Underground Party外伝 Armored Core 2
−The Love Song of Mars−2
「――やっぱり、地球のが暖かいね」
数年振りに地球の大地に降り立ったルクスが呟く。
地球化されているとはいえ、火星の平均気温は、地球のそれと比べれば少々低い。
太陽からの距離がそうさせているわけだが、何よりも違うのは、空気の薫りだろう。
乾いた火星の風に比べ、地球の空気は瑞々しく、何処となく潤っている。
簡単に言ってしまえば、湿度が高いというだけの話なのだが。
「そうですね、何となく太陽も大きく見える気がします」
言いつつ、すーっと深呼吸して伸びをするネル。
すると、間接がパキパキッと鳴る音が響き、恥ずかしそうに頬を染める。
まあ、2ヶ月もの間、狭い艦内で生活していたのだから、仕方ないと言えば仕方無いのだが。
もっとも、惑星間航行をするような艦には、きちんと重力発生装置はあるし、身体を鈍らせない為のジムも普通は付いている。
ルクス達を地球に運んだ艦は、特殊部隊に包囲されたハンマーヘッドからルクスを救出した、あの"イーストオブエデン"の姉妹艦である。
艦名は"カナン"だったか。"シャングリア"級の3番艦で、"イーストオブエデン"が2番艦だった筈だ。
・・・この調子だと、その内"ゴクラクジョウド"とか出るのだろうか、等という他愛もない事が頭を過ぎる。
「セレモニーに出席するのは8日後になっています。
それとその2日後――地球を出発する3日前ですね、地球のレイヴンとのエキシビジョンマッチが予定されています。
それまでは自由にして良い、とのことですが・・・如何します?」
・・・それはまあ。
折角地球に来てまで、仕事という事もないだろう。
自由にして良いと云うのだから、久々の地球を存分に楽しむとしよう。
故郷に帰るという選択肢は、無い。
戻ったとしても、そこに待つ人など誰も居ないのだから。
「そうだなぁ・・・折角だし、色々と観光して回るかな。何処か行きたい所とかある?」
「そうですね――森が見たい・・・です」
「森か、確かに火星にゃ殆ど無いしね。よし、シザーズフォレスト観光といこう」
・・・珍しくも、ネルが自分の希望を口にしてくれた。
いつもなら、お任せします、なんて言うのだが。
温暖な地球に来て、開放的になっているのだろうか。
心なしか、いつもより明るく見える。
いや、別に普段は暗いとかそういう事は決して無いのだが・・・。
普段は大分落ち着いているわけで、実年齢より大分上に思えるのだ。
・・・そう、今は歳相応に見えると言うべきか。
実際、今年で22歳と聞かされた時は正直耳を疑ったものだ。
雰囲気的に、もう2つ3つ上ではないかと思っていたのだ。
本人に言ったら、暫くジト目で睨まれたが。
あれは、正直辛いものがあった。
・・・まあ、それはともかく。
これは所謂アレである。
・・・そう、2人っきりで旅行。
男2人でなどと云う、空しく哀しくむさ苦しく、汗の匂いに混じって、そこはかとなく薔薇の香りが漂っちゃうような旅行ではない。
相手は少なくとも自分に好意を抱いているだろう女性、それも才色兼備のネル=オールターだ。
緑溢れるシザーズフォレストを2人で旅行。
ネルは清楚に白系のワンピースに帽子とかそんな感じだろう。
木漏れ日の射し込む森の中の小道を、ゆっくりと2人で歩くわけだ。
「緑が綺麗ですね」
ネルが軽く上を向いて、眩しそうに目を細めながら呟く。
俺はそれに対して、
「うん、だけど君の方が綺麗だよ」
とか、言ってみたりするわけだ。
そうすると、そういう言葉に慣れていないだろうネルは、頬を染めながら、軽くパニくってくれるだろう。
そして暫く歩いている内に、すっと会話が途切れるけれど、そこで俺はさり気無くネルの手を取る。
ネルはちょっと驚いたような顔をするが、照れながらも微笑んでその手を握り返してくれたりするわけか。
会話は無いけれど、目と目を合わせて笑い合ったりなんだったり。
夕暮れが近付けば、森は当然涼しくなる。
薄着のネルが、恐る恐る腕を組んできたりすれば、もう完璧。
準備万端な俺は、そこで何気無く口を開く。
「あっちの湖畔に貸別荘が見えるけど・・・寒くなってきたし、今日はあそこで泊まる?」
勿論、下調べをして予約済みなわけだが、それを表に出してはいけない。
あくまでも偶然発見したように見せかけるのだ。
ネルは少々歩き疲れていたこともあって、了承の返事をする。
静かな湖畔に佇む貸別荘に、互いに好意を持った男と女が2人で泊まる。
これで何か起きないワケが無い。
後はレッツゴーするだけである。
もう、これぞ完璧。パーフェクトだ。
「・・・あの・・・先程から一体何をブツブツ・・・?」
「え、いや・・・何でもないよ、うん・・・」
Welcome to the Special Arena.
This is the next battle card.
The winner of this battle is presented with "KARASAWA-Mk2" as a prize.
