サイドストーリー

雨の中のサンタクロース 〜Santa Claus in 「Rain」〜
年に一度の、クリスマス。
子供に夢を、大人に希望を。
…カップルに、天罰を。

「まっかなおっはっなぁの♪トナカイさぁんぅはぁ♪
 いっつぅもみぃんなぁの♪わぁらぁいぃもぅの♪」

一人の「異端者」によって地上が開け、この聖夜の今もなお、開拓は進む。
「自然を壊される」と悲しむ人々、「新しい居場所」と喜ぶ人々。

どんなに時代は変わっても、人間達は娯楽を求める。
それゆえ、この文化……きっと、宇宙の遥か彼方に住んでいる「誰か」が見たら、
ちっぽけな星の、ちっぽけな一角で、意味のない、誰かが決めた「期間」に、
何よりも大きく喜んでいるちっぽけな私達を、鼻で笑い飛ばすだろう。
(その「誰か」が人間で言う鼻の部分を、持っているかどうかはわからないが)

第2居住区、マンション「ゲイッツ=ビル」5階の505−ISという部屋から聞こえてくる。
声量のある、「声の出しなれた」美しい女性の歌声。
「アルト」にあたるのだろう。高くもなく、決して低いわけでもない、その声は。
「カッコイイ女性の声」そんなふうに表せるだろう。
(そんな声でそんな歌か、というのはナシで。)

そこに住む、一人の女性。
ツンツンに尖らした、真っ赤な髪の毛と、鋭い目つき。
パッと見たら、少し厳しい感じのする美人だ。

「でもっそのっとっしぃの♪クゥリスゥマスゥのぉひ♪
 サンタのおぅじぃさんは♪いぃいぃまぁしぃた♪」

聞こえてくる、その歌声。
部屋には、4人が座れるほどのサイズの少し小さめなダイニングテーブルに、
真っ白なケーキが一つ。
4つのイチゴの赤は、4つのろうそくで照らされて、それぞれ妖艶にテカテカと輝いている。
女性は、座っていないようだ。立ちながら、立ち歩きながら、その部屋をぐるぐると、
リズミカルに体を横に揺らして、いわば「ノリノリ」で歌っている。
(……一人で。)

「くぅらぁいぃ〜よみぃちぃはぁ♪ピッカッピッカぁの〜♪
 おぉまぁえぇのぉはーなーがぁ♪やっくっにったっつぅわけねえだろどちくしょうがぁ!!
 いつもないてたとなかいさんは♪さんたにはなをちぎられて!!
 それはそれは勢い良く万力の力をこめて!!ああやってやったさ!!やってやったさ!!
 出たさ!!出たさ!!それはそれは出たさ!!赤いの!!
 もう、サンタ笑顔!サンタ笑顔!!子供に見せたことない笑顔!!!!!
 イェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ―――――――――ビバクリスマス!!」

ドキュンドキュンドキュンドキュンドキュン!!
バキ、バキバキバキバキ!!
ガシャアガシャアガシャアガシャアン!!
ドォン!ズドォン!!ズドドドドドドドドドドド!!!!!!


「そしてあたし、こよいもひとりぃ〜♪よめにもろてぇ〜♪
 そうよ、あたしはぁ〜♪仕事ないのよ〜♪
 レイヴンいなぁ〜い♪私はレイ〜ン♪レイ〜ン=マァイヤァァァァァズ!!!!」

ケーキチョップ!!


聖夜。今宵、一つの部屋が突如、惨劇となった。


「何!もう何!?ねぇ!そんなに私が憎いの!?カップル!!
 復讐!?何?リベンジ!?そんなことでリベンジャーになったつもり!!?
 え?なに!?ビバ・リベンジャー!!?それは認めるけど…。」


『今宵は、クリスマス。
 きっと何かが、起きる日だよ。
 信じていれば、サンタは来るよ。
 信じている子に、ワシは行くよ。
 さてさて、今夜はどこにゆこうか…。』


「脱げぇぇぇ―――――――――――――――――――――――――!!」

ドタッ!!バキバキッ!
ドッ、ドン!………グシャア……!!

