MISSION NO.2.5
MISSION NO.2.5
CODE:CHANGEABLE WAVE(移り気な波)
薄暗い空間に、かちゃかちゃと無機質な音が響き渡る。天井には空間全体を照らせる明るい照明が備え付けられてはいるが今は一部の照明が朱い巨人を浮きだたせるのみ。
朱い巨人。ツヴァイリッターの胸部コクピットからGパンの下半身を覗かせる女……。ラピスは姿勢を正してふう、と小さく嘆息した。
(火器管制はこれで……後はー…)
愛機の調整。ほとんどはフレックに任せているが最後の調整は自分がやる。レイヴンでなくとも当たり前だ、これに命を預けて戦うのだから。
それに組み換え後なら尚更だ。ツヴァイリッター任務仕様。アリーナ用とは打って変わって中量二脚に汎用性を重視した構成がなされているのが特徴だ。アリーナ用とはコアも含め、パーツがほとんど違う。
レーザーライフルにEX連動付きの中型ミサイルに高性能レーダー。機動性は並み以上で高いレベルでバランスがとれている。丁度、レイヴン試験で乗る全てが低性能なAC――通称、「初期装備」を任務用に昇華させた作りになっている。
ラピスは各部接続チェックを終わらせると電源を落とした。
「……よっし。じゃあ、また明日ね」
コクピットから出て、装甲をぽんと叩くと、ラピスはガレージを後にした。
「今日は卵か……」
夕飯時、いつもの食堂でラピスはぽつりと呟く。少なくとも卵は日持ちしないので明日にはメインが変わるだろうが、味付けのされていない冷めたオムレツをやむなく口に運ぶ。
…今度ソースと青海苔でも持ち込んで「おこたま」にでもしてやろうか。乾物は生と比較すると手に入りやすい。日持ちもする上に需要も生物程多くない。
「ただいま」
ラピスの向かいに二人、同じくオムレツを持った女が座った。
「お帰りなさい。…で?首尾は?」
「Gの逆転勝ち。面白かった〜、来たらよかったのに」
うきうきと言うレジーナはオムレツを口にして顔をしかめた。隣りのエクレールがセットのコンソメスープに手をかけて言う。
「本試合前に少し騒ぎもあってな、係の者は大変だったろうな…」
「ん〜?Gとアイアンマンが乱闘でも起こした?」
「いや、知らないでもいいだろう……まあレイヴンなんてああいう妙な連中の方が多いか。…血が壁や長椅子に付着したりしてな」
一人で頷いて自己完結させるとエクレールも食事に入る。流血沙汰になったのか……まあさして珍しい事でもない。過去にレイヴンの集まるあの場所で死人が出た事もある。
そもそもレイヴンとはなんでもありの鴉だ。今、何処で何をしているか分かる訳が無い。
大体この居住施設。エクレールとレジーナ以外に何人ランカーがいる事か。
ラピスはしばらく訝しんだが今は食事中。大した思考も巡らせずに水を口に含んだ。
「……で?小熊さんからの催促は来た?」
「拒否アドレスにした」
「…フられたわね」
肩をすくめてエクレールが言う。
リトルベアには悪いがいちいち暇人の相手をしている程時間は余って無い。ストレス溜まったらそのうちこちらから出向いてタコにしてやろう。
明日からも依頼、仕事がある。シャワー上がりのラピスはTシャツにクォーターパンツ姿で、湿った髪をタオルでこすりながら言った。
「ラファール、明日はフリー?」
相部屋と言うのは楽だがこの部屋に二人は少し窮屈だ。二段ベッドの下に腰掛けてエクレールは端末で予定を確認した。
「……明日はローン・モウアとの試合がある」
新人のアリーナでのアプローチは大切だ。この先、レイヴンとしての明暗を分けるEランク、うまくすれば知名度も高まり飛躍出来るという寸法だ。ちなみにラピスに言われた事である。だからしてラピスも僚機の誘いは諦めた。
「イヴァはこれ以上ランクを上げようと思わないの?」
ラピスのランクはA-4。女性レイヴンとしてはトップランカーだ。ラピスがAに上がる以前、即ち新人の時はBランクにいたワルキューレなんかが有名だったが、今やラピスは最強の女とまで呼ばれている。
「え?…私の力量ではここが限界だと悟ったから無理にフォグシャドウに挑まないのよ。当たり前じゃない」
