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 MISSION NO.1.5
  
「新着メールが届いています」 
 画面に見慣れた表示が映る。しかしその簡潔な表示には慣れる事なく胸を踊らされる。 
 それはこの社会の傭兵達にとって、違いは無かった。 
 
 
 超兵器、「アーマード・コア」。 
 通称「AC」を駆る彼らは、自由気ままな翼を持つ鴉。「レイヴン」と呼ばれていた。 
 
 
   ARMORED CORE3 SILENT LINE SIDE STORY 
    MISSION No.1.5 
    CODE:WILDERNESS GLIDER(荒野を翔ける者) 
 
 
 
 地下世界「レイヤード」……かつてシステムに全てを管理されていた密閉社会は、とあるレイヴンの手によって大地に解き放たれた。 
 しかし、サイレントラインやら企業争いなんかを中心に、そのレイヴンがもたらした新たな世界はかんばしくない状況に置かれていた。皮肉な事にレイヴンのもたらした世界はレイヴンに有利な世界だった。 
 今、地上は、地下以上に混濁なる渦へと変わりつつあった。 
 
 
 レイヤード。第5居住区。 
 ここはACを格納するガレージの多い区画及び、アリーナに程近く、多くのレイヴンがここに拠点を構えている。 
 その中の一つの建物。多少年月を経た感のある白い大きな居住施設。 
 朝も早くに内部の食堂は朝食をとりにきた者達で賑わっていた。 
「……ま〜たパスタ〜?ちょっと手、抜き過ぎじゃないの?」 
 席の一角に座る彼女は三日連続同じ朝食にうんざりと呟いた。 
 二十代ぐらいで長いブロンドの髪を右半分だけ結び、右の前髪だけ黒い翼の形をしたピンをとめている。黒く厚手の長袖シャツは身体のラインを覆い隠さない程度に体に張り付いている。 
「食料事情もそれだけ深刻なのだろう。普通さえ厳しい世の中だ。……そういえば聞いた?リトルベアがシューティングスターを破ったそうだ」 
 向かいに座る、相部屋でいつも一緒にいる、長い黒髪を無造作に首元でしばった女はパスタをくるくると巻き取りながら言った。 
「ええ、らしいわね…メール来てたわよ。…真っ先に」 
「イヴァ、最近アリーナに行ってないんじゃない?」 
「あそこに行くと色々面倒でねー、Eランクのエクレールは気楽でしょうけど」 
 