Raven Name------Lux-------------------------------Salz Hock
Affiliation-----Mars Arena------------------------Earth Arena
Arena Rank------6th place-------------------------12th place
AC Name---------Laevatain-------------------------Auvla
Max AP----------7947 Points-----------------------8837 Points
Head------------ZHD-MO/EGRET----------------------EHD-NIGHTEYE
Core------------ZCL-XA/2--------------------------ZCX-F/ROOK
Arms------------EAN-02-BG-------------------------EAN-02-BG
Legs------------ELN-02A---------------------------ZLN-XA1/FA
Booster---------ZBT-H4/T--------------------------ZBT-GEX/3000
FCS-------------LODD-BLAZER-----------------------DOX-ALM
Generator-------HOY-B1000-------------------------HOY-B999
Radiator--------RBG-CM6---------------------------RBG-CM6
Extension-------BEX-BRM-04------------------------None
Inside----------INW-DEC-00A-----------------------INW-DM-MV
Back Weapon R---None------------------------------None
Back Weapon L---ZWM-M241IMU-----------------------EWR-M60
Arm Weapon R----EWG-GSH8--------------------------ZWG-MG/ENE
Arm Weapon L----LS-MOONLIGHT----------------------ELS-3443
Optional Parts
SP-S/SCR,SP-ENE-SCR,SP-BCNDR----------------------SP-S/SCR,SP-ENE-SCR,SP-BCNDR
SP-BSI-LE,SP-CIR-K,SP-BMALAD,SP-VIECH-------------SP-BE++,SP-ENE-ACC,SP-E/SAVER
Then, please enjoy yourself !!
Leady………GO !!
「――見せて貰おうか、火星のレイヴンの実力を!」
相手のレイヴンの名は、"ザルトホック"。
彼の駆るACは、中量2脚の"オービュラ"。
見たところ、3連装ロケットとENマシンガン、それにブレードを装備している。
内装はどうだか知らないが、中量級としては高い機動性を確保しながらも、全体的に水準以上の防御力を保っている良い機体だ。
遠距離用の兵装が無いようだが、あのアセンブルであれば、接近するのに困るという事も無いだろう。
3連装ロケットで相手の動きを制限しつつ、ENマシンガンで一気に決めるという目的の機体構成か。
それに対して、こちらの近接戦闘用装備はショットガンにMoonlight。
中途半端な距離では、オプションで威力・連射力・EN消費の全てが強化されているMG/ENE相手では押されてしまうだろう。
3連装ロケットも、直撃すれば威力は非常に高く、そちらも無視できない。
ブレードレンジに持ち込めれば良いが、そう簡単には近付かせてくれないだろう。
だが、遠距離兵装の無いオービュラに対し、こちらはマルチミサイルと連動ミサイルがある。
地球では高ランクだというザルトホックに対して、直撃など期待はしていない。
だが、オービュラはデコイも迎撃ミサイルも装備していない。
回避する際に、どうしても隙が生まれるだろう。
そこを突けば、勝てない相手ではない。
「まずは小手調べ・・・と」
連動ミサイルをOFFにしたまま、遠距離でマルチミサイルを放つ。
オービュラに一定の距離まで近付いたそれは、まるで触手が獲物を捕らえようとするかのように、4つに分かれて柿色のACを襲う。
だが、オービュラは分裂したミサイルの下を潜るようにして、見事にそれを回避したではないか。
「あまり舐めないで貰おうか、"青い流星"!」
「確かに・・・見事な回避機動だね」
確かにトップランカー候補というだけの事はあるが――それはマニュアル通りの動きでしかない。
マルチミサイルは分裂したところを潜れば回避出来る、という常識に則った機動だ。
そして、それは次にどのような行動を取るかが、容易に予測出来るという事でもある。
それならば――負ける気はしない。
ドン!と3連装ロケットが吐き出されるが、回避機動を取っていたこちらには当たらず、後方の壁に着弾する。
接近しながら立て続けに放たれるそれは、確実にこちらをある一点へと追い詰めていく。
それは、アリーナの機体が出入りする為のゲートの角。
平坦なアリーナの壁面では、そこだけが障害物と成り得る場所だ。
「喰らいやがれえっ!!」
パシュシュシュシュシュシュ!
甲高い発射音を上げて、EN弾の群れが吐き出される。
けれど、それは予想の通りだ。
ブースターを吹かし空中に上がれば、それは紙一重の差で当たらな――
「――っ!?」
OPで強化されたMG/ENの強力な連射が、立て続けに脚部を抉っていく。
その光弾の列は、このままでは確実にコアまで達してしまう。
「チッ!!」
咄嗟に起動したOBで、襲ってくる光の筋から逃れる。
着地を狙っての攻撃を避ける為、余剰推力で飛行しつつ旋回し、連動ミサイル込みのマルチミサイルを発射する。
連動ミサイルは低い弾道を描く為、分裂したミサイルの下を潜る回避は不可能。
だが、ザルトホックはENマシンガンを一斉射し、連動ミサイルを撃ち落したではないか。
マニュアル射撃で高速飛行するミサイルを撃墜した腕は中々のものだが――
「くくくっ!どうした、あれで避けたつもりだったのか!」
――そう、解せないのはそこだ。
MG/ENの弾速であの距離であれば、あのタイミングで命中はしない筈なのだが――
お陰で右脚部が中破している。機動には支障は無いが、管制局が表示しているAPは随分と削られてしまっている。
一体、どういう事なのか・・・いや、今そんな事を考えても仕方が無い。
削られたのなら、削り返せば良い。
――だが。
「ははっ!遅い遅い!」
全弾直撃の距離で撃ったはずの散弾はその殆どが壁を抉り、必中のタイミングで放たれたミサイルは悉く回避される。
逆に、余裕を持って回避した筈のENマシンガンが容赦無く装甲を焼く。
「随分と火星の空はヌルいようだな!!」
火星の空――まさか。
「・・・重力か・・・!」
そう――此処は地球だ。
火星の重力は、地球のそれと比べれば、僅か38%でしかない。
火星で戦っているつもりで動いていれば、3倍近い重力によって、行動が遅れるのは自明の理。
ああ――なんて、愚か。
「ようやく気付いたか!だが、もう遅い!」
こちらの残APは1000程度であり、右腕部の稼動に僅かに障害が発生し、ショットガンの狙いが甘くなっている。
更には脚部の補助ブースターは半壊し、機動力も減少している。
それとは対象的に、オービュラのAPは未だ6000を切っていない。
――だが、まあ。
OBで突っ込んでくるオービュラに対して、マルチミサイルをロックする。
ロックオン警報によって、それはザルトホックにも判っている筈だ。
「ふん、この近距離でマルチミサイルなど当たるか!!これで終わらせて貰う!!」
ザルトホックが勝ち誇って言い放った通り。
確かに、弾道が大きく上に弧を描くマルチミサイルは、近距離では命中しないが――
ドゴォォォ!!
