サイドストーリー

EPILOGUE 〜それぞれの明日〜
ユニオンの「中枢侵入」作戦は成功した。
「管理者」対 人類の戦いは、人類の勝利に終わった。
「管理者」が破壊された後、管理者実働部隊の残存戦力は抵抗を止め、撤退を開始した。
その後は、ユニオンにとっては千載一遇のチャンス。
ユニオンは全部隊をレイヴン達と共に追撃の矛先を向け、怒濤のような波状総攻撃を実働部隊へ向けた。
この事によって、約10000の実働部隊を殲滅する事に成功した。
長くも渉ってこの世界を「管理」し続けた「管理者」は、己を保護し続けた、10000の勢力の実働部隊を道連れに、遂に滅亡した。
そしてレイヤード中枢は崩壊して、入り口のクレーターを中心として数100メートルに渡る大爆発を起こした。
その頃にユニオン全部隊とレイヴン達は脱出する事に成功して、爆発と崩壊を起こして消えて行くレイヤード中枢を見届けていた。
凄まじい激戦だった。



数日経ってから、アップルボーイとレジーナとレインは、アップルボーイの家の裏にあるスケアクロウの墓へお参りに行った。
アップルボーイはお供のパンとハム等を詰めたバスケット、御神酒を供えた。その後にレジーナが墓石に水をかけた。
「スケアクロウさん・・・」
アップルボーイとレジーナは手を合わせた。お線香の匂いと煙が空へ昇ってゆく。
「仇はとりました・・・どうか安らかに・・・天国で・・・幸せに・・・」
あの時、アップルボーイは“黒い死神”エグザイルを倒して、長きにわたって続いたエグザイルとの因縁に終止符を打つ事ができたのだ。
その時、アップルボーイは立ち上がって、こうしみじみと呟いた。
「人は、ご飯を食っていかなきゃならない。だがご飯代がなければ、レイヴンになって働く。
家族を養うのも、レイヴンの仕事なんだ。また、生きるのもレイヴンの仕事なんだ。
家族を食わせていかなきゃならないのも、レイヴンだ」
アップルボーイは立派な言葉を口にする。
「そう・・・そうね・・・」
レインは頷く。
「僕は・・・行きます」
アップルボーイは墓石に語りかけた。
「コクピットでの私情は忘れなよ。でないと死人に喰われるからね」
レジーナはアップルボーイの肩を叩く。
「ああ・・・」
アップルボーイは頷く。3人は最後にスケアクロウの墓に花を供えて、お祈りを捧げた。
そして、3人はスケアクロウよりも長く生きることを決意した。その方が、あの世で見ているスケアクロウも喜んでくれるからだ。



(・・・・・)
何だろう。
(・・・お・・B・・・)
何なんだろう。
(・・・きろ・・・B・・・B)
不愉快だ。
(・・・きろ・・・お・・・・・BB)
人がせっかく安らかに寝ているのに、何だ、この、自分の名前を呼んでいるのと起きろと呼んでいる感じは・・・・。
(おきろ・・・おきろ・・・おきろ・・・BB)
(BB、おきろ・・・おきてくれ)
(おきろ、おきろ、おきろ、おきろ、おきろ、おきろ)

