうわけにはいかない!」
弾幕が到達する寸前にOBが起動し、俺の機体は相手の視界から消えた。
同時に、相手の右に回り込んだ俺は、あえてロックシステムを使わず、マシンガンの照準をあわせる。
こちらを見失った相手はターンブーストを使い、こちらへ機体の向きを変えようとしていた。
だが、それを俺は予想していた。いや、知っていたと言う方が適切かもしれない。
俺は一点に狙いを定め、トリガーを引いた。
弾丸はまるで意志があるかのようにその一点に吸い込まれていく。
一点・・・コアと碗部パーツのジョイントに圧倒的な負荷がかかり、あっけなく右腕が吹き飛ぶ。
動揺を見せる敵ACのコアに俺はマシンガンを突きつけた・・・

(ホワイトランスさん、もう結構です。)
突然のエマからの通信に俺は動揺を隠し切れなかった。
「エマ、どういうことだ?」
「・・・いい腕だね、ホワイトランス。」
通信機から聞こえた声はエマのものではなく、フォックスのものでもなかった。
「・・・クライムブレイカーのパイロットか?」
(クライムさん、ご苦労様でした。)
「・・・ああ、一瞬でやられたよ。油断してた。」
俺はエマとクライムとのやり取りでこの依頼の本当の意味を知った。
「この依頼は、ミラージュのテストという事か・・・」
「当たりだ、ホワイト。」
その声に後ろを見てみれば、フォックスの機体がすぐそこまで来ていた。
「フォックス、プレゼントとか言って、随分いやな依頼を持ってきてくれたな。」
「すまない。だが、君の実戦での実力を私も知りたくてな。」
「・・・で、その結果は?」
その問いに答えたのはフォックスではなく、クライムの方だった。
「・・・上出来だね、ホワイトランス。私は君の実力に文句をつける気は無いよ。」
「ちっ、そいつはどうも。」
「・・・しかしよ、本当は途中で俺が援護にまわる手はずだったんだがな。」
「暇だったか?そいつは残念だったなぁ。」
不機嫌な声を上げた俺をフォックスがたしなめる。
「まあまあ、ホワイト。パーティでもして機嫌を直してくれ。」
「パーティ?」
「君とお嬢ちゃんの誕生日パーティだよ。断る気はないだろ?」

確かに、俺にそれを断る理由は思いつかなかった・・・
作者:ストライカーさん