サイドストーリー

始まり
「・・・ふにょ?」
俺はその声を背中で聞いて、レナが起きた事を知った。
俺の目の前には醤油と砂糖をベースにしただしによるごった煮が出来ようとしていた。
スキヤキと言うらしいが、その語源はよく知らない。
突然、背中からパソコンが起動する音が響いてくる。
「・・・!。レナっ!」
「あ、リック。ごめーん、気付いたぁ?」
「ったく・・・。レイヴン用の端末を勝手に触るんじゃない。何か来ていたらどうするつもりだ?」
「・・・来てるよ、メール、ミラージュから。」
「何?」
俺はなべの中で煮えたぎっているスキヤキを放置し、パソコンに駆けつける。
「すまんレナ、なべの中が焦げ付かないようにかき混ぜといてくれ。」
「えー、私がぁ?」
「緊急だったら、どうする?」
「・・・わかったよ。やればいいんでしょ?」
レナがなべの前に立った事を確認し、メールを開く。
今思えば、このメールが全ての始まりだったかもしれない。
”レイヴン、今回の依頼の件、ありがとうございました。そして、申し訳有りませんでした。
 しかし、あなたの実力を・・・シュミレーターランカーとしての実力を試すにはこれしかありませんでした。
 現在我々は地上開発を積極的に進めており、現時点では他企業より先行している状態です。
 ですが、ごく最近。我々でも潜入できない地域の存在が確認されてました。
 その地域においては、先に送った調査部隊はことごとく消息不明となり、
 その真相を知るために派遣したレイヴン達ですら、いまだ生還者はおらず、真相は不明です。
 ・・・サイレントライン。我々がそう名づけた地域に再び調査部隊を送る予定です。
 レイヴン、その時はよろしくお願いします。”
「・・・」
サイレントライン・・・そんな所があったとはな。
管理者を破壊して以来、人類の進出を止めるものの存在はもう無いと思っていた。
だが、それは間違いだったようだな。サイレントライン・・・侵してはならない領域、か。
「・・・」
突然、匂ってきた焦げ臭い匂いに俺は思考を中断し、後ろを振り向く。
慌てふためくレナの姿と、煙をあげるなべ・・・!
「・・・!、レナっ!」
俺はとっさにレナを横にどかし、コンロの火を消す。
レナの顔を見れば半分泣き顔だった・・・

「おいしい!」
俺の作ったスキヤキを食べて、レナの言った一言はそれだ。
なべから煙が吹き出たのにかかわらず、それによってだめになった食材はほとんどなかった。
ただ・・・そうとう、パワフルにかき混ぜたらしく、トーフはほとんど全滅していた。
「おいしいか?口に合って良かった。」
「いやいや、煙をあげた時にはどうなるかと思いましたよ。」
「早いうちに俺に声をかければよかったんだよ。」
「ええ。でも、リック、真面目な顔してメール見ていたから・・・」
「そうか・・・」
「で、どんな内容でした?」
「厄介事さ。」
笑みを浮かべてそう語る俺を見て心配になったのだろうか、レナの表情が急に真面目になった。
「・・・大丈夫ですか?」
「ああ、なんとかなるさ。」
俺の様子から何かを察したのだろう。レナは話題を変えた。
「・・・でも、本当においしいね。なんていうの?」
「スキヤキだ。俺が孤児院にいた頃は皆でよく囲ったものだ。」
「へぇ、いいですね。」
「そういえば、レナ。お前の家はどこにある?」
「え・・・ああ、家ですか。リックとは違って、地下にあります。」
「地下ぁ?見た感じ一人暮らしのようだし、大丈夫なのか?」
「ええ。だから、3ヶ月くらい帰ってません。」
「何?それじゃあ、いつもどこで寝ているんだ?」
「ACの格納庫とか・・・まあ、そこらへんで。」
「・・・食べ物に困るだろう?」
「それは仕方ありません。どうせ私、料理はできないし。」
「それなら、たまにここに来るといい。それなりの料理は約束しよう。」
「助かります!」
彼女の笑顔を見て、俺はレナが普通の女の子である事を初めて認識した・・・

「・・・はぁ、ほとんど無傷ですね。」
スキヤキを食べ終わった俺達は早速、AC格納庫に向かい、機体の改良を行なおうとしていた。
レナは機体の足元に貼り付けてあったメモを剥し、それを読み上げる。
「修理業者の請求書、修理費・・・62ぃ?本当にACとやりあったの?」
「おかしいな、被弾した記憶はないんだが・・・」
「え?たいしたもんだねぇ、ええと・・・頭部パーツに少し傷があったみたい。」
そういえば作戦中、天井に頭をこすり付けたな・・・、その時の傷か・・・
「まあ、いいじゃないか。40000Cr、丸儲けだろ?」
「言ってしまえばそうなんですけれど・・・」
「OK、ブースターはFREETで頼む。あれじゃないと調子が出ないんだ。」
「はいはい、FREETですね。」
「脚をもう少し軽いものにできないか?逆関節は少し重い。」
「うーん、今の制限とこの貧乏じゃあ。EDFですねぇ・・・」
「初期脚か・・・仕方がないな、それでいこう。残りの資金は?」
「12000ってところ。」
「・・・ん、FCSをWS-1に変えたくらいでちょうどよくなるんじゃないか?」
「ええと・・・あ、ああ、そうです。」
「シュミレーターでWS-1にはだいぶお世話になっているからな。」
「はあ、シュミレーター通りに役に立ちますかねぇ?」
「立つさ。立たなくても何とかなる。」
俺の答えに納得したらしく、レナはACのアセンをメモに書き込む。
「・・・レナ、未知の驚異っていう言葉で、お前はどんなものを想像する?」
「未知の驚異ですか?リック、ミラージュから何を聞かされたの?」
「言ったろ?厄介事さ。」
「はぁ・・・」
半分呆れ顔でレナが応じる。まあ、彼女を心配させるわけにはいかないからな。
俺は機体を見上げる。蛍光燈に照らされ、俺の白い機体は奇妙な輝きを見せていた・・・

ここから、全てが始まる・・・サイレントライン、侵してはならない領域か・・・
作者:ストライカーさん