サイドストーリー

CODE:04 rest And buy
「う・・・」
急に眩しい光が目に焼きつき、カイが呻き声をあげる。
辺りを見回すと、自分は白いシーツにうつ伏せになり、隣にはエマが立っていた。
ウィーンウィーンと、小さなモーター音のようなモノが鳴り響いている。
白く小さな部屋の一角――。そこにカイは居た。
「・・・気がついたみたいですね、レイヴン」
「・・・・・・エマ・・・・・・?
 ここは・・・うぐっ!」
「大丈夫ですか!?」
エマの言葉に身を起そうとして、背筋に走った激痛に、再び白いシーツの中に身を委ねる。
「――しばらくは大人しくしていてください。
 貴方は、先日の任務で大怪我をしているのですから」
「・・・先日の・・・任務・・・・・・」
背中にはしった痛み気付いたせいだろうか、痛みが体のあちらこちらから走りだす。
(先日・・・俺は・・・)
頭を無理に働かせて、天誅とばかりに頭痛が這い回る。
「う・・・エマ、依頼はどうなったんだ?」
「・・・・・・再び、失敗扱いとなりました。
 あの乱入して来た謎の機体により施設は全壊。
 目標達成は果たしたものの、先の任務と同様の理由で成功料は取り下げられました」
(謎の機体・・・・・・)
「人の状態も知らないで・・・」
「いえ、クレストは貴方の容態と共に、なにが起きたのか詳しい情報を聞きたがっていました。
 先の戦闘記録をクレストに贈れば、少しは礼金が貰えるかも知れません」
戦闘記録の贈呈――難しい事ではないしこれ自体はなんら不思議な事ではない。
戦闘記録を贈呈するという事は、その状況にあったパーツの開発・普及に役立つし、それ自体、偵察任務の結果報告と似たようなものでもある。
「・・・ミラージュからメールは届いたのか?」
「ミラージュ・・・? いいえ、届いていませんが・・・代わりと言ってはなんですが、
キサラギからも戦闘記録をメールによって渡して欲しいとの要望がありました」
(ミラージュには動きが無い・・・?)
「――わかった。
 俺のACは?」
「・・・・・・コアブロックを含めない全体の98%が破損。
 レイヴンが意識を失っている間、整備士の方に回しておきましたが、計器類、並びに兵器類、パーツ・・・全てが使い物にならず、
メルトさせて新しい物に買い換えた方が良いそうです・・・」
「・・・そうか・・・」
 一瞬、カイの表情に陰が走ったが、すぐに消えるといつもの無表情に戻る。
「まあいいさ。とりあえず、今他の依頼は入っているのか?」
「いえ、今のところは・・・。
 貴方の事に関しては、上層部は元より、警備中だったレイヴンから近くの施設の護衛任務を受けたレイヴンも知っており、
注目度ナンバー1とも言える事故でしたので、その怪我を癒やす当分の間、依頼などは届かないでしょう」
「・・・」
カイは目を白いタイルの床に落とすと、ベッドに手を突っ張り、起き上がろうとする。
「っ! 待ってください、レイヴン!
 貴方の怪我は・・・」
「く・・・っ!」
先ほどとは比にならない激痛に、カイは顔を顰めて三度シーツに沈む。
「・・・・・・どうなってるんだ・・・・・・」
「・・・・・・貴方は・・・未確認機のレーザーブレードで背中を抉られたのです」
「・・・!」
「その後に私が呼び込みをしたACが到達、大破したコアと損壊した頭部のみの貴方のACを保護、
グローバルコーテックス施設内の医療局へ運ばれました。
 貴方の背中は骨盤まで焼き裂かれていましたが、早めに発見された為、まだ生きている細胞も残っており、
同局のバイオテクノロジーにより、今、貴方の背中にバイオで養成した細胞を植え込み、再生させている最中です」
「・・・なるほど・・・!」
カイが奥歯を噛み締める。
先ほどから聞こえるモーター音は、おそらくアームが細胞の植え付けと、適度な放射能などを当てている音なのだろう。
その間にカイは、先日自分に起きた事を、思い返していた。


『・・・貴様は・・・自分で自分に生きる資格があると思うか?』
「・・・!?」
確かに、奴はそう言った。
「・・・・・・知るか。 そんなモノを決めるのは自分じゃないッ!」
『・・・』
カイは叫ぶが、今度は返事が返ってこない。
(・・・先手を着くか・・・?
