サイドストーリー

番外編 戦う理由…その1 努の過去
努「父さん、母さん、おはよ」
 今さっき起きたばかりの努がリビングにはいって挨拶をする
父「ん、努か…おはよう」
 キリッとした顔立ちに大人の静けさを持つ人物…これが努の父親である
母「お〜、今日はいつもより起きるの早いんやね。なにかいいことでもあるん?」
 かわらしいフリル付きのエプロンドレスを恥ずかしげもなく着こんで、いかにも食事の
 準備を終わらした直後だと思わせる格好をして大阪弁を操っているのが努の母である
努「2人ともわかってるくせに…今日は俺の誕生日なんだから早くから起きて1日を
  しっかり満喫しないとね」
 そう、今日は努の生まれて15回目の誕生日である
父「ふっ…そうか。でも、そんなお前より早起きが1人いるぞ」
努「えっ?まさかあいつ…うわっと!」
???「お兄ちゃん!」
 いきなり努の背中に少女が飛びついてくる…これは努の妹、咲耶であった
咲「えへへ…お兄ちゃん。お誕生日おめでとう♪」
 かわいらしい笑みを浮かべ自分の兄である努の誕生日を心から祝う
努「…ありがとう、咲耶」
 少しはにかみながら、努は目線を下げて咲耶に御礼を言う
父「満喫…と、言うより今日はお前レイヴン試験を受ける気なんだろ?」
努「あっ、うん。この試験に受かれば俺も父さんや母さんみたいにアリーナで戦える」
 努の両親はアリーナでも結構有名なレイヴン夫婦だ
母「そうやね〜。ウチらの子供やし…努にはセンスあるかもな〜」
父「もし、試験に受かったら…誕生日プレゼントにAC1機おれ達からプレゼントしよう」
努「えっ!?そんな…」
咲「うわ〜お父さん、ふとっぱら〜」
 かなり高価なプレゼントをもらえることに努は驚きの表情をうかべる
父「とはいっても、おれのお下がりみたいなものだがな」
努「父さんの…か。これはとてもじゃないけど試験に落ちれないなぁ」
母「…って、努!時間そろそろやないの?」
努「へっ?うわっ、出撃予定時間まで後1時間!?やっばぁ!!」
母「はいはい、着替えはそこに用意してあるから、早くご飯食べて出発…」
努「いってきま〜ふ!!!」
 食卓に用意されたパンをくわえいつのまにか着替えた努は全力疾走で家を後にした
父「ふっ…頼もしい限りだな。我が家の長男は」
 そんな努を苦笑しながら父親は見送っていた
母「ホント、あの子にはあなた…いんや、ファンファーレと」
父「お前、リップハンター…って、こんなときにレイヴンネームで呼び合うことないだろ?」
母「へっ!?そ、そうやね。えっと…勇二」
 頬を赤らめながら恥ずかしそうに名前を呼ぶ
勇「もう結婚してずいぶん経つのにえらく初々しい反応だな。成美」
成「べ、別にええやん。だってその…久しぶりにこんなふうに呼ぶんやし…」
勇「久しぶり…か。ん?成美、そういえば咲耶は?」
成「あれ?さっきまでここにおったのにな…どこに消えたんやろ?」
 成美がキョロキョロとまわりを見まわすと…机の上に1枚の紙切れが置いてある
成「ありゃ?こんな所におき手紙が…ふむ…はっは〜ん、なるほどな〜」
 いつのまにか机の上に置いてある手紙を眺めてうなずいている
勇「何が書いてあるんだ?それには」
成「我が家の妹姫様は愛しの兄上についていきました…と」
 その手紙の内容は…
 "お兄ちゃんが合格する所見てきま〜す。無事に帰ってきますから心配しないでね〜"
 と、明かに前から用意していたような丁寧な字でかかれていた
勇「まったく…咲耶の行動力は誰に似たんだか」
 そう言いながらチラチラと成美の方を見る
成「なっ!そ、そんな事言ったら努の融通のきかなさは誰に似たんやろ〜な?」
 だが、成美も負けてはいない
勇「うぐっ…ま、まぁ努が帰って来た時用にAC用意しとかないと」
成「なぁ、勇二…お下がりの機体って…やっぱ"アレ"なんか?」
勇「あぁ、おれが試験的にチューンナップした重武装中量2脚型AC…」
成「けど、全部ミラージュの製品ちゃうんやけどね〜」
勇「別にいいじゃないか。…あの"ラグナロク"は見た目以上に性能いいんだぞ?」
成「あっ、あかん…昔の癖がちょっと出て…」
勇「成美は昔ミラージュの専属レイヴンだったからな」
成「でも、あの管理者崩壊後…すぐにやめて勇二と…その…結婚したんやっけ」
 先ほど赤くした頬がさらに赤く染まる
勇「しかし…今思えばおれ達、よく助かったものだ。"あの"レイヴンに遺跡で撃破され…」
成「気がついたら病院…ほんま、訳わからんな。あの時の事だけは」
勇「まぁ現にこうして生きてるんだから…ん?朝の早いうちから依頼か?」
 勇二の腕についている通信機に依頼が入る
成「え〜、そんなん後回しにし〜や。今から片付けするんやから」
勇「わかったわかった。それじゃあ片付け、おれも手伝うよ」
成「おおきにな。勇二♪」
 2人はまだ気づいていない…さっき届いた依頼がどれほど重要であるかを…

