CODE02 MISSION FAILURE---------Bttle Areena
「ハイドラント! 後ろに続け。
ハットトリックは援護を!」
『了解・・・』
『あ、ああ・・・』
左腕を切り落とされた事がショックだったのか、ハイドラントは少し動揺しているようである。
「・・・行くぞ!」
縦に並んでブーストを使って走り出すコールマンのAC。
そのすぐ後ろにハイドラントが続き、さらに後方には重装型のACが型膝をつき、
肩部にあるグレネードをカイと名乗るレイヴンのACへと向けている。
「一気に片付くなよ、レイヴン・・・!」
コールマン、ハイドラントのACの発進を見て、カイは確信した。
(・・・高火力による援護射撃と高速機によるかく乱、そしてリーダー機の攻撃・・・。
普通のACならば落ちる。・・・・・・普通のACならば・・・・・・・・・!)
カイはライフルを構え、ACを前進させる。
「切り崩すのみ・・・!」
(・・・おかしい・・・・絶対オカシイ・・・・)
ハイドラントは焦っていた。
ターン、ブースト、ブレーキ・・・。
あらゆる動作を確実に行い、全ての攻撃を回避するAC。
(何故だ? 何故相手は焦ってミスらない・・・! こっちはAC3機だ! あんな武装では、勝ち目は無いと誰にだって分かるはず!
なのに・・・・・・!)
ドドドドドッ
漆黒のACが発射した12発の小型ミサイルは、2発を除いて全弾命中する。
(ッ! 何故だ・・・・! 何故なんだ!? 俺の動きは見切れるはずないのに!!
こんな状況じゃ俺一人相手にするだけで精一杯のはずなんだ! 絶対に!
なのに奴は俺の火炎放射器も、コールマンのマシンガンも、ハットトリックのグレネードもだ!
そして・・・)
ズガンッ
ハイドラントは再び被弾する。
(さっきまで当てられなかったじゃないか! それがどうしてここまで命中率が上がる!? 何故だ!!)
いや・・・・・・違う・・・・・・
奴は・・・・・・
俺を・・・・・・
シュドドッ
ハイドラントのコックピットが揺れる。
(そうだ・・・! 奴は俺を狙っていたんだ・・・俺のような高速機を残しておけば、後々不利になる・・・・・・・・
だから・・・・・・!!)
何故、最初に撃ったライフルが当たらなかったのか。その答えは簡単であった。
ハイドラントはグリップを握り締める。
(一発はずしてやれば、俺が調子に乗って突っ込んで来ると読み!
そして、ブレードで斬って強さを見せつけ、力押しの接近戦をさせないように釘を刺した・・・・・・!!)
目を血走らせるハイドラント。
「俺を誘いやがったなくそったれがあああああああああッ!!」
「な、なに!? ハイドラント!?」
『うおおォォあああああああああッッ!!』
絶叫とも聞こえる雄叫びを上げて、火炎放射を吹きながらOBで間合いを詰めるハイドラントのAC。
「何やってる、ハイドラント!? 奴との接近戦では負けるだけだ!!」
『畜生がああああァァァァっ!!』
「ハイドラント、落ち着け! 戻れ!!」
コールマンの声も、彼の耳には届かずに。
ハイドラントの動きに反応したACが背後へと回り込み、黄金の刃がハイドラントの乗るコックピットブロックごと、一刀両断した。
「・・・!」
一瞬、戦場に動揺が走り、
「ハイドラントォォォォォォォ!!」
コールマンが叫んだ。
(・・・どれだけ高起動でも、冷静さを失えば終わりだな・・・)
「・・・・・・1機撃破。
次の目標を選定する」
カイはあまりにも無機質な声で呟く。
『貴様ぁ!!』
「お前の相手はこの次だ」
カイは一言残すとブーストを使って空に飛び上がり、さらにOBを起動させる。
「なんだと!? 逃げる気か!!」
コールマンが乱射するマシンガンはかすりもせずに、漆黒のACは死を持って灰色の空を翔ける。
・・・黄金の刃を生み出しながら、ハットトリックの元へ。
「・・・・ハットトリック!? しまッ・・・!」
次の瞬間、コールマンの通信機から絶叫が響いた。
「・・・2機撃墜・・・。
ラストターゲット・・・敵リーダー機と思しきAC。
・・・・・・破壊する!」
OBを起動させ、コールマンに突進する。
『・・・・・・・うぅォおおおおおあああああああああああああッッ!!』
通信機から流れる声を聞き取りながら走るカイに、迷彩柄のACはマシンガンを吠えさせ・・・
ザガッ
全ては、この一撃で終わった。
ピッ・・・
「目標共にAC撃破。基地破壊」
小さな電子音と共に、少年の声がコックピットに響く。
『・・・レイヴン!? 良かった、突然反応が消えたから、もうダメだと・・・』
「・・・この基地にはステルスの張ってあるポイントがあった。
そこにMTと先程のACは隠れていたんだ」
『だから・・・反応が消えたって事?』