 アリーナ登録データ:検索キーワード「イヴァ」 
 Aランクランカー。 
 レイヴンNAME:イヴァ=ラピス 
 ACNAME:ツヴァイリッター 
 
 検索キーワード「エクレール」 
 Eランクランカー。 
 レイヴンNAME:エクレール 
 ACNAME:ラファール 
 
 …と、レイヴンに支給されるモバイル、端末から得られる登録情報はこれだけだ。これ以上はアリーナ運営局につながないといけない。 
 食事の手を止め、その手帳の様な端末を開いてしばらく……エクレールはラピスに尋ねた。 
「先日、AC四機が現れた戦闘があったな。場所は確か……?」 
 頬杖をつきながらやる気なさげに、もそもそとミートソースのかかったパスタを噛みながらラピスは答えた。 
「クレふトの新しい基地か要塞……確かほの辺りでしょ。低ランふのはンカーばっからったっれひょ」 
「…………マナーが悪い」 
 全てを優先してそう半眼で呟く。周囲の喧騒がピークに達して騒がしい。聞こえたかどうか怪しいが繰り返して言う事では無いので黙って水の入ったコップを口につける。ラピスは口の中を空にすると続けた。 
「あんまり詳しくは知らないけど低ランクのランカーに腕利きランカー……えーと誰だっけ?…そうホスロー・ワンが撃退されたとか…………で、それがどうかした?」 
 任務先にACがいるのは珍しくない。ただ一つの場所に四機ものACが集まるというのはちょっとしたニュースになる。ラピスもある程度聞いていた。 
 エクレールは無言で端末をいじった。 
 ……ラピスが開いていた端末に反応があった。 
『未読メール 1件』 
 ラピスは黙ってメールを開いた。 
『差出人:クレスト 件名:依頼 
 我が社の軍事要塞を警護して欲しい。本要塞はいまだ建設途中で防衛機構も不完全だ。既に感知していると思うが先日の二機のAC襲撃に 
 よる防衛戦でこちらの防衛戦力は半減し、施設の修繕に手を割かれて予定は大幅に遅れている。しかもそこに新たな襲撃があると思われる 
 情報が入ってきた。さすがに前回の様な大戦力では来んだろうが現状の要塞にはMT一個部隊でも十分に脅威だ。 
 むやみやたらに急いでMT部隊を再編するより、今回もレイヴンに依頼する方が確実かつ効率的と判断した。明後日よりこちらの作業に目 
 処がつく五日間。よろしく頼む』 
 ……報酬額は相場より少し安かった。先に雇ったレイヴンに割を食わされたのだろうが。 
「…何?これ、あなたへの依頼?」 
「昨日、届いた。他のレイヴンにも出していたらしいんだが……」 
 パスタの乗っていた皿にフォークを乗せて、ラピスは淡々と言った。 
「前回の四機AC戦でみんな警戒してる訳だ?この額も割には合わないし」 
 エクレールは頷いた。 
「だがそう面倒な依頼では無いはずだ」 
 そうかもね、と答えてラピスは微笑して尋ねた。 
「……で、何?私に僚機のご依頼?」 
「察しがいい。報酬を五割、でどうだ?」 
 破格だった。僚機に払う額はせいぜい報酬の二、三割が相場だがラピスはトップクラスのランカー。ついでに言うと結構がめつい。 
 だからして彼女を動かすには割のいい報酬で臨むのが必須とされていたりする。 
「別に気を遣わなくても…三割で引き受けるわ。僚機には僚機のやり方があるから」 
 やり方とは……要は消極的にいくらしい。 
「成立だ」 
 エクレールは席を立ち、茶色いロングコートに袖を通した。 
 ラピスも朱い革の上着を掴むと席を立ち、まだ騒がしい食堂を後にした。 
 
 作戦コード:ボーン ディノザウラー 
 作戦領域:要塞VG−924 
 作戦目標:要塞の警護 
 作戦時刻:8:00より120時間 
 
 
 ラピスは慣れた手つきで今回の任務の内容を確認した。 
「ラピスさん、換装はどうしますー?」 
 コクピット内にまで聞こえる様に声を張り上げるメカニックマンにラピスは身を乗り出して答えた。 
「今回僚機だからアリーナセッティングのままでもいいわ。とりあえずデコイと、ブレードはハルバードをお願い」 
 機体の構成情報は三機分までガレージに登録でき、ラピスは任務とアリーナそれぞれに機体構成が決まっている。 
 アリーナは弾薬費を負担しなくていいので使い勝手のいい実弾中心の玄人向け高機動タイプ。任務用は弾薬費のかからないレーザーライフルを混ぜた状況対応能力の高い汎用中量二脚。 
 今回はボランティア感覚での出撃なので儲けは期待してない。弾薬費は気になるがこのままでもいいだろう。赤字にさえならなければいい。 
「デコイとハルバードですねー。わかりましたー」 
 中年無精髭のメカマンは早速作業にとりかかった。ちなみに彼の名はフレック。ラピスに雇われて久しいメカニックマンだ。今はチーフに昇格してラピスの視界で下っ端の若いメカニック達に指示を出している。 
 予備知識として、実はACのメカマンという仕事自体は幾つかの免許と講習を受ければ割と簡単に就ける。しかしACの高いメンテナンス性でレイヴン自身でもある程度整備可能だったりするので賃金はあまり高いとは言えない。 
 
 これでしばらくはリトルベアの挑戦を受けなくて済むだろう。ラピスは安堵の息をついた。 
 最早ランクは雲泥の差にも関わらず、ラピスをライバルと決め付けてアリーナで数多の試合を繰り返している迷惑な奴だ。しかもランクが離れて挑戦権が無いためにラピスに直接メールをよこしてこちらから挑戦する様に催促してくるのだ。シューティングスターが破れた事でまたメールが激化するだろうし…。 
 ラピスは早く明日が来ないかと切に願った。 
 
 
 
 そして当日…現在の時刻は………、そろそろ出ないと予定時刻に要塞に着けない。 
 ツヴァイリッターをグローバルコーテックスの輸送機に載せる。エクレールはまだだ。部屋は一緒に出たがガレージは別だ。もう来ると思うが……。 
 
