サイドストーリー

EPISODE 20 ダクト内の激戦
深夜12:00、ここ、通気用ダクトC3ー11。
このダクト内に、クレスト社が取り付けた強力な「電磁波発生装置」が、轟音をたてて動いている。
これは、管理者部隊の侵攻を防ぐ為に仕掛けた物である。
だが、この事に1つ、盲点があった。それは、隣接セクションのミラージュ施設の大半が、被害を受けていると言う事だ。
この事でミラージュは、昨年のキサラギとの採掘場での問題と同じように、社員たちを毎日毎日現場に送り込んできては、
「装置をこれ以上取り付けるのはやめろ」「我が社を潰すな」と、うるさく喚かせて、
その傍ら現場に来ては、ダクト内の発生装置の解除を訴えている。
それに、装置の取り付けは、クレストのトップが決めた事だし、
「管理者部隊の侵攻を防ぐ為に取り付けをした」という正当な理由があるし、それが訴えられても不当と決まったわけでもない。
この頃に管理者部隊が各地で暴れ回っていることから、被害を押さえる為の正当行為をやめろといわれても困る。
このことで正当な理由をクレストに突き付けられたミラージュは、もう1つの手段を思い付く。
それは、複数のレイヴンによる装置解除作戦のことだった。

「繰り返す、現在攻撃を受けている・・・」
クレストの警備部隊の隊長がインカム片手に叫んでいる。
どうやらミラージュの雇った4人のレイヴンが潜入して、内部のクレスト警備部隊の殲滅に入って来たようだ。
警備部隊の戦力は、浮遊型戦闘メカ「パファー」6体、ガード砲台「バーマクル」8体だが、
あまりにも4人のレイヴンの猛攻を防ぎきれる戦力ではない。すぐに撃滅されてしまうだろう。
「は、速い!!・・・ぐぁぁぁ・・」
「ミラージュめ、レイヴンをやと・・・ぎゃあ!!」
「助けてくれ、助け・・・うっ、うわぁぁーーーーー!!!!」
クレストの警備部隊は全滅した。その警備部隊を全滅させたミラージュの雇った4人のレイヴン・・・
「アップルボーイ」「レジーナ」「コールハート」「スパルタン」の4人。

「こちらザ・サン・コールハート。どうだ、見つかったか? スパルタン」
コールハートが通信を送る。
「こちらテンペスト・スパルタン。見つからない。ダクトの複雑な構造のせいでターゲット・ポイントセンサーのほうも役に立たん」
スパルタンが通信を返す。
「こちらザ・サン・コールハート。気をつけろ! あまり時間をかけすぎると機体が持たないぞ」
コールハートがスパルタンと他の2機に通信を送る。
「くそ! どこにあるんだ! 時間をかけ過ぎると機体が・・・」
アップルボーイのほうも、ダクトの通路内を駆け回り、発生装置を探していた。だがその時、通路奥のほうで何かを発見した。
「これは・・・」

一方、レジーナのほうは、2つ目のダクトの中央に装置があるのを発見して、
「あ、あった! これだ! こちらエキドナ・レジーナ。1つめの装置を解除した」
レジーナは三機に通信を送る。すると、
「こちらザ・サン・コールハート。こちらのほうも装置を発見、解除した」
「こちらテンペスト・スパルタン。装置発見、解除する」
「こ・・・こちらエスペランザ・アップルボーイ。通路奥の装置を発見、解除する」
どうやら他の3人も装置をやっとの思いで発見したらしい。解除した後にAPの数値の減少が止まった。
そして、クレストオペレーターから通信が入る。
「全装置の確認を解除しました。帰還して下さ・・・!? 第一ダクト内にACが2体進入!!
 ランカーAC・パトリオットとスクリーミングアニマルです!」
「ACだと!? 冗談じゃないぜ!!」
「“双角の鬼神”が来たのか・・・・厄介だな」
スパルタンとコールハートの2人が叫んでいる。
「全レイヴン、すぐに迎撃に向って下さい!」
オペレーターの指示が入る。生薑ないので全員迎撃に向う事にした。

