サイドストーリー

CODE:01 MISSION STRT.
虫でさえも飛ばない、灰色の空。
誰がさえも絶望を予感しうる雲。
ゴオオオォォォォ・・・・・
その雲を裂きつつ、巨大な輸送機が姿を現す。

パチ パチ・・・・
「いつ飛んでも、嫌気の差す空だぜ・・・」
「そうか? 俺は慣れたけどな」
頭上にあるスイッチを上に上げながらぼやく男に、輸送機のハンドルを握る男が答える。
「さて、着陸だ。・・・企業の敵対者が出てくると思ったが、来ないようだな?」
「当たり前だ! こんな輸送機にも群がってこられたら、いくらミラージュでも小企業だ」
そこまで言って、男は笑い出した。つられてハンドルを握った男も笑う。
・・・不吉な影が伸びている事も知らずに。

「・・・・・・目標発見。直ちに撃墜する」
無機質な男の声が、暗く狭いコックピットに響く。
ガシュン・・・・・・
蒸気が噴出す音を起てて、不気味な紅い光の灯る機体が、僅かな光を伴って動く輸送機にその巨大な銃口を向ける。
『待ちなさい! ・・・まだ相手とは距離があるわ。作戦の事は、頭に入ってる?』
「・・・クレストよりグローバルコーテックス所属のレイヴンへ。
目標の捕獲、もしくは撃墜。その後、目標の着陸を予定していたエリアに強行突入。
 工作員がエリア内部の基地にハッキングをかける間、邪魔者の排除及び戦火の拡大」
そこまで言うと溜息ひとつ着き、
「こんな事ぐらいなら復唱しなくても頭に入る、エマ」
『そうかもしれないけど・・・』
男・・・というよりはまだ少年の域を脱してはいない・・・の言葉に、エマ・シアーズは一瞬つまり、
『それでも決まっているのだから仕方ないわ。それに、これは貴方に初めての依頼でしょう? だったら尚更・・・』
「・・・! 射線ロック。これより目標を撃墜する」
『待ちなさい、レイヴン! 依頼には捕獲の事も!』
レイヴン・・・報酬によって依頼を遂行し、何者にもとらわれず、自由翻弄に生きて行く傭兵。
(レイヴン、か・・・)
『輸送機には兵器類が搭載されている可能性もあり、それを得て力の向上も・・・』
「どうせハッキングするんだ。関係は無い。
 ・・・・・・戦闘により、通信一時中断する」
『待っ・・・』
ブツッ、と紐が千切れるような音と共に、エマの声が始まる。
「・・・・・・・・・・・・」
少年は長々と息を吸い、そして吐く。
ウゥ・・・ン
鈍い音が入り、コックピット内に光が灯る。
(・・・・・・そろそろ相手のセンサーにも反応がある頃だな・・・・・・)
操縦席のグリップを握り締める。
その時、こちらをライトの光が包み、弾かれたように・・・と言っても動きは遅いが・・・輸送機が方向を変える。
「・・・地獄へ行け・・・・・・・・・!」
少年は唸るように言うと、グリップを持ち上げる。
ガシュン・・・・・・
再び蒸気の発する音を上げ、機体の右腕が持つ銃口を再び、輸送機へと向けた。

「・・・ん?」
「どうした?」
男の一人がレーダーに顔を向ける。
「・・・レーダーに反応がある」
「馬鹿言え。空を見てばかりだから見間違えたんだよ」
「いや、だが現に反応が・・・!」
「なら、ライトでも着ける事だな」
「ああ・・・」
不吉な予感を覚えつつ、男はハンドルを握る男に言われるように、ライトのスイッチを立ち上げた。
光の中に、黒いシルエットが浮かび上がる。
『!!』
ライトに映し出された『モノ』を見たとき、二人は驚愕した。
「あ、アーマード・・・・・・コア・・・!?」
アーマードコア・・・通称、AC。
レイヴンが駆る人型機動兵器であり、武装、パーツにより大規模な破壊工作から、偵察行動まで様々なバリエーションがある。
その能力は一級品であり、操縦者の腕にもよるが、その力は従来MTよりも格段に性能が高い。
「く、くそぉーッ!!」
男が絶叫してハンドルは切り、急旋回させる。
が。
ドン
一発の銃声が、全てを終わらせる。
「・・・・・・ひぃぃぃいいいっ!!」
ハンドルを握る、頭の無い男をみて絶叫する。
操縦者を失った輸送機は、旋回しつつ高度を下げ・・・
「う、うわぁ・・・・うわあああああああああぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・!!」
地面へと、激突した。

