サイドストーリー

Wednesday is Bad Day #1
立ち昇る黒煙と残骸と化したMT群、その中に立ち尽くす白いAC・・・
鋭利なフォルムと、左腕の大型シールド。
さながら白い甲冑を身にまとった騎士を思わせる軽量級機体・・・

レイヴン:スティンガーの愛機―[ヴィクセン]である。


それに対峙するは、MT部隊隊長機・・・
右手にパルスライフル、左手にシールド、そして連装ミサイルを装備した
ヴィクセンよりも一回り大きい人型MT[タービュレンス]。


互いに動かず・・・長い沈黙。


ふいに、倒れた機体のひとつがショートし、小さな爆発を起こす。


それを合図に両者が動き、黒煙を揺るがす!
ミサイルで牽制しながらのタービュレンスの突進。
ブーストで踏ん張るも、重量の差からヴィクセンは弾き飛ばされる。
ここぞとばかりにパルスライフルを構えるタービュレンス。

―しかし、それが発射されることはなかった・・・

ヴィクセンが右腕を撃ち落していたのである。

慌てて離脱をはかるタービュレンスを確実に仕留めていく。

―左腕。

―右足。

―左足。

・・・ガクンと跪くMT。
左腕の大型シールドの先端がブレードの光を纏う・・・

その蒼い輝きがMT部隊隊長の最後に見た光景であった。




「目標の全破壊を確認・・・任務完了だ。」

依頼主に通信を入れる。

『了解。・・・帰還してくれ。』

―ふぅと溜め息をつき、俺は作戦領域を後にする・・・


俺がウェンズデイ機関の専属になって半年・・・
駆り出される任務といえば、「企業部隊の排除」や「新技術のテスト」といったつまらないものばかり。

面倒は嫌いだが、これではあまりに手応えが無さ過ぎる・・・
最近では任務に物足りなさを感じるようになっていた。

そのため、いつもなら依頼主に関して、余計な詮索はしないのだが、・・・まぁ、俺を暇にさせたのが悪い。
奴等が極秘裏に進めている「AI技術に関する研究」というのにも、興味が無いわけではなかったからな。


―俺はウェンズデイ機関のデータに侵入することにした。


この[ウェンズデイ機関本部]は、居住棟・管理研究棟・整備棟・演習場という、
大きく分けて4つの施設から構成されている。

まずは下見からだ・・・

俺たち専属のレイヴンやMTパイロット、研究員が収容されているのが[居住棟]。
宿舎や娯楽室、食堂などがある。
ウェンズデイ機関のIDカードさえあれば、誰でも比較的自由に歩きまわれる。
通路のところどころに監視カメラが設置されているが、それほど監視が強力なわけではない。
何度か往復し、カメラの動きを確認した限り死角も存在するようだ。


だが、問題なのはこの先・・・[管理研究棟]。―今回の侵入目標だ。

機関側の話によると、厳重な警備とセキュリティが張り巡らされているらしい。
中に入るにも、よりレベルの高いIDカードが必要で、研究員でも中を自由に歩きまわれるのはごく一部のようだ。
まぁ、入ったことがないので、警備に関して実際どうなのかは知らないが・・・おそらく厳重だろう。

取り敢えず・・・正面から侵入を試みる。通路を通り、ゲートの前へ。

自分のIDカードを通し、コードを入力。

「**********」

・・・エラー。

「いくら専属のレイヴンとはいえ、研究棟をウロウロ出来るわけがないか・・・」

まぁいい、ひとまず退散だ。
あまりうろついていても怪しまれるだけだからな。
来た道を戻り、管理研究棟を後にする・・・。


―さて、どうする?


何とか、外から内部の様子が分からないものか・・・
 ・
 ・
 ・
 ・
暫く考えた後、一つの結論に達する。


―向かった先は、整備棟にあるガレージ。


近くの整備士に話しかける
「ACでの演習がしたい。機体を出せるか?」

「あぁ、スティンガーさん。・・・残念ですが、貴方の[ヴィクセン]は整備中なんですよ・・・」

申し訳なさそうな整備士、しかし俺には好都合だ。

「いや、[ヴィクセン]でなくてもいい。ACを動かしたいだけなんでな。」

そう言って、他の機体を指差す・・・
整備士は少し困惑した表情を見せたが、整備済みのACを1機、用意した。


―メインシステム 戦闘モード起動―

「・・・よし、いいぞ。」

ACのコンピュータに端末を接続・・・後はデータを採る間、適当に演習をするだけだ。

送られてくるデータを確認しながら、ゆっくりと演習場に向かう・・・



『これより、模擬戦闘を開始します。』

「了解だ。やってくれ・・・」

床のハッチが開く。
リフトが起動し、MTが3体、目の前に現れた。

どうやら、AI制御のようだ。


データは・・・研究棟から離れたせいか、少々転送率が悪い・・・

「・・・まだ、少し時間がかかるようだな。」

まぁ、いい。
暇つぶしに遊ぶとするか・・・

だが、次の瞬間予想外のことが起こった。

『それでは、これよりECMを使用します。』

「何っ!?」

同時にACの機器がエラーを起こす。

―どういうことだ?・・・俺は通常の条件下での演習を選択したはず。

端末に眼をやる・・・
くっ・・・データの送信が中断されたか。

このままECMを使用され続けては、端末ごとデータが逝ってしまう恐れもある。

仕方がない、目標を潰すか。


―さすがにAI研究をしている機関のAI搭載機だ。なかなかいい動きをする。
だが、所詮はプログラム通りにしか動けない玩具・・・
ECMも目視で対処できる。
何よりデータ採取を再開しなければならないのでな・・・

ブレードを使い、素早く確実に撃破する。


「まったく面倒をかける・・・」

急ぎデータの採取を再始。・・・どうやら、メモリーは無事だったようだ。

―しかし、何故演習内容が変更されていた? 向こう側の手違い・・・?

