サイドストーリー

Underground Party 15話 イレギュラー
「侵入路探索・・・ねぇ」

任務依頼のメールを読み終えて、息を吐く。
管理者の下へと続く通路の探索を、僚機と協力して行えとの依頼だが・・・。

「なんか・・・引っ掛かるんだよな・・・」

確かに、ミッションの難度は左程でも無いだろう。
単なる探索任務など、Eランカーでもこなせる任務と云っても良い。
しかし、このレイヤードの存亡の危機に関わる状況下だ。
より確実性の高い、実績のあるレイヴンに依頼するのが筋ではなかろうか。
・・・それに、この程度のミッションに僚機を付けるというのも気にかかる。
もっとも、それは全て杞憂なのかもしれない。
高ランクのレイヴンには、もっと重要な任務が回されているのかもしれないし、僚機を付ける事でより確実性を増したいのかもしれない。
そう、杞憂かもしれない――のだが。

「・・・誰かに僚機頼んでみるか」

そう、どんな事が起きるか判らないのがこの職業だ。
用心に用心を重ねても、完全に安心と云う事はない。
ならば――自らの、幾度も死線を潜り抜けたレイヴンとしての直感を信じよう。

――だと云うのに。

「うん?悪いな、私も丁度出撃なんだ」

と。

「ごめんなさいね、私も依頼が入っていて・・・」

・・・と。

「あー・・・タッグアリーナの試合が・・・」
「ってわけなの、役に立てなくてごめんね」

・・・・・・と。


「・・・これは、1人で行けって事かね」

と、溜息を1つ。
シェリルにワルキューレ、アップルボーイとレジーナと当たってみたが、全滅。
他に面識のあるレイヴンと云えば、パーティプレイか紗輝辺りであるが、連絡が取れず。
何というか、自分の交友範囲が狭い事を認識させられてしまった。
ちょっと・・・いや、かなりブルー。
いや、半年やそこらで沢山のレイヴンの友人が出来ると云うのも難しい話だとは思うが。
むしろ、基本的にお互い干渉し合わないのがレイヴン。
ルクスのそれは多い方なのではあるまいか。
とはいえ、この現在に僚機を頼める相手が居ないと云う事に変わりはない。

「・・・仕方ない、こういう時は」

携帯をダイヤルし、自らのオペレータへと連絡を取る。
ミッション開始予定まで余り時間はないが、あれで中々優秀なエマの事。
ルクスの期待に答え、僚機を手配しておいてくれることだろう。



「今回僚機を勤めさせて頂く『デュミナス』です。"黒い旋風"のルクスさんと御仕事が出来るなんて光栄です、宜しくお願いします」

通信機から流れるその声は、幾分か上擦ってはいるものの、概ね落ち着いているようだった。
だが、透き通るようなソプラノと僅かに残る幼さが、その声の持ち主がまだ若い少女だろう事を如実に示していた。

「ああ・・・まあ・・・宜しく」

それだけを返すと、コンソールを叩いてエマとの通信ウィンドウを開く。
まだ作戦領域には到達していないので、映像データ――真剣な表情でキーボードを叩いているエマの姿も共に表示された。

「あら、ルクスさん・・・珍しいですね、作戦前に通信なんて」
「いや、エマちゃん・・・僚機って、MT・・・?」

無論、他にもパイロットの年齢やら何やら、色々と言いたい事はあるのだが。
その、『あれで大丈夫なのか』と云う言外の意味を察したのか、エマが困った顔をして答える。

「仕方ないじゃないですか、ルクスさんから連絡受けてから3時間しか無かったんですから。
 私だって受けてくれるレイヴンを探そうと頑張ったんですけど、流石に無理でした。
 それに、彼女の搭乗する"カバルリー"の攻撃力はACに匹敵します。
 例え対AC戦が発生したとしても、十分に僚機としての行動が可能であると判断して彼女に依頼を出しました」

