始まり 〜begin〜
突き抜ける空。吹き抜ける風。
これらは何年か前に、あるレイヴンが管理者と呼ばれるシステムを破壊した
おかげらしいが、そんな時に今、俺がいるのは狭いコクピットの中。
「あー、気分悪い。あの車を撃ち壊したいほど気分悪い」
「そんなことをすれば、赤字の方が多くなりますが?」
俺の愚痴に対し、電子合成された男性の声が響く。
答えたのは、人工知能のラグ。由来はラグナロクとか、
そういうガキ臭いものではなく、解析学の権威ラグランジュからだ。
「でもな、おかしいだろ?Cランクレイヴンに22000Cのミッションって。
俺はレイヴンズアークの陰謀だと推測する」
ミッション内容は車両の護衛で、DやEのランクのやつがやる内容だ。
軽口を叩きながらレーダーを確認する。敵影はなし。
「レイヴンズアークにそんなことをする理由がありません。
むしろ、シフォンには相手にするだけの価値がありません」
聞いてのとおり、こいつは人工知能のクセにやたらと人間臭い。おかげで、
廃棄処分寸前だったのを、俺が拾ってコアに内蔵した。
取り付けたとき俺が真っ先に聞いたのは、「女性声にできないのか?」で、
返答は「あなたに女性の声は高貴すぎる」だった。ようするに不可能だったらしい。
「いや、Cランクレイヴンに価値が無いっていうことはないだろ」
俺が負けじと言い返すが、
「訂正です。人間的価値がでした」
一瞬にして粉砕された。ちょっと立ち直れないかも。
「ですが、Cランクレイヴンとしての価値ならあります。Bランク以上の上位レイヴンなら、
手の出しようがありませんが、CランクレイヴンならAC2,3機で囲めば、
倒せる可能性があります」
冷静な判断だ。俺もそれを考えていたが、もしそうだとすると1つ問題がある。
「つまり、この任務は嵌められたものだということに…」
「演算では63パーセント以上の確立で罠です」
冷や汗を感じ始めた瞬間、
「イィィィィィィィィィィー―――――ヤッホォォォォォゥゥゥゥ!!!」
奇声と同時に、護衛対象の車両が粉々に吹き飛ぶ!
「敵影2.ACです」
ラグの警告が聞こえると同時に。近くのビルに隠れる。相手の正体が分からない上に、
複数による奇襲。なら、相手をかく乱し、1体ずつ倒すのが定石!
「解析終了。ランカーACデスフレアとティターノです」
D−1ティターノとC-7デスフレア。どちらも悪名で有名だ。
ミサイラータンクのティターノは、堅実な戦い方をする後衛型。対するデスフレアはデュアルマシンガンを装備した軽装重量2脚の前衛型。
マシンガンとミサイル、月光を装備したオーソドックスな、銃剣士型のホライズンとは、
相性が悪い。
「なんとか、やってみるか」
ビルに隠れて、ちまちまミサイルを撃ちこむ。そして場所を移動し、もう一度。
「出てきやがれ!チキンヤロー!!」
確かに消極的だが、勝つ為にはしょうがない。
ミサイルを撃ち切った所でパージ。銃剣士モードに移行。突撃。
「前方、右上45度よりミサイル」
ラグの予測を聞き、オーバードブースト。向かってくるマシンガンもいなす。
そして、マシンガンを掃射。ビルを転落させ、生き埋めにする。
が、予測どおり、タンクのティターノは出てきた。
「1対1で負けるかよ、肉ダンゴ!」
懐にもぐりこみ、ブレードで一閃、二閃!
破片をぶちまけながら、武装を剥がれ、ダルマになったティターノを残し、その場を立ち去ろうとする。
「後方から射撃」
ラグの警告を聞き、大急ぎで回避する。が、右腕のマシンガンが吹き飛ぶ。
「忘れてんじゃねえよ。クソがよおッ!」
「雑魚過ぎて完全に忘れてた」
月光一つである不利を悟られぬよう大口を叩く。ミッションでは俺は銃剣士だが、
本職はミサイラガンナーだ。月光は予備にすぎず、紫電やメテオなどはまったくできない。
「あれれぇ?君は剣豪だったのかなあ?」
めちゃくちゃばれている。
まずい。
非常にまずい。
「恨みをはらさせてもらうぜえ」
めちゃくちゃいやみな言い方だ。ちくしょう。だから、ミッションは!
デスフレアのマシンガンが放たれようとした瞬間、大量のミサイルが飛んできて、
一瞬にしてデスフレアをスクラップに変えた。
……俺の苦労は何?ねえ、誰かおしえて?
「まったく、いつも君は詰めが甘いな。ドライトに頼まれて来て見れば
案の上だ。僕の身にもなってほしいよ。少し前までは悪魔狩りと呼ばれて、
最近では掃除屋フィーだ。誰のせいだと思ってるんだ」
助けに来てくれたのは、フィーアトだった。B-1のレイヴンで、当然
俺では相手にならない。
「悪魔狩りって聞いた事ねえな」
「ああ、気にしないでくれ。むしろ忘れろ」
自分から言い出しておいて、何を今さらといった感じだが、元はといえば俺が悪いので
追求できない。
急に気になることがあったので、言ってみた。
「報酬はどうなるんだ?」
「赤字でしょうね」
ラグの返答に、俺は脱力しそうになった。
作者:羽流さん
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