サイドストーリー

第一章「白キ蛇ハ夢ノ淵ニ 〜Viper Fang〜」
「これが正しく…壮観、という眺めなのだろうな」
重く沈んだ声は、僅かな驚嘆を含んでいる。
「ああ、そうだな。この先の人生でも、二度と拝めない眺めだろうな」
それに対してかなり若い、楽しげな声が応じる。
その強固な外壁と、あるレイヴンの活躍によって旧世代の兵器による猛攻に辛うじて耐えた巨大建造物「ベイロードシティ」
抜けるような蒼天の下、シティ屋上の二機のACは通信を交わしながら並んで「その光景」を見下ろしていた。
1機は全てを拒絶する闇色。
外装甲と安定性能を強化した中量二脚に、全体として無骨な印象を与えるフレームを持っている。
そして何よりも背に負う二門のグレネードランチャーが強烈だ。
もう1機は鮮やかな蒼色。
バランスを重視した構成の中量二脚。だがその手にしたリニアライフルと黄金色のブレードは、圧倒的な存在感を持ってそこに在る。
「この先の人生、か」
闇色の機体のパイロットが、自嘲するように呟く。
「我々に、先があるのかどうか。まずは、そこが問題だ」
静かに機体の頭部、紅いモノアイを蒼のACに向ける。
並のパイロットならそれだけで背筋を震え上がらせる、王者の眼。
それに晒されながらも、蒼のACのパイロットは動揺する素振りも見せない。
「あるかどうか、じゃないだろ。それを創るために、皆こうして集まったんだ」
シティで現在唯一稼動している扉の前。中から続々と、それらが現れていく。そして適当に場所を決めると、その場に停止。
そうして「その光景」は今も拡大を続けている。
「そう…だな。そうだった」
「そうだよ」
二人は、笑っているのだろう。表情の見えない無線通信ではあるが、二人には互いのことが手に取るように分かる。
「あんたが大将なんだ。そんな弱気じゃ困るぞ、ジノーヴィー」
悪戯のような響きを含ませて、蒼のACは屋上の端へと歩いていく。静かな駆動音は、荒野の風に流されて消えていった。
「ま、お互いの明日を祈るとしようか」
ことさら軽く言って、蒼のACは腰を沈めて跳躍の予備動作を取る。
「そうだな。お前も、あの子の未来を守ってやらないとな」
「やめてくれ・・・」
本気で嫌そうなうめき声を出した直後、脚部のスラスターから一瞬だけ炎が噴出し、鋼の巨人が中を舞った。
数瞬の後。轟音が響き渡り、蒼のACが無事着地したことを彼、ジノーヴィーに告げる。
無線を切って、ジノーヴィーは狭いコクピットで独り呟く。
「お前は、強いな。尊敬するよ、エヴァンジェ」
その紅い瞳を再び眼下に向ける。
ひび割れた大地を埋め尽くす、巨人の群。10や20ではない。数百体もの戦闘兵器が、この荒野に集っていた。
今現在多くのMTは、その本来の役目通りに使われている。崩壊した街の、瓦礫の撤去や生存者の捜索。
そういった、作業用メカとしての役目だ。戦闘用に改修された特殊なMTですら「その光景」を構成する戦闘兵器には遠く及ばない。
今回の作戦においては、邪魔にしかならない。
「壮観、だな」
小さく、自分以外誰にも聞こえない感想を改めて述べつつ、彼の機体も跳躍の予備動作に入る。
そして蒼のACよりも気持ち大きな炎を吐き、屋上の淵から飛び降りる。
モノアイに「その光景」が見る間に近づいてゆく。
「その光景」を作り上げている、一つ一つの機体。
それは、史上最強の戦闘兵器「アーマード・コア」―――


〜前日 PM2:48 ベイロードシティ下層・ACガレージ〜
コンソールパネルが、淡く緑に輝く。そして、矢継ぎ早に情報が表示されてゆく。
パイロット名「シース=レス」・・・認証。
機体名「ネームレスヴァイパー」・・・認証。
ASMコード &NG500c2w020E00ga00k0G02E0aw4giIka0dq2B# ・・・認証。
コードが認証されると同時、パネルに機体のフレームが表示される。次いで武装も併せて表示された。
全距離対応型の標準的な二脚。全身、白一色。ヘッドパーツのスリットだけが、薄く青い輝きを放っている。
機体を構成するパーツの接続状況を全てチェック。
終了と同時に「重量違反」の文字が浮かぶも、すぐさまフレームパーツ全てに「特殊仕様」を示す表示が成されてエラーは消える。
その後、内部パーツにも全て「特殊仕様」が表示された。
機体に異常がないことを示すシステム音と共に少しづつ、しかし確実に機体が覚醒してゆく。
力強い稼動音がコクピットにも届き、心地よい微震が体を包んだ。
そして響く、彼女の声。
『システム、起動を確認。戦闘モードに移行しますか?』
凛とした、それでいて嫌みのない声。電子音声なのは分かっているが、俺はこの声が好きだ。
「いや、いい」
『了解。通常モードを維持します』
それっきり、彼女は黙りこんだ。ジェネレーターの低い稼動音だけが鼓膜を振るわせ続ける。
それが、普通だ。
パイロットの補助をするためのコンピューターが無駄話など、するはずがない。
(でも、こいつは違うんだよな)
しばらく黙っていると、コンソールの隅っこに控えめなサイズで単語が表示された。それは、決して他の機体には付いていない機能。
『Talk』
続いて響く、明朗な声。
『雑談を許可していただけますか?』
その物言いは、何度聞いてもおかしい。俺は笑いながら、いつものように応えてやる。
「当たり前だ」
コンソールの光が、戦闘兵器のコクピットにはどう考えても似合わない「ぽふ」というコミカルな音と共に、
やはり戦闘兵器には似合わない鮮やかなピンク色に変わった。