努「はぁ…はぁ…なんとか時間どおりにバスに乗れた…」
 息を切らしながら予定の集合場所付近で止まるバスに飛び乗っていた
努「ふぅ、やっぱり緊張するなぁ。こんなに緊――!?」
 後ろに何やら鋭い視線を感じ振り返るがそんな様子の人は見当たらない
努「…?おっかしいな〜…う〜ん…まっ、いっか」
 そう言って努は再び前を向く。しかし他の乗客にまぎれ1人の少女が努の方を見ている
咲「(あぶなかった〜…お兄ちゃんってば妙な時にカンが働くんだよね)」
 それは努の跡を追っていた咲耶であった
咲「(ここで見つかっちゃったら家に返されちゃうからもう少し…)」
 咲耶は本当に試験場までついていくつもりだ

努「さてと、ついたついた」
 街中でひときわ大きい建物…俗世間ではアリーナ会場と呼ばれる所が集合場所だった
努「失礼します。試験登録番NO.17稲垣 努、入ります」
???「うむ、これで全員だな」
 1つの部屋を開けると教官らしき人物が出迎える
努「(へ〜、俺の番号17番だから結構いると思ったけど…俺もいれてたったの3人か)」
 部屋を見渡すと教官以外に受験者と思われる人物が2人ほどいた
 片方はがっちりとした体格のいかにも肉体派といった感じの屈強な男性
 そしてもう片方は努と同じ位の年っぽい女性であった
???「他の受験者は怖気づいたらしく今回はこのメンバーで試験を受けてもらう。
    では、今回の試験内容を説明したいと思う。ちなみにわたしは君達の教官を
    務めるレイヴンネーム・カロンブライブだ。それでは本題に入る」
 軽い自己紹介も済まし作戦内容の説明を開始する
カ「…と、いうわけでありきたりだが都市を占拠中のMT部隊の全滅が目的だ。
  まぁ、初期装備とはいえどもACはAC。MTごときに遅れをとることはまず
  無いだろう。もっとも、君達の腕次第でもあるがな」
努「(腕次第…か。まっ、何とかなると思えばなんとかなるだろ)」
カ「以上で説明を終了する。早速だがガレージに移動してくれ。もう出撃準備は
  整っているはずだ」
 そう言っていち早く部屋を出るそれに続いて男性の方が無言でついていく
努「あっと…俺も行かなきゃ」
 努もそれに習い部屋の外にでる
???「ねぇねぇ、ちょっといいかな?」
 と、すぐに後ろから声をかけられる
努「へっ?別にいいけど…」
???「じゃあまずは自己紹介だね。あたしは朝倉 美奈って言うの。よろしくね」
 無駄に元気…と言ったら聞こえが悪いがとにかくこの美奈は元気がいい
努「俺は稲垣 努だ。えっと…よろしくな」
 少し戸惑いながら努も自己紹介をする。もちろん前を歩く教官を見失わない程度に…
美「えへへ…同じ位の年で受けてるのあたしくらいだけだと思ってたんだけど…
  なんかうれしいな♪」
 そう言うと美奈は本当にうれしそうに笑っている
努「そんなものなのかな?俺はあんまし実感わかないんだよな」
美「へ〜、これから出撃なのにずいぶんと落ち着いてるんだね」
努「まぁ…ね。父さんや母さんにいろいろと教えてもらってるし…」
美「努のお父さ「お〜い、早くこないか」
 美奈が言いかけていると少し離れたところで教官が努達を呼んでいた
努・美「「あ、はーい!」」
 とまぁこんな感じで努は初出撃を迎えようとしていた

