格納庫の傭兵 Y〜錆び付いた心の檻〜
「二人とも、よく眠れたか?」
どちらかと言うと眠れたな。初めての実践・・しかも1対1か。
「うおおー、人が多い。」
たしかに思った以上、人が多いな。
「アリーナは出場する者、観戦する者、賭けをする者、様々な目的でくる、警備員やイベントスタッフもいるしな。」
ひょっこり姿を現したのはB・C・Gのゲドさんだった。
「おお、きてくれたか。」
「ああ、二人の特訓の成果を見たくてな。それにしても二人の腕の上達には驚いたな。」
ゲドさんも褒め言葉もプレッシャーに変わってしまう・・。
皆が揃ったところでアリーナの受付へ向かった。
「あ、出場登録したアステカだけど本人がきたんで確認の方をお願いします。」
受付のスタッフが登録証と俺とトーメントを見比べている。
「はい、間違いないですね。では奥の控え室で待機しててください。」
「ここからは出場者しか入れないから俺達は観戦席で二人の成果を見ることにするよ。」
最後までプレッシャーの一言とは・・・きついもんだ。
「遂にここまできたなぁー。緊張する・・。模擬戦ではロストに全敗だし、勝てるのかな・・・。」
そんなこと言ってるがその日のことを何も覚えてない俺の方が緊張する。あんな機体だって考えたつもりはないのに・・・。
そんなことを思いながら控え室の扉を開けた。
控え室には40人くらいが待機をしていた。控え室というから個室かと思っていたら・・・ここにいる全員はレイヴンなのか。
俺と同い年くらいのレイヴン・・。
女性のレイヴン・・。
経験豊かそうなベテランレイヴン・・。
俺達と同じで今日が初めてのレイヴンもいるかもしれない。
「この中に俺と戦うやつがいるのか・・・。」
しばらく待つとアナウンスが流れてきた。
「これより、ファーストアリーナ無差別ランク級の試合説明をさせていただきます。
制限時間は20分、それまでに相手の機体を戦闘不能にさせたほうが勝利。なおコクピットへの攻撃で
相手を死に至らしめた場合は即刻失格とさせていただきます。ではレイヴン達の戦いを楽しんでください!!!」
開催と同時に観戦席からはおおきな拍手と歓声がスピーカーから伝わってくる。
自分の試合はまだ遠いのでとりあえず何をすれば勝てるか考えてみた。
あの時に見たACはたしか両腕のブレードに肩にたしかオービットキャノンがあったような・・。
そんなことを考えていたら二人の男女が俺達に近づいてきた。
「お前、トーメントってやつだな。」
男の方がなれなれしく話しかけてきた。
「ああ、そうだけど。お前こそ誰だよ。」
トーメントも食って掛かる。
「俺はブラッド。お前、見馴れないが今日が初めてか?頼むからあっさり負けることはよしてくれよ。」
ブラッドの言葉に思わずトーメントは殴りかかろうとしたので俺はすかさず止めに入った。
「なんで止めるんだロスト!こいつ好き勝手なこと言いやがって!!」
「おいおいお前だってレイヴンだろ?喧嘩屋じゃあるまいし・・。」
ブラッドの口は減らないままだ。
「ブラッド!!」
そんな時に一緒にいた女がブラッドに言い放った。
「!・・・わかったよリリス。」
「・・・私がリリスだ。正々堂々な試合を・・よろしく。」
もう一人はなんと俺と戦うリリスという女だった・・・、ブラッドとは対称的な性格。
「あ、こちらこそ・・。」
「・・・最後に言っておくが私を女だと思って手加減するつもりならこっちは殺すつもりで戦う・・。」
そんな言葉を残してリリスとブラッドは控え室から出ていった。
「くそ!!なんなんだあいつ!この試合必ず勝つ!」
「トーメント、<怒りは禁物だ>ってアステカさんが言ってただろう。こういう時にこそ冷静でいなければ・・。」
そんなことを言ってる俺のほうが冷静じゃなかった。
「えー次はブラッド選手、トーメント選手。準備の方をお願いしますー!!」
いよいよ始まる寸前まできた。
「トーメント、訓練のことを思い出せば勝てる。」
「ああ!勝ちにいくぜ!!」
トーメントらしい言葉だ・・。
「さあ次の対戦は!!!!」
司会者の声が鳴り響く。
「ここ最近のフリー戦での成績はまずまずのブラッドの登場だぁぁーーー!!!」
ブラッドのACブラインドが登場と同時に歓声が沸く。
「一方の対戦相手は!!アリーナ進出が初めてだというトーメント!!!
ここファーストアリーナに集まってる観客の雰囲気に呑まれてしまうのか!?」
ブラッドの時とは打って変わってブーイングが巻き起こる。
「かぁー!!何なんだ。こうなりゃ何がなんでも勝つしかない!!」
「ではこれからACブラインドとACエンカレイジの試合を開始します・・・!」
3・・・・2・・・・1・・・・・GO!!!!