「………その気になればメビウスリングをも倒せる筈だ」
エクレールの瞳は真剣だ。ラピスは視線を外すと手を力無く振った。
「あんなのにサシで勝てる奴いないって」
そう言うとラピスは上のベッドに乗り、チップスをかじりだした。
エクレールが駄目なら仕方無い。翌日、ラピスは単身、ミラージュからの依頼でクレストの要塞VG-924に侵入する任務についた。前に警護した要塞に襲撃をかけるのもレイヴンなら特に咎められはしない。
内容は単純。防衛網を突破して要塞周辺で陽動しろという。ラファールがいればステルス等の隠密性で楽だったかもしれないが防衛網というのはライト照らしてうろうろするAIヘリ。撃たれたらさすがに反応するがブレードで一撃必殺すれば後は何も変わらない。期待以上に粗末だ。無人機の統括をしている有人機が混じっていれば相手の裏をかいて見事な仕掛けだっただろうが先日、この要塞を警護したのだから地形も分かるし突破も容易だ。
程なくして大した難もなく、要塞近辺に辿り着いた。
「侵入部隊より報告!内部にACを確認との事、敵はランカーACが2機……。?……駄目です、通信途絶」
ラピスはジリアの言葉を聞きながら眼前の光景を見据えていた。
夜空から月に照らされて、砲台はもちろん、警護部隊、サーチライトにクレーン……全てが残骸と化して要塞周辺に崩れていた。
「ミラージュ社より、増援を向かわせたので共同で敵ACにあたって欲しいとの事です………ラピスさん?」
「…了解。特別報酬は期待できそうね」
ラピスは背筋に感じた威圧感を忘れると、ツヴァイを要塞に向けて歩かせた。
程なくして輸送ヘリが到着した。…よくよく考えたらあれで空から仕掛けてやればよかった。
降下してくる赤いAC…ファイアーバード。カロンブライブか。Aランクの自分といい、なかなか羽振りのいい事で。
『まさかツヴァイリッターのお供とはな……』
「御不満?」
御互い朱い霊鳥を肩にもつ者だ。アリーナでの挑戦試合は不死鳥と迦屡羅との激突だと幾らか注目された。前日はメールで三流だの二番煎じだのと酷く言われた。…まあそれで機嫌を損ねたラピスは当日、マシンガンを持たずに出場し、ロック武器皆無な状態のアリーナツヴァイでファイアーバードを斬り捨ててやった。
『いや……光栄だ。さあ、まずは仕事だ』
要塞のゲートが開く。僚機という立場を守ってかツヴァイの後ろにつく。仮に今ファイアーバードがあの時の腹癒せとばかりに発砲してきても返り討ちは可能だ。だが不死と言われたレイヴンが本当に帰ってこなくてはただのお笑い草である。彼の性格とプライドから見ても僚機としては信頼できるだろう。
次のゲートが開く。ツヴァイ、バードの順に開けた部屋に入る。
『敵はランカーだ、油断す――何者だ!?』
ツヴァイとバードが反射的にライフルを向けた。
黒煙を上げ、崩れる二機のAC……胴から斬り放されたタンク脚と…両腕を斬り落とされ、コアに穴が開いた逆関節脚……データ照合。アリーナDランク、ユートピア及びヴェノムランス。通信で言っていたのはこいつらか…。
『気をつけて…あれは…』
「セブンスヘブンは生きてる?…見ないACね」
『アリーナに登録は無い。だが……』
そこに立っていたACに、違和感を感じずにはいられなかった。
紺の軽量二脚AC。それだけならまだし、その外見は常軌を逸していた。
『適合データ無し。ラピスさん、恐らく企業か個人の所有ACかと……』
使い手の少ない武器腕、通称デュアルブレード。武器らしい武器はそれだけだ。少なくとも、肩に装備は無い。EXに装備しているのはバックブースターか。
この装備で二機をやった?ラピスの緊張が高まる。あれは並じゃない。
『どうする』
「どの道怪しい奴を逃がす訳にもいかないでしょ。向こうもお待ち兼ねみたいだし。ジリア、データ収集よろしく」
ツヴァイとバードが動くと同時に向こうも動き出す。まずはファイアーバードがターゲットか。バードに相手を任せてツヴァイは距離を保って回り込む。…本来なら立場は逆だが。
バードが爆雷ミサイルを放つ。
(馬鹿…!)