「曲者!?」

その表現は古いだろ…。

「うっせぇ!解説!!お前は効果音担当だ!!」

いつ決まったんだそんなの!!俺、効果音(↑)口で言ってんのかよ!?

「えっ、違うの?」

てか、俺としゃべるな!!ああもう、話進まねえよ!!
ホラホラ、お前の部屋の窓になんか見えたよ!!赤いの落ちたよ!?

「血だるまか!!」

決め付けんな!!

「ん〜、どれどれ…?……おおう!!血で赤く染まったか!あの服は!!真っ赤だ!!」


『ごっ…ごぶぅ……。
 信じる…とこ、ろに……ワシは…逝く…よ……。』


「逝くなァァァァァ――――――――――――――――――!!!」

すぐさま部屋を出て、階段をマッハ2で駆け降りる赤髪の美女。
さっきの「脱げ」発言で、全裸になっていることは覚えていない。
それはおいといて……その「赤いの」を持ち上げて、降りてきた階段を駆け上る。
そして自分の部屋に運び、すぐさまベッドルームへ。
安静にさせることにした。


『…子供達よ……すまん…
 おじさん…今夜が…ヤマだ………。
 ああ、寒いよ……さむ…あれ?
 あったかい…じゃん…ここは……ここは…?』

「起きたかい?」

『ああ、あんたは、…あんたか?私を助け…ブッ!!』

おじいちゃん鼻血。
ヒゲが赤く染まる。

『服着ろよ!!』

「ん?あらやだ…。このエロレッドが!!」

『えっええっ!?そ…えぶっ!!!』

パンチ。
もう一度、三途の川へ。


―――――2時間後。


『う、ううう……。』

「お、気づいたか。」

『いやあ、助けてくれたことをチャラにしてありがとうよ…姉さん、なまえっええっええええッ!?』

確かに、服は着てる。
でも、女性が本来隠さなきゃいけない所が全部出てる!!

『本質的に着てないよ、服!!』

「大丈夫、見えてなきゃいいのよ。」

『見えてるんだよ!!』

「エロいなあ、おじいちゃん。」

『お前のせいだよ!!』

「レイン=マイヤーズよ。間違えんな!!」

『何をだよ!ああもういいよ!!それで!』

「本当は見たいんだろ?」

『ハイ。』

「エロレッドが!!」

三途逝き。
…つーかもう、話し進まねぇよ……。
どーにかしてくれ。ああもう、あいつ出そう。あいつ。
よけいぐちゃぐちゃになりそうだけど、もういいよ、この際。
クリスマスだからいいよ。

ピンポーン♪

「正解か?」

インターホンだよ!早く出ろよ!!

