サイドストーリー

正体不明機排除
(ホワイトランス、もうすぐ着くぜ。準備は・・・)
「ケイン、俺の名前はもう知っているだろう?そっちでいい。」
コックピット内には輸送ヘリ特有の振動が伝わってくる。
俺はアーカイブエリア、俺が試験を受けたところに向かっていた・・・
うっすら光る機体のディスプレイにはこの依頼の概要が表示されている。
”発信元・・・グローバルコーテックス・アリーナ管理部、報酬・・・60000Cr、
 レイヴン、緊急の依頼です。アリーナでの対戦中に選手が何者かの襲撃を受け、通信不能となりました。
 至急、アーカイブエリアに向かい。選手の安否を確認、および、正体不明機の排除を依頼します。
 ここで行なわれていた試合は、B−2のシルバーフォックス、B−1のホーンテッドの対戦です。
 この二名を通信不能まで追い込んだということは、相手は相当に強力だと思われます。
 十分に注意して任務に望んで下さい。レイヴン、よろしくお願いします。”
「フォックス・・・」
(ホワ・・・いや、リック。そこに知り合いがいるのか?)
「ああ、フォックスにはレイヴンになりたての時にだいぶ世話になっている。」
(そうか・・・リック、俺はお前の活躍をまだ見たい。死ぬんじゃないぞ。)
「わかった。期待にそえるように努力するよ。」
(・・・アーカイブエリアに到着した。投下後、俺は離脱させてもらう。気をつけてな。)
「了解した。」
フックの外れる音がコックピットに響き、機体の落下を感じた。
足元には砂嵐の吹きすさぶ広野が広がり、何かの存在を感じさせた・・・

「エマ。今、作戦領域に到着した。」
(わかりました。その場の探索を行なってください。)
「了解。しかし・・・この視界の悪さじゃ苦戦しそうだ・・・」
俺は機体を進め、フォックス達の捜索を始めた。
砂嵐と磁気障害のせいで思うように探索ははかどってくれそうにない。
「フォックス、ホーンテッド、どっちか聞こえたら返事をしてくれ。」
同じ通信を何回繰り返しただろう。突然、通信機に雑音が入った。
「ホワイトか。」
弱々しかったが間違いなくフォックスの声だった。俺の顔に安堵の表情が浮かぶ。
「フォックス、どこにいる?」
「こちらからは君が見えている。君の右手の方だ。」
確かに、そこにはフォックスの機体があった。どうやら、左手を振る余裕もあるらしい。
「フォックス、そっちの損害は?ホーンテッドはどこにいる?」
「損害は見ての通り脚を完全に吹き飛ばされてしまった。ホーンテッドは北西の方にいるはずだ。」
俺はそちらの方を凝視する。ホーンテッドの方も無事だといいんだが・・・
「相手はどんな奴だ?」
「ああ、そいつは・・・」
フォックスの通信を聞くこともせずに俺は機体をジャンプさせた。
足元を見覚えのある弾丸が通り過ぎる、弾丸は俺の目の前で大爆発を起こした。
「ホワイト!」
「来たな・・・」
やはりと言うべきか、俺の目の前に現れたのはサイレントラインで遭遇した、あの白い機体だった・・・

「動きがよくなっている!?」
事実、白い機体の動きは以前と比べ隙のないものに変わっていた。
どういう方法で学習したかは見当がつかないが、かなりの性能を持つAIらしい。
「食らえ!」
白い機体が振るうブレードをぎりぎりでかわし、攻撃を加える。
マシンガンの弾幕は相手の装甲を削りはするが、致命傷とはならない。
「くそ・・・相変わらず硬いな・・・」
「ホワイト、大丈夫か?」
「ああ・・・大きな損害はまだ無いが・・・」
先程の補給で装甲はある程度回復しているとはいえ、完全に修理できたわけではない。
少なからず機体の細かいところにはまだ損傷が残っているようだ。機体の動きが鈍く感じる。
「ちょっとしたハンデ戦だな・・・」
その時、白い機体俺の一瞬の隙を突き、近距離からミサイルを放った。
「くっ!」
避けられない!?
・・・いや、違う。避ける必要が無い。
そう思った時、ミサイルめがけて圧倒的な弾幕が降り注ぐ。
ありえないとも言える弾幕が2発のミサイルを撃墜し、俺の目の前にその弾幕の主が現れた。
「・・・大丈夫だな?」
「・・・こいつが・・・来たのか?」
弾幕の主は紫色の中量二脚の機体だった。フォックスの反応から有名な人物であることが推測できる。
「・・・こちらネームレス、目標を確認した。これより作戦を開始する。」
ネームレス(名無し)・・・か。意味深なレイヴンコードだ。
「ネームレスか・・・、俺はホワイトランス。よろしく頼む。」
「・・・了解した。」
ネームレスの声にはフォックス以上の迫力があった。こいつは単純に強い・・・
ネームレスの機体は先程の弾幕を放った右手の武装を白い機体へと向けた。
「・・・終わらせるぞ、ホワイトランス。」
「あ・・・ああ、了解。」
俺も同様にマシンガンの銃口を白い機体にへと向けた。圧倒的な瞬間火力の前に白い機体を撃破するのにそう時間はかからなかった・・・

「ネームレス、助かったよ。」
爆発、四散した白い機体を前に俺はネームレスに礼を言っていた。
「・・・私は依頼を遂行しただけだ。」
そう言うとネームレスはブーストをふかし、どこかへ去っていく。
いつの間にか砂嵐もやみ、視界は向こうを見渡せるまでに回復している。
「フォックス・・・、あいつを知っているのか?」
「・・・ホワイト、君は奴を知らないのか?」
痛い所だ。俺はシュミレーター上で交戦したランカー以外の知識は全く無い。
「ネームレス・・・アリーナに参戦しないレイヴンの一人だが、腕前はさっき見た通りだ。」
「他には?」
「さあな、名前通り正体を明かさない謎のレイヴンさ。」
「正体不明か・・・興味深いな。」
「あまり気にしない方がいいぞ・・・。お、どうやら救助部隊のお出ましのようだ。」
空を見上げれば、二機の輸送機がこちらへ向かってきた。
半壊したフォックスの機体とホーンテッドの機体を回収し、輸送機は飛び立つ。
後に聞けば、ホーンテッドは北西の高台で気絶していたらしい。数週間で任務に復帰できるそうだ。
俺はACから降り、輸送機の窓から下のアーカイブエリアを見下ろしていた・・・

白い機体の残骸はすでに砂に埋もれ、上空から見つけることはできなかった・・・
作者:ストライカーさん