サイドストーリー

試験
 「・・・以上が作戦内容だ。何か質問は?」
 「・・・・・・」
 「無ければよし。20分後に作戦領域に到達する。計器類を確認しておけ」
 「・・・・・・」
 無言の被験者に、試験官は眉をひそめた。が、一種の集中法だな、と納得し、通信を切った。
 「・・・・・・すぅすぅ」
 そのために、試験官は、ヘッドセットからかすかに流れる寝息に気付かなかった。

任務開始時刻:2130
作戦名:レイブンズアーク入隊試験
成功確率:97%
天候:雨
試験者:オラクル
       テンペストボーラー

「これより作戦領域に機体を投下する」
街灯に照らされた街に、バララララ・・・というプロペラ音が響く。街、といっても人は住んでいない。
滅び去るのを待つ、ゴーストタウン。まだ廃棄されて間もないのか、そこまで極端に荒れていない。
街灯が灯っているのも、まだエネルギーが残っているからだろう。その光が消えるときが、この街の終わりであると、誰もが知っている。
その街の空に、輸送用のヘリ。タイプはRVN‐TH1108。極めて一般的な型番。最大容量は15トン。
現存している機械類なら、いずれも運搬可能だ。
「もう一度、作戦内容を確認する。目標はエリア内に侵入した敵の全排除だ。成功すれば、君達を我らの一員として認める。
失敗すれば、死ぬだけだ」
「オラクル、了解」
「・・・・・・」
オラクルの緊張した声に比べて、もう一人、テンペストボーラーは無言のまま。
「・・・テンペストボーラー、どうした?」
「・・・すぅすぅ」
試験官の問いに対し、帰ってきたのは安らかな寝息。ぴくり、と試験官の眉が跳ね上がり、こめかみに青筋が出現する。
「・・・冗談はよせ、テンペストボーラー」
「・・・ZZZZZZ」
試験官はオラクルへの通信を切った。肺の中に空気を大量に取り込む。そして、切れる。
「テンペストボーラーぁ!!!」
「あんどぅわ?!」
意味の無い言葉の羅列が返ってくる。若い声。もしかすると、20にもなっていないかもしれない。
「試験官、いきなり馬鹿でかい声出さないで下さいよ」
「知った話か! 貴様、この状況で寝るとは良い度胸だな、ええ!?」
「やぁ、お褒めに預かり恐悦至極・・・」
「褒めとらん!」
『試験官、時間です』
ヘリのパイロットが見かねて声を出す。試験官は「む・・・」と呟いて、
「解った。これより機体を投下する!」
直後に、ハンガーホックが外れて、機体が2機、落下する。どちらも同じ形状。
2機の降り立つ人型機体。それはこの世の終焉を告げる死に神の化身か
いずれにもせよ、その人型機体――ACことアーマードコアは、出力を戦闘用にまで上昇させる。
「おい、お前」
オラクルが、テンペストボーラーに呼びかける。名前を呼ばないのは、覚えてないからか、それとも呼ぶ気が無いのか。
おそらく、後者だろう。声に嘲りが滲んでいる。                                        
「なんだ、そこの」
さらりと、テンペストボーラーが言い返す。あっさりと、オラクルは逆上した。
「そこのとは、なんだ!」
「あんたが名前で呼ぶ気が無いなら、俺もそれに習うだけだ」
「く・・・」
軽く論破して、テンペストボーラーは右腕のライフルを構えた。
「テンペストボーラー! 先に言っておく。こんな任務オレだけでも充分なんだ。足手まといにだけはなるなよ」
「ふーん」
「おい! 聞いているのか?」
「来るぜ?」
言い残して、テンペストボーラーはブースターをふかし、一気にその場から離れる。
「こら! まだ話は・・・」
言い切る前に、機体が大きく揺れる。画面上には、APが200程減少したことと、後方から被弾したことを伝えるメッセージが出ていた。
「く・・・」
話しているうちに、敵に接近されていたようだ。舌打ちしながら、オラクルはACを旋回させた。
目の前に、3機のMT――マッスルトレーラーが、発砲しようとしていた。
「なめるなよ・・・新人でもなぁぁ!!」
叫びざま、オラクルは機体を空中へと浮かばせた。

「こいつで・・・」
パン、とライフルの軽快な音が響き、MTの頭部に直撃し、轟音を生んだ。
「3機目・・・と」
ACを自分の体のように操り、軽々とMTを撃破していく。驚いたことに、いまだ被弾は0だ。
タララッララララ
ライフルの連射音が鳴り渡る。
「おっとと」
テンペストボーラーはそれを軽くよけ、手近なMTにブレードで斬りかかる。
斬!
真っ二つになったMTに目もくれず、テンペストボーラーは次なる獲物を求めてブーストをふかした。
「全く・・・ウジャウジャと・・・」
ぶつぶつと、彼は呟く。
「オレァねみぃんだよぉ!」
本気の叫びは、何故か虚しく響いた。

「ふむ・・・なかなかやるな」
モニターを見ていた試験官は、思わず呟いた。総勢13機のMTのうち、既に7機が落ちている。残り6機も時間の問題だろう。
「にしても、あの男・・・」
モニターには、テンペストボーラーが映っている。画面の中で、また一機落としている。
「とんでもない実力だな。意外な掘り出し物だったかもしれん」
いまだ、テンペストボーラーの被弾率は0。初期型の機体にしてその結果は、驚くべき数値だ。
 「オラクルもなかなかやる・・・が、テンペストボーラーには及ばんな」
楽しくなりそうだ、と試験官は密かに思った。

「ラストぉぉぉぉぉ!!!」
ブレードで斬断し、MTが炎上するのを、テンペストボーラーは眠たげに見ていた。
『よし、試験終了だ! 今この瞬間から、君たちはレイブンだ!』
「あ〜ぁ、ねみぃな・・・」
ぼんやりと呟くテンペストボーラーの隣に、オラクルが寄ってくる。
「テンペストボーラー、今日のところはオレの負けだ。だが、次は負けないからな!」
「そーかい」
静かに返答する。それきり、お互いに黙ってしまう。
『これより、機体を回収する』
2機の上空に、輸送ヘリが到着する。
『・・・? どうした、上がって来られないのか?』
「あの・・・試験官・・・」
オラクルが言いにくそうに口籠る。
『どうした?』
「その・・・テンペストボーラーが・・・」
『?』
「寝てしまったのですが」
「・・・ZZZZZZZ」
ヘッドセットから再び聞こえてくる、安らかな寝息。試験官、オラクルともに、大きな溜息を吐く。
 『仕方ない。オラクル、そいつを引っ張ってきてくれ。ある程度まで上がってきたら、こちらで強制回収する』
 「・・・了解」

こうして、新たなるレイブンが二人、誕生した。その片方が、これから先起きる事件の全てを見届けることを、
まだ、誰も知らない。


はじめまして、ティーリングです。続け物にさせてもらうつもりです。今回は戦闘シーンが少ないので、次は増やそうと思います。
では、よろしくお願いします。
作者:カルバリンさん