サイドストーリー

試作機データ補填
「・・・鬱だ。」
(リック、何か言いました?)
この場には似つかわしくない、明るい口調の声が通信機から響く。
今、俺と俺の機体は企業が軍事演習用に使っている仮想都市の真ん中にいた。
「レナ・・・なんで仕事中にまでお前に付き合わなきゃいけないんだよ。」
(仕方ないでしょ。ユニオンが選んだのは私なんだから。)
俺は大きくため息をついた。今回の依頼はこういうものだ。
”発信元・・・メカニックスユニオン、報酬・・・35000Cr、
 ホワイトランスさん、今回は我々よりあなたへの直接の依頼です。
 今回、我々は某組織と技術提携を結び。対レイヴン用兵器としての試作機を完成させました。
 同兵器はACにAIを内蔵したもので、戦闘による学習を可能にしています。
 ホワイトランスさんには同兵器と模擬戦を行なってもらい、実戦データの解析などを行なう予定です。
なお、弾薬費、修理費は我々が補償しますのでそのつもりで。協力、よろしくお願いします”
この依頼でデータ解析をするのはレナの仕事と言う訳だ。
レナはこの仮想都市の隅で補給車に乗り合わせている。
「ったく・・・わざわざレイヴンを雇ってする仕事かねぇ。」
(甘いですよ、リック。いや、ホワイトランスさん。)
「どういうことかな?メカニックスユニオン代表さん。」
(彼はすでにさまざまなランカーとの実戦経験があります。正直、強いんですよ。)
「そいつは期待できそうだ。」
(・・・しかし、A研の職員が来るって言ってたのに・・・遅いなぁ。)
「A研?」
(あ、AI研究所のことです。地上進出後に設立された技術集団なんです。)
「ユニオンが技術提供を結んだのはそこか。」
(うん。ただ、時間に少しルーズな・・・)
(誰が時間にルーズだってぇ?)
突然入ってきた粋のいい男の声に俺は思わず吹き出す。
「元気な奴だな。どこにいる?名前は?」
(今、お前達の真上にいる。俺の名前はケイン、ケイン=スレッド。よろしく頼むぜ。)
確かに、上を見上げればACの輸送に使われるヘリが上空に待機している。
「ああ、よろしく頼むよ。」
(おい、今日の御相手だぜ。挨拶しな、スファロー。)
ケインのセリフに応じたのはかなり癖のある電子音だった。
「イエス。Mrホワイトランス、私はスファローと申します。以後、お見知りおきを。」
「おい、お前達の作ったAIってまさか・・・」
(ええ、擬似人格を持たせています。プロジェクト・シンギングバーズ。おかしいですか?)
レナの返答に俺は納得した。スファロー(スズメ)・・・まだ、小鳥というわけか。
(よし、これよりスファローを投下するぜ。いい勝負を見せてくれよ。)
上よりフックの外れる音が響き、一機の意志が地上に投下された・・・

「いい腕だな。」
「光栄です。Mrホワイトランス。」
俺はスファローの想像以上の強さに感嘆の声を漏らしていた。
スファローの機体は四脚だが、そのほとんどが見た事のないパーツで構成されていた。
わかっているのは、両手に持っているのがマシンガン、左肩はミサイルだということだけだ。
それらの弾幕を建物を使ってかわしつつ、俺は自分の機体が持っている武装に目を移した。
レナが俺に送ってくれたUWG-MG/750の性能はなかなかのものだ。
ただ、一発あたりの反動がかなり大きく、手動での微調整が必要だという欠点もあるようだが。
「・・・!」
嫌な予感がし、俺はとっさにバリケードとしていた建物より離れる。何かが建物を貫いた。
「レールガン!?」
「御名答です。XWC-LIC/100、試作型の軽量レールキャノンです。」
「嫌な物を持ってやがる。」
「ですが、Mrホワイトランス。先程の不意打ちを回避されたのはあなたが初めてです。」
「そいつは光栄だね。」
俺はそう言いながらマシンガンのトリガーに手をかけていた。このままじゃ埒が明かない・・・
「スファロー。俺は隠れるのには飽きた。そろそろ決めようか?」
「ええ、私も回避技術の点で十分なデータを獲得しています。賛成できることです。」
「了解した。いくぜ!」
俺はマシンガンを放ちながら建物より飛び出した。
戦いは本格化し、無数の弾幕が人気のない街を駆け巡った・・・

「お見事です、Mrホワイトランス。」
スファローの機体が膝をつくのが確認できた。やっと終わったか・・・
建物はその全て瓦礫と化し、仮想都市は名ばかりの広場に変わっていた。
俺の機体の損傷もかなり大きい。まあ、珍しく正攻法を選んだんだ。当然だろう。
(ホワイトランス、いい勝負を見せてもらったぜ。)
「ケインか。いいAIだな。正直、苦戦したよ。」
(スファローは強かったでしょう?だって・・・!?、リック!エマさんから通信!)
「何?」
俺は咄嗟に通信機の周波数を変える。通信機からエマの声が響いてきた。
(・・・トランスさん、聞こえますか?ホワイトランスさん・・・)
「聞こえる。何があった?」
(ホワイトランスさん、コーテックスより緊急の依頼です。)
緊急の依頼・・・それは俺にとって初めてのことだった。何かあったのか?
(依頼内容は正体不明機の排除です。)
正体不明機・・・俺は嫌な予感がした。エマは通信を続ける。
(緊急の依頼ですのでこの場での依頼受諾を認めます。後はあなたの判断です。)
「・・・レナ。その補給車、今すぐ補給可能か?」
俺の質問にレナは珍しく慌てていた。突然の事で動揺しているようだ。
(え・・・ええ、いけます。リック・・・行くの?)
ケインは俺とレナの会話から俺の意志を察したようだ。エマに通信をつなぐ。
(A研のケインだ。エマとかいったな、作戦領域は?)
(は、はい。作戦領域はアーカイブエリアです。)
(ほう・・・近いな。ホワイトランス!俺が送ってやる。空から行った方が早いぜ。)
「ああ、助かる。レナ!急いで補給の準備だ。」
(わかりました。リック、無茶はしないでね。)
「Mrホワイトランス。正体不明機は危険な相手の可能性が高いです。十分な注意を。」
俺はレナとスファローの忠告を聞いて思わず笑みをこぼした。
正体不明機か・・・俺の予感が当たっているのなら、そいつは恐らく・・・
「俺はどんな相手でも油断する気は無い。レナ、急ぐぞ!」
(はい!)
数十分後。補給を終え、俺は輸送ヘリに機体を乗せてアーカイブエリアに向かった。

俺の予感は当たっていた。そいつはまるで不死身であることを証明ように俺の前に現れた・・・・
作者:ストライカーさん