「あー、煩ぇ。わかったぜ、起きるって!!」
そう叫んで目をあけたBBの視界にあったものは・・・

「・・・・・・起きたか」
「よぉやくお目覚めか・・・BBよぉ」
「地獄から帰って来たか・・・良かったな」
「目覚めた様ですね」
目の前に、アレス、エース、メビウスリング、エマの4人の顔があった。
「んん!?」
慌てて起き上がったBBは辺りを見回した。気がついたら自分は、病院のベッドの上に寝ていた。
白いカーテン、白い毛布、白い枕、白いベッド。そして隣の机には食べ物の沢山入ったバスケットと果物の入った篭がある。
それに、白いカーテンの向こうからは青く澄んだ空が見えた。
「エース、俺・・・」
BBは自分の体を見た。頭に包帯、顔に絆創膏、それに毛布を捲ったら腹にも包帯が巻かれていて、胸にも絆創膏が貼ってあった。
「俺・・・助かったのか・・・?」
BBは驚いた顔でその言葉を口ずさむ。
「ここに来てから丸2日で寝ていたものな」
エースはニヤリと笑った。その時、BBは驚いて辺りを見回した。
「!? じゃあ、フ・・・フォグシャドウは・・・フォグシャドウはどこに!?」
「俺は、ここだよ。BBさんよッ!」
横から声が響いて、BBが声のした方向を慌てて見た。横のベッドには、フォグシャドウが寝ていた。
左腕と右腕に包帯、右腕にギブス、顔に絆創膏を貼られてつけられたフォグシャドウ。でも彼は元気そうだ。
「お前等・・・皆無事なのか・・」
BBの言葉に3人は同時に頷いた。メビウスリングは顔と両腕に絆創膏、エースは右足首に包帯、アレスは両足に包帯が巻かれていた。
どれも皆、大した怪我ではなさそうだ。
「私は顔と両腕に軽い怪我を負っただけだ。エースは捻挫しただけと、アレスは両足に怪我を負っただけだ」
「フォグシャドウは、重傷だよな。脱出する時に右腕を折って、顔にも腕にも怪我を負って・・・」
「なに、これくらいはどうって事はない。3年前にクラインがバレーナ社のペゼル戦略航空戦艦「STAI」を発進させて、
ふんでそいつに乗り込んで派手に暴れ回り、クライン、ボイルの2人と戦った時に、肋骨を2、3本位折られ、右腕を折られたか
らな。
あれに比べれば、ヘでもないぞ」
と、言い放ち、ハハハと楽しげに笑うフォグシャドウ。そして、彼は続ける。
「お前こそ重傷なんだぜ。胸や腹に怪我を折ってるし、エースの言う通りに丸2日も寝ていたのだからな」
「2日・・・」
BBは2日も寝ていたことに驚く。
「これを・・・奇跡と言うべきか?」
BBは起き上がって「奇跡」と言う言葉を口ずさむ。だが、BBはニヤッと笑って、アレス、エース、メビウスリングと手を取り合った。
そして、お互いに礼を言い、自分に笑った。無事でよかった、と。
「ハハハ・・・・」
「すまんな」
「ヘヘヘ・・・・」
「よかったぜ・・・」
4人がお互いに笑い、お互いに有り難うを言う。その風景を見て、フォグシャドウもエマもしみじみとして来た。
そして、青く澄んだ空を見て、2人で語り合った。
「綺麗な空だな・・・」
「ええ・・・」
「この空は・・・またいつか・・・変わってしまうのだな・・・」
「そうですね・・・」



「まったく、あれから戦乱が終わってから、こんな世界は退屈なものだな」
数日経ってから、自分とロイヤルミストの部屋のソファーに寝転がって新聞を読んでいたストラングが、こう呟く。
「でも、まあ、あれほどのバカ騒動で、クレストもミラージュもあたふたしている様ですよ?」
ロイヤルミストはコーヒーを啜りながら言う。
「バカ騒動、な・・・」
ストラングは青い空を見て呟く。
「また、戦乱が来るのを楽しみにしていよう」
「そうですかね?」
ロイヤルミストはにやりと笑った。
「あ、先生。これを見て下さい」
ロイヤルミストは3つのACのコア(ACの胸部のコアとは違い、動力源となるもの)を取り出した。
「これはですね、AI機体のベースのコアです。パーツは既に確保してあり、時間さえあれば外のAC置き場で組み上がりますよ。
今はこんなに小さい星ですが、いつかは宇宙の大きな星のように大きくなりますよ」
「楽しみだな」
ストラングとロイヤルミストは、窓の外にある青く澄んだ空を見上げた。
ロイヤルミストはコアをテーブルに置くと、壁に架けてある青いコートを着込んだ。何処かへ出かける、と見たストラングが聞く。
「どこへ行く?」
「昔、私とともに戦ってきた私の元相棒の所へ行きます」
「スケアクロウの事か」
「はい・・・」
ロイヤルミストはアップルボーイの家を訪ねてみた。玄関先でアップルボーイがロイヤルミストの姿を見て、ペコリとお辞儀をする。
「・・・スケアクロウ・・。  俺を・・・彼の墓に対面させてくれ」
ロイヤルミストが呟く。
「こちらです」
アップルボーイがロイヤルミストを、家の裏にあるスケアクロウの墓へ案内する。墓石の前には花と神酒、バスケットが供えてある。
今さっき、線香の匂いがしている。レインが線香に火を灯したばかりであろう。
「スケアクロウ・・・お前は十分に生きたよな」
ロイヤルミストは、スケアクロウの墓石に水をあげた。