ガチャッ…。

「ハイハイ♪…おお、レイスフォード!!」

「おっす!いやあ、あまりにも暇すぎてきちまった!」

「そうね、随分とほほに赤い手形がいっぱいあるわね、
 さぞかし暇だったんでしょう?」

「ハハハハハ!………ハァ…。」

「18個、か…。てか、何であなた私の家知ってんの…?」


―――――ベッドルーム。


「おい、なんか血まみれのおっさんが横たわってるぞ?」

「ええ、なんか、窓から落ちたって言うか…窓の上から地面に落ちたのよ。」

「バッカで―――――――――――――――――!!!」

『バカじゃ…ねぇ……。』

「…起きたぞ?」

「ほらね?そのせいで服も血まみれでしょ?」

『血じゃねぇ…。』

「!!こっ…この人、まさか…!!」

「…!!そ、そういえば…あなたは……クリスマスの代名詞!」

『ほっほっほ…やっとわかったかの?』

「メル=ギブソン!!」

「それだ!!」

『うわぁ……。』

「いやあ、まさか本当にいたとはねえ、メルさん。」

「ホントよねぇ、ね?メルさん。」

『ちげぇ…。ああもう、帰りてぇよ。早く子供にプレゼント渡して、帰りてぇよ。』

「…これのこと?」

『なに食ってんの!?』

「やっちまった……。」

「うまいよ。むしろうまかったよ。高島屋のクッキー。」

「…高島屋?」

食われた。
しかもバレた。
手ぇ抜いてるとこバレた。

「飲もうぜ!こうなったら飲もうぜ、メル!!今夜はChiristmas!!精一杯盛り上がろう!」

「<ちりすとます>おーいぇー!!」

「ローマ字読みすんな!!なんかチリになっちゃったみたいだろ!!」

『なっちゃったよ。』

「暗いよ!!盛り上がろうぜ!メル!!Merry!!Merry!!浮かれようぜ!!」

「メル、子供用シャンパンならあるけど?」

『もともと俺のだし…。』

「<シャンメリー>か……ますます庶民的だな、お前は。
 でもでも、心配御無用!!ノーマンタイだぜ!じゃーん!!<天狗舞>と<鬼ごろし>!!」

「ダブルで日本酒か!!そりゃいいや!!」


―――――1時間後

…仕事はどうよ?

ああ、一年に一度だけだよ。それまでずっとトナカイ相手に喋ってるよ。

うわ、寂しいな、それ。

ねえねえ、鼻とっちゃった?鼻とっちゃった?出た?出た?

…い、一回だけ…。

マジかよ!?

出た!?

出た。

それで、相手が子供ってのはどーなのよ。正直、退屈じゃない?

退屈っつーか、物足りない。ショージキ、キレイなねーちゃんとか欲しい。

欲しいってなんだよ…。

あと、最近どんどんみんな信じなくなってきてるし。しかもバカにされてるじゃん?

ああ、わかるわかる。夢見てるヤツがバカっていう、大人ぶってるガキとかいるよな。

あたしあたし。

頼む、お前会話ぶち壊すな。

……ああ、やだなあ。

何がだよ?

そうやって、夢の見れない子供達に夢を見せてあげるのが、ワシの仕事なのに。
どうやっても、信じてもらえないよ。
「本物だ」って言ったって、本物が来たって、かたくなに拒否してしまうんだ。
チャンスは1年に一回しかないし、失敗したらその子はそのまま1年を過ごすのさ。
その1年で、その子はますます夢を見れなくなっちゃうのさ。
ワシの力不足だろうか?情けないんだ。
でも、やっぱり見せてあげたいよ。すべての子供達に、夢を。
大人たちには、希望に満ち溢れていた子供時代を。
見せてあげたいんだよ。

……メル…。

簡単じゃない。

???

クスリを…

頼む、お前それ以上言うな。

…もう、11時を過ぎたか……。ワシは、帰らねばならんよ…。
日にちが変われば、ワシは必要とされなくなる…。

…へっ……。人が勝手に決めた境目でしか生きれないのか……なんだかやるせないな。

どうも、石井ちゃんです。

頼む、お前帰れ。

…何がどうであれ、必要とされる時まで、ワシは…サンタクロースは「存在」しないのだよ。
フフフ……本音で話したのは、あんたらが始めてかも知れんな…。

サンタクロース?

誰よ?それ。

じゃ(涙)。


…メルは窓を開けて、そこから飛んだ。
レイスとレインは「とうとうアレか」と思い、全てを悟り、見守った。
…案の定、落ちた。
来たときよりも血まみれになったメルは、よろよろと立ち上がり、
今にも死にそうな顔で必死に笑顔を作り、レインたちを見た。
―――そして、


『そして刻は、12時を迎えた。』


メルの体を、金色の粒が包み始めた。
…いや、違う。
メルの体が、金色の粒になっていったのだ。
粒はどんどん増えていき、空へと上ってゆく。
メルはどんどんその「存在」が曖昧になっていき、

そして、消えた。


『今宵は、クリスマス。
 きっと何かが、起きる日だよ。
 信じていれば、サンタは来るよ。
 信じている子に、ワシは行くよ。
 さてさて、今夜はどこにゆこうか…。』


信じていれば、どこでもゆけるよ。
君も、私も、誰でもね。


そして女性は、涙する。

ごめんね、メル。

君は、メル=ギブソンじゃなかったよ。


ブルース=ウィリスだったよ、と。










※違う。
作者:アーヴァニックさん