「・・・イレギュラーめ・・・」
≪彼女≫はこれまでにない、人で言うところの「驚愕」を感じていた。
≪彼女≫は、AC乗りであり、自らの兵隊であるレイヴンを統括する
「レイヴンズ・ネスト」のメインコンピュータであり、この世界において絶対的な存在であった。
だが、今≪彼女≫に送られてきている映像は、本来では決してありえないはずのものであった。
−ナインボール−　レイヴンにとってそれは恐怖と畏敬の存在であり、
≪彼女≫の創りだした最高傑作であった・・・。
そのナインボールが、自らの兵隊であるレイヴンに完膚無きまでに破壊された。
これは、≪彼女≫の計算では決して出ることの無い結果であった。
「奴はもう、私の手の中から抜け出てしまったか・・・。」
新しい映像が届いた。
その映像は、ナインボール２体がたった１人の人間の駆るACに苦戦を強いられているというものであった。
否、勝敗はもはや目に見えていた。
ACの右手に装備された大型のレーザーライフルが真紅の機体に命中し、炎上。
残る１体もまた、左手の蒼い刃に両断され、沈黙する・・・。
「私の創り上げた世界・・・。私はこの世界で絶対の存在のはずだ・・・。」
≪彼女≫は思考する・・・。
ナインボールによって全てを失った男・・・。
その男のナインボールに対する憎悪を利用し、最高の道具にしようとした私の計算はどこで狂ったのか・・・。
ただの道具であった奴は今、私に牙を突き立てるのか・・・。
・・・・奴はただの人間だというのに。
ただの・・・人間？
「・・・・どうやら私は、人間という存在を甘く見ていたようだ。」
彼女―ラナ・ニールセン―は静かに起動する。
「だが・・・バグは消去せねばなるまい。」
―全システム・チェック終了―
「私の創り上げし最高の戦士よ・・・。」
ACが降りてきた。ラナ・ニールセンの待つこの空間へと。
「私の手で、静かに滅ぶがいい。」
―ターゲット確認・排除開始―
天使の名を持つ破壊神が、今、眼前の敵を倒すべく降臨した。