「――何ィ!?」
マルチミサイルと共に発射された4発の連動ミサイルが、ZWM-M24/1MIの如くの弾道でオービュラを襲う。
そう、何もマルチミサイル自体を当てる必要は無いのだ。
「ぐぁ・・・!」
至近距離で4発ものミサイルの直撃を受けたオービュラが、爆風の衝撃で硬直する。
爆炎に紛れ、一挙にオービュラの背後へと回る。
ザルトホックから見れば、突然こちらが消えたように思えるだろう。
「何処だ!?」
こちらを見失って一瞬戸惑うザルトホック。
僅かに、オービュラが足を止めた。
そして、それを見逃してやるほど俺は甘くは無い。
Moonlightの蒼い光刃を袈裟に斬り下ろし、ショットガンの銃口を間接に密着させて撃ち放つ――
『――大逆転!!なんと、火星の"青い流星"が5000のAP差を一瞬で引っくり返しての大勝利だぁぁぁ!!!』
モニターには、WINという文字が大きく記されている。
オービュラは頭部を左肩ごと切り落とされ、間接に叩き込まれた散弾で右腕も稼動不能になり、ENマシンガンも使用不能。
全ての武装を喪失した上に、メインカメラや機体制御を司る頭部をも失い、戦闘続行不能と判断されたのだ。
ちょっと危なかったが、劇的な勝利と云う事でネルには勘弁してもらおう。
それに――
『では――"KARASAWA-Mk2"の贈呈です!!ルクスさん、おめでとうございます!!』
「有難うございます」
――欲しかったんだよなあ、"KARASAWA-Mk2"
全てにおいて高い性能もさることながら、この洗練されたフォルム・・・。
良いよなあ…。
『では、試射をどうぞっ!!』
言葉と共に、3基のターゲットがふよふよと放出される。
――ごくり。
唾を飲み込んで、期待に打ち震える手を押さえながら、トリガーを続けて引く。
ドォン!ドォン!ドォン!
高速で撃ち放たれた光弾が、狙い違わず立て続けにターゲットに直撃する。
命中した際にレーザー光線が空気を焼いて発生するプラズマ爆風が、その光弾の威力を物語っていた。
――イイ・・・!これは、良い物だぁッ!!
指で壺でも弾きそうな勢いで、感動の余り落涙しそうになるルクス。
実はアレスのファンだったりするわけで。
・・・この辺りは少々ミーハー気味というか何と云うか。
『ルクスさん、勝利の喜びを誰に一番伝えたいですか?』
ベターな質問だが、答えは1つである。
・・・別に難事件を解決するわけではない、念の為。
「常に支えてくれるパートナーである、ネルに」
『はい!火星の"青い流星"ルクス選手VS新進気鋭のザルトホック選手の試合のVTRでした!!』
TVから流れる音声が、薄暗い室内に響く。
憎々しげな言葉が、静かな店内に吐き捨てられた。
「クソが・・・!何が"青い流星"だ!」
彼は、酔っていた。
先日の戦闘の、5000ものAP差を、余りにも呆気なく逆転されたという事実は、彼を酒へと走らせるのに十分なものであった。
先程の番組でのコメンテーターの台詞が脳裏に蘇る。
『相手を追い込んだと思い込み、油断していたザルトホックはやはり未だルーキーの域を出ませんね』
その言葉を思い出し、屈辱の余りにテーブルに拳を打ち付ける。
血が滲みそうな程に強く握り締められた拳は、怒りに震えていた。
自らのオペレーターにすら、どうしてあそこから負けるのだろう、という眼を向けられた。
今まで順調に勝ち上がってきて、トップランカーの座も遠くないと思っていた矢先にこれだ。
あの敗北で、周囲からの評価は変わってしまった。
単なる、勢いだけで駆けてきたルーキーだという烙印を押されてしまった。
「冗談じゃねえ・・・いつか、ブッ殺してやる・・・!」
憎々しげに呟いて、コップに残った酒を一気に飲み干す。
共に飲むような仲間も元より居ない身、自分で注ごうと酒瓶を手に取る。
だが、それは既に空であった。
「畜生が・・・お?」
とん、と。ザルトホックの目の前に、酒が満たされたグラスが置かれる。
何事かと顔を上げてみれば、全く知らない顔の女が向かいの席に座っていた。
セミロングの銀髪をしたその女は、にこやかに笑ってザルトホックに話し掛けた。
「随分と荒れているようですね」
「あん・・・?」
幾ら酒に酔っていたとしても、ザルトホックとてそれなりのランクのレイヴン。
見ず知らずの人間から渡されたものを、いきなり口にするほど愚かではない。
「・・・誰だ、お前は?」
いつでも銃を抜けるように身構えながら、見知らぬ女に問い質すザルトホック。
その眼には、剣呑な光が宿っている。
何かおかしな行動を取れば、即座に銃口が女の眉間に押し当てられるだろう。
だが――
「私の正体などどうでもいい――お前に機会をやろう。"青い流星"を殺せる機会を」
抑揚の全く無い、冷ややかな声。
その声に含まれる『何か』を、ザルトホックは本能的に感じ取って、判断した。
――こいつは、明らかに俺より上の次元に居る。
「選択しろ――奴を倒して復讐を果たすか、そのまま負け犬として過ごすかを」
――そんなことは、考える必要など無い。
「ふん――いいだろう、お前の話に乗ってやる」
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注意っ!此処から年齢制限モードですよっ。
えっちぃのが駄目な方は読んじゃいけませんっ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ルクスの勝利に・・・乾杯っ」
「はは・・・かんぱーい」