俺は、この時代の人間ではない。
旧世代。
今よりさらに技術が進んでいたとされる、その時代の人間だ。
別に、不死身とかそういうオカルトな体質というわけではない。
何らかの実験の被験者で、やたらぬめる謎の液体の中で眠らされている内に、やはり何らかの理由で施設が崩壊。
電力供給が生きていてくれたおかげで、4年前まで永眠せずに眠っていた。冷凍睡眠の親戚だと思えばいい。
ミラージュの調査部隊が旧世代の遺跡を発掘中に未だ生きている施設を発見し、それが俺の寝ていた場所だった、と。
で、調査部隊が試しに「ぽちっ」とやったら「使用中」のランプが点灯していたカプセルの一つが開き、
ぼさぼさに伸びた黒髪にやたらキツイ黒目を持ち、ただの人というには体格のいい男が「誰だ、あんたら」と言いながらその身を起こした。
ただ、それだけのことだ。
どういう訳か記憶はぶっ飛んでいたりするのだが、生きているだけでもありがたいと思っている。
年齢は、数少ない生き残りの端末から、その装置に入る当時18だったことがなんとか分かった。
つまり、今は22歳。だからどうということもないが。
それ以上の情報は、ほとんどが極秘扱いで施設崩壊時に自動的に削除されてしまっていたようだ。
俺はミラージュで一通り調べられ、恐らくまだ何の実験も受けていないであろうと判断された。
そうなれば、用はない。
ミラージュの最高機密クラスの機材に囲まれていたのだ。例え今の時代を何も知らないにしても「処分」される予定だったのだろう。
そこで現れたのが「親父」だ。調査部隊に同行していた、事実上ミラージュ専属レイヴン。
当時40歳。ACに乗り始めて17年の、ベテランレイヴンだった。
「親父」には「母さん」がいたが、子供が生まれなかったらしい。
当然上層部と揉めたらしいが、それでも俺をしっかり「養子」にして下さりやがった、我が愛しの「両親」だ。
後から聞いた話だが、その時「親父」はミラージュ社長が不倫しているというネタを、
ミラージュに潜伏していたクレストのスパイから入手したのだそうな。
スパイには「ネタを出せば告発しない」
社長には「引き取ることを許可すれば奥さんにはバラさない」
スパイの方は命がけだからともかくとして、だ。
必要とあらば軍事行動を臆することなく行えるミラージュ社長も、所詮嫁に怯える一介のおっさんだった、というわけだ。
あるいは、それはそれで命がけなのかも知れないが・・・。
ともかく突然トップから命令が下り、俺は「親父」と「母さん」の所に引き取られることとなった。
思えば、たかがレイヴンの分際でスポンサー企業を屈服させた「親父」(参謀は「母さん」だった・・・らしい)が、
一番肝が据わっていたと言えるだろう。下手をすれば「粛清」だ。
そんなこんなでレス家に引き取られた俺は、一昨年レイヴンになった。
それは遺跡での収穫が俺だけではなく、後にACが一機回収されていたことに端を発する。
そのACは「現行のACと同じ規格」で作られていたのだ。大昔の遺跡から、今運用されているのと同じようなACが出てきたのである。
そのACは、調べが進み、やがて見つかったとんでもない施設の最深部で見つかることとなる。
「監視者」と何の捻りもない仮の名を与えられたそれは世界情勢を監視し、その時々に最適な機体を自動構築するための機関だと言うのだ。
旧世代の高度なAIが、それを可能にしたのだろう。
その施設そのものは完全に生きていたのだが、調査部隊が発見した時には停止していたという。
端末を調べると、そのAC自動生成工場とでも言うべき施設は調査部隊が初めて遺跡に入った時、
つまり俺が目覚めた時に停止していたことが分かった。再起動は、どうがんばってもできなかったとか。
そのACは外見こそ普通のACだが、いくつもの点で違いがあった。
違いのひとつが、パイロットの認証だった。
俺は関連性の高さから久しぶりに呼び出された。その、俺以外の人間の声紋に、反応しなかった。厳密に言えば、拒絶した。
逆に最初から、俺の声紋だけは登録されていた。俺の、機体らしい。
通常のACも、確かに声紋チェックでパイロットを認証する。
しかし整備などの利便性から戦闘モードなどを除く、ただ起動しているだけの移動不可のモードは、部外者でも起動できるはずなのだ。
「親父」の影響か、メカは嫌いではなかった。それどころか、遊びでシュミレーターなどをやっていたために大方の操作は知っていた。
だから俺は、データ採集という名目で僅かな講習の後にレイヴンとなった。「両親」、特に「母さん」は反対したが、俺は押し切った。
殺し文句は「親父がいれば平気だろ?」
一撃だった。「母さん」は、いい年して「親父」にベタ惚れなのだ。「親父」を信頼していないかのような発言は、絶対にしない。
ミラージュ側としても新米レイヴンに貴重な遺産を壊されると困るということで、難度の高い任務をやらせるつもりはなかった。
あくまでもデータ採集に必要な、小規模テロの鎮圧程度。それも、ランキング上位のベテランレイヴン「親父」の御守付きだ。
俺のレベルアップがすこぶる快調だったのは、言うまでもない。データの方は、からっきしだったようだが。
もう一つの、大きな相違点。それが「彼女」。
この機体を構成するパーツは、武装を除いては全てカスタムされたものだ。とりわけコアは、もはや別パーツと言って良かった。
ACを構成するパーツの中でも最も装甲の硬いコアパーツ。その深部にブラックボックスが、「彼女」が存在している。
本来そこには機体を総合的に管理するコンピューターが組み込まれており、FCSなどもそこに接続する事になる。
そのコンピューターから出る指示の中で、パイロットに必要なものだけを選別して伝えるのがヘッドパーツのコンピューターだ。
「彼女」は、言わゆる人工知能。機体の管理だけでなく、衛星とリンクしての状況分析など、本来はオペレーターが行う作業を全てやってしまう。
「親父」曰く、生身のオペレーターと比べても遜色はない、とのこと。旧世代の技術レベルの高さが窺える。
また「彼女」には「自我」のようなものがある。
戦闘中はともかく、反応速度などのマッチング調整で乗った時はかなり積極的に話しかけてくるのだ。
もちろん主な内容は機体とのマッチング調整に関わるものなのだが、稀に雑談が混じる。
家族や友人の話、趣味、果ては悩みの相談まで。何故そんなことを聞くか尋ねたらきっぱりと「興味があるからです」と言われた。
これには、面食らった。
「彼女」はそれを『搭乗者を深く理解することによって、戦闘中により適切なアドバイスを行うことができるようになります』と理由付けた。
さらに『今言えることは、あなたは戦局が不利になればなるほど冷静になる性格だ、ということです。
逆に、難度の低いミッションでつまらないミスをしないように気をつけて下さい』と付け加えた。
事実、その通りなので反論できなかったのだが・・・。


徐々にランキングを上げ、アーク主催のアリーナでもそこそこの成績を出すようになり、
自分で言うのも何だが「親父」の足手まといでなくなった頃。
その事件は起きた。
旧世代兵器が起動、世界各地の都市という都市を破壊し始めたのだ。まるで、人類を滅ぼそうとするかのように。
何故かは分からない。分かるはずがない。ただ、一つだけ事実があった。
戦わなければ、滅びる。
それで十分だった。もはや企業も政府も関係ない。ただ「ヒト」として、力在るものは結束していった。
自由を謳う、レイヴンたちも例外ではなかった。
アークにおけるランキング1位を独走していた、現行最強の呼び声高いレイヴン「ジノーヴィー」
一度は禁を破ってアークより追放されたが、それがなければジノーヴィーと肩を並べたであろうとさえ言われる、
若き天才レイヴン「エヴァンジェ」
そして、そのジノーヴィーすら破ったと噂されている、エヴァンジェとほぼ同期のレイヴン「クロノス」
彼は旧世代兵器の起動阻止には失敗したものの、後に事実上単機で「ベイロードシティ」を旧世代兵器による破壊から守り抜くという、
神懸り的な偉業を達成していた。
当時シティには既に、壊滅した都市からの避難民が大勢いた。
彼がいなかったならゼロが5つ、あるいは6つ付くくらいの死者が出ていたことだろう。最悪、全滅も在り得たのだ。
最初の事件からおよそ2ヶ月経った、一週間ほど前にこの三人は、レイヴンにメールで呼びかけた。ただ「共に戦おう」と。
まぁ、厳密に言えば「OAEからも謝礼が出る」と小さく書いてあったのだが。
兎にも角にも、この三人を旗印に世界中のレイヴンたちが一同に「ベイロードシティ」に集結する運びとなった。
そうして、考え得る限り最大規模の作戦が展開されようとしていたのだ。

それが―――

「明日だ」
『あなたもその一員というわけですね、シース』
「ああ、そういうことだ」
無数のACが並ぶ長大なガレージの端、ネームレスヴァイパーは上層へと繋がるエレベーターの前に立っていた。
それはACなどを搬入するために使用される超がつくほど大型のエレベーターで、二脚ACなら10機程度乗れる。
今はエレベーターが作動中であることを示す、真っ赤な警報ランプが狂ったように回り続けている。
メールを受けてからシティに来るまでの数日間、「彼女」は起動していなかった。よって、情報が更新されていない。
俺がその作戦に参加すること。「親父」もまた、参戦すること。「母さん」も止めなかったこと。
「彼女」が「Talk」モードでぶつけてきた質問は、その辺りが回答となった。
ゆっくり降りてきたエレベーターに乗り込み、やはりゆっくり上昇することしばし。
思わず巡航モードを起動してブースターで昇りたくなってしまいかねない、それほどの速度だった。
『では、何故今こうして地上へ向かっているのですか?何か特別な理由でも?』
「なんとなく、だな。まぁ、パトロールを任意で頼まれてるってのもあるんだが・・・」
今は収まっているが、散発的に旧世代兵器の襲撃は続いている。
とは言え、シティのレーダー範囲は100キロ以上と、広大だ。パトロールと言っても、あまり意味はない。
もし実際に来た場合に、他の者より先に遭遇するだけだ。
つまり、
「暇だった。だったら、ここにいるのが一番落ち着く」
ちなみに家族と一緒に、は却下だ。「親父」も「母さん」をいい人なのは間違いないが、
二人くっつけると無駄に熱いフィールドが展開されて、近寄れなくなる。見てるこっちが恥ずかしい。
『やはりそうですか』
「なんだその、やはりってのは」
呼吸の必要の無い電子音声だから聞こえないが、ため息でもついていそうな口調だった。
『そうではないか、と推測していただけのことです』
「悪かったな、暇人で」
『いいえ、暇であることは必ずしも悪いことではありません。特に明日の作戦を考えれば、現時点で緊張感が皆無なあなたは―――』
以降、戦闘前に暇を持っていることの有用性について淡々と語る「彼女」の言葉は右から左に流した。
・・・何やら馬鹿にされている気がしなくもなかったが、それはいつものことだ。
ようやくのことで到着したベイロードシティの最上層。
都市部は地下に埋めるようにして建設されているので、ここにあるのは車両用出入り口と大型搬入口程度のものだ。
今日中に到着する予定のレイヴンがまだ大勢いるため、搬入口はロックされていない。
外に出ると同時、目に刺さるような荒野の日差し。今の今まで薄暗い屋内にいたのだから当然だが、それにしても目の眩む陽光だった。
外気温表示を見ると、37度。これは、一般的に見ても暑いだろう。
一昔前までのコクピットは酷く熱がこもり、やたらとかび臭かったらしい。しかし今の、それもACのコクピットとなると話は別だ。
空調は完備されているので、パイロット自身がよほど熱くならない限りは大丈夫だ。
「今、この辺は夏か?」
そんな言葉が自然と口から出た。
確かにコクピットは快適、とまではいかないものの、居心地が悪いわけでもない。
しかしこんな日差しを見せつけられては、汗がにじむのを感じてしまう。
『そういうわけではありませんね。多少の変化はあるようですが、年間を通してこの暑さです。詳細情報を表示しますか?』
実に涼しげな声で「彼女」は告げる。パネルに「ベイロードシティ近郊の気候」他、4つほどの項目が表示される。
「関連」と銘打って、他の地域との比較したデータまで引っ張ってきたようだ。
「いや、そこまではいらんが。しかしまぁ、毎度毎度やることが速いな」
『仕事ですので』
仕事。「彼女」は必ずそう答える。会話を円滑にするために自身を擬人化した上での回答なのだろうが、
(イマイチ、機械って気がしないんだよな・・・)