そこへ通信が入る。

『相変わらず見事な手際だ・・・』

黒服・・・俺をウェンズデイ機関に引き入れた男からだ。


―!・・・まさか、奴が演習内容の変更を・・・バレたのか?

不安が過ぎる・・・

『済まなかったな。君が演習をすると聞いて、新型ECMのテストを急遽組み込んだんだ。
 しかし、突然の事態にも冷静に対処するとはさすがだな。』

黒服は俺の動きにご満悦の様子・・・

―・・・どうやら偶然、のようだな。・・・まぁいい、必要なデータも今、採り終わった。

「ふん。今度からは戦闘前に変更したことを伝えてもらえるか?」

俺は少し不機嫌そうに言い放つ。

『ははは、済まない。今度からは気をつけよう。しかし、良いデータが採れた・・・協力に感謝する。』

言うだけ言って、黒服は退散した・・・

俺も演習を終了させ、自室に戻る。


―まったく。一時はどうなることかと思ったが・・・

軽く汗を流した後、タバコを一服して先程の作業を再開する。


演習中に集めていたのは、[管理研究棟のマップデータ]だ。

レーダーでスキャンすれば、外からでも内部構造が分かるからな。
因みに、[ヴィクセン]が使えないことを俺が好都合だと思った理由。
それはあの機体に肩の広域レーダーとマッピング機能が搭載されていないからだ。
演習場は管理棟から少し離れている上、演習自体そう時間をかけられるものではないからな。
広い範囲を素早くスキャンし、マッピングする必要があった・・・というわけだ。

さすがに、ECMを使用されたときは少々焦ったが・・・。
まぁ、お目当てのデータは充分といって良いほど採れた。

マッピングデータによると、データバンクはウェンズデイ機関最下層最奥部にあるようだ。

場所は分かった・・・
後は侵入するためのセキュリティ解除プログラムを作るだけだ。


そろそろ夕食時か・・・
俺は部屋を後にし、食堂へ向かった。


―食堂―


「・・・思ったより混雑しているな。好都合だ。」

早速、研究棟へのパスを持った研究員を物色する・・・
俺が必要なのは、[レベル5]のセキュリティカード。
このウェンズデイ機関において、最高のセキュリティ権限を持ったカードだ。
もっとも、その上に[幹部用マスターカード]なるものも存在するが、
[レベル5]があれば研究棟内もほぼ自由に歩ける。

取り敢えず、狙い目は胸に認識票を付けている研究員だ。
あれなら首にかけている奴より自然に拝借することが出来るからな・・・
 ・
 ・
 ・
―見つけた。

眼鏡をかけた中年の男。いかにも研究者というような冴えない風貌・・・
それでいて食堂内のレイヴンやパイロット集団に怯えた様子。
カードも・・・[レベル5]。

・・・理想的だ。


暫く様子を見た後、ターゲットが席を立ったのを確認し、接触する・・・
接触と言っても別に話しかけるわけではない。 ここは文字通り「接触」するのだ。
弱々しく倒れこむターゲット・・・俺は笑いを堪えながらも心配そうな顔で手を差し出す。

自分にとって「恐怖の対象」であるレイヴンが親切にも手を差し伸べている・・・
こいつを混乱させるには充分な要素だろう。
案の定、俺の手をつかみ立ち上がると所持品などの確認もせずに、ペコペコ頭を下げながら嬉しそうに席に戻っていった。

俺の手には奴のセキュリティカード・・・

―容易いな。
さて、ターゲットが食堂を去る前にデータを抜き取っておくか。

端末にカードを挿し込み、データを抽出する・・・

ターゲットは・・・ふっ、暢気にモソモソ飯を食っているな。

「・・・おっと。」 ―眼が合う―

笑顔で会釈する・・・こちらも軽く手を振って返す。
単純なものだ、あの程度で他人を信用するなど・・・余程寂しい生活を送っているのか・・・
人間、頭脳だけでは幸福になれないという典型だな。


・・・よし、抽出完了。

どうやら、ターゲットも食事を済ませたようだな。
食堂を出るところを呼び止める。
「おい!・・・これは、あんたのじゃないか?」
そう言って、あたかも拾ったかのように盗ったカードを差し出す。
奴は先程と同じようにペコペコ頭を下げながら嬉しそうに去って行った・・・何の疑いも持たずに。


その後、俺は取り敢えず適当に腹を満たし自室に戻った。
途中、ランドリーで研究員の白衣を失敬して、な。


端末に自分のセキュリティカードを挿し、[レベル5]のデータを上書きする・・・
 ・
 ・
 ・
[進行状況100%] 完成だ。


時間を確認する。
PM:2245・・・動き出すにはまだ早いな。
なるべく人と接触しないようにしたい・・・消灯時間になるまで待つとしよう。


「計画を実行する前に仮眠をとっておくとするか・・・」

昂る気持ちを抑えて 静かに瞳を閉じる・・・




今夜は、長くなりそうだ・・・







[あとがき]

ど〜も、FUBUKIです☆
・・・あれあれ、なんだか2作目作ってしまいました・・・
(大変なことになるというのに・・・;)

今回と次回はあのスティンガーが専属先でおいたをしちゃうお話です。

なんだか偽造プログラム作ったりと色々出来ちゃってますが、
私の中のスティンガー像はこんな感じで何でも出来ちゃう人です。

まぁ、見ての通り生身で動いているのでACでの戦闘シーンは暫く無いかも知れませんが・・・
ご容赦下さい♪

でわでわ。
作者:FUBUKIさん