SILENTLINE EPISODE 3 〜因縁〜
「オラ、退け!!」
(ドガッ!!)
「ぐあっ!?」
「おいおい、馬鹿熊野郎。愚図が俺の前をうろうろすんじゃねえよ。目障りなんだよ、愚図がうろうろしてんのはよ」
「しかし・・・」
「しかしもカカシもムカシもあるか!!」
(バキッ!!)
「・・・ごめんなさい・・・」
朝一番にリトルベアは、飲み物を買いに自販機の休憩所の所で、そこのベンチに居座っていたシューティングスターの前を通った途端、
彼にさんざんに殴られ、蹴られた。
リトルベアは、いつも彼の前を歩けば殴られ、蹴られてしまう。おまけに金まで取られ、雑用扱いされている始末。
シューティングスターが去った後、リトルベアはシューティングスターの後ろ姿を恨めしそうに見ていた。
「どうしたんだ、リトル?」
「・・・・・」
「何だか今日は元気ないぞ」
宿泊施設のラウンジで、カラードネイルが食事の席でリトルベアに聞く。
カラードネイル、リトルベア、ヴァーナルフラワーの3人はグローバルコーテックスの宿泊施設の部屋に住んでいる
(カラードネイルとリトルベアは同室、ヴァーナルフラワーは別室で住んでいる)
「・・・あの、カラードさん・・・・彼奴の事なんですけど・・・」
「彼奴とは?」
「シューティングスターです・・・最近調子扱いてる様に見えます・・・」
「ああ、あのEー7の・・・」
「彼奴・・・僕になんて言ったと思います?『お前は俺の飼い犬だ。ランクが下のやつがランクが上のやつに従う・・・
弱者が強者に従うのは当然だのは当然だ』って。
弱肉強食的な許せない考え方をしたんですよ?」
「その他は?」
「しかも昨日は『俺に仕事の報酬を半分盗んでもってこい』と、ぬかしたんです」
「そうか・・・道理で報酬が少ないということはそのせいだったのか・・・」
「彼奴だけは絶対許せません。彼奴はあー見えてACの腕は凄い弱いらしいです。
しかも自分が弱いとは認めないらしく、負けた時に『機体の調子が悪かっただけだ』と、抜かす事しか出来ないそうですよ?
それに、『今日はやる気が出ない』と、試合を投げ出す事も・・・」
その途中で、2人に食事が出された。ハンバーグスパゲティにフライドポテト、コンソメスープと言った朝食ならぬ食事である
(それに、スパゲティは少し大盛りである)
「・・・・・」
リトルベアはフォークにスパゲティを巻き付け、口に運ぼうとした。
その途端にカラードネイルがコンソメスープを啜りながら、リトルベアの名を呼んだ。
「なぁ・・・リトル・・・」
「?」
「わたしは今日、パソコンのメールボックスを開けたら、ミラージュからの依頼メールが来ていたのを見た。
内容は、『警備部隊陽動』と言い、ミラージュ社がクレストが『サイレントライン』に関する機密書類を移送する動きを察知したとの事で、
書類を奪うために輸送車の護衛の警備部隊を陽動し、こいつらを撃破してくれとのことだ。
わたしはそれで気づいたが、シューティングスターはクレストの警備部隊に雇われたレイヴンだと分かっていてな・・・
この作戦に参加して奴を撃破するというパターンに向かう・・・と言う事も簡単では無いか?」
「それは・・・?」
「簡単な事。ミラージュは警備部隊を誘き出すため、通行中の一般車両を15台以上潰せと言ってくれた。
壊した車両の数に応じて高額の報酬を払うだろうと思うな。
それにシューティングスターの駆る『キングフィッシャー』を潰せば・・・
高い報酬がもらえる序でに奴の存在を消す事ができるんじゃ無いか?」
「ムリですよ・・・彼奴は一定の確率しか出てこないと思うのですが・・・」
「必ず出てくるな・・・彼奴はB17区画に配備されているから、ガードリーダーの指示で必ず出てくると思うんだ。
それに、シューティングスターに恨みや嫌悪感を持ってるレイヴンは結構いるんだ。
ギムレットやスネイクチャーマーみたいに、嫌悪感を持つやつと同じようにな・・・」
カラードネイルはミートソースに塗れたスパゲティを啜る。その後にハンバーグを1個フォークで刺して、口に運んで中で噛む。
「なあ、リトル・・・考えてみろ。シューティングスターさえ潰せば、
ここにいるレイヴンは胸の痼りが1つ落ちたと快い気分が得られると思うな。彼奴は何時も高慢な態度ばっかりとっていて・・・
嫌悪感を持つレイヴンも増える一方だからな・・・。
だから彼奴を潰せば、もう2度とアリーナにもここにも現れる事が無くなるだろうよ・・・」
「そうですね・・・」
「そしたらお前が恨んでいたあのシューティングスターが消えたら、お前もスッキリするだろう?