乾杯、と云っても、グラスを軽く上げる程度だが。
ちなみにルクスが飲んでいるのは、ジン・トニック。
ネルはスクリュー・ドライバーだ。
両方とも、知らない人は居ないほどの非常にスタンダードなカクテルだ。
だが、ルクスには少々予想外の事態が発生している。
「・・・美味しいですよね、これ」
――ネルが、大分ヤバ気なペースで飲んでいるのだ。
スクリュー・ドライバーが気に入ったのか、カパカパとグラスを空けている。
確かに女性に好まれる味で、飲み易いカクテルではあるが・・・。
如何せん、ベースがウォッカである。
一昔前にはレディ・キラーとまで言われた程のカクテルである。
ウォッカが無味無臭の為、オレンジジュースのようにくいくいと飲める為、それで女性を酔い潰して――と云う事だ。
もっとも、今では広く知れ渡っているカクテルの為、そう上手くはいかないのだが。
「・・・おかわり」
既に表情がポーッとしているのは、気のせいではないだろう、確実に。
・・・どうしたものだろう。
ネルとは何度か一緒に飲んだ事はあるが、今まではほろ酔い程度で終えていた筈だ。
地球滞在の最後の夜だから、少々羽目を外しているのだろうか。
だとしたら、ちょっと怖い。
普段静かな人間ほど、壊れた時の壊れ具合が激しいと云うが・・・。
早くもグラスを空けたネルの様子を、横目でこっそりと窺う。
随分と顔が紅く染まり、目も大分とろんとしてきている。
まあ、そろそろ止めておくか・・・。
「・・・ネル、大丈夫か・・・?」
「・・・大丈夫です、ちょっとふわふわするだけです」
・・・それは大丈夫じゃないと思う、と言いたいのを堪えるルクス。
千鳥足のネルに肩を貸して部屋まで連れてくるのは、それなりに労力を必要としたのだ。
とはいえ、楽しそうだから良いか、などと思ってしまう辺りは、惚れた弱味と云うやつだろうか。
ベッドに腰を下ろしたネルは、何をするでもなくぽーっとしている。
・・・黙っていても何なので、何か適当な話題を振ろうか。
今日は良い天気ですね――じゃなくて。
・・・まあ、天候が無難なところか。
今のネルに下手に今日の試合の話をすると、色々と突っ込まれそうだし。
「にしても、地球はやっぱり過ごし易いね。もう暫く滞在したい気分だよ」
「そうですね、体重計の針が3倍になるのはイヤですが、暖かいのは嬉しいです」
質量は変わらないと思うのだけど、やはり気分の問題なのだろうか。
乙女心ってのは、やはり複雑なんだろう。
「いっそ、明日で帰ると言わずに、地球アリーナに出戻りとかねぇ。
地球も大分治安が悪くなってきてるみたいだし、仕事には困らなさそうだ」
火星の動乱は、戦場を求めるレイヴン達を多く招き寄せ、必然的に火星アリーナのレベルは全体的に上がることとなった。
それとは対照的に、優秀なレイヴンが火星に渡った地球アリーナのレベルは低下している。
地球の重力に再び感覚を慣らせば、一挙に地球トップランカーへと駆け登れる事だろう。
もっとも、火星の強者達と切磋琢磨した方が、自らの力も上がるので、そのようなことはしないが。
それに、ZWF-S/NIGHTを贈ってきたナインブレイカーとの対戦をまだ果たしていないのだし。
それまでは、火星を離れるつもりは毛頭ない。
「――・・・か・・・」
「ん?なになに?」
ネルが、何事かをボソッと呟くが、声が小さく聞き取れなかった。
笑いながらネルの横に座って、問い返す
けれど、返ってきた答えは。
「――・・・ルクスの・・・馬鹿・・・」
・・・はて。
これが、頬を染めて照れながら「ばか・・・」なんて言ったのであれば、大歓迎なのだが。
酒の所為で顔は紅くはあるが、これは微妙に違う気がする。
「・・・ぅ?」
「――馬鹿って言ったんです!!」
・・・パシンと良い音が響き、頬に痛みが走った。
わけが判らず、呆然としてひりひりと痛む頬を押さえる。
――ちょっと待て、何がどうなったらいきなり叩かれるのだ。
「いきなり何を――」
流石に文句を言おうとして、ネルの方に向き直って――言葉を失った。
こちらをキッと見詰めるネルの瞳には、今にも零れそうなほど、涙が溜まっていた。
「馬鹿・・・!例え冗談だとしても、そんな事を言わないで下さい!!
貴方が地球に渡ってしまったら、私はどうすればいいんですか!!
貴方が居なくなれば、また同じなんです!何人ものレイヴンが、私の前を過ぎていくだけの生活に戻ってしまう!」
――それが、彼女が今まで溜め込んできた不安か。
ミッションの度に思う、もう戻ってこないのではないかという恐れ。
それが、アルコールの力で弱くなった理性の抑圧を押しのけて、噴出したのだ。
「担当のレイヴンが死んでも、悲しみすらも感じられずに、誰も居ない家へ帰るだけの日々です。
彼らの死は、画面の向こうで起こる、取るに足らない事象の1つ。次の日には新しいレイヴンの担当に回される。
レイヴンは、ACの付属品――そのACが壊れれば、彼らも壊れる。そう、なら初めからこちらも機械的に接すればいい――」
表には出さずとも、ネルとて未だ22歳の若さ。
身近な人間の死を幾度も経験するには、まだ若すぎる年齢だ。
それでも、彼女は仕事を続けていた。
レイヴンに対して如何なる感情も抱かないという、茨の鎧で心を包んで。
そんなネルの堰を切ったような勢いの告白を、呆然として聞き続ける。
「――貴方が居なければ、それでも耐えられた。
・・・けど、私の心を開かせたのは、私を弱くしたのは貴方なんです・・・!