 ピピッ。 
 この音は通信だ。ラピスはスイッチを入れた。 
「イヴァすまない。クレストの要塞NK−432に緊急任務が出来た」 
「え……?ええっ!?」 
 ラピスは集音マイクに向かって叫んだ。 
「ちょっと警護任務はどうするの!」 
「依頼はイヴァに委任する形で向こうに伝えてある。頭数が足りなくなるけど……イヴァなら大丈夫」 
 大丈夫じゃないっ!そう叫ぼうと乗り出したが通信が切れた。 
 任務直前に別の依頼が来るとは……まあ、NK−432はクレスト最大規模の要塞で、エクレールはMTに乗っていた時からあそこでの任務は多かった。馴染みが深い者が必要な事態なのだろう。 
 依頼主は同じクレストだし、急な仕事ならこんな事もあるだろう。だが、頭で冷静に理解している表でラピスは困っていた。 
(どうしよ……今回サポートだから任務仕様にしてないし、二人分働け?冗談…) 
 無理とは言わないが今回は軽い気持ちで受けた為、そんな覚悟も無い。 
(う〜ん…どうしよ、どうしよ…) 
 ラピスは端末を取り出し、おもむろにメールを打ち始めた。 
 
 
 
 要塞VG−924。先のAC戦の傷跡が所々に見られる。手前に輸送機が着陸し、ツヴァイリッターが姿を表す。 
「歓迎する。レイヴン。まさか上位ランカーが来てくれる事になるとは思わなかった」 
 あなた達のせいでしょうが。ラピスは胸中で毒づいた。 
「五日間、よろしく。あと…僚機が遅れて到着する予定ですので」 
 ラピスは短く挨拶するとさっさと要塞内部に移動した。 
 ここからは忍耐の時間だ。 
 
 
 三日目。今日もラピスは格納庫のツヴァイの中で暇を潰していた。 
 持ち込んだクッションをシートに敷き、黙々と小説に目を落としている。 
 ACのシートは固く、長時間座るには適していない。 
 でもラピスはこのシートに手を加えている。戦闘時、シートベルトを締める際クッションはさすがに外さねばならないがベルトに救命胴衣の様なベストをくっつけてパイロットスーツ無しでもヘルメットさえかぶれば十分安全に、少なくともパイロットスーツと同じ働きをしてくれる様になっている。 
 改造理由はただパイロットスーツを脱ぎ着するのが面倒だっただけだ。 
 
 
「防衛網に未確認機の侵入を確認!」 
 いきなり大声の通信が入りラピスはびくりと反応した。しかしそれ以上動じずにクッションと小説を後ろに放り、ツヴァイを起動させる。歩きだすと同時にハッチが開いてそのまま外に出る。 
「識別信号を照会。…該当する機体無し」 
 シートベルトと特殊ベストを締め、体を固定。 
「敵部隊と認定。すみやかにこれを迎撃せよ」 
 ラピスは最後の動作を行った。 
「メインシステム、戦闘モードを起動します」 
 スカイアイの機械音声が戦闘開始を告げた。 
 
