サイドストーリー

Chapter3:アクシデント
――静かだ。

旧都市区セクション517、クレスト本社ビルの存在するブロック。
先の四機の内の誰か曰く“本隊”が存在したであろうそのブロックは、アッシュの予想を全く裏切った。
レーダーが捉えるものも一切無い。

「あのさ。そっちのレーダー…何か写ってるかな」

オペレーターの通信席の方のレーダーは、また違った反応をするかも知れない。
通信席に搭載されているものは自機の頭部レーダーより遥かに高性能だった。

『……いえ、何も反応がありません。
 熱源も全く感知出来ない。…どういうことでしょう?』
「君がわからないなら俺にもわからないと思う。
 でも確かめに行くことは出来るから、何かあったら教えてくれ」

そのままブーストを噴かし更に奥へと進むという選択肢を取った。
途中の道程にも何も無く、不気味ですらある静寂は続く。


――そしてやがて、件のビルへと到達した。

「結局何も無し……か。ハッタリか何かだったのかな。
 とにかく敵らしいものはもういないから帰還を―――」

エマにそう言いかけて、ファーマメントの鉄の足が何かに引っ掛かった。

『はい、では……… ?
 どうかしましたか?』

メインカメラをその対象へ向ける。

「――…………CMT……」

先程自分が撃墜したものと同じカイノスタイプが一機、いや、“一個”そこにあった。
もはや単なる残骸となったそれに弾痕は無く、ただ風変わりな傷痕が付いているのみ。

よく見れば、右にも、左にも、後ろにも前にもその前にも更に向こうにも。
数十、或いは百に達するかとすら思えるほどの残骸の群れ。

『レイヴン、一体何が?』
「…ごめん。輸送機の手配はもう少し後にしてくれ」

通信を切り、その傷痕をモニタ上で観察する。
傷痕はカイノスの右肩から左足にかけて一直線に走っている。
小さな渓谷を思わせるそこは――黒く焼け焦げていた。


“残骸は全て極めて高出力なブレードで切り裂かれた痕跡があり”

“脈絡も節操も無く作戦中のMTやACに襲いかかる”

“イカレ野郎”


―――ヘッドパーツの狭いレーダーが青い光点を映し出した。
ここまで近付いたからようやく反応したのだろうか。
自機より上方にいることを示すその青い点は、ビルの上に存在した。

「…………おい……」

メインカメラが上を向く。


一瞬、黒い闇をそこだけ白く人型に切り抜いたような感覚を受けた。
すぐにそれが銀色にカラーリングされたACであることを知る。

「…………冗談……だろ?」


左腕に無骨な鉄色のパーツを装備した銀のACは。
ブレードを用い、たった一機でMTの大部隊を壊滅させたイカレ野郎は。

“エアヘッド”は、ただ真っ直ぐにファーマメントを見下ろしていた。
作者:アインさん