サイドストーリー

One Raven’s Chronicle No.12 決戦!!サイレントライン(後編)
「レイヴンとMT集団は未だ交戦中です。今、00ともう1人が後退していきました。」
 
「了解、観測を続行してください。」
 
その会話の主たちは、作戦領域から少し離れた高台にいた。ここからだと一帯全てを見渡すことができる。
AC三機と観測機材を積んだ車両が一台。巧妙に擬装されているため、レーダーはおろか肉眼でもその姿を
捉えることは困難だ。
 
「では、01、02、03。今回の予定はもうお分かりですね?」
 
車内の研究者風の男が言う。蛇のような眼をした、いかにも悪だくみをしていそうな男だ。
 
「対AC戦闘データの採取…。」
 
「OSの最適化だろ?早く戦わせてくれよぉ。」
 
「そして、あわよくば脱走した00の捕獲、或いは始末。私は誰と遊ぼうかな?くすくす…。」
 
三人が順に答えた。彼女らは番号で呼ばれることに違和感を感じないのだろうか?
 
 
 
イビキ「ガイ、あいつらが戻るまでどのくらいかかる?」
 
ガイ「どちらもOBを使えば三分以内に往復できるだろう。ただ、補給は整備班の練度によって大きく変化するからなんとも言えん。」
 
イビキ「やれやれ、あの名高い第05整備班じゃ、応急修理で一日終わるんじゃないか?」
 
第05整備班。個人の技量は並以上だが、なぜかチームワークが非常に悪いことでよく知られている。その実力は、幾多の班長を
新郎で倒れさせたと言う実績に裏打ちされている。そのせいで、この班には未だに班長がいない。
あるレイヴンに、「五班に任せるくらいなら自分でやったほうがマシだ。」とさえ言わしめたほどの班が、どうしてこのような重要な作戦に
参加を許されたのか、今だにわからない。
 
ガイ「…本当は丸一日かかってほしいと思っているのだろう?」
 
聞きようによっては、フレッドたちが足手まといだ、とも取れる発言だ。
 
イビキ「なんだよ?二人とも新人にしてはいい動きしてるじゃないか。足引っ張ってるか?」
 
ガイ「さっきと比べて格段に動きがよくなっているからな。二人を護るように戦ってたときとは大違いだ。」
 
言われてみれば確かに被弾率が落ちている。今まで迎撃システム任せだったミサイルも、しっかり避けている。
 
イビキ「ははは、やっぱお前さんの目はごまかせんか。」
 
ガイ「ただのお節介焼きにしては真剣みがありすぎるからな。知り合いか?」
 
イビキ「ちょいと負い目があってな…。いや、よそう。お互い、知りすぎたら敵として出会ったときにやりづらくなっちまう。」
 
ガイ「うむ。できれば敵として出会うのは勘弁だが、こればかりはどうにもならん。全く、因果な商売だ。」
 
そんな会話をしながら、MTを次々と破壊していく。二人とも最小限の動きで攻撃をかわし、最小限の弾数で撃破する。残弾はもう
底をつこうとしているし、損傷ももはや軽微とは言いがたい。しかし、二人はこの状況を楽しんでいた。命を懸けた究極の娯楽。そう
思っているのだろう。
 
ガイ「くそっ、チェインガンももうここまでか。おい、そっちはどうだ?」
 
イビキ「またまた撃破っと♪あちゃあ…、これで全部打ち止めだ。ははっ、どうする?って聞くだけ野暮か。」
 
ブレードを残して全てパージ。これで動きやすくなった。MTにはできない格闘戦をしようというのだ。そして、いざ斬りかかろうとした矢先、
異変が起きた。自分たちに背を向け、一目散に逃げ始めたのだ。
 
イビキ「どういうことだ?」
 
いきなりの怪現象に、コクピットのなかで口をへの字にする。
 
ガイ「見ての通り、だろうな。ここの戦力をほかへ回すつもりか?あの方角にあるのは…。」
 
イビキ「…第一小隊…か!」
 
ガイ「だとしても俺たちはこの有様だからな…。悔しいが救援には行けん。」
 
二人は報告を入れ、パージしたものを拾い集めてその場を後にした。
 
 
 