 
もう一分もしない内に敵機は作戦領域に達するだろう。 
「ラピスさん、ジリアです。敵戦力は飛行分離型MTと逆関節型MTで構成されています。数は二十弱」 
 ラピス専属のオペレーターが戦力を分析、細かな情報を言い渡し始めた。 
「飛行分離型MTフリューゲル及びバイン。主武装はそれぞれミサイルとマシンガン。逆関節型MTランスポーター。主武装はロケット砲です。戦略としては……」 
「ああ、はいはい。それで十分」 
 ジリアは若年新人ながら優秀なオペレーターだ。大概上位のランカーには新人オペレーターが研修にと簡単な任務であてがわれる場合が多い。彼女が気にいったのかラピスは研修期間終了後もジリアと組む事にした。ただ生真面目に仕事をこなし過ぎて戦場では長すぎる情報と自らの見解を饒舌に語る癖もある。 
 ラピスは最後に自機の後方につく僚機に声をかけた。 
「ストレンジ、サンダービーク。ゲート付近を防衛、よろしく」 
「よろしく。…っていうかラピス、本当にこの戦力でやるの?急に呼び出してそれは無いでしょう」 
 サンダービーク。ポータータイプの逆関節遠距離型MT。装備はミサイルに口径の大きめな機関銃。装甲は脆い為距離をとる必要がある機体だ。 
「しょうがないでしょ。レジーナとかファナティックにも連絡入れたけど出払ってるし、フレイムなんか急だから、とか言って断ってきたのよ」 
 要塞の砲台が稼働する。あまりあてにはならないだろうが、無いよりはましか。ストレンジはげんなりとした口調で返した。 
「よりにもよって…なんでMTの私だけ……」 
「…敵機視認。サンダービーク、ツヴァイリッター戦闘に入る」 
 ツヴァイがジャンプする。そのままブースターを吹かし、急上昇をかける。 
 前方には分離型MT、フリューゲルに抱えられたバインが三機編成で向かってくる。 
 ミサイルが放たれた。だが単発のミサイルに当たる程ラピスは甘くない。なによりこのアリーナ用は機動性、瞬発力を重視している。ミサイルを、機体を僅かにそらして回避。距離が詰まってきた。 
 光の槍、ハルバードを振るう。先頭のフリューゲルが大破、バインが切り離され降下する。続けてハルバードを薙ぎ、右後方についていたフリューゲルもバインごと斬り払う。 
「速い、なんだ!?あの加速は…軽量級……!?」 
 残った子持ちフリューゲル一機が振り切ろうと加速する。しかしツヴァイは空中で旋回。マシンガンを向け、数発放つ。 
 全弾被弾。フリューゲルは瞬く間に撃破された。 
 ツヴァイが降下。足下にいる最初のバインに中型ロケットを打ち込む。 
「あれがトップクラスのランカーか…」 
 クレストの防衛部隊隊長が思わず漏らした言葉は通信機ごしに聞こえた。 
 ラピスは最後のバインを仕留めた。 
「…軽い気持ちで受けた割には張り切っているわね」 
 サンダービークは一つの弾も消費する事なくぼんやりとした口調で呟いた。 
「新たな敵影を確認。速やかに撃破してくれ」 
「了解」 
「機種は…ランスポーター三機…か。サンダービーク、お仲間よ」 
 サンダービークはミサイルを放つ。これでランスポーターの動きを牽制する。 
 その隙にツヴァイはオーバードブーストを起動。一気に敵機に迫る。 
「く、来る!迎撃ー!」 
 ランスポーターがロケットを乱射する。回避スタイルのラピスにとって乱射は次に来る射線が読めないので苦手だ。それでも突撃を続け、ロケットをなんとか回避。ポーターが近い。 
「当てる……………!」 
 マシンガンを打ちながら距離をさらに詰める。いくらか被弾しつつもまだランスポーターは墜ちない。交差する。 
 ハルバードが一閃。ランスポーターが上下に両断される。トライアングルのフォーメーションを組んでいた残った二機の間にツヴァイが止まる。 
「う、うわああ!」 
 MTパイロットが錯乱して銃口を向ける。ツヴァイはジャンプした。 
 ランスポーターの上を跳び、後ろに着地するまでの間にマシンガンを叩き込み、最後の一機も反撃の時間すら与えず斬り捨てる。 
 
 
「敵部隊、基地内部に侵入!」 
 防衛隊長の動揺した声が入ってきた。ラピスは目の前のバインをロケットで狙撃しながらジリアに尋ねた。 
「ちょっと、ゲートはサンダービークが抑えてたでしょ?どうしたの」 
「フリューゲルに誘導されて、その隙に突破された模様」 
「レイヴン、砲台が敵部隊に占拠された。注意しろ!」 
「ああもう、何やってるのよ!」 
 毒づき、周囲がクリアになったのを確認し、ラピスはオーバードブーストを起動させ、ひとまずゲートに向かった。 
 