暇だから出てきた。「彼女」にはそう言ったが、実際の所少し違う。
中にいる連中の多くが死にそうな顔をしていた。明日の作戦で、死ぬことを考えるとああなる。
(ああいうのは、苦手だ。キレそうになる)
ゆっくりと、と言っても時速40キロ程度の速度で荒野を当て所なく進みながら、考える。
戦わなければ、終わる。だが戦えるものは少ない。そして自分たちレイヴンは、戦える。
それ所か、現時点で最も戦力として有効なのは疑う余地なくレイヴンだ。
別に、顔も名前も知らない誰かのために戦う、などと無駄に熱いことを言うつもりはない。
まぁ「親父」はほっといても死ななそうなのでともかく、「母さん」と数少ない友人くらいは、守るつもりだ。
だが当然、そのために死ぬつもりはない。それでは、意味が無い。だから、中の連中とは一緒にいたくなかった。
(命を懸けてでも、とか考えてる連中とは・・・な)
もちろん戦場にスリルを求めているようなクレイジーな輩も、中にはいる。
そういった連中は、少なくとも沈んだ顔はしていない。まだ、その方がマシだ。
―――死ぬかも知れない。それでもいい、守りたいモノがある。
そんなことを考えていては、死ぬ。戦場は、そういう場所だ。レイヴンになって二年やそこらの俺ですら、知っている。
いや、本能的に知っている。
親父が付いているとは言っても、これまでの戦闘で死にかけたことは一度や二度ではない。
「軽い任務だから」と単機で出た任務中に、相手方の企業が急遽雇った同業者が複数来たこともある。
その時は独りで2機のACを墜とした。機体は大破寸前だったが、俺は生き残ったのだ。
命在ることへの執着。それが最後の砦だ。
だから今、死を覚悟している連中には憤りを覚える。
守ったモノの元へ戻り、共に笑い合う。それを望み、そのために戦うのではないのか?
自らの願望のためなら、どこまでも貪欲になる。それが、レイヴンではないのか?
こういう時「レイヴン」という名を、言い得て妙だと思う。
古来より「死」を象徴してきた、黒色、大型の鳥。同時に、囚われる事を知らない「自由」の象徴。
そして「屍肉を喰らって生き延びる」その凶悪なまでの「生」への執着。
他者の「死」を以って「自由」を得、同時に自らの「生」を確固たるものにする。
それが「レイヴン」という存在。
争いに身を投じ、壊し殺し奪う。そうして金を貪り、時には「同族」すら屠りながら生き延びる。
それが現代の「レイヴン」だ。
そう考えると他者を「守る」という行為自体が「レイヴン」としてはおかしいのかも知れない。
だが俺は思う。自分に近しいモノが失われれば、人は胸に空洞が出来る。それは、自分の一部が死ぬのと同じこと。
だから、自分が死ぬことと、近しいモノが死ぬこと、それは同義。
・・・これは、詭弁だろうか?
(結局、馬鹿なのは俺も同じか・・・)
他人に憤りを感じている場合でもなければ、自己矛盾を気にしている場合でもない。
ただ明日という日を生き抜くことだけを―――
延々鬱々とそんなことを考えていた。全く以って、不毛なことこの上ない。
気が付けば、シティから大分離れた所まで着ていた。赤土の荒れた大地が広がっているだけなので正確な距離は分からない。だが、
(80キロ近くあるな・・・。2時間も歩いてたのか、俺は。信じらねぇ・・・)
とりあえず自分がバカであるということが、多角的に証明された。
それはともかく、帰りは巡航モードでも起動してブーストしなければ、ダルい距離なのは明白だ。
かといって今すぐ帰っても、またあの連中と顔を突き合わせるだけだ。
(もう少し頭を冷やして行くか。今帰ったら、あいつらを殴りそうだ)
そう思って、再び歩を進めようとした時、
『暇を持つことも有用という、先程の言葉は訂正した方が良さそうですね』
元々真面目な声ではあるが、いつもより鋭さの増した声。
それはつまり「俺が自分から首を突っ込むような厄介ごと」があったということだろう。
何かあったのか。
尋ねるまでも無く、コンソールパネルにメッセージが表示される。
「エマージェンシー・コール・・・か。どこからだ?」
言葉が終わるか終わらないかという所で、メッセージが消えて広域マップが表示された。
ここからほぼ直進、距離にして50キロ。ネームレスヴァイパーの巡航モードなら、10分とかからない。
『人工衛星から画像を入手。表示します』
俺は毎度のことで慣れてしまったが、一応解説すると「入手」というのは誤りで「ハッキング」というのが正しい。
現場近くの衛星に侵入して、勝手に撮影、そのまま機体に送信。「彼女」は、そこまでできる。しかも躊躇いというものがない。
ここまで堂々とやられると、見ていて清々しさすら感じる。
ともかく、不鮮明ながら、コールが発信された現場の画像が表示された。
「荒いな・・・これは、輸送機か?」
『解像度を上げます』
徐々に画像が鮮明になり、細部まで識別できるようになった。画像の範囲全体に影が差しているため、まだ少し見づらい。
見えたのは、墜落したAC輸送機。右翼が大きく欠損している。
それが原因で墜落したのか、それとも墜落時に弾け飛んだのかは分からない。コクピットは・・・完全に潰れている。
『ベイロードシティに、ACを輸送していたのでしょう』
恐らく中に乗っていたのであろうACも一緒に写っていた。機体色は深い緑をベースにし、局所には黄緑が使われている。
まだはっきりとは言えないが、恐らく逆関節。フレームは軽量なパーツを使用しているようだ。
手に武器を持っているようには見えないので、壊れてしまったのかもしれない。
ただ、ACそのものに大きな損害があるわけでも無さそうだった。
「これなら、特別急ぎというわけでもないか。どうせ輸送機のパイロットは死んでいる。ACなら自力でシティまで・・・」
そこまで言って、画像に違和感を覚える。
(何だ?何がおかしい?)
墜落した輸送機。特に問題無さそうに見えるAC。それだけだ。そこに影が差しているだけで、
(・・・影?)
メインカメラを上に向けて見る。一瞬太陽の光で視界が白く染まるが、すぐさまフィルターが機能して視界を確保する。
雲、一つ無い。
遥か彼方に見えなくもないが、少なくとも50キロ圏内に影を作りそうなものはない。では、いったいあの影はなんなのか。
『最新の画像を別角度で3枚入手しました。表示します』
カメラを水平に戻してから改めてパネルを見ると、
「何・・・だ、これは?」
『新型、と考えるのが無難でしょうね。私のライブラリーにも、合致する情報がありません』
大型というのも馬鹿馬鹿しいほどの、赤を基調とした巨体。所々に描かれた紋章のような物が、緑に発光している。
形状としてはACに近いが、ACが二三機まとめて肩に乗れそうな、ド級のサイズのメカだ。
脚部はACで言う所のフロートで、スカート型。両サイドにバルカンらしき砲門が正面に二門、後方に一門。
加えて、裾からスラスターが大きくはみ出しているため、お世辞にも優雅とは言えない。
前面の装甲板には、呪術的で奇妙な紋章が走っている。
胴は無理矢理装着したようなゴテゴテの装甲板に、やはり奇妙な紋章。下腹部にかなり大き目の砲身が見える。
迎撃装置に見えなくも無いが、あれで落とすのはミサイルを軽く通り越してACだろう。
グレネードランチャー・クラスの口径を有している。襟のような首周りが特徴的だ。
そして背面部に大きくせり出したリュックのようなバックパック。
細かく区分けされているところを見ると、どうやらミサイルランチャーの類のようだ。
腕部は武器腕ミサイルのような形状をしていて、比較的コンパクトかつシンプル。胴に密着するような形だ。
ぱっと見では分からないが、何かしらの兵器を内蔵しているのは間違いない。
頭は、角度的な問題と胴の襟でほとんど見えない。
だが特徴的な獣の角のような部位と、爛々と光るその一つ目だけが碧色に灯っているのがわかる。
赤をベースに、禍々しい翡翠で彩られた、規格外の大型機動兵器。それら情報から導き出される答えは一つしかない。
「旧世代の遺産か・・・」
輸送機はこれに撃ち落されたのだ。となると、先程のACが気掛かりだ。
こんなもの、まともに戦っても勝ち目は薄いというのに、まして武器のない状態でどう戦えというのか。
『シティに連絡を入れました。コール発信元の座標と共に画像を添付しておきましたので、特に説明はいらないでしょう。
すぐに動くはずです』
「・・・・・・・・・」
恐らく、あのACは助からないだろう。現時点での損害が0だったとしても、あれから逃れることはできない。
確かに規格外に巨大な機体だが、その分ブースト出力も桁違いなはずだ。
しかも、摩擦の影響を受けないフロートタイプとなれば、もはや絶望的だ。
今から急いで向かって、あれと一騎討ちを演じる必要は無い。シティからの増援を待って、合同で当たるべきだ。
「・・・・・・・・・」
冷静になれ。あのACは今頃、跡形も無く消し飛んでいるはずだ・・・。
『最新の画像を入手。表示します』
突き出たバックパックからは、白い尾を引く無数のミサイル。
両脇のバルカンから、間断なく撃ち出されるガトリング砲弾。
腹部から伸びた長大な砲身から炎が噴出し、巨大なグレネード弾が飛翔する。