努「都市…ってこんなに近くだったんだ」
美「そうよね。輸送機使わずにそのまんま移動開始したもんね」
 美奈の言うとおりACの初期ブースターでものの5分程度の場所だ
努「そういやこの近くに父さんたちのガレージがあったんだっけ」
美「へ〜、努のお父さん達もレイヴンなんだ」
 先ほどさえぎられた質問を再度投げかける
カ「おい、あまり無駄話をしているな。そろそろ敵MTと接触する。わたしから言える
  最後の言葉は…"死ぬな"。以上、生還を期待する」
 カロンブライブがそう言葉を残して通信をきるとほぼ同時に視界に
 MTが2機姿を現す。2機ともすでに臨戦体制だ
努「美奈、右側のMT頼むぞ」
美「了解!…そういやもう1人受験生いたけど、どうしたんだろ?」
努「俺達とは違う場所についたんだろ?そんなことより戦闘中に余所見は禁物!ホラッ!」
美「へっ?うわ!?っとと。そうだね…じゃ、いくよ!」
 美奈の機体がMTから発射された簡易バズーカにあたる。が、大したダメージでは無い
 MTはACの簡易タイプ…武装などのコストを下げ、量産を目的とした機体なので
 武装もやはりAC物とは質が違う。
努「さて、MT1機…だけどブーバロスタイプなら接近戦で!」
 努はブーストを全開にし、重そうなMTの機体に接近していく
「く、くるな…くるなぁぁぁ!!」
 MTのパイロットは油断しすぎていた。普通の試験生ならば最初の1撃をもらえば
 パニックに陥るものだと長年のカンで確信していた。しかし、努は普通ではない
努「間合いをとったぞ!ブレードを食らえ!!」
「そ、そんな…試験生でこの動き!?ば、化けも…」
 レーザーブレードがMTの装甲をたたっ切った瞬間にコックピットも切り裂いていた
努「…あまりいい気分じゃないな…くそっ!」
美「おちちゃえ〜!」
 努とは反対側で美奈のライフルが火を吹く。そして、MTにほとんどが直撃した
 そしてパイロットは何も言えずに爆発に巻き込まれていった
美「あっ、努〜♪無事だったんだね」
努「あぁ、さすがはAC…と、言うべきか」
美「そうだね…でも…キャァァァ!!?」
努「なっ!?」
 美奈の機体が明らかにMTとは違う"何か"の攻撃を受ける
 多分、グレネード系の類と思われるが通常の右腕に装備できるものとは威力が違った
???「MTごとき相手にいい気になっているとはな…」
 発射されてきた方向とほぼ同じ方位からACが1機飛んできた
努「誰だ!」
???「企業のやつ等はそんなに怖いのか…あの"管理者襲撃"の再来が…」
努「その機体…どこかで見たことが…!ま、まさか…エース!?」
 エース…その昔レイヤード時代のアリーナであるレイヴンに敗れるまで圧倒的な強さで
 トップランカーの地位を守りつづけた最強と言ってもいいレイヴンである。
 しかし、地上が開放されてからこつぜんと姿を消していたのも事実であった
エ「ほう、我の名を知っているのか?だがなぜ…」
???「逃げろ努!そいつはそんな機体で相手できるやつじゃない!」
???「そうやで!努、そこのAC連れていったん引き!」
 エースの言葉をさえぎり勇二と成美が通信をいれる
努「父さん…どうして」
勇「コーテックスから依頼が入って…」
成「とにかく試験生が襲撃されるから頼みます…ってな」
 いつになく真剣な声の両親に努はただ、それに従うしかなかった
 努は美奈の機体の腕を掴むとこの場から離れようとするが…
エ「ファンファーレにリップハンター…我が破壊目標を逃がすと思うか?」
努「え…う、うぁぁぁ!!!」
 小型グレネードが努の機体を直撃する。が、致命傷は免れたようでまだ多少動けている
勇「努ッ!…貴様ぁ!!どこの企業がこんな依頼を!!!」
エ「さぁな。…そんなこと今から死んでいく奴には必要無いことだ…」
 と、言った瞬間に勇二の機体はエースによって切断されていた
勇「なっ!?うし――がぁぁぁ!!!う…動きが…違…」
成「勇二?…勇二!!いやぁぁぁ!!!」
努「と、父さん!!」
 それを見た成美が絶叫を上げる。努もその光景に叫んではいられなかった
エ「そうだったな…お前達は籍を入れたんだったか…」
成「かっ…きゃぁぁぁ!!!ゆ…勇二…」
 続けて成美も…今度はスナイパーライフルでコックピット付近を撃たれた
エ「お前達では役不足――!?」
 エースは何かを感じ取りとっさに機体を右にはじくと…レーザーブレードが機体の
 背後から左腕を切り飛ばしていった
エ「き、貴様!それはリミッター解除…だと」
努「はぁ…はぁ…父さんを…母さんをよくも!」
 ほぼ感覚だけで努はACを動かしていた。そしてその殺意に満ちた瞳はエースだけに
 向けられている
エ「ふふふ…はっはっは!今殺すには惜しい人材だ!!いいだろう、我はいったん引く…
  稲垣 努か…生き延びるがよい!!!」
 そう言い残すとエースは機体を翻し撤退していった
カ「おい!大丈夫か!!今、救急隊を呼んだ、すぐにでも付く!!!」
努「父さん!母さん!!」
 カロンブライブの言葉を聞き流し努は寄り添うようにビルへ倒れている2人の機体に
 近づいていった
努「父さん…母さん…無事でいてくれ…」
 そしてコックピットをこじ開ける…と、ボロボロの姿の勇二の姿が見えた
勇「つ…とむ…すまん…おまえ…の…誕生日…祝えなくて…な」
 努がコックピットから出てくると絞り出すような声で勇二が努に話し掛けてくる
努「もうすぐ…救急隊がくるから…大丈夫…だから…父さん…」
成「ん…つ、努ぅ…ゆ、勇二は…勇二は今…どんな感じなんや…?どこに…おるんや…」
 気がついた成美が努に話し掛ける…もはや視力も失われているらしい
 2人とも血だらけで…ボロボロであった…
???「え…お…お兄ちゃん…?」
 そして、ACのもたれかかっているビルから努の聞き覚えのある声が聞こえてきた
努「咲耶!?何でこんなところに!?」
 簡単なことだ。あの内容説明の時、すでに咲耶は盗み聞きをしており
 危険をかえりみず先にこのビルへと隠れて見学していたのだった
努「咲耶!見ちゃダメ…」
咲「それ…お父さんにお母さ…い、いやぁぁぁっ!!!!」
 