それなのに、貴方は・・・!折角・・・折角、信じられる人を見つけ――・・・」
だが――それ以上、聞いていられなかった。
涙を堪えて、悲愴な表情で搾り出すように喋る彼女の言葉を、それ以上聞いていたくなかった。
ぐい、とネルを引き寄せて、きつく抱き締める。
「な・・・止めて、誤魔化さないで・・・やっ!」
もがくネルの腕を押さえつけて、強引にキスをして口を塞いだ。
――そう、確かに誤魔化しだ。
それは、卑怯だ。
けれど、彼女の言葉を聞いて、無性に哀しくなったのだ。
頼れる人間も、親しい友人も居ない火星で、孤独だった彼女。
それに、何より。
自分が、愛した女性を置いていくような人間だと、そんな風に思われた事が、とても哀しかった。
・・・だからだろうか、彼女の唇を奪ったのは。
・・・そう、キスだけで、終わらせるつもりだった。
けれど、その柔らかく甘い唇は。
容易く自分の理性を崩壊させた。
「・・・んぅっ!?」
無理やりに唇を開かせ、舌を口腔内に滑り込ませる。
乱暴に口内を荒らし、そのままベッドへと押し倒した。
「やぁ・・・こんなの、嫌・・・!」
暴れるネルの上着をめくり上げ、小振りだが形の良い胸を隠している下着へと手を掛けた。
その胸を露わにせんとした時、ルクスがそれに気付いた。
――つぅ・・・と。
抵抗を止めた彼女の頬を、一雫の涙が伝っていた。
その涙を流させたものは、如何なる感情か――だが、それが彼の手を止めさせた。
「――すまない。軽蔑してくれて、構わない・・・」
身体を離し、ベッドに背を向けて項垂れる。
後悔と自己嫌悪に満ちた声で、自らの行為を謝罪する。
抵抗する女性を、力ずくで意のままにする――それは、強姦魔となんら変わりは無いではないか。
ああ、それはもっとも卑劣な行為だ。
それが、例え互いに想い合っている男女の間だとしても、合意が無ければそれは同じことだ。
如何なる言い訳も、そんな行為を正当化することは出来ない。
いや、それを正当化することは許されないと言っても良い。
そう、それは男としてもっとも最低な――獣と同じ行動だ。
そんな行動を取ったのだ、嫌われて――軽蔑されて、当然だ。
けれど、これだけは伝えておきたい。
「1つだけ・・・俺は、君を置いて何処かに行ったりはしない・・・いや・・・何を言っても、今更か・・・ごめん」
――何処か別の部屋を借りて、そこで泊まろう。
・・・俺と一緒では、彼女が眠れないだろうから。
――けれど、部屋を出ようとして、俺の足は止まった。
「――行かないで、下さい」
「・・・え?」
腰には腕が回されており、彼女の呼吸を背中に僅かに感じられる。
――わけが、分からない。
あんな事をした俺を、引き留めるというのか。
「今、何処にも行かないって言ったばかりじゃないですか――」
――ああ、なんて事。
そう、俺は確かにそう口にした。
その舌の根も乾かぬ内に、俺はそれを破ろうとしていた。
それでは、彼女を二重に裏切る事ではないか。
彼女の信頼を裏切ってあのような行為に及んだ挙句、その上に自らの言葉までも裏切ると云うのか。
・・・けれど、自分は彼女に何をした?
「――だけど、俺は・・・」
――君の傍に居る資格なんて、もう俺には無い。
けれど、そんな言葉を言い終える前に、彼女がそれを遮った。
「・・・約束、して下さい。何があっても、必ず戻ってくるって――」
俺は――なんて、愚かなのか。
自分を、こんなにも必要としてくれている人が居るというのに、それに気付いていなかったのだから。
あまつさえ、そんな彼女の躯を、無理やりに奪ってしまうところだった。
本当に、愚か。
「――ああ、約束する」
「・・・信じても、良いですか・・・?」
「ああ・・・」
例え、この身が尽き果てようとも。
死さえも打ち退けて、彼女の許へと帰らねばならない。
それが――彼女の信頼を裏切った自分の義務。
「なら――貴方を愛しても、良いですか・・・?」
「っ、ネル――!」
堪え切れず、彼女をベッドへ押し倒す。
・・・そうしてから、気が付いた。
――これでは、先程の繰り返しではないか。
けれど、目が合った彼女は、優しく微笑んだ。
「――優しくして、下さいね」
――そんな言葉は、卑怯だ。
そんなコトを言われてしまったら、もう後戻りなんて出来ないじゃないか。
「・・・出来るだけ、そうする」
言って、ゆっくりと唇を重ねる。
先刻のような一方的なものではない、柔らかなキス。
何度も、確かめるように口付けを交わす。
唇を触れ合わせるだけの牧歌的な口付けは、次第に濃厚なディープキスへと変化してゆく。
僅かに開いた歯の合間から舌を進入させる。
歯列をなぞる様に、ゆっくりと舌を動かしてゆく。
それに反応するかのように、顎が開かれる。
動き易くなった口内で、頬の内側や上顎に舌を走らせる。
「・・・んっ・・・」
僅かに声が漏れたのを見計らって、舌をネルのそれに絡ませる。
温かくざらりとした感触が、舌に残る。
けれど、それは不快なものではない。
挑発するかのように、ネルの舌を攻撃してゆく。
暫くすると、ネルも恐る恐るといった調子で、舌を動かしてくる。
互いの舌を求め、口腔内で2つの小さな蛇が絡み合う。
それは、とても甘美で、それだけで蕩けそうなほどに快楽を生む。
けれど、こんなものではまだ足りない。
離れた2つの舌の間に、名残を惜しむかのように、透明な筋が伸びた。
「あ・・・」
上着を捲り上げられ、ネルが声を漏らす。