ラピスが胸中で舌打ちする。動きが機敏な軽量級に爆雷ミサイルは無意味だ。フォローする様にロックオン、レーザーライフルを撃つ。
やはりと言うべきか回避される。しかも微妙な、必要最低限な動きで回避…、ラピスはなんとなく嫌な予感を覚えた。エクステンション起動、ミサイルに切り換える。ロックスピードが最速なND−8なら2ロックも瞬く間だ。だがロックが外される…解除パルスか。
バードが敵とぶつかりデュアルブレードがライフルもろともコアに十字斬りを入れる!
『うおおおっ!』
速い!…一発違っても大した差は無い!ラピスは向こうの硬直を狙ってミサイルを放った。
バックブースターが点火、ACは後方ではなく上方に上昇して躱す。同時に響く吸引音…OBか!
ゲートを破壊して突き抜ける。最初から逃げる気だったか!ラピスは舌打ちしてOBで追ったが持続はしても向こうは中量級で追いつけるスピードでは無かった。
要塞外部でツヴァイは戦闘モードを解除した。
「レーダーからも反応消失……ジリア、どれだけ解析出来た?」
『…駄目です。内部機構に関する情報は得られなかった様です。外見から察するに恐らく内部も相当改造は加えられているかと…。私個人の見解ですがあれはどこかの私設部隊か企業の放った裏社会で暗躍するACではないかと………ラピスさん、聞いてます?』
(非公認…昔の私……?いや…組織か……)
デュアルブレードの扱い方と改造されたEXブースター…向こうがその気であれば今のツヴァイでは十中八九撃破されていた。
だがラピスが今最も気になっているのはまた別の事だ。
「ところでジリア、なんか事情が混み合ってるけど報酬はちゃんと出るんでしょうね」
通信機の向こうでがくりと肩を崩した音がした。
『は、はあ……恐らくは振り込まれるかと』
「念の為ミラージュに釘さしといて」
解せない事は多いがとにかく儲かった。何しろミサイル三発しか消費していないのだからきっと口座は素晴らしい事になるだろう。
『ツヴァイリッター、奴は…』
カロンブライブの疲弊した声が聞こえた。ラピスは思い出した様に通信に応じた。
「ロスト。そっちも機体は大丈夫?」
『ああ…コアをやられて動くのが精一杯だがな。何だったんだあれは……速いなんてものでは無かった』
「一瞬でやられた言い訳?」
『狙われていたのがそっちなら立場は逆だっただろう』
「さあそうかしら?動けるなら一人でも大丈夫よね。私はもう行くから。セブンスヘブンはクレストが回収するでしょ」
忘れてはいけない。今はミラージュに雇われた身。つまりここは敵地だ。用が済んだらさっさと引きあげる。
ツヴァイは夜闇に消えて行った。
「…で、今度はクレストからの緊急依頼なわけ」
撤収の後、輸送機との合流ポイントで待つ間にラピスは端末を開いた。
『差出人:クレスト 件名:緊急』
『緊急事態が発生した。サイレントライン付近に建造中の防衛拠点周辺に軌道上からレーザー砲が撃ち下ろされ始めた。サイレントラインの範囲は予想以上に広い様だ。衛星砲による被害は免れないが我が社が懸念しているのはこの機に乗じてミラージュの部隊が接近している事実だ。砲撃を受けるとはいえ、この辺りの豊かな鉱脈をミラージュに渡す訳にはいかない。危険は承知だ。接近している部隊を迎撃してくれ』
ラピスは受諾メールを返した。上位ランカーが必要だがフォグシャドウ以上のAランクに頼みにくいからといってこちらに回すのはなんとなく勘弁して欲しい。だがこういう急な任務は実入りも期待出来るのも事実だ。
「連戦か……ま、疲れた訳でも無いけど」
