サイドストーリー

Wednesday is Bad Day #0
政府機関からの一件の依頼・・・これがその後の俺の人生を大きく変えることとなる。


「反政府レイヴン強襲」

依頼主:政府機関   成功報酬:100,000C

あるレイヴンの排除を依頼したい。
相手はレイヴンという立場にありながら、不法武装集団インディーズに代表されるテロリストに協力的な姿勢を見せている。
レイヴンにも当然依頼主を選ぶ権利はあるが、我々への敵対が度を過ぎる場合は、話は別だ。
これは、一種の見せしめと考えてもらえればいい。

目標も自分の立場をわきまえているのか、なかなか動きを掴めなかったが、今回我々は確実に目標を捕らえられる場所を見つけた。
本日夕刻、我々の誘導に従い、指定する場所に向かって欲しい。
また、目標以外の敵勢力の出現も予想されるが、邪魔をするようなら、併せて排除してもらって構わない。

今回の依頼は今後、我々の計画の協力者として君を採用するかのテストも兼ねている。
計画の一環として、機体をこちらで用意させてもらった。その機体を使って任務を遂行してくれ。
試作機だが、充分実践に耐え得るものだ。

以上、いい結果を期待している。



「機体まで用意済みとは、ずいぶんと気前のいい話だな・・・。」

タバコを吹かし、視線を宙に投げ出す・・・

長いこと、政府関係の汚い仕事を引き受けてきた俺でも、今回の依頼から始まる一連の計画には、何かきな臭いものを感じていた・・・。
とはいえ、余計な詮索をしたところで面倒が増えるだけだ。
奴等の計画など知ったことではない、俺はただいつものように、与えられた仕事をこなす事だけだ。

もう一度依頼内容を確認し、タバコを灰皿に押し付ける。

依頼受諾後、俺は依頼主との合流地点に向かった・・・。


――オールド・アヴァロン郊外――

埃と錆びた鉄の臭いが風に混じる・・・
だいぶ前に廃棄された工場施設、そこが合流地点だった。

「少し早く着いたようだな。」

俺はタバコ咥え、火をつける。
人気の無い、工場施設。錆びた鋼材に腰掛け時間を待つ・・・

咥えたタバコが1/3になった頃、指定された時間になると1台のAC輸送車が現れる。
後部の荷台には黒いカバー。あれが今回、俺が使用するACなのだろう・・・。全体のサイズからして・・・軽量級か・・・?

そんなことを俺が考えていると、男が一人、輸送車両から降りてきた。
全身黒尽くめ・・・政府要人や暗躍者の服のセンスは何故こうも同じなのだろうか・・・まぁ、ある意味解り易いがな。

「君が今回依頼を受けることになったレイヴンだね?」

黒服が問う。
とはいえ、アークにもコンコードにもコーテックスにも所属していない俺は、正確にはレイヴンではないのだろう。
だが、AC乗りである事は変わりないし、面倒なので「あぁ。」とだけ答えた。

「早速で悪いが、時間も無いのでね。」

そう言うと黒服は輸送車の荷台からACを降ろすよう指示を出す。
整備士と見られる男がパネルを操作しカバーが外されると、荷台が起動しACを立たせる。

尖ったフォルムが印象的な軽量AC・・・いや、何より目を引くのはその左腕に装備された「大型のシールド」だった。

「どうだね?・・・あぁ、それから、これがスペックノートだから、目を通しておいてくれ。」

「時間が無いんだろう?データ全てに目を通すのは後だ。取り敢えず、こいつの特徴を掻い摘んで説明してくれ。」

スペックノートを受け取りながら俺は言葉を返す。
少し驚きの表情を見せた後、黒服は笑って言った。

「面白い男だ。だがまぁ、確かに君の言うとおりだな。
 見ての通り、こいつは高機動近接戦闘を主眼に開発された機体だ。
 従来の軽量級ACに比べ、積載量が向上している他、射撃戦にも対応できるように調整されている。
 また、肩部レーダーを装備していないが、頭部パーツに高性能レーダーが搭載されているので問題無い。」

「なるほど、エネルギーの消費量に気を配る必要ありって事か・・・これは短期戦向けだな。」

俺の指摘に黒服はフフンと笑い、頷く。

「さて、そろそろ時間だ。君はACを起動し、スタンバイしてくれ。」

「了解した。」
消えたタバコを放り、コクピットに乗り込む。


――メインシステム、戦闘モード起動――


コクピットに電子音と振動が心地よく響く・・・

『聞こえるか?今から作戦領域へ誘導する。ガイドに従って移動してくれ。』

「あぁ。」

工場を後にした俺はメインモニターに移るガイドに従って進む。

・・・・・・何だ?オールド・アヴァロン市街地に近づいていく・・・。
話では目標は用心深いという。それが市街地に・・・まさか、目標の住居を直接襲撃するつもりか?
いやそれなら、むしろ目立つACなど使わないはず。

・・・まぁ、どうでも良い。面倒さえ起きなければな。

そんなことを考えている内に、とある施設のゲート前に到着する。

「これは・・・。」

『その中に目標がいる。もちろん確認済みだ。
 心配は要らない。今回の作戦で起こる諸問題は全てこちらで片付ける。
 君は目標を排除することだけを考えてくれ。・・・では、お手並み拝見といこうか。』