けれど、それに構わずにルクスは背中へと手を伸ばし、ブラのホックを外した。
邪魔な下着が取り除かれ、ネルのやや小振りだが形の良い胸が露わとなる。
それを目にして、ルクスが思わず感嘆の溜息を吐く。
「・・・余り大きくなくて、すみません・・・」
僅かに俯くネルの耳元で、苦笑しながら呟く。
「いや、凄く綺麗だよ」
「え・・・ひゃっ・・・!?」
ネルの背筋を、ぞくぞくとしたものが奔った。
突然、耳をざらりとした舌で舐められたのだ。
その未経験の感覚に、思わず声を漏らしてしまった。
だが、そんなものでは止まらなかった。
ルクスの舌は、耳朶を一通りなぞった後、首筋へと降りてゆく。
舌が肌をなぞる度に奔る、悪寒に似ているようで異なる感覚に、ネルは声を堪えるのが精一杯だった。
更に追い討ちを掛けるように、ルクスの手は優しく乳房を揉みしだいている。
ルクスの指が先端の乳首に触れる度、軽い電流が流れるような感覚がネルを襲う。
それらの感覚は全て、ネルにとっては初めて体験するものばかりだ。
最初こそ、その未知の感覚が何か判らず戸惑っていたが、それに身を任せているうちに、次第にそれが何なのか、ネルにも判ってきた。
それは、即ち――
「ネル、感じてるんだ?」
ぼっ、と湯気が立ちそうな勢いで、ネルの顔が真っ赤に染まる。
「な、な・・・何を言うんですか、いきなりっ!」
「だって、ほら・・・乳首勃ってるよ?」
と、言うが早いや、その乳房へと顔を近付け、勃った乳首に軽く歯を立てた。
「きゃうっ!?」
嬌声を上げ、びくんと大きく仰け反ったネルの身体から、力が抜ける。
御嬢様育ちである為、これまで全くこのような経験が無かったネルにとって、この刺激は強すぎたらしい。
要するに、軽く達してしまったのだ。
「と・・・まだ殆ど何もしてないんだけど・・・大丈夫かな・・・」
軽く意識を失ったネルに聞こえぬように、ルクスが不安気に呟いた。
とはいえ、ここまで来てしまったら最後まで行き着くしかない。
昂ぶった感情は、そうそう鎮められるものではない。
「まあ・・・その時はその時か・・・」
小さく呟いて、服を脱ぎ捨て、上半身裸となる。
レイヴンという職業柄、自然と身体も引き締まったものになる。
その肉体は、無駄なものが一切無い、ある種の機能美的なものを持ち合わせていた。
脱いだ服と、ネルの上着を軽く畳んでベッドの傍のソファに置いて戻ると、意識の戻ったネルが身体を起こしていた。
「・・・すみません、私・・・」
消え入りそうな声で謝るネルに、ルクスは優しく声を掛ける。
「大丈夫?なんなら・・・」
「いえ・・・大丈夫です」
ん、と頷いて、再びルクスはネルに口付ける。
口腔を舌で掻き回しながら、ゆっくりと乳房を愛撫する。
先ほど軽く達したばかりのネルの躯は、すぐに再び反応し始める。
ルクスの唇が、首筋から鎖骨、鎖骨から胸元へと下がってゆく。
ネルの白い肌に、幾箇所にも赤い鬱血痕が咲いた。
「んっ・・・く、あぅ・・・」
乳首を舌で捏ねくり回し、時には吸い、時に甘噛みする。
勿論、もう片方の乳房を空いた手で愛撫することも忘れない。
そんなルクスの執拗な胸への攻撃に、段々とネルの息が荒くなっていく。
「・・・声、我慢しなくてもいいよ」
「そん・・・なっ・・・こと、恥ずかし・・・」
「我慢してたら辛いだろ。それに、ネルの声もっと聴きたいしね」
「は・・・んっ・・・何、言って・・・!」
やれやれ、と溜息を吐いて、ルクスは腕を下へと伸ばす。
ネルがそれに気付いて制止の手を伸ばす前に、手を一気に下腹部へと滑り込ませた。
「ひあああっ!?」
突然襲った、段違いの快楽に堪え切れず、叫びに近い嬌声を上げるネル。
それはそうだろう。ショーツの上からとはいえ、女性の身体でもっとも敏感な器官を撫ぜられたのだ。
その声に、ルクスの欲望が一段と加速する。
ネルの履いているストレートパンツを、半ば引きずり下ろすようにして脱がせる。
ネルの身体に残っているのは、僅かに秘部を隠すショーツのみとなる。
だが、そのショーツも役割を果たしているかといえば、少々疑問が残る。
溢れ出る透明な液体で透けた薄い布を通し、彼女の秘部はくっきりと浮かび上がっていた。
「うわ・・・凄い・・・透けてるよ・・・」
「やぁ・・・見ないでっ・・・!」
だが、そんな口での僅かばかりの抵抗など、既に何の意味も成さない。
秘部を覆っていたその僅かな布も、ルクスの手によって足首へと下げられる。
ネルの肢体を隠すものは、最早何も無い。
快楽の所為か、羞恥の所為か。ネルの瞳は潤み、耳まで紅く染まっている。
そんな嗜虐心を誘う表情に、ルクスは口を開く。
「こんなに濡れて、ネルって意外にやらしいんだ?」
「なっ・・・それは、貴方が・・・やああああ!?」
つぷ・・・と、ルクスの指が沈んだ。
その生まれて初めての感覚に、ネルは大きく声を上げる。
ルクスが指を膣内で動かす度に、ネルが快感を堪え、がくがくと震えた。
「ちょっと動かすよ・・・」
言葉と共に、ゆっくりと指を前後に動かしていく。
「はぁっ・・・あぅぅ・・・」
前後する指に、透明な愛液が絡み付き、てらてらと光る。
くちゅくちゅという水音が、ネルの喘ぐ声と共に部屋に響いた。
「ほら・・・こんな水音まで立てて・・・」
「んっ・・・言わ・・・あぅ・・・ないで・・・えっ・・・」
――そろそろ、良いだろうか。
もしかしたら多少早いかもしれないが、もう我慢の限界だ。
「ネル・・・」