それらが向かう先には、未だ無傷の逆関節AC。

―――どの道、長くは耐たないか。急がないとな。
無意識にそう思った時点で、アウトだった。
(一番馬鹿なのは、俺かもな)
自らの矛盾に自嘲の笑みすら浮かべながら、指示を出すべく肺を酸素で満たす。多少予測できた事態ではあるが、
『各パーツへのエネルギー供給を最低限度までカット。・・・システム 巡航モードに移行します』
「彼女」は先回りしていた。コンソールの光が、明るい青に変色する。
同時に『援護に向かう旨、シティとAC両方に伝えておきました』と、どこまでも先読みしている声が続いた。
ここまで分かっていて、彼女は前言を訂正したのだろう。
ジェネレーターの駆動音が一気に高まり、同時に「OUT PUT  DOWN」の警告が正面スクリーンの左上に表示された。
目覚まし時計のようで耳障りな警告音が、コクピットを満たす。
ただ、ひたすらにブースト移動することにのみ特化した、巡航モード。
移動に必要の無いパーツへのエネルギー供給を極限まで削って余剰出力を稼ぐことで、
戦闘モードと比較して10倍以上の長時間ブースターを吹かし続けることが出来る。
その分溜まる熱は、やはり余剰出力でラジエーターを強制的に緊急モードにしてフル稼働させることで対応する。
そのため「OUT PUT DOWN」の警告が表示されるが、実際に装甲の融解が始まる所まで機体温度が上昇したわけではない。
「ナイスだ、“サヤ”」
非常に出来のいい「相棒」に感謝しつつ、全開のブースト移動による急激なGに耐えられるように身構える。
機体が身を沈めて高速移動時の常態を作ったのと同時にさらりと、しかし気のせいか、先ほどより澄ました声で「サヤ」は告げる。
『仕事ですので』
獣の咆哮の如き爆音を轟かせ、純白のAC「名も無き毒蛇」は荒野を疾り出す。
後には、濛々たる粉塵だけが残った。


〜7分12秒後 ベイロードシティ近郊・丘陵地帯〜
平坦だった地面が徐々に起伏を増してきている。
風が出てきたせいで、赤茶けた砂が舞い始めていた。支障が出るほどのものでもないが、視界が悪化しているのは確かだ。
この近辺にはナービス社が所有していた、採掘場跡がいくつも残っている。そのほとんどは、最初の旧世代兵器襲撃で壊滅させられていた。
砂漠の、辺境としか言いようのない位置にあった小都市ベイロードシティがあそこまで発展したのは、
一重にこの採掘場から発見された「新資源」という名の「旧世代の遺産」のおかげだ。
その「旧世代の遺産」に採掘場諸共シティまで破壊されかけたのだ。皮肉なものだ。
シティのライフラインである「コローナ発電所」と「コイロス浄水場」はいずれも襲撃事件以前に破壊されていたが、
襲撃事件直後にその修繕が図られたために、現在ギリギリの所で稼動している。
今もしこれら施設が破壊されれば、シティは崩壊するだろう。
それを防ぐために、今もOAEのMT部隊が重点的に配備されているはずだ。レイヴンも数名づつ雇われている。
エネルギーゲージが緑から黄に変色した。ジェネレーターの容量が半分を切ったことを示している。
メインモニタに映し出される映像は、延々と続くなだらかな砂の大地のみ。いい加減うんざりしてきた頃、
『目標“ホロコースター”を確認。AC、未だ健在。損害軽微』
完全に戦闘モードなサヤの声がコクピットに響く。伝えてくる情報も、本当に最低限に絞られている。
勝手に名前をつけている辺りがサヤらしい。
(“虐殺者”か。なるほど)
正面スクリーンも、その異様なシルエットを捉えた。まだ、距離がある。
「ゲリオンの射程に入ったら教えてくれ。ロックはできなくていい」
『了解』
「ゲリオン」とは、左肩に装備した「WB15L−GERYON2」のことだ。
「GERYON」は実際何と発音するのかは知らないが、俺は勝手にそう発音している。
ネームレスヴァイパーの武装の中で最も単発の威力が高く、かつ長射程の兵器だ。
見る間にシルエットは大きくなり、その巨体を嫌と言うほど見せつけてくれる。
細かいジャンプや反転を繰り返しているのがACなのだろうが・・・比べるとあまりにも小さすぎる。
特大のグレネードがACを掠めた。大きく地面を抉り、爆風が薄い砂の壁を作り上げる。
その壁が風に流された頃には、次弾が発射されていた。
ミサイルとバルカンによる攻撃も、当然続いている。
(あれだけの攻撃を10分も・・・)
回避に専念しているとは言え、相当な腕だ。
『ゲリオンの射程まで、残り500』
500などという距離は、ACのサイズではほんの一瞬。
『ゲリオン、有効射程』
足をペダルから離してブースターを停止、急制動をかける。機体が少し後ろに傾くくらいが、丁度いい。
地面に深い亀裂を残しながら、ネームレスヴァイパーは砂煙に包まれた。
「狙撃モード。供給はゲリオンと左腕のみ」
『了解。・・・シフト完了』
ヘッドパーツのスリットが、通常モードよりも濃く暗い青に変わる。
先程までとは打って変わり、ジェネレーターもラジエーターも静かになった。
やかましく鳴り響いていた警告音も消え、不気味なほどの静寂がコクピットに充満する。
自身から発せられる音が消えたことで、遠方での戦闘が視覚だけでなく聴覚でも捉えられるようになった。
間断の無い音、何かが立て続けに破裂するような音、時折響く轟音。それらがひとつになって、荒れ狂っている。
ネームレスヴァイパーが、音もなく跪いた。
折り畳まれていたゲリオンの砲身が伸ばされ、上半身で唯一エネルギーが可動レベルまで供給されている左腕が持ち上がって、それを支える。
「初弾以降はエネルギー充填率を80%に落として、リロードを速く。先に撃てるだけ撃つ」
『了解』
メインカメラがズームされて、ホロコースターをセンターに入れた。
ジェネレーターもラジエーターも最低限度にしか働いていないため、僅かなブレすらない。
(狙いは・・・バックパック)
ホロコースターの周囲を、ACは時計回りにジャンプ移動している。好都合だ。
ACの動きに合わせて、ホロコースターもほとんど動かずその場で旋回する。相手が攻撃できないことを、知っているのだろう。
あと少しで、バックパックがこちらを向く。
ACが跳ねる。バルカンが、その軌跡を辿る。
もう少し。
ACが左右に空中で素早くフェイントをかける。その機動に騙されたグレネードが、あらぬ方角に飛び過ぎて火柱に化ける。
コンマ数秒。
ACがブースターを吹かして、無反動で着地。地を穿つバルカンの弾痕が迫る。同時に、バックパックの発射口が一斉にその口を開き、