「なるほど、そういうことなら遠慮なくやらせてもおう。」

施設内部へ・・・
通路を抜けてゲートを開くと、2体のACが激しい戦闘を繰り広げていた。


重量ACが俺に気づく。
『・・・何だ、貴様は?』

『アリーナに乱入してくるとはとんでもない奴だ!』
デュアルブレードの軽量ACが言う。

そうは言われてもな。俺は依頼をこなすのみ。残念だがとんでもないのは依頼主の方だ・・・
しかし、どうしたものか。突然乱入して「死ね」というのも唐突過ぎる気がするが・・・

そうこう考えている内にも、向こうはやる気のようだ。

『戦闘はいったん中断して、邪魔者を排除するか。協力しよう!』
『了解した。』

2体のACがこちらを捕捉する。

・・・話が早いな。
いや、それでいい。俺は面倒が嫌いなんでな。

「――さて、お前の力、見せてもらうぞ!」

戦闘開始と同時に俺はブーストを噴かし、2機の目標に接近戦を仕掛ける。
重量級の脇を高速ですり抜け、相手が反応する前に右腕のレーザーライフルを数発撃ち込む。
死角からの射撃に動きが鈍るが、さすがは重量級。

「あまり堪えてないようだな・・・」

冷静にこちらをサイトに捉え、バズーカで反撃してくる。
俺も機体の性能を確かめながら、弾を一発一発回避していく・・・
なかなか悪くない機動性だ。旋回もジャンプ性能も従来の軽量級を上回っている。

ふいに視界に影が過ぎる――
はっとしてモニターを見ると、空中に浮かぶ小型砲台が俺の機体を取り囲んでいた。
―オービットキャノン―
軽量級AC「二天」の両肩武装である。

『こちらを忘れてもらっては困るな!』

・・・何をほざくか、忘れるも何も貴様は所詮「その他の敵勢力」。言わば付属品・・・わざわざ死に急ぐ事も無いだろうに。
オービットのレーザーを回避しながら俺はこの面倒な奴に苛立ちを覚える。

が、安易にこいつを狙うわけにはいかなかった。
重量級AC「ヴェノム」の両肩武装デュアルマルチミサイル。慣れない機体であれを撃たれたら面倒なことになるからだ。
取り敢えず、二天は極力無視だ。ヴェノムにミサイルを撃たせないよう、レーザーライフルの連射で牽制する。

『おのれ、ちょこまかと・・・魂塊!奴の動きを止めろ!』
『わかった!・・・くらえぇー!』

二天がデュアルブレードで接近戦を仕掛けてきた。
OBを使った突進からのデュアルブレード――これはさすがに無視できるものではない。

「ちっ!」
極力無視が祟ったか、しかし間一髪、左腕の大型シールドで受け止める。
――が、動きが止まってしまった。
すかさずヴェノムがデュアルマルチミサイルを撃ち出す。
8発に分裂した弾頭が俺の機体を襲う・・・避け切れない!

爆音とともに激しい衝撃が走る。
黒煙を吐き出しながらアリーナの床に倒れこむ俺の機体。
「うぐ・・・クソ。」
頭を少しぶつけた・・・

慣れない機体とはいえ、こんな雑魚どもに・・・この俺が・・・
こんな無様な姿をさらすとは・・・ミサイル全弾直撃だと?・・・くくく、ははは・・・
そんなこと・・・俺のプライドが許すわけ無いだろう!

「まっ・・・たくっ!本当に面倒な奴らだよ、貴様らはぁぁぁ!!」

『はっ!満身創痍で吐く台詞か!』
ヴェノムが再度ミサイルを構え、放つ・・・

が、先程の攻撃で軌道は見切った。
分裂した弾道の中心点。――それもバズーカを装備していない左腕側の軌道に突っ込む。

『何、うぉおっ!?』
思いがけない特攻にヴェノムがバズーカを放つが、左側のためサイティングが浅い。
砲弾は俺の機体を掠めて飛んだ・・・

『スカルブック!後ろだっ!』
魂塊が叫ぶが、もう遅い。

旋回しようとするヴェノムを大型シールドで押さえ込み、至近距離からレーザーライフルをありったけ連射。
レーザーを打ち込まれた両肩のミサイル弾層が大爆発を起こす・・・
『ウワアアアァァァ!!』
スカルブックの断末魔とともにヴェノムの腰から上が吹き飛んだ。

「・・・雑魚が。」
残ったヴェノムの下半身を蹴り飛ばす。
力無く不自然に転がるソレが笑いを誘う・・・

『お、お前はぁ!!』
その光景に逆上した魂塊がデュアルブレードで斬りかかる。

次から次へと繰り出される斬撃をシールドで防御する・・・
『連続で斬りかかればライフルなど使えまい!』

・・・確かにそうだが、それがどうしたと言うのか。
元々この機体は近接戦闘に特化した仕様なのだ。ライフルなど使えずとも、なんら問題は無い。
まぁ、この程度の奴では機体の形状から性能を見抜くなど、到底無理な話か・・・