 
 ……戦闘が始まってしばらく経つ。そろそろ敵もネタ切れか? 
「ツヴァイリッター、状態は?」 
 ジリアが事務的な質問を飛ばす。ラピスは敵編隊と平行に滑りながら連続してロケットを三機のランスポーターに叩き込んだ。 
「妙技、名古屋撃ち……なんてね。えー、こちらツヴァイ。機体損傷、皆無。装弾数残り約七割。各部異常無し」 
 ラピスが計器と戦闘開始以降の記憶からさらさらと報告した。 
「か、皆無ですか…」 
 ジリアがさすがに面食らった様子で漏らした。防衛隊長がそこに割って入る。 
「敵部隊の後退を確認。レイヴン、もう少しだ」 
 よし、と気を入れ直し再びツヴァイを飛翔させる。直後、サンダービークから通信が入ってきた。 
「直撃……っ!ツヴァイリッター、援護して!」 
 サンダービークの位置を確認……ゲート前か。恐らく連中最後の抵抗だろう。 
 なにせ戦闘中、開いている通信に始終「なんでトップクラスのランカーが!」とか「ツヴァイリッター!?か、勝てるかよあんな化け物に!」などと口々に好き勝手、酷い言われようだった。余談だがエクレールも戦場で会いたくないレイヴンとして見られている。 
 つまり士気は一気に下降、ツヴァイを見た時点で既に敗戦ムード。負け戦。 
 サンダービークと数機の敵機が見えた。機関銃を撃つ中、またもやサンダービークが被弾する。 
 ロケットがツヴァイの脇をすり抜ける。踏み込んで軋む左足の関節。ハルバードが唸りをあげて敵機を薙ぎ払う。 
 
 
「サンダービーク、状態を報告して下さい」 
「被弾率五割オーバー、弾薬消耗率四割…各部ダメージを受けたが稼働に問題無し…ふう……」 
 さすがに疲れた声でストレンジが答える。結局ラピスが残りを蹴散らした。 
「敵部隊の後退を確認。レイヴン、君の働きに感謝する」 
 仕事としては楽なものだった。ラピスは胸中でそう思った。弾薬もそれなりに節約出来たしこれなら幾らか儲けも期待出来そうだ。 
「あ………待って下さい!作戦領域に接近してくる飛行物体を捕捉!これは……コーテックスの輸送機です!」 
 ラピスの肩ががっくりと下がった。コーテックスの輸送機。それ即ち………。 
「ACの降下を確認。データ照合………出ました。Dランクアリーナ所属。ランカーAC……え?…い、一斉射撃!破壊神・信男」 
「………は?ちょっとジリア、それ新しいネタ?」 
 常軌を逸した言葉にラピスがなんとか言葉を探し出して返す。 
「違いますよ!ランカーです。パイロットは……ら、ライネット=覇太郎」 
「やっぱりふざけてるでしょ」 
「違います!機体はミサイル主体の火力重視中量二脚。アリーナでは火力に押し潰されたレイヴンも多々。注意して下さい」 
 深緑のACが荒野に立つ。軽量のコア部分には迷彩塗装が施されているらしい。 
「……ツヴァイリッター。Aクラスのランカーだ?話が違うな…。まあいい!任務開始、要塞を破壊する!」 
「レイヴン!撃破を頼む!」 
 信男なる怪しげなACが迫る。ラピスは溜め息と共にツヴァイを加速させた。 
 
 
「サンダービーク、要塞まで退いて」 
 ラピスは後退を促した。損傷したMTではとてもACに適わない。ストレンジも承知しておとなしく要塞内部に後退していった。 
「誰だろうと関係ねえー!邪魔者はぶっ飛ばーす!」 
 ツヴァイを見ても動じない、大した度胸だと思ったが声を聞く限りただの怖い物知らず。猪突猛進なパイロットらしい。 
(要はおつむの弱い単細胞馬鹿ね……) 
 モニター上部に[LOCKED]の文字が点る。すぐに撃ってこない所を見るとミサイルか。 
 あえてラピスはそのままロックを外さずに出方を伺ってみる。 
 破壊神・信男…たいそうで存外間抜けな名だが外見から最初に連想出来る言葉はアーミーだろう。一部迷彩は野戦仕様の風体を見せる。 
 しかし周りは赤茶けた荒野…ツヴァイや他のACと比較しても保護色の緑はかなり場違いな色合いだ。 
 武装は……ラピスの持っているMG−500を軽量化したMG−250に左腕はHML−18。ロック不要の小型ミサイルだ。肩は…右に小型ミサイルS42/6。左はAD−10。追加弾倉。エクステンションと呼ばれる肩側面の拡張部分には白く丸い…R/36。高価な連動ミサイル。火力は凄いが弾切れが心配な装備だ。 
 データをざっと確認するとラピスはロケット砲を信男に向けた。 
「どけあああああああっ!!」 
 クレスト製のコア、02−E1からイクシード・オービットと呼ばれる自律型ユニットが飛び出す。確かあれの弾は最新の実弾型だったはず…。それと同時。肩のミサイルが、連動ミサイルが、左腕のミサイルが、一斉に火を吹いた。 
 肩、連動、腕…まとめて十発を超えるミサイル群がEOの弾丸と共にツヴァイを襲う。 
「うそぉ!?」 
 驚嘆の声を上げ、ラピスはブースターを吹かした。 
 マシンガンがミサイルを撃ち落とす。残ったミサイルとEO弾が尚も向かって来るが回避の片手間にマシンガンをミサイル煙の向こうにいる信男に向けて連射する。 
 全弾回避……いや、EO弾が数発装甲に当たったか。煙が風に流され、再び周囲が開ける。ラピスはマシンガンの銃口を向けた。 
「……………………ん?」 
 ラピスはまた信じられない光景を見ている気がした。 
 