今―――

瞬間、視界が閃光に満たされた。
威力に見合った豪快な発射音が鼓膜を、まるで見合わない控えめな反動がコクピットを振るわせる。
ゲリオンから解き放たれたエメラルドグリーンの高出力エネルギー弾は、一瞬にして荒野を飛翔する。
砂に霞んだ大気を切り裂き、グレネードの着弾で立ち込めていた砂煙を突き抜け、直進する。
そして、今正に8対計16発の小型ミサイルを放とうとしていたバックパックの後部に、狙い違わずゲリオンは炸裂した。
弾と同じ色の光が弾けて、バックパックは大きく形を歪める。続けて、発射されるはずだったミサイルがその衝撃で爆発。
巨大兵器が大きく前のめりに体勢を崩し、バックパックの後ろ半分が吹き飛んだ。
『ミサイルランチャー、機能50%以下に低下と推測』
その隙に、ACは大きく距離を取る。こちらにも気付いたはずだ。しかし今は、通信を送っている暇が無い。
『充填完了』
シースは無表情に2発目のトリガーを引く。
体勢を崩している状態では、ただの的だった。まだ発射指示が出ていないため、ミサイルが暴発することはない。
しかし再び溢れた緑色の炎は、今度こそバックパックを完全に破壊した。爆発は起きなかったが、機体が揺れる。
『ミサイルランチャー、機能停止』
粉々になったバックパックから、黒煙が昇る。砕けた破片が脚部にぶつかって弾かれ、中空に散ってゆく。
『充填完了』
休む間も無く3発目。
体勢を立て直した所に直撃。今度はバックパック下、脚部のスカート部分に突き刺さる。
さすがに装甲の厚い部分らしく、それほど大きなダメージは与えられていない。
ミサイルの爆圧にも手助けされて先程は大きく傾いだりもしたが、今度は微塵も揺らがない。しかし、
『充填完了』
4発目。ほぼ同じ部分に直撃。3発目で熱せられていた装甲板が融解し、表層の最も厚い装甲が剥がれた。
鈍色の内部装甲が覗いているが、そこも大きく抉れていた。
ゆっくりと、機体が旋回している。こちらを向くつもりなのだろう。
『充填完了』
ほんの少し射線を上に向けた、問答無用の5発目。ほぼ完全にこちらを向いた機体の、避けられるはずもない胴体下腹部が爆炎に飲み込まれる。
炎が晴れた時、「それ」は無残な姿に変わっていた。
『グレネードランチャー、機能停止』
これで、主要な兵装は無効化した。残るはバルカンと―――
瞬間、ホロコースター唯一未使用だった腕部が動く。箱のようだったその箇所は、そのまま真下にスライドした。
中からは、球状の物体が現れた。陽の光を反射して、澄んだ光を放っている。
『充填完了』
小さく舌打ちしつつも、トリガーを引き絞った。
鋭い煌きの軌跡を残して、ゲリオンは一直線にホロコースターに向かう。
しかしホロコースター直前の空間で、突然ゲリオンは霧散する。
『未検出の力場の発生を確認。現状より、エネルギー兵器を無効化するものと推測』
つまりは、そういうことなのだろう。あの球体は、言わばフィールド発生装置なのだ。今更、何を持ち出されても驚く気はない。
それに、驚くのは後からでも出来る。今は、対応することだ。
ホロコースターが、前傾姿勢を取る。
直後、爆発的に桜色の炎を噴射し、その巨体がネームレスヴァイパーに迫る。
背後に自ら発生させた盛大な砂嵐を伴って突撃するその様は、津波のようだった。
もう一度、先程より強く舌打ちをしてから機体を立ち上がらせる。
「あっちのACと回線繋いでくれ。それと、」
『了解』
サヤには分かっている。俺が、何を要求しているかが。
(こっからが、本番だな)
コンソールパネルに、回線が繋がったことを継げる「Establish」が表示される。
同時に、ジェネレーターとラジエーターが眼を醒ました。機体が本来の力を取り戻してゆく。
そして、サヤの声が告げる。
『システム 戦闘モードにシフト』
頭部パーツのスリットが、烈火の如き赤に変色した。


『聞こえるか?何か使える武器があるなら、教えてくれ』
突然に開かれた回線。やっと落ち着きかけていた動悸が、再び激しくなる。
「あ・・・」
声が、上手く出ない。でもそれは、いつものことだ。
私はACのパイロットとしての訓練以外、何一つ知らない。言葉だって、ACに関わるパーツや装置程度しか知らない。
「ミサイル・・・ある。でも・・・ロック、できない。あと、」
大きくて怖いそれは、どんどん離れていく。遠くに見える、白いACに向かっているのだ。この声の人が、あのACに乗っている。
赤くて大きな機体の腕から現れた、丸い何かが青色に光った。
眼を灼くヒカリが発生して、丸い何かから特大のエネルギー弾が発射される。音は無い。
『・・・っ』
舌打ちが聞こえた。
撃ち出された弾と同じ色の炎を噴射して、白いACが前進する。速い。
青いヒカリの弾は頭上を通り越して、後方の大地に吸い込まれた。
音の無い間があって、吸い込まれた場所を中心に巨大な半円状の「何か」が吹き荒れる。爆発とは、何か違う。でも、爆発にしか見えない。
後には、何も無いクレーター。
『攻守両用か・・・』
呟きが聞こえてきた。爆発の影響か、少しノイズが混じっている。
『めんどうだ。機体データを送ってくれ』
私に向けられた言葉。応えなくては。
「わかっ・・・た」
唇が震えている。まだ、怖い。
それでも、手は震えないでいてくれた。迷い無く操作し、機体のコードを白いACに送信する。
その間に白いACは大きな機体に突撃した。真正面から、何の捻りもないブースト移動だ。都合4本の火線が迎え撃つ。
ギリギリまで引き付けて、ほぼ真横に平行移動。そのまま円を描くように、右側に回り込む。
可動範囲を越えたため、前部のバルカンが止まった。その代わりに、右後部のバルカンが動き出す。
『今は俺が引き付ける。とりあえず、常にこいつの背中を取っててくれ』
「了解」
淀みなく、声が出た。もう、大丈夫。
訓練通り、逆関節自慢の脚力を生かして跳躍。その勢いのまま、ブースターに点火して高度を稼ぐ。
漂うようにして浮遊し、大きな機体の背中を押さえた。