「・・・まったく。」

一瞬の光に、鈍い金属音を上げ、二天の両腕が宙を舞う・・・


『ぬぇ!?』
突然の警告音―――。
何が起きたのか解らず放心する魂塊。

「・・・切り札は、最後まで取っておくものだ・・・」
腕無しの二天に向けてゆらりと構えられたシールドの先端が再度光を纏い、レーザーブレードが発動する。
「望み通り殺してやる・・・殺してやるぞ!!」
俺は青い光の刃を二天のコア、魂塊のいるコクピット部に突き立て、そのまま真っ二つに引き千切る。
足と胴体がそれぞれの方向に舞って散った・・・

「まったく、面倒をかける・・・」


――目標、撃破。 戦闘モード解除。 システム、通常モードに移行します。――


『なかなかの手際だ。』
黒服からの通信だ。

『初めて乗った機体でランカーAC2体を撃破するとは。正直驚きだ・・・』

「よく言う。アリーナに乱入など、前例の無い事態だ。いいか?俺は・・・」
俺が全てを言う前に黒服が言葉を被せる・・・
『心配は無用。先程も言った通り、事後処理は我々で完璧にする。
 もちろん君には何の面倒もかからないさ。』

「・・・取り敢えず、任務は終了した。これより帰還する。」
まだ少し納得がいかない点もあるが、ひとまず作戦後の合流地点のある西へACを走らせた。


――ソーン・ガーデン地区――


封鎖地区の一角にある研究施設。そこが帰還場所として指定されていた。
施設の整備員らしき人間の誘導に従いガレージへ・・・

ACを降りると、そこにはあの黒服がいた。

「ようこそ、ウェンズデイ機関へ。 とは言っても、ここはその支部のひとつに過ぎないがね。」

「ウェンズデイ機関?初めて聞く名前だな。」

俺が不可解な顔をしていると黒服は笑いながら言った。
「まぁ、出来たばかりの機関だからね。
 研究内容は・・・そうだな、AI技術の革新といったところだ。」
声は確かに笑っていたが、その眼は闇を見つめているかの如く、冷たく光を放っていなかった・・・

「それはともかく、君は合格だ。」

「合格?何のはなし・・・」
言いかけて俺は依頼内容を思い出した。

黒服は続ける
「これから君には我々ウェンズデイ機関の専属レイヴンとして働いてもらいたい。
 正直な話、君以外に裏の仕事を依頼できるレイヴンはいないと思っている。
 もちろん報酬は弾むし、機関の開発したロールアウト前の装備も自由に使ってもらって結構だ・・・
 どうだ?悪い話ではないと思うが。」

政府の・・・しかも裏の機関の仕事だ。断れば、機密保持のため消去されるのがオチか。
「・・・拒否権は無いんだろう?」

「ふふふ、話が早い。だが、それで引き受けるのが君のセールスポイントではないのか?」

―そう。俺は依頼を確実に遂行するのみ。
余計な詮索はせず、情報を売ることも無い・・・どちらも面倒だからだ。
そのため、裏の世界でそれなりの信用を得ているらしい。


「契約成立だな。こんなご時世だが、永く付き合えることを願うよ・・・」

張り付いた笑顔で俺の肩を叩く黒服に皮肉っぽく返す
「これは・・・面倒な事になった。」


「さて、君の新しいレイヴンネームが必要だな。」

「新しいネーム?」
咥えたタバコに火をつけながら聞き返す。

「そうだ。今までのレイヴンネームから情報が漏れないように、ウェンズデイ機関にいる間は別のネームで通してもらいたい。」

ずいぶんと慎重なことだ。過去、ここまで用心深い機関は無かったが、ここの研究はそれほどの重要機密なのだろう。

「俺が好きに決めて良いのか?」
・・・とは言ったものの、いちいち考えるのも面倒だな、と。

何か、手ごろなモノは無いか・・・?

そう思った俺の視界、ガレージの隅にある1枚のポスターが眼に映る。


ふ・・・悪くない響きだ。


「・・・あれだ。」
手に持つタバコでそれを指し示す。

紫色の煙が細く伸びた先・・・

黒服がニヤリと笑い、言う。
「・・・よし。今日から君の名は・・・」
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「スティンガーだ。」









〜Wednesday is Bad Day〜


・・・今思えば、これが全ての面倒の始まりだった・・・













[あとがき]

FUBUKIです☆
今回はあの面倒な人を題材にオリジナルSS書いてみました。
#0となってますが、シリーズ化するつもりはあまり無いです。
しかも、読んでいて気づいた方もいると思われますが、世界観は色々シリーズ(今回はPP/AC2AA/ACNX)が混ぜてあります!!
とんでもない事をしてしまいました。辻褄合わせが大変そうです。

これは・・・面倒な事に・・・なった。(燃

・・・ので、くどいようですがシリーズ化するつもりはあまり無いです。
文章慣れしてないので、表現とかかなり下手で更新も不定期ですが、これからもヨロシクお願いしまっすm(_ _)m
作者:FUBUKIさん