 ……信男が燃えている。いや、気持ちが、とかではなくて機体が。装甲が熱暴走したらしい。 
「実弾型イクシード・オービットの発射毎に生じる熱量と先程命中させたマシンガンの弾丸の与えた熱量があの機体の放熱効率を超え、装甲の限界耐熱温度を超えたと推測………ラピスさん聞いてますか?」 
 ジリアがお得意の推論を語る。しかしマシンガンは熱暴走する程撃ってない。これではほとんど自爆だ。ラピスは沈痛な面持ちで嘆息した。 
「なに止まってやがる!まだ勝負はついていないぜ!」 
 EOは早くも弾切れなのか今度はミサイルだけが迫る。この数はEOが無くても十分に脅威だ。 
 ラピスは慌てず騒がず、肩の内蔵兵器、インサイドを開いた。 
 ぱすっ、と奇妙な摩擦音がして丸い球体、ミサイル誘導デコイが射出される。ラピスはデコイから離れた。 
 ミサイルは全てデコイ目掛けて突進する。ツヴァイは信男目指してブースターを吹かした。 
 再びミサイルが放たれるがまたもやデコイという撒き餌に群がる。 
「ぬぐぐっ……!」 
 マシンガンに切り替える様子がうかがい知れたがもう遅い。双頭の騎士は破壊神を捉えた。 
 マシンガンが信男の装甲を乱打する。ハルバードが起動、脚から右腕にかけて、騎士の槍刃が内部メカをも切り裂く。 
「うおおおおっ……!?」 
 踏み込んでコアの高さまで頭が下がったツヴァイのスカイアイが鮮やかな緑色で信男のコクピットを染めた。 
 ブースターを吹かし、上昇をかける、離れざまに零距離ロケットを放ち、残った肩ミサイルを破壊。 
「任務達成。ツヴァイリッター帰投します」 
「了解、お疲れ様」 
「……AC戦とは普通無数の応酬があるものでは?」 
 防衛隊長は呆然と呟いた。 
 
 
 信男は黒い煙を全身から出しながらもまだ動いた。 
「ぐうううっこの………っ!」 
「ああ、忘れてた」 
 ラピスは信男に向き直るとマシンガンの引き金を引いた。 
 弾丸が信男の最後の武器、ハンドミサイルを爆発させ…… 
「まだだああああ!」 
 覇太郎が歯ぎしりしながらブースターを吹かし、マシンガンの弾を外すと、EOを起動。残された弾を撃ち出しハンドミサイルと共に打って出る。 
「往生際が……っ!」 
 ツヴァイは回避行動を優先、大きく立ち回り思案を巡らせる。 
(そろそろ弾は節約しないと赤字も……どうやって無力化させる?……うー、やっぱり弾切れ誘った方が早いか。うん、経済的) 
 凄腕ランカーならではの経済的ではあるが思惑通り、ツヴァイが被弾する可能性は薄い。ハンドミサイルは元々装弾数が少ない。EOに残された弾も最初の斉射具合から推測するに多くは無い。マシンガンは腕を無力化したので使えない。 
 ひょいひょいと軽い足取りで回避を続けるツヴァイ。チャンスがあればハルバードで斬り伏せよう。
「んなろおおおお!」 
 ミサイルがツヴァイをかすりもせずに飛び過ぎる。 
 ドォン!……ラピスは後方から聞こえた爆発音に嫌な予感を覚えた。 
 レーダーを見やる。占拠された砲台は五。確か近くに信男以外の赤い点が一つあったようなー………。 
「砲台破壊、防衛対象の一つですので報酬から減算されます」 
 ジリアの無慈悲な声が淡々とラピスに告げた。 
 次のミサイルを避けて、ラピスは震えた声で尋ねた。 
「あ〜…ジリア?砲台って単価…おいくら?」 
「減算は千コームです」 
 ………………………。 
「…ざけんじゃないわよ!状況は圧倒的なのになんで減俸……っ!……………ライネット=覇太郎」 
 喚いた後、底冷えのする声で信男に訴えかける様子は単細胞、覇太郎にも畏怖を与えた。信男の動きが固まる。 
 オーバードブーストがツヴァイを信男の目の前まで動かす。 
「……ただじゃ済まさない」 
 左腕のハルバードが光った。 
 