 そして、数分後に勇二達は救護班によって病院へ直行した
 咲耶も発狂し、失神してしまったため一緒に運ばれていった
 努も一応精密検査を受けるために病院へつれてかれていった
 
 検査の結果、美奈は軽い脳震盪、努は外傷以外特に問題無し。
 試験場にいた男性は…彼の乗っていたACは粉々に砕かれた状態で発見されていた…
 そして、勇二、成美、咲耶はというと…
医者「ご両親は命に別状はありません…しかし…」
努「何か…あるんですか?」
 努の言葉に覇気が感じられない…
医者「…はい…確かに命に別状はありません。ただ、目を覚ますのいつになるか…」
努「――!?」
医者「現在の状態では…しかし、それはすぐにでも目を覚ます可能性も考えられる…」
 事実を伝えた後に医者は必死にフォローする
努「そう…ですね。すいません気を使ってもらい…」
医者「あっ、あと妹さんですが…少し来てもらえますか?」
努「咲耶ですか?…わかりました」
 医者に連れられてある部屋に入ると咲耶ベッドの上で身を起こしていた
咲「あっ、兄さん♪おっはよ〜♪って、もうお昼か♪」
 咲耶は妙にテンションが高い。それを見て思わず努は医者の腕を掴みすぐ部屋から出る
努「…今のは?」
医者「ど、どうやらショックで記憶が混乱してるみたいで…もしかして性格の方も…?」
努「…他に問題は無いんですね?」
医者「はい。他には特に何も…全然問題なく、いたって健康そのものな状態です」
 それを聞いて努はホッと胸をなでおろした
努「それでは父さんと母さんのこと頼みます…入院費はアリーナで稼ぎますから
  心配しないでください。咲耶ももう退院できますね」
医者「わたしも…出来る限りの協力を惜しみません。無理はしないでください…」

 それから努は圧倒的な強さを見せアリーナ上位までのし上がっていった。
 父親の残した愛機「ラグナロク」とともにその名を全企業にとどろかした。
 そして…
努「あれからもう4年になるけど…まだ、目が覚めないんだね…父さん、母さん」
 咲耶はあの時のことは覚えていないらしく両親のことは努がごまかしても
 ばれることは無かった…
 
 そして今、努は19歳の誕生日を迎えようとしている…
 いまだに両親の眠る、この病室で…
                番外編 戦う理由…その1"努"編 FIN…
作者:キョウスケさん