サイドストーリー

Maybe happy
俺は、レーザーライフルを一発だけ放った。
勿論、牽制弾。
アイツは、それを何故か正面から受けた。
バランスを崩したアイツに、ブレードで斬りかかる。
しかし、奴はもう目の前にはいなかった・・・



「・・・っ 何処だ!?」
パルス光弾が、俺の背後を襲う。
「ダミーバルーン・・・ACにそんなパーツが」
改めて、アイツは俺とは違う、特別な存在だと言う事に気付いた。
そんな特別な存在に立ち向かう、ちっぽけな俺。
そう考えたくはなかったが、現実だった。
ACに振動が走る。
衝撃が俺を襲い、身動きが取れなくなる。
俺は何とかレバーをつかみ、ブーストを点火しようとする。
突然攻撃が止まった。
レーダーで確認すると、奴は動いていない。
あの地獄の炎が、来る――

俺はブーストで急旋回し、キャノンを構える。
破壊力なら勝るとも劣らない、大口径レーザーキャノン。
発射までの時間は、こちらの方が若干早い。
悪くても相討ち・・・ 
俺の手は恐怖と、死への後ろめたさで震えている。
だが、構わずトリガーを引き絞り、放った。

―突如、赤い火炎の塊が迫ってきた。
避ける余裕などない。
僅かな可能性にかけ、俺はキャノンを前に突き出すように構えた。

機体が燃えるように熱くなるのを感じた。
気が付くと、キャノンが肩から無くなっている。
もう限界が近い、機体が火花を散らしている。
それでも、ぼろぼろになったレーザーライフルを握り、立ち向かう俺がいた。
爆風をうけたが、直撃は避けられたらしい。
レーダーを見る、あいつは既に右斜め上空にいる。
やけに動作が早い。
特別な存在―

俺はレーザーライフルを構えると、あいつに向かって突っ込んだ。
アイツは、その俺を嘲笑するかのようにパルスライフルで牽制弾を撃ってくる。
俺はすべてを喰らう。そして、気が付くと【赤い悪魔】の目の前まで迫っていた。
アイツはいかにも落ち着き払ったかのように、赤い刀身を振り下ろした。
機械的な動き―
急いで急降下した俺のAC。 そのミサイルポッドに刀身が突き刺さった。
ミサイルは爆発し、右腕、右肩ごと吹き飛んだ。
まさか、それが命拾いになるとは・・・
あいつはその体制のまま、構えも、しっかりと狙いもせずにグレネードを撃ってきた。
構えずに撃てるグレネード・・・
別に、俺はそれに対し疑問を抱かなかった。
特別な存在だから―

先ほどの爆発で、グレネードの砲弾は俺のACの頭を掠めた。
アイツも降下して来た。
一瞬だけ、俺のACとアイツのACが密着する。
それを見逃さない。見逃すわけにはいかなかった。
(死んでもいい)
そう思って、あいつの右肩から腰にかけて、一思いに斬りつけた。
爆発がアイツを襲い、俺を襲う。
あいつは崩れ、地に落ちていった・・・
至近距離での爆発だ。
勿論、こちらも。
並大抵の爆発とは違う、ACだ。

本心、愛―
「覚悟は出来ていたか」
と聞かれれば
素直に「うん」
とは答えられないだろう。
だが、何故か俺は
「やったほうがいい」
そう判断した。
「やれば楽になる」
そう考えもした。
「やりたい」
最後に、そう思った。
親父を、お袋を、妹を・・・
愛した証なら、それでいい。


左足が吹き飛び、頭部パーツが吹き飛んだ黒いAC。
力なく地に墜ち、爆発を起こした。
安らかな寝顔を浮かべた人間の様に、落ちていった。
パーツはこなごなになり、右腕のレーザーライフルだけが何とか原形を止めていた。
焼け焦げた、【WG−1−KARASAWA】

その後、彼の姿を見たものは誰もいない。
きっと、あの時に爆発と共に消えたのだろう。
だが、彼は幸せだったのかもしれない。
【赤い悪魔】は、不滅だと言う事に気付いていないとしても――

Maybe ・・・Happy.
作者:ACCACさん