こうつらつらと理由を挙げられれば、ルクスには反論する余地などない。
仕方なく、別の事をエマに問い掛ける事にした。

「判ったよ、それじゃ聞くけど」

何です?と首を傾げるエマに、ニヤッと笑って尋ねる。

「あの娘、エマちゃんと比べてどっちが可愛い?」
「・・・っ!?そんなの知りませんっ!もっと緊張感とか無いんですかっ!?」

顔を赤くして叫ぶエマ。
それを笑って流し、通信を映像から音声のみに切り替える。
そう、此処からはレイヤードの最深部。
誰がどのような目的で作ったとも判らぬ、崩れ去った遺跡が存在するセクション。
モニターに映るその光景は、さながら月世界の如く静まり返っている。
此処には通常セクションのような、換気や暖房などの気の利いたものはない。
ただ冷たく乾いた空気と、一様に変化の無い無機質の残骸が存在しているだけだ。
――いや、それは正しくない。
そのフロアの入り口に、ACの影が1つ。
今回の依頼に際して、ミラージュから付けられた僚機、D-9『リップハンター』のACだ。
ライトレッドに着色された『ルージュ』の姿は、その蒼く冷たい、既に死んだ世界の中では、眩し過ぎる程であった。

「・・・レーヴァテインと僚機のカバルリーね、宜しく。目標のエリアはあと2ブロック先よ、行きましょう」

それだけ言うと、ゆっくりと機体を進めるリップハンター。
周囲への警戒を怠っている様子は無く、時折構えたENライフルを左右に振っている。
そんな様子を見て、出撃前にエマに聞かされた、リップハンターについての評判を思い出す。
任務達成を第一としており、MTに搭乗していた頃から戦果には定評があったが、レイヴンとなりその評価は更に上がる。
ミッション中心の為、アリーナでの順位は低いが、今後の上位進出は確実なレイヴン・・・だったか。
今の様子を見る限り、確かにその評判は紛い物ではないようだ。

――だが、まあ。

自分とて、アリーナ参戦から僅か3ヶ月でCランクまで駆け上がり、"黒い旋風"との異名まで頂戴している。
その自分と、作戦遂行能力に定評のあるリップハンターを組ませる。
果たして、これはそこまで難度の高い任務なのだろうか。

――前にも、こんな事があった気がする。

自分のランクとは不釣合いな内容の、しかもその内容に反して報酬は高額――
だが、それはデジャヴュと云うものだろう。
何故なら、自分が今までこのレイヤードで受けた依頼など、数えるほどしかない。
過去にトップランカーだった、と云うことは有り得ない。
その可能性を考えたシェリルが調べてくれたことがあったが、まずB-3以上のランカーに関しては、ここ数年入れ替わりは無し。
Cランカー以上のレイヴンで、死亡確認がされていないケースは過去5年間には存在しない。
ならば、これはデジャヴュ。
経験してもいない事を、脳が過去にあったことと錯覚する、不可思議な現象。

――けれど、何故だろう。
ENライフルを持つAC。ショットガンを持つAC。そして、あの女性の声が鮮明に思い出されるのは――
その思考は、ゴォン、という隔壁を開放する音で遮られた。
先頭を進むルージュが、油断無くENライフルを構えながら遺跡内に進入、ラファールもそれに続く。
我に返り、慌てて2機を追って隔壁を潜ったルクスの耳に、エマの呟きが入った、

「遺跡内に微弱な熱源反応・・・?」
「ん?」

レーダーを見るが、そこには何も映っていない。
モニタにも、異常は見られない。

――だが、これは。

「・・・囲まれてる!?これは・・・ルクスさん・・・!」
「ああ、判ってる!」

ヴン、と何機ものステルスMT"フリューク"が姿を現す。
ざっと見た限り、数は12・3機。
幾ら閉所ではレーヴァテインの機動力が生かし難いとは云え、その程度の数ならば、ルクス1人でも十分に殲滅出来る。
しかも、こちらはAC2機MT1機。
一般にCランカーの駆るACは、単純換算してMT約10〜15機程度の戦力であるという。
どうあっても、遅れを取るような相手ではない。

「こちらルージュ、私は敵部隊の後方に回り込む。そちらは正面から仕掛けてくれ」
「了解――デュミナス、撃ち漏らした敵の始末を頼む」

ドン、と静寂を切り裂き、2機のACが爆ぜる。
見れば、ルージュは障害物の多い地形にも関わらず、巧みな機体操作で敵部隊の上をOBで抜けていった。
そのルージュに気を取られて上に兵装を向けた敵部隊は、正面から迫るレーヴァテインに即座には対応出来ない。
ショットガンの重い発射音が立て続けに響き、2機のフリュークが崩れ落ちる。
だが、立ち直ったMT部隊からの弾幕が、やにわにレーヴァテインへと浴びせかけられる。
石柱の影に飛び込んでそれを避けたレーヴァテインへの射撃位置へ移動するフリューク。
だが、レーヴァテインのみに集中していたそのパイロットは、次の瞬間呆気なくこの世を去る。
音も無く忍び寄ったデュミナス――MT"カバルリー"のENキャノンが直撃し、コクピットごと蒸発したからだ。
更に、ルージュの放つENライフルが周囲に着弾して浮き足立つMT部隊。
最早、戦いにはならなかった。
統制の崩れた部隊に、レーヴァテインが斬り込み、数分の後には敵は全て沈黙していた。