だからな・・・わたしはお前と他のレイヴンたちの為にも・・・実行しようと思っているんだ・・・」
「・・・どうするのですか? 依頼を受けるのですか?」
「・・・ああ、今日にな。依頼を受ける場合は夜の6時頃に基幹高速道路「Bー17」
に集合しろとの事だ。僚機を伴う場合は応接室で僚機のリストから好きな僚機を選べとな。
今夜、わたし1人で僚機を伴って高速道路に行く。大丈夫だ・・・。
必ず成功させるからお前とヴァーナルはこの宿泊施設の中で普通通りに過ごしててくれ」
カラードネイルはそう言うと、スパゲティを再び食い始めた。リトルベアも話してる途中に空腹を覚えたので、もそもそと食べ始めた。
カラードネイルは窓の向こうを見て、こう呟く。
「力のない馬鹿が・・・・1つ下のランカーを奴隷扱いして、生意気に威張りくさるとはな。
フン、まあ良い。見てるが良い馬鹿め。今度はこのわたしがお前の人生に終止符を打たせてやるぞ」
「メインシステム、戦闘モード起動」
カラードネイルはコクピットの中のコンピューターの声を聞き、グラッジを立ち上がらせた。
ガシュン、と、グラッジが立ち上がる音が響く。
「まずは警備部隊を誘き出すため、通行中の車両を破壊してくれ」
そして、依頼主の声が響く。
グラッジの後ろには黒いランスポーターと白いアローポーターが控えている。
どうやらカラードネイルが連れて来た僚機なのだろう。
黒のカラーリングのランスポーターは「チャリオット」と言い、パイロットは「ローン・モウア」。
白のカラーリングのアローポーターは「サンダーピーク」と言い、パイロットは「ストレンジ」。
ローン・モウアは理知的な好青年だが、機体に乗れば性格が変わり、突撃を繰り返す事が多い。
その戦闘スタイルにパイロットたちは酷評するが、思いがけぬ戦果をあげる事がある。
それとは反対にストレンジは冷静な女性で、アローポーターの特性を活かして遠距離から敵を狙撃する。
「あまりバカな突撃はするんじゃ無いぞ、ローン」
「わかってますよ」
カラードネイルはローン・モウアの事を知っていて、あまりバカな突撃はするなと警告を送る。
その警告にローン・モウアは笑いながら返事を返す。
「では・・・行くぞ!!」
「「リョーカイっ!!」」
早速作戦が始まった。道路を走っていたワゴン車やスポーツカー、バスやトラックなどが1体のAC、2体のMTに潰されて行く。
ドガン!!
「うわっ!」
ガシャン!!
「なっ・・・」
ドゴォン、バガァン!!
「ぐぁぁっ!!」
ガシャン、ボガアアン!!
「あぁっ・・・」
ガシャン、バキッ!!
「なっ・・・」
ドガン!! ドガン!!
「うわっ!」
「ぐぉぁっ!!」
バガォォン!!
「た・・助け・・・踏まれ・・・!!」
ガシャン!! ドスン!!
「きゃああああ!!」
ドゴン!! バキィッ!!
「ぐほっ・・・」
10台以上壊した所で、ローン・モウアがカラードネイルに話し掛ける。
「カラードさん、もう10台ぐらい壊しましたよ?」
「構わん。壊し続けろ。その分報酬・・・ギャラは倍になるぞ」
カラードネイルの言葉で、ストレンジとローン・モウアは作戦を続けた。
ガシャン、ドガァッ!!
「うわぁぁぁ!!」
バキッ、ドゴォム!!
「なっ・・・・!!」
「誰か・・お母さぁぁん・・・」
グシャアア、ドゴム!!
「こ・・殺される・・・がふ!!」
バキッ、ドゴゴォム!!
