帰還
「疲れたな・・・」
作戦終了後からほぼ4時間後、俺の機体はようやく格納庫へとたどり着いていた。
だが、さすがに長時間コックピットに座りっぱなしはきつい。腰が痛くなり始めている。
(ホワイトランスさん、ご苦労様。)
4時間の間、俺の話し相手をしていたのは彼女だった。彼女もよくやるものだ。
「エマ、長い間すまなかった。ゆっくり休んでくれ。」
「そうですね、ではまた次の仕事で。」
「了解。」
俺はエマとの通信を切り、コックピットを開けた。
格納庫のかび臭い匂いと、蛍光燈の光が俺を迎える。
下を覗くと、レナがこちらを見上げていた・・・
「リック、ご苦労様。」
彼女の表情は表面は笑顔だが、何か心配事があるような雰囲気だ。
「心配してくれたのか?」
「いや、・・・リック、お客さんなんだけど。」
「?、どうした。俺に客?」
「・・・リック、あなたに顔を隠した友達っている?」
「・・・はぁ?」
レナは無言で指をさす。
・・・確かに、怪しい人物だった。レイヴン用のパイロットスーツはともかく、
いくらなんでも、白いマスクに黒マントなんて・・・今時。そんな格好をしている人物がいるのか?
「・・・誰だろうな。」
「・・・誰でしょうね。」
俺達の疑惑の目に気がついたのか、白マスクの男性は俺達に声をかけた。
「・・・私だよホワイトランス。久しぶりだな。」
俺はその声に聞き覚えがあった。
「・・・クライムか?」
男は無言でうなずいた。
「・・・リック、誰です?」
「この前の依頼で俺をテストするために雇われたレイヴンだ。」
「ああ!一発も攻撃を当てられずにやられちゃった人ですね!」
・・・こいつは。
「・・・ふふふ、なかなか厳しい事を言うね。」
「クライム、すまない。こいつは、まだガキで・・・」
俺のコメントにレナはほっぺを膨らます。
「リックだって、私とあんまり変わんないくせに。」
「・・・いいコンビだ。そうか君はリックというのか・・・」
「ああ、そう呼んでも構わないぜ。」
「いや、あえて、ホワイトランスと呼ばせてもらうよ。」
「そうか・・・、で、何の用だ?」
「・・・ああ、君がサイレントラインから生還したと聞いてね。」
「噂が早いな。」
「・・・クレスト社が動きはじめている。面白い事になってきたよ。」
「俺と噂話をするために来たのか?」
「・・・いや、君が体験した事を聞きたい。何があった?」
「・・・」
「・・・そうか、まだ時期が早すぎたようだな。また来るよ。」
格納庫から出て行こうとしたクライムを俺は呼び止めた。
「・・・クライム!」
「・・・?」
「白いACだ。見た事無い型の・・・管理者ACとも違う・・・」
「・・・そうか。それで十分だよ。ありがとう、ホワイトランス。」
クライムが去り、格納庫に静寂が戻った・・・
クライムがいなくなってなって数秒後、シェイルが格納庫へ入って来た。変な物を見たような顔だ。
「リック、今のマスクの男は知り合いか?」
「ああ、俺と交戦した事のあるレイヴンだ。」
「・・・そうか、しかし妙だな。」
「どうしました?、シェイルさん。」
レナに急かされて、気のせいだろうという表情でシェイルは話しはじめた。
「いや・・・、あのレイヴンの声、どこかで聞いた事があるんだよ。」
「妙な話だな・・・レナ、お前はどう思う?」
「全然、気付きませんでしたか・・・」
「気のせいかな・・・。ならいいんだけれどな・・・」
「シェイル、あまり気にするな。そんな事もあるさ。」
「そうだな。」
「で、シェイルさんは何の用です?」
「あ、ああ、コーテックス本社からリックの様子を見るように言われてな。」
「注目の的になっちゃったね。」
レナのコメントに思わずうなずく。
「レイヴンがそうなってもあまりいい事は無いんだがな。」
「そうでもないぞ、リック。」
「・・・何?」
「コーテックス本社からお前にメッセージだ。パーツの制限を解除するそうだ。」
「こんな早くにか?」
「ああ、どうやら本社の方もお前の実力を発揮してもらいたいそうだ。」
「あとはお金があればねー。」
「・・・レナ、頼むからそれは言わないでくれ。」
「はいはい、そうですね。」
シェイルが笑い、俺もつられた。格納庫に似つかない明るい空気が周りに漂った・・・
「では、修理作業、完了しました。今後ともよろしくお願いします。」
「ああ、またお願いするよ。」
「ごくろうさーん。」
修理業者の帰りを見届けて、俺とレナは請求書を確認する。
今回もさほど大きな損害は無く、修理費は2000を切っていた。
だが、ほとんど弾切れだったマシンガンの弾薬費は結構大きいものだった。
と、言ってもおよそ40000Crの収入なら悪くはないだろう。
・・・まあ、死ぬかもしれなかった仕事の報酬としては少ないかもしれないがな。
「で、リック、制限は解除されたけれど、アセンはどうするの?」
「ああ、選択肢が多いとかえって迷うな・・・」
「じゃあ、順序良く決めましょうか。まず、頭部。」
「このままTIEでいいな、レーダー付きの頭部というのはありがたい。」
「それに安いですしね。じゃ、次は碗部!」
「前々から評判がいい、SOLを使おうと思う。軽量化にもつながるしな。」
「了解!脚部はどうします?」
「そうだな・・・このまま、中量脚で行くつもりだ。レナ、意見は無いか?」
「軽量化を目指すなら、066はどうです?安価だし、軽いし。」
「わかった、次はジェネレターだ。レナ、俺が何を積むつもりか解るか?」
「ROZでしょ?制限が解除されたならまさに適任です。次はFCS!」
「WS-1・・・問題無いだろ?」
「ですね、今度はラジエーターを決めましょう!」
「・・・うーむ、SA44あたりか妥当かな・・・まあ、それでいこうか。」
「OK、最後に武器です。」
「弾薬費は仕方が無いが、MG-500を使おう。扱いやすいからな。」
「・・・リック、MG-750を使う気は無い?」
MG-750・・・この前、話に出たメカニックユニオン製の代物か・・・
「メカニックスユニオンのパーツか?・・・使えるのか?」
「もちろん!、あるレイヴンの依頼で作られた、作戦遂行用のマシンガンだよ。」
「ほう、具体的な性能は?」
「教えなーい。でも、価格はとってもリーズナブル。たったの33000Cr!」
「・・・レナ、客にそんな態度を取ると、売れる物も売れなくなるぞ。」
「・・・別にいいじゃないですかぁ。で、購入します?」
「信用しよう。注文しておいてくれ。」
「OK、次の仕事が終わったあたりに来ると思います。」
「そうか・・・よし、アセンはこのくらいにしておいて飯でも食いに行くか?」
「そういえば、リックさんお昼まだでしたっけ?」
「仕事のせいで朝飯も食ってない・・・。」
「わかりました。でも、リックさんのおごりでお願いしますね。」
「はいはい、わかったよ。早く行こうぜ。」
「おーけー。」
俺達は格納庫を後にし、街の中心へ向かった・・・
空に輝く高い日の光が午後を過ぎた事を告げていた・・・
作者:ストライカーさん
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