「言わずともわかる」
『・・・そうね』
エマは不機嫌に 答えると、帰還場所を指定する。
「了解」
『レイヴン・・・』
「なんだ」
『いくらなんでも、基地を破壊するのは良くないと思うんだけど・・・?』
「帰還する」
カイは一言残すと、回線を切る。
しかし。
ピッ
再び通信音が聞こえ、スピーカーに目をやる。
『・・・何故、・・・・・・俺を殺さない・・・・・・?』
コールマンの声がコックピットブロックに響く。
「・・・・・・俺は、依頼や義務で無い限り無抵抗な奴を殺しはしない」
腕や足を切り取られ、ぼろぼろになった迷彩柄のAC。
『俺は・・・・・・てめえを・・・・許さ・ねぇ・・・』
「勝手に言っていろ」
もはや内部構造が生きているだけのACに背を向けると、カイのACは飛翔した。
グローバルコーテックスは、依頼を受けるレイヴンに対してオペレーター、または部屋を渡す事がある。
その部屋は、帰る所がある者には殺風景に見え、無い者には天国のように見えるという。
そんな部屋の一角に、カイは居た。
「・・・」
無言で立ち上げたパソコンで、届いたメールを調べてゆく。
クレスト『苦情』
『今回の作戦失敗自体には目を瞑ろう。君は任務を遂行したが、工作員が勝手にやられたのだからな。
君の操縦技術は認めよう。しかし、基地自体を破壊する必要は無かったはず。
輸送機も破壊し、基地も破壊されては本来の作戦の意味がない。
よって、依頼料は取り消させてもらう』
全文に目をはしらせると、気にも留めずに次のメールを開く。
グローバルコーテックス『アリーナ』
『初の依頼、お疲れ様でした。
しかし、クレストは任務失敗に続き作戦本来の[データ入手の作業]の意味が無くなってしまったと、依頼料は取り下げられました。
元々失敗していたとは言え、何故わざわざ居とどまっていたのですか?
とりあえず、この話はまた後にしておきましょう。
[アリーナ]から勧誘が来ていました。貴方の活躍は、もう届いていたらしく、その戦闘技術を活かして欲しい、との事です。
アリーナとは、1対1で戦うAC同士の戦闘場です。
弾薬費、機体修理費などはグローバルコーテックスが受け持ちます。
敵ACに勝てば報酬金が送られ、階級が一つ、上がります。
階級が順調に上がっていけば、その[クラスの代表]と戦闘し、勝てばそのクラスの代表に。
更に勝ち上がると別のランクへと移動します。
Eランクは大丈夫でしょうが、BランクからAランクまでは勝てるかどうか・・・。
恐らく、貴方の試合の時にはトップランカーも見物に来るでしょう。アリーナとは、観客を賑わせる、一種の娯楽です』
(・・・どうでも良い話だ・・・)
読み終えるとカイは、キーボードに手を走らせ、グローバルコーテックス送信した。
「・・・もう1通・・・?」
最後の一通のメール。
ミラージュ『新人レイヴンへ』
『我々ミラージュは、世界から争いを消し、平和を訪れさせる為に戦っています。
今回、レイヴンの活躍は凄まじいモノであり、アリーナトップランカー・フォグシャドウ、ゼロ、メビウスリングを思わせる働きぶりでした。
先程述べたように、我々は平和を作る為に戦っています。
基地を破壊されたとは言え、貴方のようなレイヴンはそうそう居るものではありません。
我々、ミラージュだけにその力を尽くしてくれると、嬉しいのですが』
「・・・・・・・・・トップランカー、か・・・」
カイは再びキーボードに手を走らせる。
グローバルコーテックス エマ・シアーズへ
『前言撤回。アリーナへ参加する』
朝早く、ガレージでカイはACの整備を始めた。
先日のパーツとは違うモノを装備させる。
CWG-MG/500。弾数が500発の、なかなか使いやすいマシンガンである。
左手武器にはMLB-MOONLIGHT。通商月光。重めだが威力は高く、エネルギー効率も高めである。
右肩パーツにはCWR-S30小型ロケット。軽めだが、威力は高く全体的な攻撃力の低さをカバーしている。
そこまで高くはならないが。左肩パーツには、MRL-RE/111。相手が高起動型でも動きを把握する為である。
「よう。あんたがカイ・カツラギかい?」
その声は、カイがバランサーの最終調整をしている時に背後から聞こえた。
「・・・誰だ」
「俺か? 俺はリトルベアだ! 今日の試合の対戦相手だよ。
よろしく」
「・・・」
リトルベアの軽い声を聞きながら、カイは黙々と作業を続ける。
「・・・返事ナシかよ・・・。それにしても、整備も調整も、なにからなにまで自分だけでやってるのか?」
「ああ」
「プロの整備士顔負けだな、これは・・・」
「・・・・・・用が無いなら出て行け」
「おいおい、そう邪険するなよ」
「・・・」
「それにしても、あんた初任務失敗だって?
