未踏査地区調査(前半)
「・・・それは無い、・・・何か来るぞ。」
事実、敵の存在を示す赤い光点が俺達の元に近づきつつあった。
高度差は無い、敵は地上兵器・・・、恐らく・・・大災害前の・・・
この速度から見て、そこらへんのAC並みの機動力を持っているようだ。間違いなく敵だ・・・
「ゼロ、戦えるか?」
「・・・もちろんだ。」
「そうか・・・油断するなよ。」
「・・・ああ。」
その時、突然の爆音とともに遠距離から赤い固まりがこちらへと向かう。
それがグレネードだと理解するのにはさほど時間はかからなかった。
「ちっ!」
「・・・!」
固まっていた俺達はとっさにその場を離れる。
グレネードは俺達を捕らえる事はなく、後方の廃虚に命中する。
俺は廃虚の窓ガラスの全てが一斉に吹き飛ぶのを確認した。
「・・・ほう。」
「かなりの威力だ、食らえば修理費がかさみそうだ。」
「・・・用心しろ。」
「了解した。」
正面に向き直り、俺はグレネードが飛んできた方を凝視する・・・見えた。
それは白いACだった。右手には巨大な銃を持ち、左手でグレネードを支えている。
「何だあれは?、そこらへんの既製品じゃなさそうだな。」
「・・・行くぞ。」
機先を制しようと前に出たゼロの機体に対し、白いACは追撃に2発のミサイルを放つ。
「ゼロ!」
「・・・大丈夫だ。」
そう言ったゼロはショットガンでミサイルの軌道に弾幕を張る。
弾幕に飲み込まれミサイルは2発とも爆発した。
「やるな!」
感嘆の声を上げる俺を背中に、ゼロの機体は白いACとの距離を一気に詰める。
だが、白いACはその重武装に似合わない速さで横に移動した。
「・・・何!?」
方向転換したゼロが見たものは右手の銃を構える白いACだった・・・
「させるかぁ!」
俺のマシンガンが白いACに対し火を吹いた。
それは白いACが右手で構えていた銃に当たり、弾道を大きくそらす。
それた弾丸は地面に当たり、着弾点は真っ赤に溶けはじめていた。
ゼロの機体はいったん後退し、白いACとの距離をとる。
「・・・助かる。」
「思ったより手強いな。」
「・・・そのようだ。」
「右手の武器はプラズマライフルか・・・使用時には動きが止まる仕様か。」
「・・・だろうな。」
「俺が行く、援護は任せた。」
俺はマシンガンを乱射しながら、白いACとの距離を詰めていく。
マシンガンの弾丸は確実に相手の装甲を削っているものの、相手には動じる気配が無い。
・・・こんな相手とは戦った経験がある。シュミレーターが積んでいるAIだ。
常に自分の戦いかたを失わない・・・ある意味、人以上の驚異と言えるだろう。
だが、勝てない相手ではない。たいていのAIには駆け引きというものがないからだ。
目の前の相手にはそれに準ずるものを俺は感じていた。
「ちっ。」
俺は白いACとの距離を離す。もう、マシンガンの弾は残り少ない・・・
俺が距離を話したのを見はからって、ゼロが再度突っ込む。勝負を決めるつもりだな。
俺はマシンガンの照準を手動で合わせた・・・なぜかわからないが、いける。
その時、ショットガンの有効射程距離に踏み込んだゼロの機体は射撃を開始する。
今までの被弾に関わらず、白い機体はショットガンの弾幕を気にする節もなく、グレネードを構える。
「・・・なんて奴だ。」
素早い動作でゼロの機体は次に来るグレネードを回避しようと横へ逃げる。
俺はその時、マシンガン発射のトリガーをゆっくりと引き絞った。
俺の放った一発の弾丸はゼロの機体の肩をかすめ、白いACの左肩に向かっていく。
そして、弾丸は白いACの構えるグレネードの弾道に吸い込まれた・・・
「・・・見事だ。」
「終わったな。」
俺達の目の前にはグレネードが誘爆し、木っ端微塵に吹き飛んだ白いACの残骸があった。
「・・・どうやった?」
「何をだ?」
「・・・最後の、・・・人間業か?」
「勘さ。さっき言っただろう?俺は勘がいいんだ。」
「・・・」
ゼロの沈黙は腑に落ちないような印象を俺に与えた。まあ、当然だろうな。
俺の勘の強さは俺の知り合いでもなきゃ納得いかないものだろうからな。
(・・・ンス、ゼロ、聞こえますか?ホワイトランス、ゼロ・・・)
前触れなく、エマとの通信が回復した。やはり、通信は妨害されていたらしいな。
「・・・聞こえる。」
「エマ、こちらホワイトランス。二人とも無事だ。」
(そうですか・・・よかった。)
「これより帰還する。エマ、道案内を頼む。」
(わかりました。道中気をつけて。)
「ゼロ、帰るか?」
「・・・ああ。」
俺達は西へと機体を向け、歩きはじめた・・・
これが、サイレントラインという聖域への人類の挑戦の始まりだった・・・
作者:ストライカーさん
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