「ミラージュのレイヴン・・・やはり来たか! こちらスクリーミングアニマル、敵ACを確認、これより殲滅する!」
最初にスクリーミングアニマルがダクト内に飛び出した。
その後にパトリオットが続くが、中でツインヘッドBは、ドラゴンキングのことを思い出していた。
「彼は・・・キングは死ぬ前にこう言っていた。『弟さんと共に俺の分も生きていてくれ』って・・・
 でも、一体どうしたら・・・私は・・・私は・・・・ッッ!」
涙が出そうになる。すると、
「姉さん、どうした!? 出撃だ!」
と、ツインヘッドWの通信で、ハッとした。そして、
「こちらパトリオット、敵ACを確認、これより殲滅する!」
と、ダクト内に飛び出した。
「やはり現れたか! “双角の鬼神”ッ!!」
コールハートは敵に通信を送る。
「俺は何時だって死に損ないだ!!」
ツインヘッドWが送り返し、コールハートと一騎討ちに持ち込んだ。
パシュ、パシュ、パシュ!!
ドズォォン!! ドズォォン!! 
シュォォォォォオォォーーーーー・・・バグゥォォン!!
ドガゥッ、ドガゥッ!!
「武器の威力は良いが、スピードが遅いんだよッッ!!」
ツインヘッドWは再びデュアルミサイルを射出する。四つのミサイルが弧を描いて飛んでゆき、
コールハートはミサイルが飛んできたと同時にエクステンションのブーストのトリガーを引き、同時にコアの迎撃装置を作動させた。
「こっちだってやられるかッッ!!」
パシューーッ・・・ズバァム!!
「迎撃装置にはミサイルは通じないか!! されば接近戦しか!!」
ツインヘッドWはブーストのトリガーを前に倒し、一気にコールハートの距離を縮めた。
「接近戦と来たか!!」
迎撃装置封じに接近戦を挑んできたと読んだコールハートは、距離を引き離そうとブーストのトリガーを後ろに倒し、
そのついでに大型ロケットを撃とうと構える。
「喰らえ」
コールハートはスクリーミングアニマルの頭部めがけて大型ロケット弾を放った。 
  ドシュゥゥゥゥーッ、ドゥン・・・ズガッ!! 
「うわあああッ!!」
大型ロケットを喰らった途端に、スクリーミングアニマルの衝撃が高まる。スクリーミングアニマルの頭部は、前半分を失っていた。
「弟よ!!」
スパルタンと戦っていたツインヘッドBが、弟を助けようとしてコールハートに突撃していく。だがそれが命取りとなった。
「何を余所見している!!」
スパルタンが叫びながら、パトリオットに向って特殊弾倉ミサイルを放った。
バシュッ・・・ガガガガガガガガガガガ!!
「!? きゃぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁ・・・!!!!」
後方から突然現れた無数の小型ミサイルに襲われたツインヘッドBは悲鳴をあげる。
そして、爆発するまでの刹那、ツインヘッドBの胸の中に浮かんだもの。弟、ドラゴンキングの姿がある。
ドラゴンキングの最期の言葉を聞いて、もっともっと生きていくと言う自分の主張。それが消え去っていく。
そして、自分の最期の言葉を呟く。
「ごめん・・・よ・・・弟よ・・・キング・・・もっともっと・・生き・・ていく・・ことが・・できなく・・・て・・」
ツインヘッドBの頬を一粒の涙が流れた。その途端に大爆発に襲われて、蒸発した。

ガガガガガガガガガガガガガガ!! ズガン、バァァン!! ドガァァァン!!
大爆発を起こし、炎を巻き上げて倒れていくパトリオット。それを見たツインヘッドWは、
「ねっ、姉さん!? う・・お・・・うおおおおおおおおおおおおお!!!」
ツインヘッドWは悲しみとも怒りとも区別が付かない叫び声を挙げて、スパルタンに突っ込んだ。
スパルタンがマシンガンと投擲銃を同時に放ってきても、それを受けても炎を纏いながらスパルタンに突っ込んでゆく。
その途端にコールハートが大型ロケットと武器腕バズーカを同時に放った。放たれた弾は背中のブースターパックを貫通して、
さらにコアのコックピットまでもを吹き飛ばした。爆発を起こすスクリーミングアニマル。
(壊れていく・・・僕の機体が・・僕の全てが・・僕の体が・・・僕の幸せが・・・・)
機体が大爆発を起こして消え去ろうとする刹那。この途中で、そう思いながら、ツインヘッドWの頭に浮かんだ最後の記憶。
それを見て、ツインヘッドWが小声で呟く。
「姉さん・・・・」
彼の頭に浮かんだ最期の記憶。
それは、今まで自分とともに数々の戦場を回り、共に戦い、共に笑い、共に泣き、共に道を歩んできた、笑顔を見せる姉の姿だった。
「・・・あれ? もう済んだのですか?」
駆け付けてきたアップルボーイとレジーナがきょとんとしていた。2体のAC、それと黒い煙をあげる2体の敵ACの残骸。
「ああ・・・もう済ませておいた。大丈夫だ」
スパルタンが言う。
「なら、これで作戦成功・・・」
コールハートが言いかけた途端、オペレーターの慌てた言葉が飛んできた。
「第2ダクトに未確認ACが進入!! フロートタイプの、黒のカラーのACです!!
 これも・・・敵!? 全レイヴン、迎撃に向って下さい!」
「黒のカラー・・・!? フロートタイプ・・・!? まさかッ!!」
アップルボーイは上下ブロック連絡通路の入り口に飛び込んだ。他の3人が叫んでいるのを聞かずに。
「アップルボーイ、どこへ行く!?」