「どうしたの、コープスペッカー? 顔色が悪いわよ?」
「ああ・・・帰ろうか・・・疲れた」
中枢侵入作戦が終わって1日経った頃、コープスペッカーとワルキューレは結果報告を受けて、コーテックスの宿舎に戻る所だった。
2人は、コーテックスの居住区の宿舎に住んでいて、コーテックスは住む所のないレイヴンの為に、居住区の宿舎を用意している。
コープスペッカーの部屋に付いた途端、彼は倒れた。
その時、彼の隣の部屋のレイヴンが、
「疲れが出たんだろう。後は良いから、貴女は部屋に帰ってて下さい」
と、コープスペッカーを背負って彼の部屋に入った。
その後でワルキューレは、自分の部屋に戻った。そして、窓を開けて青く澄んだ空を見上げて溜息を付いた。そして、彼女はこう呟いた。
「平和な世界に戻ったんだ・・・」


レイヤード中枢の爆心地にて。
空を見上げて、大きなクレーターを見降ろしている紫のマントの若い男がいた。
「やはり・・・『管理者』は滅びましたか・・・」
男は日の高い空を再び見上げながら言う。
「それにしても・・・勝手な事をしてくれたものですね・・・・エグザイル・・・・・」
男は恨めしそうな事を呟くと、ACに乗り込んだ。
紫のカラーリングが施された、腕に2丁のマシンガン、肩にリニアガンとレーザーキャノンと言った武装のACだ。
ACはそのまま、その場を去って行った。まだ空の色は、青く切ないものだった。


第1都市区のアストナーデ川の青が、青い空に昇った日の光を受け、キラキラと輝いている。
その土手を、さわやかな川風の中を元気に突っ走って、コールハート、スパルタン、スキュラの3人が駆けていく。
「腹減ったなーーー!」
「そういえば、この青い空の下での昼餉がまだかこんでなかったッけ」
「おい、ここ第1都市区のあるレストランに行ってみるか? あそこの料理はすげえ旨いって言ってたぞ!」
「そうそう。あそこは特別に旨いことと、テラスがあると聞いたぞ」
「よっしゃーーー、食いに行こうぜーーー!!」
「テラスで青い空の下でな!」
青空の下、3人は元気に走って行った。


人は飯を食っていかなければならない。明日の健康より、今日の命よりも。
そして、人は生きていかなければならない。
それは、このレイヤードの住人、そして「レイヴン」たちも同じだ。


「ARMORDE CORE3」 サイドストーリーは此れにて完結です。
全25章にわたる長い長いサイドストーリーがやっと終わりました!
5番目のエピローグに出てた謎の男は、これを見ている皆さんにはわかったでしょうか?
まあ、その人物の正体は、
予定中の「ARMORDE CORE3 SILENTLINE」のサイドストーリーでわかるかもしれませんので・・・。
では、このサイドストーリーを読んでいただけた皆さん、どうも有り難うございました。
それでは、今回はこれにて!
作者:武田 慎さん