 
 
「弾薬、修理、整備……っと。よしよし、今回も黒字」 
 帰りの輸送機でラピスは電卓片手に早くも金の算段を始めていた。 
『守銭奴…………』 
 ストレンジとジリアは二人して呟いた。 
 ツヴァイの左手には青いMG−500…正確にはMG−250が握られている。信男の持っていたものを奪ったのだ。早い話、ACを撃破してボーナスもらうよりこいつを売っ払った方が高い。ついでに言うとレイヴンの需要は日増しに増加している。下手に数を減らして増えた仕事にてんてこまいは勘弁してほしい。 
 ……まあ頭とコア以外は全損又は損傷(あるいは強奪され)して被害額も相当になるだろうから覇太郎をしばらく見る事は無いだろう。 
 
 
 
「またパスタ…………」 
 翌日、ラピスは再び食堂で陰鬱に呟いた。 
「いい加減どっかに外食行こうか?レジーナ」 
 ダークブルーの髪に青のデザインジャケットを着た二十歳そこそこ、ラピスと同年代らしい女性は無言で頷いた。彼女も部屋は違えど同じ施設の仲間だ。同じくパスタに辟易している様子。 
 
「…で?エクレールはいつ帰って来るの?」 
 レジーナが尋ねた。 
「明日には帰るでしょ。警備システムのプログラミングミスで警備メカが暴れてたそうよ」 
 クリームソースを絡めながらラピスは無感情に答えた。レジーナはパスタを一口してから疑問符を浮かべた。 
「…あれ?警備メカを壊すにしても止めるにしても随分時間かかってない?」 
 レジーナはラピスより二つ下だがその挙手挙動は若干幼く見え、十代を思わせる。三年前に父を探してレイヴンになったはいいがこの世界で生きるのは厳しい。ラピスとは試験で助けられてからの付き合いだ。ラピスの指南のおかげで他レイヴンに潰される事なく才能を昇華させ、今や地上に出撃出来る権利も手にしている。 
 そんな過程からレジーナはラピスを先生と呼ぶ。 
「あの要塞広いからねー、今日で四日だっけ?プログラミングやり直してるんならそんなもんでしょ………ん?メール?」 
 ラピスは食事中のみならず落ち着いてる場所ではいつも端末を開いている。儲け話を逃さない様に。 
「なんだジリアか…。ああ、やっぱり覇太郎、稼業休業しちゃったか。アリーナの彼への挑戦不可、になってるって」 
 なんだは無いだろう。そう注意してくれる者はここにはいなかった。ラピスというレイヴンを知ってる者はみんなしてあえて黙っている。覇太郎には気の毒だがこれがレイヴンの常だ。 
 アリーナと聞いて思い出した様に向かいからレジーナが乗り出して来た。わくわくとした瞳はやはり十代を思わせる。 
「そういえばさ、今度アリーナでGとアイアンマンの試合あるんだって!一緒に観に行かない?」 
 Gとアイアンマン…アリーナを語る上では欠かせないと言われる程の名勝負を繰り広げるランカーだ。ランクはCと低めだがアリーナでは語り草になっている。観戦者も試合毎に増すという。 
「んー?Gとアイアンマン〜?………やめとく」 
「え〜なんで?前座も結構豪華なのに」 
 パスタを噛み切ってもぐもぐしながらやはり無感情に答える。 
「べふにひょうみないひ〜……じぶんがれるなら行くけろ」 
「………飲み込みなよ」 
 悪癖だ。ラピスはパスタを飲み込むと気を取り直して言った。 
「エクレールと行ってきたら。レイヴンになってから興味津津だから断らないわよ絶対」 
 アリーナにはしばらく行っていない気がする。行けば余計な挑戦してくる者がいて面倒だ。リトルベアは特殊なケースだが普通にBランクから挑戦してくる者は多い。Aの下だと思われているからだ。 
 地上の情勢が変わりつつある今、アリーナより地上の様子を見る必要がありそうだ。 
 ラピスは軽く嘆息するとパスタを平らげにかかった。 
 