開始のブザーと共に観客の声が響き渡る。
まずはお互いに牽制しあって動き回っていた。
「射撃訓練の成果を見せてやる!!」
最初に動いたのはトーメントのACエンカレイジだった、後退しながらスナイパーライフルを撃つ。
「けっ!動きながらスナイパーを使うなんて甘いな!!」
ブラッドのACブラインドは肩のオービットキャノンを捨てすかさず避けていった。
ブラインドが避けたあと止まろうとしたその瞬間だった。
エンカレイジは見計らって肩の携行グレネードを撃ち込んだ。
「何!?」
ブラインドは間一髪のところでグレネードを避けた。おそらく今の一撃を喰らってたらトーメントの勝ちはほぼ見えていただろう。
トーメントの意外性に観客のブーイングは歓声に変わっていった。
「ちっ・・!中々やりそうだな!」
油断していたブラインドは肩の二発同時発射のデュアルミサイルをエンカレイジに放った。
「エクステンション!!」
トーメントはエクステンション作動スイッチを入れた。エクステンションからは迎撃ミサイルが迎え撃った。
迎撃してる間にブラインドはエンカレイジとの距離を詰めていた。
ミサイルの次は左腕のショットガンを撃った。
エンカレイジは避けようとするが近距離での攻撃により何発か被弾してしまった。
「これくらいならまだまだいける!!」
エンカレイジもブーストを使いながら左腕のマシンガンで攻撃をする。
しっかりとブラインドに食いついた攻撃にたまらずブラインドはオーバードブーストで距離をとった。
すかさずエンカレイジはスナイパーライフルで追い込みをかける。
「このままあいつのペースに乗ってたま・・・!?」
いきなりブラインドの機体がガクンと揺れた。画面を見ると右腕損傷率が80%を超えていた。
トーメントはブラインドの右腕関節部分を集中して狙っていた。
その内の一発が関節の奥に入り込みブラインドの右腕は使い物にならなくなった。
ブラッドがとまどっていてもエンカレイジの狙撃は止まらない。
ブラインドもデュアルミサイルでなんとかしようとするがあっさりと迎撃されてしまっていた。
スナイパーライフルの弾はブラインドの装甲を少しづつ削っていく。
「近づいてあいつの動きを止めてやる!!!」
ブラインドはオーバードブーストで一気に間合いを詰める。
「この距離からのショットガンは効くぜ!!」
ショットガンを撃とうとしたその時であった。
エンカレイジはわざと距離を縮ませてロケット弾を構えていた。
小型ロケット弾だがこの距離なら充分な威力を発揮するだろう・・、ブラッドもそれに気づくがもう遅かった。
ロケット弾はACの重要な頭を捉えていた。
直撃と同時にブラインドの頭部が吹っ飛び、観客の歓声がまた沸く。
「・・・ぐはぁぁ!・・こうなりゃ相討ちに・・。」
しかしレーダーを失ったブラインドはもうただの鉄クズと化していた。
もう勝負は決まっていた・・。
「勝者!!ACエンカレイジ!!!!!」
勝敗が下されると同時に観客は一斉に立ち上がり拍手と歓声を上げていた。
「なんとーー!!トーメントが乗ったエンカレイジがブラッドのブラインドを撃破し見事な勝利を収めた!!!!」
・・・トーメントの見事な勝利がまた俺のプレッシャーに変わっていく・・。
「やったぞーー!!ロスト!!初勝利だ!!」
数分後トーメントが控え室に戻ってきた。同時に敗北したブラッドも戻ってきた。
「おい!!あれで勝ったと思うな!俺は半分しか力を出していない!!」
ブラッドの言葉は今のトーメントには言い訳にしか聞こえなかった。これこそまさに負け犬の遠吠えだ。
そんなことを言ったらブラッドはさっさと立ち去ってしまった。
「思った以上に訓練の成果が出たようだな、アステカ。」
ゲドとアステカはトーメントの結果に喜んでいた。
「ああ、トーメントはよくACの揺れに耐えて、頑張ったなー。」
すると二人に走って近づいてくる者がいた。
「あああ・・・すいません、遅れました・・。」
「・・・コールに同じく・・。」
コールとブラスであった。どうやら遅刻をしてしまったらしい・・。
「ブラスはともかく・・コールまで遅れてくるとは・・。」
ゲドも呆れていた。
「ちょ・・ちょっと待ってくださいよゲドさん!<ブラスはともかく>ってまるで俺がいつも遅刻してるみたいじゃないですか〜・・。」
ブラスは必死に否定するがB・C・Gの中で最も時間にルーズなのはブラスである・・。
「もうトーメントの試合は終わったぞ、見事な勝利だった。」
試合の結果にコールとブラスは喜んでいた。
「じゃあ今日は祝杯ですね〜!!」
ブラスは相変わらず調子のいいことを言う。
「まだロストマンの試合が残ってる!ちゃんと見とけ!!」
「ロストマン選手!リリス選手!準備をしてください!!」
いよいよか・・・。
「ロスト!!緊張するな!お前なら勝てる!」
こいつが俺のAC・・・。
コクピットで俺は待機していた。
・・・・。
・・・・・・!!誰かいる!!!
思わず俺は後ろを振り向くが誰もいなかった・・。
「気のせいだったか・・うっ・・。」
・・・・・・・・何だ・・。!?・・あ・・頭が・・・まさか・・これは・・・・・。
・・・・くっ・・・・・・なぜだ・・・・。
・・・なぜ・・・また・・・。
作者:RYOSUKEさん
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