「お疲れ様、ルクス。引き続き周囲の探索を実行して下さい。

・・・それにしても、何処の部隊だったんでしょう?クレストもキサラギもユニオンも、こんな余力は無い筈ですが・・・」

「ん・・・?」

何か、引っ掛かった。
怪訝そうに呟くエマの言葉を、ゆっくりと反芻する。
そして。

「・・・ああ、そうか」

随分と簡単なことじゃないか。
この任務で、管理者部隊以外の敵部隊が存在したと云う事実。
それが、この任務の意味を如実に物語っている。

「ははは・・・随分と御粗末じゃないか」

あんな敵部隊が存在した時点で、気付くべきだった。
この情勢、あの規模の部隊を保有している勢力なんて、1つしかない。

「・・・居るんだろう、出てこいよ」

静かに、だが怒りと殺意を込めて、何処かに必ず存在するであろう者へと告げる。
――このミッションの依頼主、ミラージュの雇ったであろうレイヴンへと。

「・・・管理者を破壊する・・・馬鹿げた事を・・・」

何処からか現れたのは、防御を重視するトップランカーとして有名な――B-2ファンファーレの操るAC。

「え・・・イ・・・インターピッド!?なんで、そんな・・・!?」

状況が判らず、パニックに陥るデュミナスを傍目に、リップハンターの声が響く。

「貴方は確かに強い。12機のフリュークを全滅・・・3分も経たずにね。流石よ、でも――」

ザ・・・と、インターピッドの横へとルージュが歩み出る。
その機体からは、既に味方であることを示す信号は発信されていない。

「貴方はこの世界に不要なの――そう、貴方は規格外の存在。貴方がプログラムを狂わせた」

無言で、その言葉に耳を傾ける。

「――イレギュラー要素は抹消する。ミラージュはそう判断した」

――ああ、そうか。俺は――

インターピッドが、右腕の連装ロケットの照準をこちらに定めている。

「ルクスさん!勝ち目はありません!逃げて下さい!」

――エマが、必死に何か喚いている。
だが、そんなことはどうでもいい。
この湧き上がる衝動の前では、そんなことはどうだっていいんだ。
そうさ、俺は――

「――消えなさい、イレギュラー!!」

その言葉を聞いて。

――何かが、弾けた。

2機のACが、同時に攻撃を仕掛けてくる。
赤い機体からオービットが立て続けに発射され、直後に紺の機体からロケットと、僅かに遅れて投擲弾が放たれる。
更に、赤い機体が距離を詰めながら、ENライフルを連射してくる。
回避のしようもない、見事かつ完璧な連携攻撃。

――けれど、遅い。

飛来するオービットの軌道はおろか、投擲弾の弾頭が展開し、拡散する瞬間までもが、見て取れる。
遅い。突っ込んでくる赤い機体も、横に回り込もうとしている紺の機体も、こちらが苛々するほどに遅い。

――こんな連中、奴に比べれば。

一瞬だけ、ブーストを吹かし、宙に舞う。
それだけで、回避不可能な筈の連携は崩された。

「何っ・・・!」

行動を制限し、本命の攻撃を当てるためのオービット。
そのオービットを、軽くブーストを吹かして飛び上がった機体自体を当てて破壊したのだ。
しかもその機動のみで、他の攻撃までも回避したのだ。
オービットの浮遊している位置、ENライフルやロケット、投擲弾の弾道を全て把握していなければ出来ない芸当だった。
そんな神懸り的な機動を見せ付けられ、リップハンターは動揺から僅かに動きを止めてしまう。
そして、それは彼の前では即座に敗北を意味する。
距離を詰めていた状態で、動きの止まったルージュに、容赦なく散弾が叩き込まれる。
それも、武装・頭部・間接・エアテイクなどのACの弱点に集中的にだ。
無慈悲なまでに正確に弱点を射抜かれたルージュは、各所から煙と炎を吹き上げて沈黙する。
それは、まさに一瞬。