 
 
  あとがきに代えて  著:ラッド 
 どうもこんにちわ。何故私が書いているのかといいますと、彼はパソコンによるネット環境が無いので私が代理人として投稿させて頂いているからです。 
 あ、この話のあとがきが無いのは仕様です。私が掲載し忘れたとかじゃないんで。 
 それと何故ミッション数が『.5』付きというのは…そもそもラヒロ氏は私のACにおける師匠にあたるのですが、私めがSS書こうとした時に、世界観やらの細かい設定をあれこれと相談に乗ってもらったんですね。 
 で、私が一つ書き出した時に、彼もやってみるか、と思ったらしく。 
 折角色々と口出したんだから、と世界観合わせてくれたようで。わざわざこちらの話のサイドストーリーとしたのは曰く、いざって時に私に責任を……って本気かー!? 
 まあそんな理由で、時間軸は同時進行となっております。 
 それと、こちらの話に私の話のキャラの名前とか、私の話でこちらの話のキャラ名とか出て来たりしますが…たまたま同名とかじゃないです。同一人物です。 
 とりあえず別々に読んでも大丈夫なように心掛けてはいるつもりですがね。 
 では、今後もこの女レイヴンの活躍に期待させて頂きましょう。 
 
 
イヴァ=ラピス(25) 
Aランクランカー。 
若手の凄腕レイヴン。レイヴン稼業を始めてから五年、天賦の才とACへの順応性を見せ、瞬く間にAランクに登り詰めた。数少ないオリジナルインテンシファイ所有者だが使用は稀。 
一度コーテックスから登録を解除していたがしばらくしてから再登録。またもやAランクにまで登り詰める。 
金にうるさいが模範的なレイヴンの生き方をする彼女を否定する者は少ない。 
アリーナでは機動力を活かした華麗な戦いぶりと彼女のスタンダートな容姿から支持者も多い。 
ちなみに男関係の話は皆無。噂も絶えないが稼業の目的の一つは老後と語る辺り、その気は無いらしい。 
AC:ツヴァイリッター 
頭:CHD-SKYEYE 
コア:MCL-SS/RAY 
腕部:CAM-11-SOL 
脚部:MLL-MX/077 
ブースター:MBT-NI/MARE 
FCS:VREX-F/ND-8 
ジェネレータ:CGP-ROZ 
ラジエータ:RMR-SA44 
インサイド:None 
エクステンション:CSS-IA-64S 
右肩武器:CWR-M30 
左肩武器:CRU-AA01 
右手武器:CWG-MG-500 
左手武器:CLB-LS-2551 
オプション:S-SCR E/SCR S/STAB E/CND L-AXL L/BRK L/TRN R/INIA 
ASMコード:IO8UP1XWAcu94FrW82 
 
ライネット=覇太郎(29) 
一言で言うと傍迷惑な熱血き○がい。昔はかなり優等生だったらしいがいつ何処でこうなったかは誰も知らない。 
AC:一斉射撃!破壊神・信男 
深緑の中量ニ脚型AC。火力に重点がおかれ、EO、ハンドミサイル、小型ミサイルに連動ミサイルを一斉に放ってたたみかけるのが得意技。 
高い火力の反面、ラジエータを始めとする放熱機構は劣悪で、斉射中に被弾してしまうと瞬く間に熱暴走を起こす欠陥有り。 
作者:ラヒロさん 
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