『ラピスさん!何勝手に依頼受諾してるんですか!』
早速情報がまわってきたのか反応が早い。ジリアのコクピット内に響く怒声のおかげで直接的な意味で耳が、いや鼓膜が痛かった。
『この作戦開始時間、このまま現地に向かう気ですか!?輸送機にはACの回収任務と伝えてあるのに、勝手な事をしてコーテックスに睨まれるのは私なんですよ!現場での依頼受諾は私が先に判断するんです!長年レイヴンやってるなら分かっているでしょう!』
早口にまくしたてるジリア。ラピスはしばらく耳を塞いでそれを聞き流した。聞けば頭が痛くなる。
しばらくして輸送機は到着した。予定外の指示にパイロットはとまどっていたが金一封の力でかなり協力的になってくれた。さすが地獄の沙汰もなんとやらだ。
『レイヴン、目的地に到着だ。健闘を祈る』
「ありがとう、そちらも上から撃たれない様にね」
輸送機のハッチが開く。陽はもう頂点に達している筈だがあいにく曇天だ。高度は千もないらしい。ツヴァイは輸送機から飛び出すとブースターで落下速度を調節して、ヘリポートブースに着地した。
『よく間に合ってくれた。敵部隊はここ、ローダス兵器開発工場ベースで止める。もう接触まで時間が無い、そちらの準備はよろしいか』
昼食がまだだが言っている場合ではない。差し当たっての懸念を改善しなければ。
「…できれば中型ミサイルと小型ミサイルが数発欲しいんですけど?」
『近くに補給車があるだろう』
さすが兵器工場、確かに弾薬補給車が数台見えた。大概の弾薬はこれ一台でまかなえる。ちなみに……当然だが進んでこの車に乗る奴はいない。
ラピスはその中の一台にミサイルを三発、装填を頼んだ。
コクピットのハッチに腰掛けて風を受けながら簡単なゼリー状の栄養食をすすっていると通信が入った。
『レイヴン、敵部隊を捕捉した!間も無く作戦領域に入るぞ!』
ラピスは手にしていた栄養食を一気に吸い込み、容器を放った。素早くシートに移り、ベストとベルトを締める。
『敵はポータータイプとトラーゲンが十数体、尚、砲撃がこちらに接近しつつあるとの事です。注意して下さい』
「んむうむ、るむぬんう」
『……は?…………ラピスさん、早く飲み込んで下さい』
いつもに増して酷い悪癖ではあるが手はいつも通りに動いている。
『メインシステム、戦闘モード 起動します』
男性の機械音声が告げると同時、ラピスは喉を鳴らすとレーザーライフルを構えた。
来た、やはり脚の速い高機動飛行型MTトラーゲンが先か。先にこちらがロックオン、レーザーライフルが放たれる。
完全にロック補正をかけても、弾を回避出来る機動性をもつのがトラーゲンだ。中クラスのレイヴンでも易々とはいかない。だが距離があるにもかかわらず、ラピスは確実に当てていく。撃つ直前に手動で補正を加えているのだ。
レーザーを二発も当てればトラーゲンは沈んだ。
「OPの威力強化の賜物ってね!」
連射速度も消費エネルギー効率も底上げしている。さらに一機トラーゲンを落とすのに時間はかからなかった。
レーダーにミサイル反応、ブースターを吹きミサイルに回り込む様に走る。こうすれば大概のミサイルはついてこれない。ラピスは遠距離にいるアローポーターにレーザーを撃ち込んだ。すぐさまミサイルに切り換えて追い討ち、アローポーターが撃破されるのを確認する前に新手のトラーゲンと空中戦になる。
『ラピスさん!レーザー砲による砲撃が作戦領域に到達!直撃すればただでは済みません、当たらないで下さい!』
「そんな無茶な……」
2551がトラーゲンを断つ。直後、眼前に赤い光が降りるのが見えた。
(赤外線照準……!?)