そんな奴がこんな武装するのかよ。ヤめといた方がいいぜ。俺みたいなのはともかく、トップランカーの奴らがどう見るか、だ」
リトルベアがそこまで喋った時、初めてカイが振り向く。
「・・・な、なんだよ、おい」
「邪魔だ」
一言言うと道を開けたリトルベアを見向きもせず、そのまますたすたと出口へ歩き出した。
「・・・なんだよ、あいつ・・・」
一人残されたリトルベアが呟いた。
バトルアリーナの闘技場。
観客席は大分殺風景で、物見遊山や暇つぶしに来た者がちらほらと居るぐらいだ。
『いよいよ始まります! 希望、夢を求めてこの闘技場に上がる新人レイヴン・・・カイ・カツラギ選手と、そのパートナーAC餓竜!!
さあ! 今宵も新たな野望を秘めた若者の登場です!』
観客席に似合わぬ大きい声を出すアナウンサーに合わせて、カイは闘技場へ足を踏み入れる。
『対するは今だ0勝のリトルベア選手、ダブルウイング!!』
(馬鹿デカイ声で言うんじゃねーよ!)
赤面しながら心中で罵るリトルベア。
『しかし、カイ選手も初任務の失敗があり、リトルベア選手の餌食となってしまうのでしょうか!?
それでは、いよいよバトルアリーナ開始です!』
アナウンサーは中継を切ると、パソコンに電源を入れる。
(どうせ低レベルな戦いだ。見る必要もないだろう)
そう思ったのである。
「・・・・・・始まったな」
客の少ない観客席の中で、得に誰も居ない席に、その3人は居た。
「ああ。・・・しかし、俺達が見るような試合じゃあるまい。
いくらアリーナランク1位のメビウスリングの頼みと言えど・・・」
「そう言うな、フォグシャドウ。
久々に私に追いつける者かも知れんのだ」
「・・・ふん。フォグシャドウの言う言葉は最もな事だ。
新人レイヴンはすぐに信用される訳ではなく、それほど難しい依頼など回って来ないはずだ。
そんな事で失敗するような奴など、いいところでCランクだ。Bランクにも届くまい」
「・・・聞け、ゼロ、フォグシャドウ」
メビウスリングは、静かに2人を見つめると、
「奴は確かに任務には失敗した。
しかし、かなり上級の腕でなければ出来ない事だ」
「・・・なんだ?」
フォグシャドウが身を乗り出し、ゼロが邪魔そうにフォグシャドウをどかす。
「奴は、無傷でAC3機を撃墜、内2人を殺した」
「無傷でだと?」
さすがにこれにはゼロも耳を疑ったようだ。
「ああ。だからこそ、私は奴に期待している」
「・・・無傷で3機撃墜、か・・・。
しかし、その情報は正しいのか? 奴は・・・」
フォグシャドウは闘技場に目を移す。
「・・・ただ逃げているだけじゃないか・・・」
『ちぃっ! ちょこまかと避けやがって・・・・・・!』
通信機から流れるリトルベアの声を無視して、カイは餓竜を動かし続ける。
『当たれ、ってんだよ!』
リトルベアのダブルウイングはミドルレンジライフルを撃ちまくるが、
餓竜はターン、ブレーキ、ブーストをテンポ良く使い、全ての攻撃を避けきっている。
(ちきしょう・・・弾が切れちまう! このままだとコイツに一撃を打ち込む事も出来ずに終わっちまう!)
『てめえ! 逃げるだけでやる気あるのか!?』
「バランサーの具合を見ている。しばらくは逃げ続けるだけだ」
カイはぽつりと返す。
『・・・・・・・の野郎ッ!!』
キュウゥゥ・・・ドンッ
ダブルウィングがOBを発動させ、餓竜に真っ直ぐ突っ込んでサーベルを振りかぶる。
「・・・」
慌てるまでもなくカイはブースト移動で餓竜を右にずらし、
ブンッ
月光を一閃させてダブルウイングの左腕を切り落とし、そのまま背中に蹴りを入れる。
『な、なに!?』
ブースターの軌道が変わり、まともにバランスを崩して闘技場のタイルに激突する。
『・・・ぐ、ううぅ・・・・・・』
カイは溜息を、つくと、呻き声を上げるうつ伏せに倒れたリトルベアのダブルウイングにロケットを放つ。
どごっ
それは一撃でダブルウイングの動力炉を射抜き、停止させる。
戦いは呆気なく終わった。
ビィーッ
『え!? あ、・・・勝者、カイ選手の餓竜!』
試合終了の音が鳴り、アナウンサーが慌ててさけんだ。
「・・・完敗だ。俺の負けだよ」
ACから降りたリトルベアは、開口一番にそう言った。
「まさかたったの2撃で停止だなんてな・・・思いもしなかったよ」
「・・・」
「なあ! 俺たち組まないか!? きっと依頼だって・・・・・・」
「・・・客だ」
「え?」
カイの言葉にリトルベアが慌てて振り返る。
そこには・・・
「君の活躍、見させてもらったぞ」
メビウスリングとゼロ、フォグシャドウが立っていた。
code02 mission failure---------battle areena success
作者:安威沢さん