『機体データを受信。識別コード、該当機体なし。アーク未登録』
パネルに、ASMコードが表示される。
『ASMコード &Nxg00cE002wE01U109A0FBcC0aM71Eu0c0fA3w# 』
それを基に、緑の機体がパネルに構築されてゆく。
軽量逆関節。それは分かっていたが、
(仁王様にエルフ2・・・ブレード狂か、こいつはっ!?)
思わず叫びそうになる。そこへ、サヤが追い討ち以外の何物でもない、補足を加える。
『FCSが未調整の為、ロック機能が使用できない模様』
―――あぁ、それでミサイル積んでるのに撃たなかったのか。納得した。
「って、アホかっ!?」
今度こそ声に出して叫び、その勢いでリニアライフルを構えた。
乾いた破裂音が響き、ホロコースターの右後部バルカンに向けて特殊弾頭が撃ち出される。
ヒットはしたが、掃射は続く。決して威力の低い武器ではないが、そこは巨大兵器、並の耐久力ではないようだ。
(長期戦は願い下げだな)
操縦桿横のボタンを殴るようにしてONにし、さらにもう一つボタンを押し込む。
『EO、マスターモードで起動』
ネームレスヴァイパーの後部からEOが射出された。
放って置けば近くの敵を撃ち始めるが、マスターモードならパイロットの動きに合わせて同じ的を狙う。
先程と同じ乾いた発砲音に、それとは違う断続的な発砲音が重なった。
『右後部バルカン、機能停止』
高速で周囲を回っているため、ホロコースターはこちらを捕捉出来ていない。
(このまま前のバルカンも・・・)
そう思った矢先、
『未検出エネルギー、腕部に収束』
右腕の球体に「何か」が集められ、青い輝きを放つ。
機体を急停止させ、強引に左へと跳ぶ。脚部が軋むが、気にしてはいられない。
刹那、右腕の球体から青い弾丸が撃ち出された。ゲリオンと同じか、それ以上に速い。
初弾よりは気持ち小さいが、ネームレスヴァイパーのいた場所にはしっかり半円状の窪みが出来上がる。
(球体だけに、全方位砲撃可能、か。先に狙うべきだったな)
『収束』
着地と同時に、サヤが知らせる。再び操縦桿を右に倒し、ペダルを踏み込んだ。
まるで、先のゲリオンのお返しをされている気分だった。威力を抑えて、連射してきている。
回避に気が行っていたため、4発目を避けた所でホロコースターの正面に来てしまった。
『両腕、収束』
牽制程度に撃ってくる前部のバルカンに行動範囲を狭められている今、完全に避け切るのは少々無理がある。
後方に跳躍すると見せかけて、再び前進する。
巨大なエネルギー弾は後方へ流れ、同じ型のクレーターを二つくっつけて作った。
結果としてバルカンに突っ込む形となる。リニアとEOをすぐさま撃ち込み、右前部のバルカンを破壊する。
『右前部バルカン、機能停』
サヤが言い終わるより早く、残った左前部のバルカンから放たれた砲弾が機体に当たる。さほどの揺れはない。
『損害軽微』
左手のブレードを盾のように構え、ネームレスヴァイパーは後退を開始した。ホロコースターは、それを真っ直ぐ追いかける。
(押し勝てると判断してるのか。それにしても、単純だ。旧世代の戦闘AIは未完成なのか?)
先程側面を取った時も「距離を取って立て直そう」というような動きは無かった。ただ、旋回するだけで追いつこうとしていた。
球体からの弾は全方位に撃てるからかもしれないが、実はバカなのかも知れない。
ホロコースターの肩越しに、見下ろすような形で滞空する件のACが見えた。
「このまま真っ直ぐ後退する。どこでもいいから、カルラとヒュドラをノーロックでブチ込め!!」
バルカンを、細かいフェイントと若干ながらシールドとしての機能も有しているブレードで凌ぎながら、中々にとんでもない指示をACに飛ばす。
『了解』
最初のビビり具合はどこへやら。
存外に素早くはっきりした返事が返ってきたが、そんなこと今はどうでもいい。
付け加えるなら、ネジが確実に2ダースは緩んでいるとしか思えないその機体構成と、
パイロットの声が若い女という異常事態について真剣に考えてみたいが、それも今は我慢だ。
武装をミサイルに変更すると同時にEOをオートに切り替える。
視点を上向きにして、ミサイルは右の球体を捕捉にかかる。
時折被弾して機体が揺れるが、かなり広角のこのロックサイトにはなんら影響を及ぼさない
4ロックまで来た所で、再び両の球体が輝きを発する。
『収束』
『撃つ』
サヤの警告と、いつの間にかかなりの高度まで上昇していた緑のACからの通信が被る。
一瞬に凝縮された、いくつもの爆発音。カルラとヒュドラ、併せて10発分が白い尾を引いて、ほぼ垂直に撃ち降ろされる。
先にカルラのマイクロミサイルが着弾した。ゲリオンで抉っておいた部分に9発ともヒットし、その周りの多重装甲は全て剥がれ落ちた。
もうあと一押しで、脚部の機能を破壊できるだろう。
その「もう一押し」、後続のヒュドラが追い討ちをかける。
本来なら2段階に弾頭が分裂するはずだが、ノーロックで目標が設定されていないために、そのままの形で降ってくる。
別に狙ったわけではないだろうがまたもや、無残にも大口を開けた装甲の、真ん中に突き刺さった。
ひしゃげた大型特殊ミサイルの弾頭から、8発分の小型ミサイルが向きもてんでバラバラに吐き出される。
しかし突き刺さっている時点で、結果は見えている。
全弾、命中。
くぐもった爆音が空いた穴から溢れ、次の瞬間には脚部のスラスターが大爆発を起こした。
紅蓮の炎がホロコースターの脚部全体を一気に覆い尽くす。
度重なる攻撃が脚部の装甲が完全に破壊し、その下のスラスターをも破壊したのだ。
浮力を失った巨体は、沈むほか無い。前進の勢いをそのままに、つんのめるようにして地面に落ちた。
ACの全長ほどもある、巨大な砂のヴェールのようなものが押し寄せてくる。
衝撃が大き過ぎたか、球体の輝きも失われた。
『当たった。止まった』
墜落の轟音で聞き取りづらかったが、下降してくるACから微かに嬉しそうな声が届く。
「ああ、ナイスだ」
素っ気無く返しつつ、こちらもロックを終えたミサイルのトリガーを引いた。「妖精」という名を冠された小型ミサイルが、6連続で放たれる。
既に止まっている相手になら、ロケットだって容易に当たる。全弾立て続けに右の球体を直撃。
まさか耐え切るとは思わなかったが、リニアを1発撃ち込んだ時点で大きな亀裂が入った。
『左腕のみ収束』
再び青い光が発せられるが、右腕は沈黙したままだ。破壊に成功したらしい。
あとは、武装を全て失っている右側に回りこんでホロコースター越しに球体をロック。
背面に回りこむと同時に撃ち込めば、リスクを限りなく減らすことができる。
停止していた機体を再び、完全に動きを止めたホロコースターに向けて発進させる。
まずは、この一撃を避けて―――
しかし、ネームレスヴァイパーが側面に回り込むまでの数秒間、青い弾丸は飛んで来なかった。代わりに、
『あっ・・・』
ホロコースターの正面付近に着地しようとしていたACから、小さな悲鳴があがる。
『力場の発生を確認。ジェネレーターに影響を受けている模様』
エネルギー兵器を無効化するのではなく、電気エネルギーそのものを拡散させてしまうらしい。
「どんなインチキだ・・・クソが」
ブースターで落下速度を緩めることなく、ACは着地してしまった。
軽量級とはいえ、ACの重量だ。枯れた大地に深くめり込み、大きく体勢を崩す。
『あ・・・あぅ・・・ぅ・・・・・・ぁ』
漏れ出るような、細い悲鳴が通信機越しに届く。
通常の歩行すらできないほど、エネルギーが奪われてしまっているようだ。着地した態勢から、ピクリとも動かない。
『あっ、ぐぅ!?』
緑の機体の装甲が浅く弾ける。
まだ残っていた、バルカンだ。脚部が破損した影響か、ほとんど単発での発射となっている。それでも動けない機体には十分脅威だ。
『収束』
「!?」
間違いなく、今度こそあの青い弾を撃つ気だろう。
ミサイルは、ロックが間に合わない。
リニアでは、壊し切れない。
ゲリオンも、破壊には数発を要する。
ブレードも、刺しに行く時間がない。
助ける、術がない。
青い輝きが、最高潮に達する直前。その刹那に凝縮された、爆発音。先程のカルラ×ヒュドラより多い。
10数発のマイクロミサイルが、上空から降り注いだ。
集弾率の高さがウリのマイクロミサイルが、まるで1つの塊であるように球体を正確に打ち砕く。
『左腕、機能停止』
解放された青のエネルギーは、大気に放出されて霧散した。
カメラを、上空に向ける。そこには、傾いた夕日に彩られた茜空と―――

『ランカーAC“ウロボロス”を確認』

自らの尾を食み、消滅と生成を永劫に繰り返すという、伝説の蛇の名を冠したAC。
大きく突き出たコアと、角ばった肩が特徴的だ。黒を基調として、暗いブルーが不気味に輝いている。
この機体を、知らないレイヴンはいない。
『ASMコード &NG500b2w05wE00w901l610E80aNr6wsse0daww# 』
アークに登録された、ウロボロスのデータ。パネルに機体が表示されていくのと同時に、パイロットの名前も表示される。
「クロノス・・・」
ベイロードシティ防衛の英雄であり、今はその要でもあるトップクラスのレイヴン。
未だ満足に動けないACを撃ち続けていたバルカンを、鋭く撃ち抜く2発の高速弾。ウロボロスのマガジン式スナイパーライフルだ。
黒のACが、蒼い残像を残して降臨する。その左腕のブレードから、青白い燐光がこぼれている。
一閃。
神聖さすら感じさせるほどに美しく、強力な刀身。降下の勢いをそのまま、着地際に前部バルカンを装甲ごと斬り裂いた。
『左前部バルカン、機能停止』
粉塵を巻き上げて、ウロボロスは乾いた大地を両の脚で踏み割る。
上半身を捻り、間髪入れずにリロードを終えた大型のライフル弾が放たれる。
そちらに砲身を向けかけていた後部バルカンが、容易く破壊された。
『左後部バルカン、機能停止』
恐らくはヘリからの降下。そこからたったの10秒程度で球体もバルカンも、左半分の武装を全て破壊してしまった。
奇襲であることや、武装の違いはある。しかしそれでも、それぞれの武装の耐久力を一目で見抜く慧眼は、
(次元が、違う)
『これで、終わったか?』
いつの間にか開かれていた回線から、この土地のように乾いた男の声が聞こえる。歳は、俺と「親父」の間くらいか。
本物の声を聞いたのは、もちろん初めてだ。
「ああ、多分な」
本物の超人に驚きはしたが、今はそれよりも、
「おい、大丈夫か?」
ホロコースターの横を通り抜け、かなり塗料の剥げてしまった元・緑のACに声をかける。
一見した所、心配するほど深刻なダメージは受けていないようだった。
返事は無い。しかし、機体の方はなんとか動いている。少しづつ大破寸前のホロコースターに向き、
「ぉあ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
何故か、跳躍の予備動作を取っている。さらに言うなら、右腕が引かれている。
つまり、ACの武装の中でも“最凶”と言って差し支えない武器を、構えている。
角が生えたような、特徴的な頭が上を向く。つられて見上げると、同じく角の生えたホロコースターの頭部。
未だモノアイは緑色の輝きを失っていない。機能停止したわけではないのだ。
「何する気だ?」
『仕返しっ』
即答だった。怒り半分涙半分といった感じの声だった。
唖然としている内に、逆間接が強く地面を蹴る。機体はホロコースターの胴体に突進し、その右腕を振り上げた。
そこには、黄昏の赤に濡れる「仁王様」が―――