「・・・・・・第一段階、終了」
爆煙のあがる輸送機の残骸を眺めつつ、少年はぽつりと漏らす。
だが直ぐに通信回線を開くと、
「目標撃墜。待機する」
『レイヴン! ・・・貴方の事だから聞かないかもしれないけど、第二目標の基地にはMT35機ACが3機雇われているとの情報があるわ。
 せめて援護のMTを・・・』
・・・・・・ゥゥゥゥウウウウウウウウ・・・・・・・
かなり離れている場所からなのだろう。空気を震わすようにしてサイレンが鳴り響く。
「音源確認・・・サーチ完了。第二段階へ移行・・・!」
『レイヴン!? 待って・・・』
エマの言葉を完全無視して回線を切る。
「・・・・・・三機のAC・・・。
 仇なすならば殺すまでだ・・・・・・!」
まだ煙を上げる輸送機に背を向けて。
漆黒のACが空を翔る。

『敵AC接近中! 現場配属のMT及び、レイヴンは直ちに急行せよ!
 繰り返す! 現場配属のMT及びレイヴンは、直ちに急行しこれを撃破せよ! これは演習ではない! 繰り返す・・・』
「うっせ〜なぁ!」
ベッドルームから一人の男が上体を起こす。
「なにが演習だ! 馬鹿みたいによ・・・これで演習だったら世話ねぇぜ・・・」
毒づきながらも、男は立ち上がる。
二十歳前後だろうか。たくましい肉体を持ち、粗野な外見と鋭い目つきが特徴的な男である。
ルルルルル・・・
「ん? ハイドラントか・・・?」
男は革で出来た迷彩柄のベストを着ながら受話器にでる。
『・・・コールマンか!? 聞いたかオイ、どこの馬鹿だか知らないが、ミラージュにちょっかいを出して来たらしくて・・・』
「そんな事はとっくにわかってる。今もサイレンと一緒に馬鹿が喚いてるんだからな!」
『そりゃそうだ!』
受話器の向こうから笑い声が聞こえてくる。
「とにかく、ガレージへ急ぐぞ!ハットトリックはどうした?」
『もうとっくにガレージだぜ! あんたも遅れるなよ、コールマン!』
ブツッ
「・・・ったく、よくもまぁぺらぺら喋りやがって・・・まあいいさ。名ばかりの護衛で体が鈍ってたところだ」
ベストの胸ポケットに手を回すと、葉巻を取り出し火をつける。
「・・・久々に腕が鳴るぜ・・・」
コールマンは言うと、葉巻を捨てて足で揉み消す。
別に意味は無い行動なのだが、これが落ち着くのだ。
そして、コールマンはガレージへと急いだ。

ザンッ
唸りを上げてCLB-LS-3771、通称『ダガー』がMTをバターのように切り裂く。
従来のブレードよりも高密度であり、比べ物にならないまでの凶悪的な威力を発する。
しかし、欠点もあり通常よりも出力、エネルギー消費量が多いため、持続時間は少ない。
「・・・First・・・!」
ドォン
遅れて聞こえた爆音は気にも留めず、僚機が居る為無闇に発砲出来ずにうろたえる逆間接MTを、次々と切り裂いてゆく。
中には間合いを取ろうと後退する者もいたが、すぐさまロングライフルの餌食となる。
「くっそおおおお!! レイヴンはまだか!?」
『今ACに搭乗したとの報告が入り・・・う、うわぁぁ・・・』
長く続くかと思われた絶叫はすぐに止み、かわりに通信機からはノイズが走った。
「うっ、くそったれぇ!」
叫びつつ銃口から火を噴くが、時既に遅く。
「!!」
漆黒のACが、最後に残されていたMTのコックピットブロックに金色の刃を突き入れた。