けれど、奴なら――クラインならば、こんな攻撃は容易く回避し、尚且つ強烈なカウンターを浴びせてきただろう。

――世間一般では、火星国家樹立を目論んだ革命家と言われている男。
その真の目的は、何だったのか。
彼は、何を目指して、何処へ行きたかったのか。
そんな事は、俺には判らない。
けれども、戦いの後に彼女に言われた言葉は、今でも俺の心に残っている。

『貴方はこれから何処へ? そして、何を目指すの?』

――ネル=オールター。あの火星動乱の中、常に俺をサポートしてくれた女性。
失った筈の記憶が、洪水のように溢れてくる。
初めて赤茶けた大地に立った時のこと。
火星でのレイヴン試験、その後の初任務。
ネルと最初に直接会った時のこと。
ハンマーヘッドやSTAIでの戦い。
フォボスでのクラインとの最後の決戦。
その後の地球での観光。
そして――大気圏を堕ちてゆく中、最後に聞いたネルの声。
その全てが、懐かしい。

「――俺は、帰らなけりゃいけないんだ」

呟くように、自分に言い聞かせる。
インターピッドが、ロケットを連射しながら迫ってくる。
けれど、こんなものは当たらない。
放たれるロケット弾の全ては、正確に着弾する。
一瞬前までレーヴァテインが存在していた空間へと。
全く以って、苛々する。
火星では、ヘリのパイロットや戦車兵でさえ、こちらの移動を先読みして射撃してきたというのに。


「このっ・・・イレギュラーがっ!!」

焦りを含んだ叫びが、ファンファーレの口から漏れる。
リップハンターが一瞬にして撃破されるなど、予想外の展開だった。
しかし、元々自分1人でもCランカーに遅れを取ることなどないのだ。
如何に"黒い旋風"と云え、試合を見る限り捉えきれないと云う感じは受けなかった。
むしろ、十分に余裕を持って勝てる相手のはずだった。
なのに、だというのに。

「何故だ!何故当たらないっ!」
「・・・簡単さ。お前より俺の方が強い、それだけだ」
「――っ!」

ドンドンドンドン!

機体に走る激震。
正面に捉えていた筈のレーヴァテインが、刹那の後に横に回り込んでいたのだ。
4発の散弾は、正確にインターピッドの武装を奪う。
モニターには、NO WEPONとの表示。
冗談ではない。

――次元が、違う。

自然と、口が笑みの形に歪むのを感じた。

奴は――本物だ。

「何か、俺のことについて知っている事は?」

奴が、ショットガンを構えながら尋ねてくる。
そうだろうな、奴とて何故自分がレイヤードに紛れ込んだのか、など知る術もあるまい。
いいだろう、奴に勝とうなどという気は、最早全くと言って良いほど起きない。
そして、敗北=死という世界だ。この際、守秘義務などどうでも良い。

「半年前に、アビア湾で戦闘があった。ある未確認型のACの残骸を巡って行われたものだ。
 最終的にその残骸を確保したのはミラージュ。その残骸を元に、KARASAWAとMOONLIGHTは開発された。
 しかし、そのACの残骸の他に、クレストが1人の男をアビア湾で確保していたのさ。それがお前だ。
 ――その頃からだ、管理者に異変が生じ始めたのは」

奴は、沈黙して答えない。

「此処からは、単なる俺の推測だ。
 ・・・アビア湾が、レイヤード外から流入した地下水で構成されていると云うことは知っているな?
 お前はレイヤードの外から来た人間なんだろう。きっと、俺の知らない世界から来た、な。
 理由は判らないが、それが管理者を狂わせた理由なんだろう」

モニタに大きく表示された数値は、着実に0に近づいてきた。
・・・そろそろ、終わりか。

「ふん・・・ミラージュは任務に失敗して全てを話した俺を許すつもりは無いらしい」
「・・・?何を言ってるんだ・・・?」
「お前が、何を為すのか――それをあの世で見届けることにしよう」

それを言い切るか言い切らないかの内。
ミラージュの設置した自爆装置が発動し、俺の身体は、愛機ごと吹き飛んでいた。


「――ルクスさん、通信です・・・そのエリアの奥に、管理者の下へと繋がる通路があるそうです。
 それと、任務を終え帰投中だったシェリルさんが、増援として向かっています。間も無く到着する筈です」