ごづぉん。

「・・・すげぇ」
感想は、それしか出てこない。
『・・・ホロコースター胸部装甲板、最凶兵器“仁王様”の一撃により粉砕、同時に胸部が脚部より分離』
幼児が大の大人をぶっ飛ばすのと同じくらい冗談としか思えない光景を、やはり冗談としか思えない冷静な声でサヤが報告する。
微妙に声が弾んでいた気がしたが・・・気のせいということにしておこう。
思えばゲリオンで破壊したのは下腹部で、胴体には1発も撃ち込んでいない。
ゴテゴテの装甲板に守られていて、撃つだけ無駄だと判断したのだ。
『あれだけの厚さの装甲が一撃で吹き飛ぶとは・・・』
さすがのクロノスも、これには驚いたらしい。
パイルは、装甲板を胴体ごと打ち上げた。そう、上と下が、たった一撃で分離した。
間違えてはいけない。
ACの胴体ではなく、ホロコースターという巨大兵器の胴体が吹き飛んだのだ。重量は、AC1機以上あるだろう。
どデカイ鉄板がいくつも降ってきた。ホロコースターの、粉砕された装甲板。酷く芸術的な歪み具合だった。
半テンポ遅れて、高々と打ち上げられていた本体がすぐ近くに落ちてきた。胸に、大穴が開いている。
トドメとばかりに、仁王様ACがその上に着地・・・というより、タイミングよく両足を蹴り出して踏み台にした。
再びACは高々と舞い上がり、哀れホロコースターは半分ほど地面に埋没する。
「もう、いいか・・・。通常モードに戻してくれ」
『了解。システム 通常モードにシフト。おつかれさまです』
頭部のスリットが、潮が引くように青く変色した。出しっぱなしだったEOも、コアに収まった。
(逆関節の脚力って・・・ありゃ立派な武器だな)
思わずパネルにネームレスヴァイパーの脚部を表示させて、まじまじと観察する。
軽量級並に絞られていて、他の中量級に比べると足首は細い。しかしよく考えてみれば、積載量は軽量級のそれを遥かに凌いでいる。
にも関わらず細いのだから、かなり頑丈なのではなかろうか。
『機会があれば、試してみますか?』
やはり、サヤには何を考えているかバレているらしい。
「まぁ、機会があれば、な」
『無いことを願います』
微妙に、嫌そうな声だった。
『ヘリは待機させてある。戻るぞ』
「了解」
『あの』
仁王様ACのパイロットが、小声で呟く。
「どした?」
『街に・・・エヴァンジェ、い・・・る?』
エヴァンジェの知り合いだろうか?
(そういや、まだ名前も聞いてないか)
彼女の機体がアーク未登録であることを考えると、放浪していた時期に知り合ったのかもしれない。
「ああ、確かにい・・・」
『今はいない』
『えっ・・・』
俺の言葉を遮って、クロノスが答える。今は、いない?
『コローナ発電所とコイロス浄水場にも、旧世代兵器が出た』
「なっ・・・」
『発電所にはファントムが5、アサルト・ビーが約1000。浄水場の方には、ファントムが10、アサルト・ビーが約500だ。
エヴァンジェ達は、発電所の方の援護に行っている。浄水場にはジノーヴィー達が向かった。
俺は万が一に備えてシティに残ったが・・・正解だったな。』
ファントムとは、これまで旧世代側の中でも特に戦闘能力の高かった機体だ。
多彩な武装に加えてミサイルカウンターやホバーブースターなどを持ち、少し形状が特殊なAC、といった機体だ。
何故か「排除、排除、排除」とほざくので、通称として「排除君」という呼び名もついている。
アサルト・ビーは、ある意味主戦力と言える。爆薬を搭載した小型機で、大量に投下されて突撃してくる。
その形状がパルスライフルに似ていたため「特攻パルス」などと呼ばれることもある。
ちなみにサヤは、どちらも正式名で呼ぶ。
(俺が、通称で呼ぶのを禁止したからだがな・・・)
戦闘中に『排除君、及び特攻パルスを確認』などと言われたら気が抜ける。
『数から考えて、本気で潰しに来た訳ではないだろう。比較的早く察知できたこともあって、被害は余り出ていないはずだ。
それに、2人以外にも複数の上位ランカーが出向している。すぐ収まるだろう』
『わかった・・・』
恐らく「親父」も、その上位ランカーの1人なのだろう。
ヘリのローター音が近づいてきた。見上げれば、AC投下用の高速貨物ヘリが降下してきていた。
いつ見ても、ACを載せて運べるほど気合の入った代物には見えない。
事後処理は、あとから来るであろうチームに任せればいい。今はシティに「OAE旧世代兵器対策チーム」がいる。
ついでに何か「対策」とやらを見つけて欲しいものだ。
最後に、ホロコースターの胴を一瞥する。大穴が、きらりと光った。
(・・・・・・・・・)
なんとなく、気になった。
降下するヘリに向かっていた機体を止め、ホロコースターに向ける。
『どうした?』
「いや、何か光った気がしてな」
また、光った。
『・・・何だ?』
クロノスにも見えたらしい。
「ちょっと見てくる」
ペダルを踏み込んで、軽く跳躍。ACの身長くらいはある、胴の上に降り立つ。
見下ろして、絶句する。

穴の中には、腕についていたのと同じような球体が―――

視界が、一瞬にして収束した蒼い光で満たされる。
『!?』
声になっていない悲鳴を上げたのは、クロノスか、それとも仁王少女か。
(まぁ、仁王の方だよな・・・)
機体のエネルギーが、一瞬にして奪われた。覗き込んでいた機体は、大穴に向かって傾いでゆく。
ゆっくり、ゆっくり。
それでも、さすがは旧世代の「監視者」に最適化された機体だ。最低限の駆動系はすぐさま回復、倒れる前に踏み止まった。しかし、
「やっぱり、な」
まだ、機体は動けない。
酷く冷静な自分がいた。つまり、窮地ということだろう。
(サヤの言うことは正しかったな。まさかまだこんなインチキ残していやがるとは・・・油断した)
再び、蒼の閃光。チャージに要する時間は、コンマの世界だ。腕部の球体より強力らしい。
瞬きする間も無く膨張した力場が、再びネームレスヴァイパーを包む。
今度こそ、ほぼ完全に機能停止した。
正面スクリーンが一瞬暗転するも、なんとかそこだけは持ち直した。
ぎしぎしと、脚部が軋む。徐々に、倒れこんでゆく。このまま行けば、球体の上に覆いかぶさるような形になるだろう。
不意に、声が響く。
『ごめんなさい』
「あ・・・?」
サヤの声なのは分かっている。分かっているのだ。だが、何故彼女が謝る?
俺とこの機体に破滅をもたらすであろう光が、球体に集められてゆく。輝きのレベルが、まるで違う。
「・・・痛っ」
頭に、激痛が走った。焼けた鉄を突っ込まれたかのように、熱い。
「がっ・・・ぁ」
その瞬間、何かが弾けた。時が止まったかのような錯覚が体を支配する。
(こんな所で、くたばってる場合じゃねぇ・・・)
そうだ。約束が、ある。
どんな約束だったのかは思い出せない。しかし、少なくとも今ここで死んでは果たせない。
そして、これだけは覚えている。
俺は、何があっても、何をしてでも、その約束を守ると―――そう、誓ったこと。
それすら忘れていた自分が腹立たしい。殺してやりたいが、それはまずい。
邪魔をして下さるおつもりらしい、この野郎もむかつく。殺してやりたいが、そもそも生物じゃない。
まとめると、とりあえずキレそうだ。
輝きはすでに視界全てを青で塗りつぶし、その強さをさらに増している。自爆でも、する気なのだろうか。
もしそうなら、このレベルの光度だ。クロノスや仁王少女、ヘリまで巻き込むのではないだろうか。
しかしやはり、一番の問題は俺とこの機体を潰すつもりだ、ということ。
(・・・・・・・・・)
何か、景気のいい音が後頭部で聞こえた気がする。即ち、ぶちっ、と。
キレた。
大きく肺が空気を吸い込む。慣れ親しんだコクピットの匂いに混じって、何故か花のような香りを感じた。
そして、
「ふざけるなあああああぁぁぁぁぁっ!!」
絶叫。
コクピットには似合わない、妙にコミカルな音が聞こえた気がする。そして、凛と澄ました彼女の声も。
『D.S.S. 起動』
それとは別にまた「ごめんなさい」と、聞こえた気もするが、気のせいということにしておこう。


エネルギーを奪われ、倒れかけていたネームレスヴァイパーが、その動きを止めた。
消えていた、頭部のスリットが燃え上がる。
素早く、左腕を振り上げた。双発型ブレードが、その口から放電する。
一度大きく、大気に青紫のエネルギーが放出された。
破滅の蒼を切り裂く、紫電の炎。
それが、規格を遥かに越えたレベルのエネルギーを内包したブレードとして形成される。
腕が、球体を殴りつけるような勢いで振り下ろされた。
触れる前に刀身が球体を溶かし、触れた瞬間に引き裂き、腕が伸び切った時には、貫通していた。
破壊された球体から、爆発的に青が放出された。
倒れた胴から吹き上がるそれは、心の臓を抉られて血が噴き出しているかのようだった。
ネームレスヴァイパーが青の洪水の中から垂直に飛び出した。ブースターを使って大きく跳躍して青を振り払い、ゲリオンを構えている。
砲身に緑が溢れ、弾けた。
口を開いているホロコースターに向かって、裁きが撃ち下ろされた。
間違いなく100%を越えたエネルギーを凝縮したその鉄槌は、ホロコースターの内部を蹂躙し、その爆発によって完膚なきまでに破壊する。
パイルで脆くなっていた装甲は内側から叩き壊されて弾け飛び、球体はブレードによって裂かれた部分から粉々に砕け散った。
そしてついに、爆発を起こした。傾いた陽よりも赤い業火が、ホロコースターを包み込む。
特別に調整されていない二脚には禁忌に近い、空中からのキャノン発射で大きく体勢を崩したネームレスヴァイパーは、
それでもなんとか着地する。
荒れ狂う、力場の蒼、キャノンの碧、そして炎の紅。複雑に絡み合った破壊の力の中心に、白色の巨人は君臨していた。