「・・・・・・Last」
ダガーを引き抜いて呟くと、レーダーに目を向ける。
「・・・破壊数26機。周囲に反応なし。敵、第一陣撃破」
通信回線を開くとすぐに言葉を入れる。
『・・・レイヴン、無事なのは何よりですが、せめて回線は開いたままにして戴けませんか?』
「無理だ。気が散る」
『・・・』
少年はレーダーに用心深く目を走らせ、
「・・・おかしいな」
『ええ・・・』
エマもこちらの言わんとした事に気づいていたのか、すぐに返事を返す。
「俺のMT破壊数は26。報告では35機とAC3機・・・」
『情報に狂いは無いはずです』
「だが・・・静か過ぎる・・・」
少年が用心深くACを前へ進めると、
『・・・! 待ってください、レイヴン! 作戦は失敗しました。戦闘区域から離脱してください』
「どういう事だ・・・!」
『工作員は侵入に失敗、すぐに射殺されたようです。直ちに離脱を・・・』
「・・・!」
ぎりりッ
歯を食いしばると、すぐにACを後退させ・・・立ち止まる。
『・・・・・・レイヴン?』
「・・・」
『どうかしたのですか? ACが来る前に、撤退を!』
「・・・もう遅い・・・・・・!」
少年の駆るACがロングライフルを構える。
『え!? でも反応は・・・!』
「ステルスだな・・・回線を切る!」
『なっ、待っ・・・レイヴン!』
「・・・耳障りだ」
ブツッ
三度回線を切る。
荒れ果てた、MTの残骸が転がる基地の広場で、少年のACは静かに待つ。
変化はすぐに起きた。
『お〜お、連れないねぇ・・・オペレーターはもっと大事にしなきゃな!』
馬鹿でかい声が鳴り響き、レーダーに3機の機体の反応が出る。
青を基調としたフロート型のAC、後ろには迷彩柄中2脚ACと、重量2脚のAC。
「通信を傍受していたのか・・・」
『ああ、そうだ!』
外部スピーカーから鳴り響く声に、少年は顔を顰める。
「こちらに回線を繋げるんだったら、そのスピーカーを止めろ」
『フン、ヤだね。これはオレが造った特注品・・・』
ズガン
一発の銃声が声を止める。
「・・・止めろと言っただろう」
少年が呟いた瞬間に、通信機からノイズが走る。
『て、てめえっ!! よくもオレのつくったスピーカーを・・・』
「・・・・・・残弾が少ないんだ。始めるぞ」
『なんだとこのォっ・・・!』
『まあ、待て』
新たに通信機から新たな声が混ざる。
『始める前に・・・貴様の名前を聞かせてもらうとしよう。
 ちなみに俺はコールマン。あのうるさいのがハイドラントで、逆に喋ってないのがハットトリックだ』
「・・・・・・カイ・カツラギ」
少年は手早く名乗ると、迷彩柄の機体に発砲する。
ガンッ
しかし、銃口を向けたときにはもうその場から離れており、3機はそれぞれ別方向に散らばっていた。
『一番乗りは俺だァー!!』
青色のACが前へと出る。
『スピーカーの仇を取るぞエイディーン!』
ハイドラントは叫んでACの名を口にすると、一気に突っ込ませる。
「・・・」
ロングライフルが火を噴くが、ハイドラントはエイディーンを軽く横に動かしてかわす。
『あはははは、何処狙ってるんだい! それはMWG-SRFX/70! そんなモノに当たる遅さじゃねえよ!』
ハイドラントは更に突き進むと、ブレードを振りかぶり、
ザンッ
『な・・・!?』
しかし、驚愕の声を上げたのはハイドラントであった。
エイディーンは左腕の手首をざっくりと切り裂かれている。
「・・・貴様等全員に忠告しておく」
カイの静かな声が通信機を経由して3人に伝わる。
「俺に真正面から挑んで・・・勝てると思うなよ・・・・・・!!」
カイの言葉には、激しい感情が染み出している。
『・・・クククッ、こいつは面白い!』
ハイドラントさえも動きを止める中、コールマンは笑う。
『・・・今回こそは、血が騒ぐゼ・・・・・・』


CODE:01 MISSION START     SUCCESS
作者:安威沢さん