燃え盛る2機のACを呆然と眺めていると、恐る恐るといった調子のエマの声が耳に入った。
・・・確かに、レーダーに光点が示されている。
この光景を見たら、シェリルはどう思うのだろう。

――シェリルも、俺のことをイレギュラーと云うのだろうか。

ゴゥン、と重い音を立てて、氷雨色にカラーリングされた四脚AC『スレイプニル』が姿を現す。
セクション513から救い出してくれたAC。

「・・・無事なのか?」

確認するように問われる。
このレイヤードでの生活で、最も多く聞いていた声だ。

「――うん、ちょっと来るのが遅かったね」
「・・・ふん、よく言う。その分だと私が来る必要は無かったか」

確かに、AC2機との戦闘を終えた後だと云うのに、レーヴァテインに損傷は殆ど無い。
けれど、そんなシェリルの皮肉はいつも通り過ぎて。
ついつい安心して、口元が綻んでしまった。

「まあ――行こう、管理者の所へ」

気持ちを切り替え、送られてきたデータの地点へと、機を進ませる。
隔壁を開くと、巨大なエレベータがそこにはあった。

「管理者の位置は、ワルキューレさんがミラージュの施設から奪ったデータから判明したそうです。

それと・・・その、管理者のものと思われる大型兵器、及びAC部隊が、メインエネルギー炉に現在進攻中です」
確か聞いた覚えがある。
もしエネルギー炉が1つでも破壊されてしまえば、レイヤード各地に散らばる他の炉も連鎖して大爆発を起こす、とか。
そうなれば、レイヤードは壊滅的打撃を受けることとなる。

「トップランカー数名を含むレイヴン達が迎撃に当たっていますが・・・

敵大型兵器の存在も脅威ですが、ACの数が余りにも多すぎます。
ルクスさん、管理者の暴走を一刻も早く止めて下さい。管理者を破壊すれば、大型兵器は止まるはずです」

――エレベータが、動き出す。

更なる地下へ。管理者の存在する、このレイヤードで最も深い処へと。



――此処に、私は何の為に来たのか。

酒の席で一度顔を合わせただけのルクスのオペレータ、エマ=シアーズ。
帰投中に、いきなり半泣きで懇願された。

――そう、目の前の漆黒のACを操るレイヴン、ルクスの援護という依頼。

レイヴンは、依頼があってこそ動く。
あの新人オペレータの依頼を受けたからこそ、私は此処にいるのだ。

――馬鹿馬鹿しい。

自分さえも騙せない嘘など、気分が悪くなるだけだ。
正直に認めよう、私は自分自身の意志で此処に居る。
その理由が、何処から来ているのかは私には判らない。
レイヤードを救うという正義感か。
窮地に陥ったルクスを心配してか。
管理者の姿を目にしたいという興味か。
若しくは、単純に気分の問題なのか。
――どれもが正しく、またどれもが間違っているのだろう。
そんな思考を遮り、ただエレベータの駆動音のみが響いていたコクピットに、レインの声が流れる。

「――クレストの代表から、ルクスさんへ通信が送られています――聞きますか?」
「・・・ああ、頼む」

はい、と返事をする声と共に、レインがコンソールを操作する音が僅かに耳に届いた。
そして、度々ニュースなどで耳にしていた、あの声がゆっくりと流れ出す。

『――・・・が・・・何を求め・・・るのか、我々には判らない。
 秩序を打ち壊す事で何を得られると云うのか・・・だが、我々にはもう君を止められない。
 ――行くがいい。そして、君が成した事が何を生むのか、見届けるがいい』

「――シェリル、貴女はどうなんです?」
「――さあな、判らんよ」

長年のパートナーは、その答えに微かに溜息を吐く。

「――本当にこれで良いのかは、私には判りません。
 管理者を破壊してしまった後に、何が残るのかも。
 けれど、私はまだ死にたくない。ただ何もせず死ぬのは嫌です。
 ――シェリル、気をつけて」

ガタン、と云う音と共に、エレベータが止まる。
目の前には、1つの隔壁。
この先に、何が待っているのだろうか。
希望か、絶望か。
扉を開けてみるまでは、結果の判らない賭け。
それでも、ただ座して死を待つよりは、余程マシだろう。

さあ、ここから先は。
進んだら引き返す事は出来ない、ただ最後まで行き着くのみ。
作者:前条さん