「ああああああっ!!」
「ぐわっ」
「だぁぁぁぁっ!!」
「ごはっ・・・」
ガシャン、ドゴゴォム!! ガシャン、ドゴゴォム!!
「たっ助け・・・踏まれる・・・ぐわぁぁ!!」
「きゃあああ・・・あああ!!」
「誰か・・・母さぁぁん!!」
「こ・・・殺される・・・ぎゃあああっ!!」
「うわあああああ!!」
「ぎゃあああああ!!」
「たったすけっ・・・・だぁぁぁ!!」
もう18台以上壊した所だ。それどころか、警備部隊は出てこない。
「おかしい・・・もう18台以上も潰したはずなのに・・・何故出てこない?」
カラードネイルは違和感を感じて来ていた。その途端、
「敵勢力を確認! B17区画の通行をとめろ!」
クレストのガードリーダーらしき男の声が響く。
「お、やっと出て来たか・・・」
ローン・モウアが汗を拭って言う。その途端、ガードリーダーの声がそれを遮った。
「近隣区画で雇ったレイヴンと警備部隊がいるはずだ。こっちに廻してくれ!」
「レ・・・レイヴン!?」
「そ、そげな〜〜〜〜!?」
ローン・モウアとストレンジは同時に飛び上がった。それに弾かれたように各機のスピーカーホンから依頼主の声が響く。
「ACだと・・・? 目標が現れたのは良いが、予定外だ・・・。
・・・予定外だが目標の全機破壊とACの撃破を頼む。報酬は、上乗せしよう」
その言葉で、ストレンジとローン・モウアの2人は落ち着きを取り戻した。
そして、暗闇の奥でシャコッ、シャコッとシャッターの開く音が響き、そしてそれに加わるよ
うに、ガシャッ、ガシャッと何かのMTが近づく音が響く。
「目標が先ず最初に現れた。撃破しろ」
依頼主の声がまた響く。すると、カラードネイルがストレンジとローン・モウアに言う。
「わたしが先攻する。お前たちは後方で援護しろ」
カラードネイルのグラッジがブースト移動で、暗闇の奥へ突っ込んだ。
その後にストレンジのサンダーピーク、ローン・モウアのチャリオットが慎重に歩いて、援護できる距離に辿り着く。
その途端に見えたのは、6機の高防御力MT「ギボンMS‐HA」だった。
「こいつらは雑魚だ! 吹っ飛ばせ!!」
カラードネイルはバズーカとグレネードランチャーを同時一斉に発射する。
バシュッ、と、二重に発射音が響き、火の塊がギボンMS‐HAに激突した途端、それを丸ごと吹き飛ばした。
周りにいたギボンMS‐HAは驚く。
「馬鹿な。高防御力のギボンMS‐HAの装甲を一撃で吹き飛ばすとは・・・」
だが、その一瞬が命取りだった。その途端にグラッジのバズーカとグレネードランチャーと、
サンダーピークとチャリオットのロケットを次々と受けて、吹き飛ばされては粉々にされ、バラバラに吹き飛ばされて行った。
ドガン!!
ドゴン!!
バガァァッ!!
ドズゥゥン!!
ズゴァァン!!
「ぐわっ!!」
「ぐえっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「ごほぉっ!!」
「くそっ・・・・」
6体のギボンMS‐HAで構成された警備部隊は殲滅された。
「シューティングスター!! シューティングスターは何をしている!?」
ガードリーダーが焦りを見せてレイヴンの名を叫ぶ。その途端、奥の方からブースト音が聞こえると同時に、
「こちらシューティングスター。後は任せろ!」
と、シューティングスターの声が響いた。そして間もなく、EOタイプのコアに手にレーザーライフルとブレード、
肩にロケットにミサイルと言った武装の、星のような黄色いカラーリングの軽量2脚のACが現れた。
あれこそがシューティングスターの駆る「キングフィッシャー」だ。
「・・・馬鹿のお出ましか」
カラードネイルがシューティングスターのキングフィッシャーを鼻であざ笑う。
「ほーう・・・あの復讐鬼か・・・奇遇だなあ? 丁度いい、昔お前に俺の1体目のキングフィッシャーをぶっ壊された借り、
返してやるぜぇぇ」
シューティングスターはにやりと笑う。
「馬鹿めが・・・到底無理だ。以前よりもカスタムアップしようが、その雑魚い機体なんぞわたしの敵では無い。
あの時と同じようにその2機目もスクラップにしてくれる」
カラードネイルはバズーカとグレネードランチャーを構える。
数年前、カラードネイルはシューティングスターと戦った時の光景がフラッシュバックされる。
その時は、グラッジのAPが6897、キングフィッシャーのAPが0768。この勝負はカラードネイルの勝ちとみられた。
カラードネイルはゼロに復讐するためにはこの馬鹿も倒さなければならない。
誰にも負けられない、と言う1級の闘争心は揺るごうとはしない。
そして、相手のAPが0045と表示される。カラードネイルはバズーカとグレネードランチャーを同時に放つ。
その途端に、勝負は決まっていた―――。
ドガァァァァン!!!!