「・・・はっ、う・・・?」
顔を上気させながら、息を整えるネル。
そんなネルに、問い掛ける。
「・・・そろそろ、いいかな」
「あ・・・はい・・・」
そう、今までの事は全て前戯。
本番は此処からである。
ベルトを外し、ズボンとトランクスを下げ、窮屈そうに押さえ込まれていた自らの肉棒を解き放つ。
「え・・・大きい・・・ですね・・・」
屹立した男性器を、ネルがまじまじと見詰めて呟いた。
それは既に、先走りの液を先端から垂らしている。
「その・・・あんまりじろじろ見られると・・・困るんだけど・・・」
だが、ネルの答えは、ルクスの想像を大分超えるすっ飛んだものであった。
「あの・・・触ってみて良いですか・・・?」
――今、何て言いやがりましたか、この御嬢さんは。
まずは耳を疑ってみて、次に軽く頬をつねってもみて、どうやら間違いでは無い事を確信する。
この状況で頬をつねるルクスの姿は、もしこれを見ている人間が居れば、何とも滑稽に映ることだろう。
「えと・・・ダメですか?」
――上目遣いの、しかもそんな姿でお願いされて断れる男が居るわけが無い。
不承不承、ルクスは首を縦に振るしか無かったのだが。
「うっ・・・」
ネルの細く白い指が、グロテスクな肉棒を掴む。
そのアンバランスさには、見る者を興奮させずにはいられない淫卑さがある。
「熱い・・・それに、硬い・・・」
何を感心しているのか、色々とルクスのモノを弄繰り回すネル。
必然、それはルクスに快感を伝えていくわけで。
「ちょっ・・・待った待った・・・」
制止の言葉に、ネルが小首を傾げて何か考える。
ルクスから見ると、上目遣い+首を傾げるというダブルでお得な状況なのだが。
その表情に、言葉に詰まるルクス。
そんなルクスを差し置き、何を連想したのか、ネルの顔が真っ赤に染まった。
「・・・判りました」
――いや、何が。
「ええと・・・確か、こう・・・」
「お・・・? うぁ・・・!?」
呟くなり、ネルはぱくりとルクスの肉棒を口に含んだ。
その唐突に訪れた温かでぬるりとした感触に、危うく放ってしまいそうになる。
「はむ・・・んむぅ・・・」
何処で覚えたのか、ネルは口に含んだルクスの肉棒を、まるでアイスか何かのように舐める。
拙いながらも、それは立派なフェラチオという性行為である。
「ネル・・・! 何でこんな事知ってるん・・・」
そのルクスの当然の問いに、ネルは口を離して答える。
「・・・女子高時代に、友人がこのようにすれば男性は喜ぶと・・・変なのでしょうか?」
「いや、おかしくはないけれど・・・」
――女子高って、凄い。
というか、知らないって怖い。
そんなルクスの場違いな思いを他所に、再びネルはルクスの肉棒に顔を近付けた。
暫くの間。ぴちゃぴちゃと、ネルが肉棒を舐める音だけが響いていた。
「ネル、もう・・・そろそろ・・・良いから・・・」
下手をすれば、ネルの舌だけで達してしまいかねない。
技術は拙いが、自分を喜ばせようと必死に肉棒を口にするネルの姿は、十分にそそる光景である。
思わず、ネルにこのまま最後まで奉仕して貰いたいという欲望が心に浮かぶ。
だが、これで達してしまったら、ネルの顔に放ってしまうことになる。
それはそれで違ったエロティックさがあるだろうが・・・初めてが、いきなり顔射では、ネルに対して申し訳が無い。
「ぷは・・・はい、判りました・・・」
ネルが顔を離すと、舌先と肉棒の間に透明な糸が掛かった。
その光景は、ルクスの目には堪らなく淫卑に映った。
「と、じゃあ・・・いくよ」
「はい・・・」
ネルの唾液でてらてらとぬめるグロテスクな肉棒が、ネルの下腹部へと近付く。
怖くなったのか、ネルはきつく目を閉じてシーツを掴んでいる。
濡れた肉棒がネルの秘部に触れると、ビクッとネルの身体が震えた。
「怖いなら・・・今度にしても、良いよ・・・?」
そんなルクスの言葉に、ふるふると首を振って、ネルが答える。
「いえ・・・続けて下さい、お願いします・・・」
「判った。なるべく痛くしないようにするけれど・・・多分かなり痛い。我慢しないで声を出した方が楽だから、我慢しないで・・・」
こくん、とネルが頷いたのを見て、ルクスは自らの肉棒を、ネルの秘部の入り口へとあてがう。
「いくよ・・・」
ぐい、と腰を突き出すと、めりめりと肉を押し開く感覚と共に、温かいネルの温度が伝わってきた。
「んぁ・・・あぁ!」
先端が挿入っただけだが、それでもネルには激しい痛みが走っているようだ。
きつく握り締めた手は震え、目からは涙が零れている。
だが、此処で止まっていることは出来ない。
ゆっくりと、腰を少しづつ奥へと進めていく。
「っく・・・固・・・」
中ほどまで挿入したところで、にっちもさっちもいかない状況になってしまう。
予想以上にネルの中は狭く、それ以上の侵入を拒むかのように、きつくルクスの肉棒を締め付けてくる。
その強い締め付けは、ルクスに強烈な快感を伝え続けている。
「あぅ・・・うぁっ・・・痛・・・いっ!」
「くぁ・・・ネル・・・力・・・抜いて・・・!」
だが、挿入の痛みで手一杯だろうネルに、それを要求するのは不可能と云うものだろう。
しかし、このままではルクスもそう長くは保たない。
完全に挿入ってすらいないのに、そんなところで達してしまうのは、男としてなんとしても避けたい。
「きゃうぅっ!?」
イチかバチか、空いた手で、クリトリスを軽く摘んだのだ。
それは見事成功し、一瞬ネルの脚から力が抜ける。