クレイ「おいフュミナ、ほかの部隊はどうなっている?」
 
フュミナ「第一小隊は交戦中、第三小隊のほうは敵が撤退したそうよ。」
 
シリウス「撤退?このまま押し切ろうと思えば押し切れたはずだが…。」
 
思考を巡らせたが何も思い浮かばない。自身としては、もう少し思索にふけりたかったのだが、状況がそれを許さない。
疑問を押し込め、目先のことに集中することにした。
 
クレイ「なぁ、奴らが向かっている方向、ありゃウェインたちがいる場所じゃ…?」
 
こちらのMTも突如攻撃を中止して撤退の動きを見せ始めた。
 
シリウス「ここもあっさりと放棄…。行き先は第一小隊…。そうか、読めたぞ…。」
 
アントワネット「読めた?一体何が?」
 
シリウス「第一小隊から潰す気だ。おそらくそこにレイヤードへの入り口がある。」
 
クロス「だったらすぐ行こうよ!?」
 
レグルス「………そうもいかないみたいだ。」
 
彼のレーダーが赤い点を二つ捉えた。やがてそれは肉眼でも見えるところまで近づいてきた。
 
クレイ「AC!!」
 
絶妙のタイミング。今から支援に行こうとした矢先のことだ。二機はまさにそれを阻止せんがために立ちはだかった。
 
 
「IBIS側もACを出しましたか…。三人とも行動を開始しなさい。最優先目標はIBIS側のACですが、その後は任せます。
十分と判断したところで引き上げなさい。」
 
02「ふふふ、全滅を目指したいところだけどねぇ。」
 
01「03、00は私が相手をします…。いいですね…?」
 
03「えぇ〜…。お姉さまの言いつけなら仕方ありませんね…。では他の方で楽しみます。くすくすくすくす…。」
 
どうやら01が長女のようだ。驚いたことに、三つ子と思うくらい三人の顔は似通っている。皆一様に整った顔立ちで、肌は白磁のように白い。
歳はフレッドと同じか、それ以下だろう。
三人はそれぞれの目的を果たすべく、往時は大都市であったであろう荒野を音速で駆け抜けていった。
 
「アドヴァンスド・レイス…。実戦投入は二度目ですが、常人が彼女たちの相手になりましょうかねぇ…。クックックッ。」
 
男は笑った。その様は、絵に描いたような偏執的趣味の持ち主を思わせた。
 
 
 
第一小隊は殺到する増援の処理に追われていた。
 
メリル「553機目の撃破を確認。第二、第三小隊がこちらに向かっています。何とか持ちこたえてください!」
 
カナン「くそっ、きりがない!キョウ、大丈夫ですか!?」
 
キョウ「まだまだ大丈夫だ。弾が切れたACは無理せずに補給しろ!」
 
ウェイン「そもそも殴り合いのためについてる手足だ!これでも喰らえ!!」
 
近くのMTに拳で応戦する。すでにライフルは捨てている。ACのマニピュレーターはこういう使い方にはあまり適さないのだが、
意外にうまく動く。練習さえすれば相手に蹴りを入れたりつかんで投げることもできそうだ。
 
ゼロ「このままだとジリ貧だ。一秒でも早く救援が来ることを祈るか。」
 
ゼン「俺もそれ賛成。もうEOだけが頼みの綱だし。………おぉっ!?意外に早く祈りが通じた見たみたいだぞ。」
 
後方から緑色の点が二つ。フレッドの「フレースヴェルグ」とユリカの「フェアリーテイル」だ。
 
キョウ「お前たち、ガイとイビキは?」
 
ユリカ「ガイさんはまだ補給中、イビキさんはACと戦ってるわ!援護しようとしたけど断られたの!」
 
ウェイン「悪いがすぐに戦闘に加わってくれ!素手で応戦しているがそろそろ限界だ。いったん補給してくる!」
 
オレはライフルとグレネードを速やかに回収、補給に向かった。
 
キョウ「オービット射出!」
 
球状の装置から三つの小型兵器が発射、目標に集中砲火を浴びせにかかる。その隣でゼロがMTをまとめて両断していた。
 
ユリカ「援護行くよ!ちゃんとよけてね!」
 
フレッド「五つ目!まだまだやれる!…ガイさん!?MOONLIGHTは!?」
 
傍らのMTが青い光に貫かれ、四散した。
 
ガイ「アレはイビキに貸してやった!とりあえず弾だけ補給してきたから一応やれるぞ!」
 
カナン「ショットガンの弾が切れたか。ブレード一本でどこまでやれるか知らんが、やるだけやってやる!!」
 
OBを起動、敵中に飛び込む。進路上の敵を切り捨てつつ直進。だが重大なミスを犯していた。今になって気づき、舌打ちするが
後の祭りだ。チャージングに陥り、身動きができないACにMTがじりじりと迫る。
 