その一撃がシューティングスターのキングフィッシャーを粉砕していた。
そして、キングフィッシャーは大破。シューティングスターは奇跡的に生存していた。
「・・・機体の調子が悪かっただけだ!!」
「力のない馬鹿が、それだけしか言えないと言うのか? 自分が弱いと言う事を恥を持って知るがいい」
「望む所だ!! 今度はこっちが手前の機体をスクラップにしてやるぜぇぇ!!」
「消えろ、力の無い滓め・・・お前も機体と一緒に鉄クズにしてやるよ!!」
カラードネイルとシューティングスターの決戦が始まった。
“復讐鬼”カラードネイルが勝つか、
それとも“射手星”シューティングスターが勝つか。
「ぬおおおおおりゃぁぁぁぁぁっ!!」
先ず最初に、シューティングスターが先攻をとった。彼はレーザーライフルとEOを同時に撃ちまくってこちらに接近して来た。
「馬鹿の一つ覚えか・・・ストレンジ、ローン! 下がれ!!」
カラードネイルが叫ぶ。それに弾かれたようにストレンジとローン・モウアが後退した。
それと同時にカラードネイルのバズーカとグレネードランチャーが火を吹いた。
バシュゥゥッッ・・・ドドドン!!!
ズガァァァァン!!
両方の高威力の武器から放たれた弾丸は、キングフィッシャーの両足のジョイントを吹き飛ばした。
「なっ!!」
「終わりだ。消えろ」
驚くシューティングスターに、カラードネイルは冷酷に告げる。
その途端に、ドゴン!!と、銃声が響き、高威力の武器はキングフィッシャーを一瞬にして吹き飛ばしていた。
「しまっ・・・・!!」
ドゴゴゴォォォォォォォォン!!!!
シューティングスターの最期の一言が言い終わらないうちに、キングフィッシャーはシューティングスターごと爆発を起こしていた。
そして、消えた。
「よし、作戦は成功だ。御苦労だった、レイヴン」
依頼主の声がスピーカーから響く。その時、カラードネイルは高速道路の硝子の向こうにある夜空を見上げて、呟く。
「リトル、恨みを晴らしてやったぞ」
武田です。
今回はシューティングスター、リトルベアとカラードネイルの因縁と、
「警備部隊陽動」の両方の情景を描かせて頂きました。
普段は10台未満なら警備部隊のMT、15台以上ならシューティングスター本人が出る所なんですけどね・・・。
今回は、18台以上壊した所で、MT6機とシューティングスター本人が出る・・・
というパターンで描かせて頂きました。
次回は「電力施設崩壊阻止」の予定です。
〈今回登場した敵レイヴン〉
名称:シューティングスター(28)
自分が弱いと言う事を一切認めようとしないレイヴン。負けた時には「自分の腕が悪いからではなく、機体の調子が悪い」と言い放つ。
そして「今日はやる気が出ない」
と、勝負を投げ出す事が多く、高慢な態度は一切崩そうとしない。今回の章で、クレスト警備部隊
に雇われたレイヴンとして戦うが、カラードネイルと激闘の末、戦死。
AC:キングフィッシャー
頭部:CHD-MISTEYE
コア:MCM-MX/002
腕部:MAL-RE/REX
脚部:MLL-MX/EDGE
ブースタ:CBT-01-UN4
FCS:VREX-ST-2
ジェネレータ:MGP-VE905
ラジエータ:RMR-SA77
インサイド:None
エクステンション:None
右肩W:CWR-S80
左肩W:CWM-S60-10
右腕W:MWG-XCY/50
左腕W:MLB-LS/003
オプション:OP-S-SCR OP-E/SCR OP-TQ/CE
作者:武田 慎さん