すぐさまブースターを吹かして後ろに退がる。青白き光の柱は施設の床を貫き、地面を穿ち、弾けた。
目が焼かれるような激しい光に、一度だけラピスは苦い顔つきで虚空を見上げた。
「くううっ!どいたどいた!」
ブレードが唸り、トラーゲンが断たれた。背景に光の柱が工場棟を破壊する。
『ラピスさん、狙われてます!』
「分かってるわよ!言われなくとも!」
ツヴァイに赤い線が当たり、すぐさまそれをブースター移動で外す。直後レーザー砲がツヴァイのいた場所を穿つ。
その繰り返し。何故狙われているのかはさっぱりだが狙われているという事実がとにかく問題だ。MTは構わず撃ってくる上にレーザー砲まで敵に回るとは厄介だ、厄介だが……ラピスに乗り切れない向かい風ではない。
一定周期で狙ってくるレーザーを利用させてもらう。ラピスはアローポーターの頭上に滞空した。
照準が降りてくる。OBを起動、ツヴァイは一気に離脱する。
アローポーターは光に崩れた。ツヴァイのミサイルがトラーゲンを撃ち、レーザーライフルがそれにとどめを刺す。…これで全部か?
………ふと先程と変わった状況に気がついた。周りの景色は工場施設とは思えない程酷い有様だ。だがもっと別の、今大事な事。
『レーザー砲の砲撃停止!?…ミラージュ部隊全機撃破を確認』
その言葉を聞いても、ラピスは終わった気になれなかった。施設が爆ぜる静寂がただ頭に響く。
何かが…来る。
『……新たなAC反応を確認?所属不明機…!ラピスさん、サイレントラインに現れるという白いACです!』
(ほーら的中……!)
飛来したグレネードを跳んでかわす。…間髪入れずに放たれたミサイルがツヴァイの真横をかすめた。
「重量級なんて…!」
エクステンション起動、連動ミサイルが合わさり三発のミサイルが敵機に直撃する。…まだこの程度では重量級の装甲を貫けまい。さらにライフルで追い討ちをかける。
…気になるのは右腕の大砲。バズーカにしては形が妙だ。だとすればレーザー兵器か。
こちらのリクエストに答えてか、敵機は大砲を構えた。
砲口が光る、やはりレーザーキャノンか!地を駆けるツヴァイは横にかわしてさらに接近しようとするが……
(連射っ!?)
視界、モニター一杯に光が広がる。痛い位響く連続的な衝撃音、ラピスは目を閉じつつもとにかく機体を後退させた。
『ラピスさん!』
「っつ………!カスタムメイド?やってくれるわね…!」
手早くツヴァイの損傷を確認。コアと右肩にレーザーが直撃した。幸い装甲がやられただけで済んだらしいがかなりの威力だ。
「…左はブレードか。手の内は全て分かった、これで互角!」
グレネードとミサイルをかわし、ブースターで再び接近する。
大砲を構えた。ラピスは唇の端を上げるとツヴァイの腰を軽く沈めた。
レーザーキャノンが放たれた。一発目を左にかわす。二発目を右に、スラロームの要領で左右に機体を揺らしてさらに距離を詰める。
「武器が子供騙しなのよ!」
ブレード2551が光を放つ。無人機なのは知っている。だがAI回路はコアか?頭か?…敵機のブレードが光る。
どちらでもいい。密着する。最大出力で頭を貫き、一気にコアまで斬り下ろす。…ミサイルで装甲を削っておかねば刃を止められていたかも知れない。やはり月光を持つべきだろうか?
防御に使ったツヴァイの右腕を、半分まで斬って停止した敵のブレードを見てラピスは胸中で思案した。
『……完全沈黙確認。ラピスさんお疲れ様でした…ふぅ』
「何溜め息ついてるのよ」
『当たり前ですよ!いつレーザーが当たるか気が気じゃなかったんですから』
『まさかあの砲撃の中で生き延びるとは…感謝する、レイヴン』
ラピスは白いACから離れるとライフルを下ろした。
「…で、この人形は置いといてもいいのね?」
『ああ、こちらで回収する。貴重な研究媒体だ。特別報酬も本社にかけあってみよう』
『特別報酬』の言葉にラピスは胸中で小躍りした。 後は帰還するだけだ。勝手をしたが輸送機の手配はうまくいくだろうか?