「・・・エグザイル、きっと奴だ!」
アップルボーイは連絡通路をかけ降りて、ダクト内に飛び出した。
すると、そこには、マシンガンとブレード、ステルスを装備した、1機の黒いカラーリングのフロートACがいた。間違いなく、エグザイルだ。
「見つけたぞ、エグザイル!」
アップルボーイが叫ぶ。
「ほう・・・中央研究所にいたあの時のACか」
エグザイルは由々しげに呟く。
「人の命を奪い取って何のためになる!!」
アップルボーイはライフルのトリガーを引く。バシュゥゥッ、バシュゥゥッ、と音が響き、緑の閃光がアフターペインに向って飛ぶ。
だがエグザイルはブースト移動でそれを軽々と躱した。
「ずいぶんと勇気のあるレイヴンとなったようだな。だが! その程度の人間じゃあ、この俺は倒せないぞ!!」
そう叫びながらエグザイルはマシンガンを構える。
「高機動型ACには生半可な攻撃は通用しない! ここは距離を詰めてからを挑む事しか!!」
アップルボーイはブースト移動でエグザイルの距離を詰めた。そして、エグザイルが叫び、舌戦の場となった。
「俺は1人で戦ってきたわけではない! 俺に挑んできた身の程知らずの愚民どもを数々と葬り去ってきただけだ!」
「ならば今の僕の力は、お前に殺されたスケアクロウさんや数々の人間達の怨嗟だ!」
「良いだろう! お前は倒すべき相手だ!!」
ここに、アップルボーイとエグザイルの、1度目の戦いが始まった。

ブースト移動で一気にエグザイルに近づくアップルボーイ。それに応じてエグザイルがブレードを振るう。
ブンッ、と、青い光波が放たれ、それをブーストで躱すアップルボーイ。
そしてエグザイルの右腕の武器を封じ込もうと、ライフルをアフターペインの右腕めがけて放つ。
その途端にバグッ、と音が響き、アフターペインの右腕が異常を来した。
「そこだ!!」
アップルボーイはブレードをアフターペインの右腕にむかって振るう。バキッ、と音が響き、アフターペインの右腕が吹き飛ばされた。
「なにっ!?」
エグザイルは驚く。その隙にアップルボーイがもう一撃を叩き込もうと、左腕のブレードから赤い光を放つ。
そうはさせじと思ったエグザイルは、EO(イクシードオービット)のトリガーを引いた。
カシュッ、パパパパパパパパパパパパパパパ!!!
機関銃のごとく放たれる細長いピンクの閃光は、エスペランザの左腕の関節を貫く。
そして、さらに右脚のジョイントまでもを貫き、エスペランザの左腕と右脚を一度に落とした。爆発が起こり、左腕と右脚が地面に落ちる。
「まだだっ!」
アップルボーイは叫び、ブーストのトリガーをぐっ、と握りしめる。
その時画面に見えたのは、左腕から青い光を放つアフターペインの姿だ。
ブレードで一撃を決めようとしている。アップルボーイはそう確信した。
「とどめだ!!」
エグザイルは左腕のブレードを叩き込む。だが、アップルボーイの方が速かった―――。
「おおおおおおおおお!!!」
バグッ! ドゥォォォン!! ズバァム!!
その瞬間には、エスペランザはアフターペインのブレードを右腕で受け、
その直前にアフターペインの左腕の関節にライフルの一撃を叩き込んでいた。爆発が起こる。
「ぐっ!」
エグザイルは、しまった、と思った。だが両腕を失ったアフターペインには、もう何もできない。ステルスとEOは残っていても。
ブーストを失って地面にどしん、落ちたエスペランザ。アップルボーイがその中で上を見上げた途端、アフターペインが目の前にいた。
このとき、エグザイルの声が響く。
「未熟だが、勇気のある奴だ。覚えておくぞ、アップルボーイ」
エグザイルはそう言い残すと、アフターペインをブーストで上昇させ、どこかに去っていった。
「・・・・・・」
呆然とするアップルボーイ。クレストのオペレーターが何回か呼びかけているのも聞かぬままで。
「レイヴン・・・聞こえますか? 聞こえますか?」

どうも、武田です。
エグザイルとアップルボーイの激闘シーン、長く書いてしまいました。
気が付いたら5ページにわたっていて・・・。
次回は「キサラギ掃討」の予定です。
作者:武田 慎さん