 いや、奴とはかなり距離がある。OBを展開させたところで間に合うはずも無い・・・。
 どうする!?)
しかし、次の瞬間にカイの心配は無くなった。
紅いブースターをふかし、凄まじい勢いで敵が突っ込んで来る。
(オーバーブースト!?
 いや・・・OB並のブースター!?)
思っている間にも敵機は突進し、白色のマントをはためかせる。
「・・・ちぃッ!」
鋭く舌打ちをするとこちらもブースターを使い右へと滑りつつロケットを撃つ。
敵機もかなり近づいており、かわせる間合いではない。
しかし――
ズギャッ
地面を削るような音を上げながらスライドし、餓竜の真正面へと来る。
左斜めに撃ったロケットは到底当たらずあらぬ方向へ飛ぶ。
「――なにっ!?」
叫びつつも、突進してくるACを迎え撃つために左腕にダガーを灯す。
カイは、いつでも左腕を触れるように構えるクセがあり、相手が離れている時にもそれは同様である。
銃火器類の間合いから大きく詰め寄られたときの対処法である。
敵機は殆ど白い弾丸のようなイメージである。
(・・・・・・止める!)
カイのACがダガーで突きを行おうと一歩踏み出した瞬間、再び地面を抉るような音をたてて敵機が視界から消える。
「――!?」
すぐさまレーダーに目を配る。
レーダーが敵の居場所を確認、丁度餓竜の真後ろに反応がある。
「――――そこかぁぁぁぁっ!!」
振り向き様にブレードを振るい、プラズマライフルを撃つが、当りは無かった。
『――死ね』
「ッ!」
通信から飛び込んで来た声に、カイは前も後ろも確認せずブースターを起動させ前進する。
ザギュッ
「な・・・に・・・・!?」
餓竜は左足を斬られ、バランスを崩して転倒するが、すでにブースターを起動させていたため、
胸部装甲を削りながらも、浮き上がらせて起たせる。
切り裂かれた左足は浅く捉えられただけのようだが、もはや使い物にならない。
左足の代わりにブースターでバランスを保たせる。
(あのスピード!
 有り得ない速さだ・・・! ブースターを起動させなかったら・・・・・・)
振り向かせながら敵機をカメラに捕らえ、プラズマライフルを向ける。
が、次の瞬間には轟音と共に消えている。
ドガァッ
体当たりでもくらったのだろうか?
後ろから諸に来た衝撃に頭を
コントロールパネルにぶつけるが、そんな事を気にしている暇は無い。
プラズマライフルを後方に向け――ようとして無駄だと気付き、銃口を下げる。
打つ手などない。
驚異的なスピード、驚異的な破壊力、浅く捉えただけで装甲を斬るレーザーブレード。何をとっても絶望的だ。
(・・・・・・死ぬ、か。
 命自体に未練などは無い。が・・・)
血のように紅いブースターを起動させて飛び込んでくる敵機。
(何も、せずに・・・・・・!)
肌蹴たマントから漆黒の左腕が伸び、濃い紫色のレーザーブレードが灯る。
武器腕なのだろうか? ブレードの発生装置と思わしき部分は無く、左手の甲から直接生み出されている。
「終われる訳が・・・・・・!」
敵機がブレードを振り上げる。
すでに相手との距離は400を切る。
「終われる訳がないんだよ・・・!」
残り300。
(・・・・・・まだだ!)
キョリメーターを見て、カイは焦りながらも時を待つ。
200。
(もう少しっ・・・!)