カナン「くそっ!こんなつまらない死に方とは…!」
 
死を覚悟したそのとき、ミサイルによって一角が崩れた。その後も攻撃は続き、一分とたたぬうちに包囲していたMTは全滅していた。
そのミサイルを放った張本人たちが視界に映った。
 
クレイ「大丈夫か!?」
 
カナン「ええ、なんとか。おかげで命拾いした。しかしどうしてここに?」
 
アントワネット「こちらはすでに片がつきましたので、支援に参りましたの。そしたらあなたが包囲されていたので。」
 
カナン「なるほど。しかし二名ほど足りないようだが、まさか…?」
 
クレイ「あの二人ならACと戦ってるよ。誰が戦う、って聞いたら二人仲良く志願してきたから任せてきた。」
 
レグルス「先に行っている…。」
 
私は三機を見送り、安堵と自嘲が混じった深いため息をついた。作戦開始は午前中だったのに、日没に差し掛かった今になっても
この一帯を制圧できていない。予定より大幅に遅れていることに、少なからず不安を感じていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
あとがき
やっつけ、じゃない大急ぎで書きました。予定では
あと2,3回でひとまず完結です。
 
 
 
 
設定資料
ユリカ
本名:ユリカ=サカガミ
性別:女
年齢:16
血液型:B型
備考
キョウの実の妹。彼が行方不明になってから、ウェインと二人で帰りを待っていたがウェインが倒れたのをきっかけに
レイヴンになることを決意、未だ合格者のいないアーカイブでの試験に見事合格した。
典型的な幼児体型で、滅多に歳相応に扱われることがないことをかなり気にしている。が、これこそが参加間もない
アリーナでの人気赤丸急上昇の所以であることに、本人は気づいていない。そして甘党。
 
フェアリーテイル
HEAD:CHD−07−VEN
CORE:CCH−OV−IKS
ARMS:CAH−23−XB1
LEGS:CLC−D3TA
BOOSTER:NONE
FCS:PLS−SRA02
GENERATOR:CGP−ROZ
RADIATOR:RMR−SA77
INSIDE:MWI−DD/20
EXTESION:KEBT−TB−UN5
BACKUNIT R:CWC−GNL−15
BACKUNIT L:CWC−CNG−300
ARMUNIT R:MWG−KARASAWA
ARMUNIT L:KSS−S/707A
塗装
 BASE AID OPTIONAL DETAIL JOINT
R200  200 200     50     40
G200  89  100     120    40
B200  130 120     170    40
備考
徹底的に火力と装甲を重視し、機動力を完全に捨て去ったAC。そのため、高機動のMTやACには遅れをとることが多々ある。
しかし、その火力は絶大で、最後の最後で大逆転を決めることもある。ミッションではもっぱら僚機の支援に当たる。
 
 
フレッド
本名:フレッド=マクスウェル
性別:男
年齢:15
血液型:A型
備考
ユリカとともにアーカイブでの試験に合格した新人。おとなしい性格で、よくユリカに振り回されているが、正義感は強い。
ウェインには「小僧」として見下されていたが、いつの間にか実力を認めさせた模様。ユリカの隠れファンから嫉妬されているが
当の本人はまるで気づいていない。余談だが、NEXTシリーズの主人公候補No.1(ぉ
 
フレースヴェルグ
HEAD:MHD−RE/005
CORE:MCL−SS/RAY
ARMS:MAL−RE/REX
LEGS:CLR−SCUD
BOOSTER:NONE
FCS:VREX−WS−01
GENERATOR:CGP−ROZ
RADIATOR:RMR−SA44
INSIDE:MWI−DD/10
EXTENSION:MEBT−OX/MB
BACKUNIT R:NONE
BACKUNIT L:CRU−A10
ARMUNIT R:NWG−MG/800
ARMUNIT L:MLB−MOONLIGHT
塗装
 BASE AID OPTIONAL DETAIL JOINT
R5    140 60      70     90
G5    140 60      90     80
B75   200 100     200    60
備考
「フェアリーテイル」とは対照的に、機動力を重視したAC。フロート特有の動きで撹乱し、ブレードで痛烈な一撃を浴びせる
戦法を得意とする。フロートACの宿命として、空中戦に弱く打たれ弱いという弱点があるものの、パイロットの実力しだいでは
十分に上位ランカーにも通用する。
作者:キリュウさん