その隙に、ここぞとばかりに、ルクスは思い切り腰を突き入れた。
「やあああああああっ!!」
ネルの瞳から、涙がシーツへと散った。
何かを貫くような感覚と共に、ルクスの肉棒が根元までネルの膣内に収まる。
「くは・・・」
暫く息を整えてから、改めて接合部へと目をやる。
鮮血が股を伝い、白いシーツへ鮮やかな赤い染みを作っている。
今までの初々しさや、貫いた感覚で判ってはいたが。
それでも、その光景を見ると、彼女を自分だけのものにしたという征服感を覚えずにはいられなかった。
「は・・・ぁ・・・繋がって、ますね・・・」
少し時間が経ち、膣に肉棒が入っている状態に多少慣れたのだろうか。
涙を瞳に溜めながらも、微笑を浮かべたネルが呟く。
「ああ、だな・・・」
思えば。
レイヴンとオペレーターという、いつ死に引き裂かれてもおかしくない2人。
その2人が今こうしているのは、刹那の快楽を求めたわけでも、気の迷いからでもない。
信じているからだ。
ルクスが、必ず戻ってくると。
そう、彼はどんな困難なミッションであっても、必ずネル=オールターの前に帰ってきたのだから。
「ルクス・・・私はもう、大丈夫ですから・・・」
言外に、動いて下さい、と言っているのだが。
つい先程処女を失ったばかりの女性の膣内で、動いて大丈夫なわけがない。
まだ傷も塞がっていないところを、膨張しきった肉棒で擦られるのだ。
男のルクスには想像出来ないが、それが激痛であろうことは間違い無いだろう。
それを思って躊躇うルクスに、ネルが口を開く。
「大丈夫です・・・痛くても・・・嬉しいから、我慢出来ます・・・」
――ああ・・・なんだって、ネルは。
俺を乱暴にさせるような事ばかり、言うのだろうか――
「ん・・・痛ッ・・・!」
腰を引いて、奥まで戻す。
それだけで、ネルの顔が痛みに歪む。
けれど、あんな事を言われてしまっては、もう止まれない。
再び引いて、また奥まで挿入する。
その運動を、次第に早く繰り返してゆく。
「はぁっ・・・やぁ・・・ん!」
ルクスを心配させまいとしているのか、必死に声を押し殺すネル。
その閉じた口から洩れる声に、違う色が僅かに混じり始める。
それは、痛みを堪えている声とは明らかに違う、快楽を得た嬌声。
ルクスが腰を動かしていくほどに、その声は段々と大きくなっていく。
「はんっ・・・ひあぁっ・・・!」
パン、パン、と。
腰を打ち付ける水音が部屋へと響く。
嬌声と、ベッドの軋む音とが混じり、1つの曲を奏でているかのようだ。
男と女の奏でる、交響曲。
「あ・・・あっ・・・やぁんっ・・・!」
腰の奥に湧き上がる、鈍い熱を堪えながら、ルクスはネルの膣に肉棒を突き入れる。
ぞくぞくと、全てを解き放ってしまいたくなる快感が背筋を駆け上ってゆく。
「ひぁ・・・くぅっ・・・あ、あぁ・・・!」
必死に射精を堪えているが、それも限界が近い。
達する為、更なる快感を得る為に、ルクスは腰のペースを更に上げていく。
「やぁ・・・あふっ・・・はぁ・・・んぅっ・・・!」
「ネル、もう・・・イく・・・!」
どっ、とネルの最奥へと突き入れた直後、ルクスに限界が訪れた。
「く・・・うああっ・・・!」
ギリギリで慌てて引き抜いた肉棒から、大量の白濁液がネルの下腹部へと迸る。
・・・肉棒を抜くのが数瞬遅れていたら、膣内に全て吐き出す事になっていただろう。
濃い精液が、肉棒を引き抜かれてぐったりとするネルにぶちまけられた。
行為によって仄かに汗ばんで、ピンク色に染まったネルの肌に、白い精液が飛び散っている。
その光景は、見る者に倒錯的な美を感じずにはいられないだろう。
部屋には、暫くどちらのものとも判らぬ荒い息だけが響いていた。
「ルクス・・・まだ、起きていますか?」
返事は、無い。
自分が行為の余韻に浸っている内に、眠ってしまったのだろうか。
「私、後悔なんてしていませんから」
畳まれた服は判り易いところに置いてあったが、それを身に付ける気にはまだならなかった。
今夜は、このまま彼の腕の中で眠らせて貰おう。
この幸せを、今は未だ噛み締めていたいから。
「おやすみなさい――ありがとう、ルクス」
暫く経って、ネルが寝息を立て始めた頃。
金髪の青年は、横でシーツに包まる女性の髪を愛おしそうに撫でて、呟いた。
「――おやすみ、ネル」
後書きのようなもの。
何と云うかー・・・
まあ、やっちゃいました、と・・・(ぁ
一応、コレが書きたくてこんな題名なわけだったのですが(ぉ
気合入れて書いた割には余りえっちくないですね。
持ち込むまでの展開が大分無理やりでしたし。
というか、此処まで読んでる人って居るのかな・・・w
次は真面目ですので、ええ。
オマケ、明朝の1コマ。
「ん・・・おはようございます、ルクス」
「ああ、おはようネル・・・」
・・・ふと、気付くと、ネルの視線がこちらの股間に――はっ!!
「・・・朝から大胆ですね・・・眠っている私を見て、そんな・・・(ぽっ」
「い、いやこれは・・・男の生理現象と云う奴で、そういうわけじゃ・・・」
「そんな、照れなくても・・・チェックアウトまでまだ時間はたっぷりありますし」
「ネル、お前性格違――ぎゃああぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「あれ――なあ、ルクスさん妙にゲッソリしてないか?」
「代わりにネルさんがツヤツヤ・・・ああ、なるほど・・・」
作者:前条さん