謎のACにも興味はあるが必要以上に感知すれば枷がつくだろう。控え目に分かる範囲で調べる様にしておくとラピスは結論づけた。
「装甲費がかかるわねー、何で?」
ガレージ。ツヴァイの前でラピスは油で汚れたつなぎを着たフレックと、修理云々の経費について見積もりを立てていた。
「レーザーでも受けたんでしょう。傷は、浅いが面積が広い。換装する数も増えますよ」
「ん……まあ今回は実入りがよかったから多少は目をつぶるけど…うまくやってよ?」
うまく、と言われてフレックは了解です、と笑った。
「ああ、アリーナに顔出さないといけないから終わったら換装もお願い。期日はえーと……三日」
フレックは油のついた黒い指を立てて了解の意を示すと声を張り上げた。
「おーし、始めるぞ!バスカーとクライブは武装、アイグレッタは……」
後は任せておけばいい。ラピスはガレージを離れた。
「ようやく見つけたぞ。イヴァ・ラピス」
「あら、戻ったのファナティック」
手入れが雑な薄緑のロングヘアーにベストの型をしたジャケット。そして右目にはめた赤い眼帯……レイヴン周りでは最も付き合いが古いファナティックはいつも通りの自信あり気で冷たいニュアンスを含んだ言葉で言った。
「ああ、研究施設で一週間…気が変になる。久しぶりに誘ってやろうと思ってな」
何気に高圧的だがそれが彼女の地だ。ラピスもとうに慣れている。微笑してOKした。
落ち着いた雰囲気のバー。暗い照明がアダルトな空間を演出している。
「どうもこういう店は好きじゃないのよね」
カウンターで安目のカクテルを仰ぎながらラピスは陰鬱な声で呟いた。
「例の白い奴とやったそうだな?ローダス工場が壊滅だと周りが騒いでいた。……よくもまあ無事だったものだ」
どういう事?ラピスは目で聞き返した。
「あれに出くわした時の生還率は知っているか?加えてレーザー砲……ま、お前なら生きてて普通か」
ファナティックはフンと鼻で笑った。ラピスはしばらく黙ってファナティックの様子を伺っていた。
「そろそろ太刀風の本領発揮か?」
「………今の私はA−4で精一杯よ」
ファナティックは静かに笑った。
「『営業部長のラピス』はな。『太刀風のイヴァ・ラピス』……いずれ必要になる。私はそう見ているがな。いつまでも営業用の機体を駆る気か?」
ラピスは問いの返事も返さずにファナティックから視線を外すと、青い液体を一気に流し込んだ。
必要なら…太刀風は起きよう。ツヴァイリッターという朱き風が。
ラピスは雰囲気に呑まれぬ内に、早々に席を立った。
あとがきに代えて 著:ラッド
どうもこんにちわ。また来ました(爆)
今回、ラピスとXが戦闘しておりますが(短かったけど)、これが始めて互いのオリキャラさんが顔を合わせた所でして。
せっかくコラボしてるんだから、もっと盛んにやった方がいいような気はするんですが…
いや、しんどいんすよね、これが。愚痴ってばかりもいられませんが。
戦闘って会話とかは回線切れば言い訳できますけど、オリキャラだけに戦法や癖とかよく分からないし。
まあ話が進めば…もうちょい接点増えるかなー、みたいな…
とりあえずレイヴン業界も広いんだぞって事で、強引に納得しておいて下さい(おい)
余談ですが、冒頭の方でエクレールが『本試合前に少し騒ぎ』とか『血が壁や長椅子に付着したり』とか言ってるのって、
こちらのミッション2でシズナがキャロをぶん投げた場面だそーです。
作者:ラヒロさん
|
|