サイドストーリー

パーティ
「・・・」
「ホワイト、機嫌を直してくれ。」
仕事を終えた俺とフォックスはACを格納庫に置いた後、パーティ会場に向けて車を飛ばしていた。
俺が不機嫌なのは、よりによって初めての仕事が虚偽の依頼だったということが原因だ。
「ったく、俺の実力を確かめたいのなら、もっと別の手段があるだろうに・・・。」
「ミラージュは最近、戦力を集結させている節がある・・・」
突然、口調を変えたフォックスに俺は顔を向けた。
時々、窓からオレンジ色の光が差し込み、ハンドルを握って前方を凝視するフォックスの顔が映る。
「どういう事だ?」
俺の問いに対し、フォックスはまるで独り言を話すように応じた。
「最近のミラージュのやっている作戦だが、少数を集めての極秘作戦が多いらしい。」
「・・・」
「それも、ちょっとした腕利きを集めてな。しかも、依頼を受けて消息不明になっているレイヴンもいる。」
「フォックス、何が言いたい?」
「ミラージュは何かヤバイ事に首を突っ込でるんではないかって、もっぱらの噂だ。」
「・・・レイヤード時代からミラージュは積極的に危険に首を突っ込んでいる。変わった事じゃないさ。」
「そうかもな・・・、見えてきたぞ。」
俺達の車はちょっとした有名店に向かっていた・・・

「リック、おそいよぉ。」
店の奥から響いた、妙にハイトーンな声に俺は顔を向ける。
そこには、顔を赤らめたレナ、いつもの背広のままのシェイル、そして、Tシャツ姿のマインズがいた。
「ホワイト、早くこっちに来いよ。」
マインズに急かされ、俺とフォックスはテーブルにつく。
パーティはだいぶ進行しているらしく、テーブルの上には平らげられた皿が山積みになっていた。
「で、ホワイト。仕事はどうだった。」
「・・・ACとやりあったよ。」
俺の返事を聞いて、マインズが目を丸くした。
「はあ・・・、俺とは大違いだな。こっちはMT相手にのん気なものさ。」
「うらやましいね。有名らしいのも辛いものだ。」
「リックさぁん、そんなことより一緒に飲みましょうよぉ。」
「・・・レナ。お前、今日でようやく十四になるんだろ?酒はいいのか?」
「誕生日だよ。気にしない、気にしない。」
呆れ顔で通路の方へ視界を移すと、ウエイトレスが立っていた。注文を取りに来たらしい。
「いらっしゃいませ。ご注文の方は?」
「ああ。から揚げとオレンジジュースを頼むよ。」
「そうだな・・・私はフレンチサラダを。」
フォックスの注文を聞いた俺は思わず吹き出す。
注文を再度読み直したウエイトレスはお辞儀をして厨房の方へ向かっていった。
「ホワイト、笑うことはないだろう?」
不意にまったく表情を変えずに話し始めるフォックスに俺は慌てて弁解する。
「パーティなんだろう?もうちょっと別のものを頼めよ。」
「私はこう見えてもベジタリアンなんでね。まあ、君も私の年になればわかるよ。」
「そんなものかね・・・」
しばらくして二人の注文した物がテーブルの上に並んだ。
俺が注文したのはジュースだと知ってレナは顔を膨らませていた。お気に召さなかったらしい。
それを見て笑みを取り戻した俺はジュースの入ったグラスを持ち上げた。
「俺とレナの誕生日、そして、俺の仕事の成功を祝って!」
『乾杯!』
5つのグラスがぶつかり合い、こぎみ良い音を立てた・・・

パーティも終わりに近づき、周りを見れば、俺達以外の客はいなくなっていた。
マインズは食後のワインをゆっくりと味わい、レナは酔いつぶれたのかいびきを掻いている。
結局、俺とフォックス、そして、シェイルは酒に口をつけることはなかった。
「リック、そろそろ、お開きにしようか。」
「そうだな、シェイル。フォックス、すまないが・・・」
「家まで送るんだろ?承知した。お嬢ちゃんも一緒だが、いいか?」
「ああ、問題はない。」
「・・・お二人さん。彼女を見る限り、ちょっとやそっとじゃ起きないみたいだぞ。」
シェイクに言われ、レナの方を見る。・・・確かに、熟睡中のようだ。
「お嬢さんが起きなかったら、その時はその時さ。」
「そうだな・・・。シェイル、マインズを送ってやってくれ。」
「わかった、レナちゃんのことは任したよ。」
「了解。」
熟睡中のレナをマインズが担ぎ、店を後にする。
マインズもさすがレイヴンだけあって、酒が入っているわりには安定した足つきだ。
フォックスの車の後部座席に彼女を寝かし、マインズは俺に声をかける。
「それじゃ、ホワイト。また機会があればな。」
「ああ、マインズ。今度会うまでに死ぬんじゃないぞ。」
「そう簡単に死ぬかよ。」
俺に別れを告げたマインズはシェイルの車に乗り込み、駐車場を後にした。
「・・・ホワイト、いい友人を持っているな。」
「・・・?」
「協力者は多いほどいいものだよ。まあ、私の教訓だがね。」
「参考にするよ、フォックス。」
俺達も車に乗り込み、店を後にした・・・

「ホワイト、着いたぞ。」
店から俺の家までの距離はそうでもなかった、車で10分程だ。
見慣れたマンションの玄関口に車を停める。
しばらくマンションを眺めていたフォックスは俺に尋ねてきた。
「・・・ホワイト。君は年齢の割には良いところに住んでいるな。一人なんだろう?」
「ああ、親父達が死んだ時に残してくれた金で買った。」
「・・・すまない。」
「いいさ。今の時代、俺みたいな奴は珍しくない。」
「そうか・・・。で、彼女はどうする?」
フォックスの言葉に後ろを振り向いた俺の視界にいまだ熟睡中のレナが映った。
アルコールがだいぶ効いているらしく、しばらく目覚めそうにない。
「・・・フォックス、俺はレナの家は知らんぞ。」
「私もだ。」
気まずい沈黙が流れる。
「・・・ホワイト、すまないが・・・頼む。」
「・・・本気か?」
「・・・私にそういう趣味があると誤解されたくない。」
「・・・」

十数分後、レナを俺のベッドに寝かしつけたフォックスは逃げるかのようにマンションから去っていった・・・
作者:ストライカーさん