怖かった。
確かに倒したと思ったアレがまだ動いたのも怖かったが、それ以上に怖い。
あの機体は、一体なんなのだろう?
突然再起動して、とてつもない勢いで攻撃して、今度こそアレを完全に破壊した。
怖い。
敵ではないと分かっているけれど、やっぱり怖い。
「・・・っ!?」
目が、合った。
こっちに歩いてくる。一歩一歩、どこかぎこちない動作で歩いてくる。
怖い。
怖い。
怖い。
『頭痛ぇ。ガンガンする』
「・・・・・・・・・」
『あと、腹減った。昼、ロクに食ってねぇ。もう飯食える時間か?』
『はい。戻る頃には準備も終わっていると思われます』
「・・・・・・・・・」
『あー、でもその前に寝たい気もするな・・・』
『食いはぐれるぞ。寝たいなら、帰りのヘリで寝ておけ』
「・・・・・・・・・」
私は確かに怖がりだと思う。
それにしたって、あれをやって、そしてそれを見て、平然と会話してるこの人たちって、すごい。
でも、
『ヘリって言っても・・・10分そこそこしか寝れないな』
死にかけた直後、ほんとに寝る気でいる彼が、きっと一番すごい。


〜2分30秒後 ベイロードシティ近郊・上空〜
『これは・・・驚いたな』
「・・・だな」
ヘリに固定されて飛び立ってしばし。
名前ぐらいは聞いてから寝ようと思い、仁王様ACの少女にパーソナルデータを送るように頼んだ。
尋ねても、またボソボソとやられそうだったからだ。
まず機体が、彼女のものではなくキサラギの研究所から強奪してきたものだという事実に驚愕。そのため、FCSが未調整だったのだ。
そして名前は「とっつき仁王様」だ。誰がつけたか知らないが、ネーミングセンスとしては最強だ。間違いない。
彼女自身の名は、普通に呼ぶなら「セリア」なのだが・・・。
『XX-04-SELIAって、名前・・・なの』
キサラギが極秘に進めていた何かしらの計画の産物だと、本人は言う。
XXは、女性を示す染色体。04は、10体のクローンのうちの4人目という意味・・・だそうな。
最後のSELIAが、むしろおまけのような扱いだったらしい。便宜上つけた、といった所だろう。
残りの9人は既に「処分」されたらしい。事実なら裁かれるべき行為だが、キサラギは既に解体したも同然だ。
「で、施設を抜け出して来た・・・と」
『そう』
「なんでまた」
『・・・・・・・・・』
黙りこんだ。何故だ。まさか、頬を染めていたりはしないだろうな?
『エヴァンジェに会いたかった、か?』
『ぅ・・・』
図星かい。何か複雑な経緯で出会ったらしいし、ワザワザ所在を尋ねるくらいだから、理由には入ってるだろうとは思ったが、
「お前、歳いくつだ?」
『・・・2』
いや、お前が生まれてから何年経ったか、じゃなくてだな・・・。あぁ、頭痛ぇ。
『もとの人・・・の、歳も・・・併せると・・・17』
「やっぱりその辺か・・・」
そもそもACに乗れていることが驚きな年齢だが、それ以前の問題だ。なんというか、あれだな。
『エヴァンジェ・・・彼に対する認識を少し改めた方がよさそうだな』
「俺もそう思う」
まぁ、勘違いであることを祈りたい自分もいたりするのだが、
(17なら、そっち趣味って訳でも・・・いや、そっちか?)
試しに、境界はどの辺か聞いてみようとしたら、
『私に聞かないで下さい。そのような情報はありません』
至極当然の反応が、素早く返ってきた。
(本人に追求してみる必要がありそうだな・・・)


ヘリは暗くなり始めた荒野の空を飛ぶ。3機のACと、壮絶な誤解を載せて。
・・・誤解かどうかは、いずれ分かる。




――――――――――――――――――――


『無駄に長い文章読破、おつかれさまでした』
「あぁ、真剣に疲れた・・・」
『あなたにはまだ、やることが残っていますよ、シース』
「あ?」
『第一章でいきなりあとがきも変ですので、キャラ紹介をやるそうです』
「誰が決めた・・・んなこと」
『作者です』
「あのな・・・俺は早く飯が」
『逆らうと、とっつきだそうです』
「あれか、あの“ごづぉん。”っていう、脳みそ沸いてるとしか思えない効果音の」
『そうです。ですから、真面目にやってください』
「ダリぃ・・・」
『では一応、私から。名前は“サヤ”です』
「俺の機体、ネームレスヴァイパーのAIだな。ほんと、役に立つ」
『・・・まぁ、いいでしょう』
「何がだ?」
『気にしないで下さい。細かい設定は読めば大体見当がつくはずです』
「・・・いや、全然だが」
『・・・。次は、シース=レス。本編の主人公です』
「どーも」
『細かい人物設定は本編を読んでください』
「・・・」
『・・・』
「それだけかっ!?」
『何かあれば、ご自分でどうぞ』
「・・・。まぁいいか。本編に書いてないことで自己紹介になるもの・・・そうだな。狙撃が得意だ。
サヤが通常登録されてるモード以外に“狙撃モード”を作ってくれたおかげで、活かせる場面も多い。
あと、視力もかなり高いぞ。レイヴン試験に受かった時は、両目とも5.0はあった」
『それ以上は測れなかったそうですね』
「まぁ、そうなんだけどな。そんな所だ。次は誰だ?」
『そろそろセリアが来るはずです。・・・来ました』
『・・・』
「初手から黙るな。そして何故機体ごと来る」
『私・・・早・・・く、エヴァン、ジェに・・・』
「俺だって飯が食いたい。いいからとっとと喋れ」
『・・・』
「・・・」
『詳しくは本編で確認してください』
「結局それかっ!?」
『もう、いい?』
「そこまでエヴァンジェに執着する理由ぐらい言え」
『ぅ・・・』
「あ、こらっ。逃げるな・・・ちっ」
『そういえば、まるで容姿が謎のままですね』
「そういやそうだな。程度によっては、エヴァンジェがロ○コ○確定だしな。重要だ」
『○リ○ンかどうかはさて置き、あの2人には深い因縁があるようです』
「まぁ、そんな感じはするが」
『あなたの両親、ジノーヴィー、それとすでに死亡しているアグラーヤ辺りも絡んでくるらしいです』
「なんだ、そりゃ。どこから仕入れた?」
『作者のメモです』
「・・・」
『その辺りの情報が開示されれば、エヴァンジェがレイヴンになった理由なども明らかになるようです』
「作者お得意の妄想ワールドだな」
『・・・。クロノスが来ました』
『・・・』
「あんたも、何故に黙る。そして何故、ACに乗ったままなんだ」
『飯はいいのか、シース。なくなるぞ』
「だあぁ、うるせぇっ!!俺も好きでこんなもん付き合ってんじゃねぇよ!!」
『お前がACで暴れないうちに終わらせるか。で、何を話せばいい?』
「・・・」
『・・・』
『詳しくは本』
「まてぃ」
『何か?』
「どこがキャラ紹介だ」
『そうは言っても、クロノスはまだ謎を残したまま進行するようですよ』
『ああ、その予定だ。作者のメモによると、俺はかなり特殊な存在のようだ』
「そのメモは、いったいどこにあるんだ」
『秘密だ(です)』
「あーそーかい。じゃ、さっさと帰れ」
『ああ、そうしよう。彼女の容態も気になるしな』
「・・・何だと?」
『じゃあな』
「逃げやがったな・・・」
『彼も、容姿どころか年齢すら分からず終いですね』
「まぁな。一応ゲーム本編の主人公扱いだし、役柄的にどうせ美形なんだろうが」
『間違ってはいないでしょうね。そういうあなたも相当美形ですよ』
「・・・」
『・・・』
「次は?」
『終わりです』
「・・・結局、何も分かってないんじゃないか?」
『気のせいです』
「・・・じゃ、俺は飯に行く。また明日な」
『はい。お疲れ様です』


作者が飽きっぽい性格のため、次の章はいつになるか分かりません。
書く気があるのか、ないのか。
正直それすらも、不安です。
某所に放置されている作者メモ。
それを見る限り、第三章で終わるようです。
短いですね。
それ以外に、外伝的な話を書くつもりのようですが・・・。
アテに、なりません。
・・・。
そういえば、作者からメモを預かっています。

セリア機「とっつき仁王様」
機体投稿:ゼル様(キャラ、機体共にネーミングは作者)
クロノス機「ウロボロス」
機体投稿:FUBUKI様(キャラ、機体共にネーミングはFUBUKI様)
ありがとうございました(ぺこり)
まだ登場していない方のも、いずれ登場します。
果てしなく気長にお待ちください(ぺこり)

はい、以上です。
ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
それでは、また。
・・・お会いできるかどうか、激しく謎ですが。
作者:クロービスさん