サイドストーリー

注目される者
「ただいま。」
ようやく家に帰った俺を、部屋の中の感じ慣れた空気が迎えた。
部屋に夕日が差し込み、どことなく変化があったように感じられる。
・・・だが、物の配置などを見ても変わったところはどこにも無い。そう感じるだけだ。
「・・・そう感じても不思議はないか。」
テーブルに座り、パソコンを起動する。2件のメールが来ていた。
一つはコーテックスからのパーツの購入制限の解除を知らせるもの、
もう一つは・・・クレストからのメールだ。
”レイヴン、君の活躍は我々の耳にも入っている。たいした腕のようだな。
 サイレントラインについては我々の方での独自調査により、その存在は知っていた。
 そして、君の生還により、ミラージュの調査はより活発なものになるだろう。
 我々としても、ミラージュにサイレントラインの利益を独占されるわけにはいかない。
 君がミラージュに肩入れをすると言うのなら、相応の処置を取るつもりだ。それを念頭に置いてくれ。
 −追伸−
 君の実力、そして我々への貢献度を試す意味で依頼を用意した。
 君の腕ならそう難しくない仕事のはずだ。詳しくは明日に連絡する。”
「クレストにも目をつけられちまったな・・・」
そう呟きながら部屋の電気を点ける。
蛍光燈の光が部屋の色を赤から白へと変えていった。
「まあ、仕事が来れば遂行する。それがレイヴンだしな。」
ふと、白い機体のことが脳裏に浮かぶ。
俺はあのACを本当に倒したのか?次があるんじゃないか?
もし、あの白いACが過去にあった管理者部隊のような存在なら、また来るはずだ。
「目をつけられちまった・・・か。」
そう、誰もその正体を知らない存在に俺は目をつけられた。
「まあ、なんとかなるか。ならなきゃ、死ぬだけだ。」
俺はうっすらと笑みを浮かべた。うれしかったんだ。
あの”彼”とひょっとすれば自分も同じ状況にいるのかもしれない。
変な話だが、自分の目標としていたレイヴンに近づいたような気がする。
「面白くなったな。」
自信すら感じられる自分の言葉に、かえって戦慄を覚えた・・・

「おい、リックいるか?」
突然ドアから響いた聞き慣れた声に俺は夕寝から起こされた。こいつはマインズの声だ。
「ちょっと待て。」
ドアに向かってそう言った俺はインターホンのカメラで外の様子をうかがう。
確かに、そこには正真正銘のマインズの姿とそれと不釣り合いな女性の姿があった。
女性はスレンダーな美女で目つきは鋭い、なんとなく気迫のようなものすら感じる。
「あいつ・・・婚約者でも紹介する気か?」
そんな自分でもありえないと思う呟きとともに俺はドアを開けた。
「よう、マインズ。俺に仲人を頼みにきたのか?」
「お前みたいなやつに頼むほど、俺は友人が不足しているわけじゃねぇよ。」
「立ち話もなんだ、入れよ。なんか作るぜ。」
「すまねぇな、ホワイト。」
マインズと女性を自分の部屋に案内した俺は冷蔵庫の中を確認する。
・・・前のスキヤキで野菜は全部使っちまってる、肉しかないな。
「おい、焼き肉でいいか?」
「ああ、いいぜ。」
俺はコンロの下から鉄板を取りだし、テーブルの上に置いて温める。
いい感じで温まったのを確認し、俺は肉を入れはじめた・・・

「で、その美人は誰だい?」
俺は慣れた手つきで肉をタレ皿に移し、そして口に運んでいく。
「ああ、こいつは俺の同期のMT乗りでな。エクレールってんだ。」
見かけからは想像できないほどのハイペースで肉を口に運ぶ彼女を横目に見ながら俺は応じた。
「乗っている機体は?」
「ギボン、ギボンMS−HA。」
エクレールの淡白な返答に俺は目を丸くする。
ギボンMS−HA・・・キサラギ製の近接戦特化型MTだ。
武装はパイルバンカーとロケット、相当慣れてなければ扱えない機体のはずだ。
「女性が乗る機体じゃないな。」
「君みたいな少年がACに乗っている方が違和感があると思うがね。」
「言ってくれるな・・・」
「二人ともいいかげんにしねぇか。」
二人の間に生じた険悪な雰囲気を打ち払ったのは、マインズの一言だ。
「明日、共闘する身だろ?もう少し仲良くした方がいいぜ。」
「マインズ、どういうことだ?」
俺の問いに肉をほうばりながらマインズが応じた。
「ん?ああ、お前、明日にクレストから依頼を受けるだろ?」
マインズが言い終わらないうちにエクレールが付け足す。
「その依頼に私も寮機として参加する。」
「だからよ、仕事の前に一度会った方がいいと思ってな。どっちとも俺の知り合いだしよ。」
「すまないマインズ。いろいろ面倒かける。」
「いいって事よホワイト。まあ、いつか借りは返してもらうからな。」
「わかった、約束しよう。」
雰囲気も多少和やかになり、俺も本格的に肉をつつこうかと鉄板に視界を移す。
「・・・肉は?、どこいった?」
「・・・?あらら、いつのまに。エクレール、知らねぇか?」
「私はもういい。」
「・・・」
結局、冷蔵庫にあった俺の三日分の食料のほとんどが一人の美人の胃に消えていった・・・

「近いうちに買い物に行かないとな。」
二人が帰った後、俺はほとんど空になった冷蔵庫の中を見てそう呟いた。
「・・・ったく、エクレールのやつ、見かけによらずよく食いやがる。」
冷蔵庫の中から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。
昔は孤児院でよく友人と早飲み競争をしたな・・・
俺の周りの友人は皆、同じ境遇の持ち主だった。
レイヤードでの騒乱、管理者の暴走・・・それらに巻き込まれ親を失った子供達・・・
院長のアイリス先生はいい人だった。もう、記憶はだいぶ薄れちまっているがな。
「あいつら、元気にしているかな・・・」
ここ数年、シェイル以外の孤児院での友人とは全く面識が無かった。
そのほとんどの時間をシュミレーターでの訓練に費やしていた俺は友人に会おうとはしなかった。
あいつら、本当にどうしているんだろな。
孤児院で俺より若い奴は一握りしかいなかったから、ほとんどが社会に出ているはずだ。
企業に入った奴もいるだろうし、あるいは俺みたいに傭兵家業に入った奴もいるかもしれない。
孤児院ではみんなそれぞれ夢を持っていた。俺はまだ夢を達成する途中にすぎない。
そう、俺の夢は・・・
「・・・そろそろ寝るか。」
牛乳を飲み終えた俺は歯を磨いて、ベットに潜り込んだ。

翌日、俺は輸送機で北の方に向かっていた。夢をものにするために・・・
作者:ストライカーさん