100を・・・・・・切る。
「今だ!!」
叫んでブースターを後方へ飛ぶように使い、その反動で使い物にならなくなった――
いや、たった1度しか使えないダミーとなった左足を振り上げる。
『――!?』
通信機からも動揺した気配が伝わるが、それは無視する。
振り上げた左足は敵機の左腕にぶつかる。
さすがに邪魔だったのだろう、敵機のレーザーブレードが左足を叩き斬る。
しかし――
ドンッ
音を起てて餓竜が真横に回りこむ。
簡単な事である。
敵機が左足に気をとられている間にOB起動。左足は叩き斬られ重量が減り、その分スピードも増す。
そのまま起動させたOBで横に回りこむ。左足はおとりであり、OB完全起動の時間稼ぎでもあったのだ。
「――消えろぉッッ!!」
ズドドドドドドド
OBは起動させたまま後方へと移動しつつ、ロケット全弾とプラズマライフルを連射する。
さすがにプラズマライフルは残存エネルギーの都合上すぐに使えなくなったが。
ギャギッ
エネルギーを回復させるため、OBを解除しそのまま尻餅をつかせる。
いくらACでも片足で立つという器用な真似はできない。
カイはとりあえず、黒煙のあがる敵機の立っていた場所にメインカメラを向ける。
「・・・・・・いくらなんでも・・・・・・ここまで受けて無事なはずは・・・・・・」
息を荒げて呟くカイの言葉は、瞬時にして両断された。
黒煙を裂き、青い光球が飛来する。
「ぐッ!」
よけきれずに直撃し、右腕が完全に消滅する。
歩み寄る敵機を確認したからである。
「・・・馬鹿な・・・・・・!?」
敵機がマントを開く。
白いマントの中には漆黒の色で統一されたスレンダーなフレーム。
ACの角ばったモノと違い滑らかで、曲線さえ描いている。
ACを越える人に近い兵器――その表現がしっくりと合う。
しかし、それよりも前にカイが驚いた事は、そのマントである。
マントの裏には何十もの重・軽火器類がぶらさがっていたのである。
(あのスピードでこれほどの重量を・・・!)
『・・・・・・冥土の土産に教えてやろう。
 このマントは融ける事によってエネルギーを無力化できる。貴様のプラズマライフルはそれで終わりだ。
 ロケットはこの銃で無効化した・・・もう貴様に打つ手はあるまい』
そう言ってマントを投げ捨てる敵機。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぅぉぉおおおおおおおおおおッッ!!」
カイは再度OBを発動させると真っ直ぐ突っ込んで来る。
『・・・玉砕覚悟か。
 見苦しいぞ』
「切り札ならまだ有る・・・・・・!!」
叫んでダガーに光を灯す。
グリップの脇にある、普通は無いはずの赤いボタン――カイは勢い良くそれを押した。
ヴォォオオンッ
『・・・!』
異様な唸りと凄まじいまでの光量がダガーに生まれ・・・いや、それはもうダガーではなかった。
通常ACの背丈ほどの長さを持つブレードとなっていたのである。
これがカイの『切り札』である。カイの使っているジェネレータは、KGP−ZSV。
軽めながらも容量が高く、これを使っている。
まず腕部を弄り、配線を伸ばさせるように準備しておく。
その後、ブレードを装備。エネルギー吸給配線の他に、もうひとつの配線を伸ばしておく。
エネルギー吸給配線は、ジェネレータからのエネルギーを調整するためのコネクトがあるのだが、
もうひとつの配線は直接ジェネレータに取り付けておく。
あとはそれに連動するボタンをコックピットまで回し、安全装置として絶縁体で包んである配線の安全装置をパージ、
直接送られるエネルギーにより、ブレードの限界までの力を出す事が出来る。しかし、その間エネルギーが漏れつづけ、
安全装置も1つしかないためブレードはオーバーヒートと共に破損する。そうならない内にコードごと外へパージするという仕掛けである。
もちろん、エネルギーは比べ物にならないまでに消費するので、ブーストなどは使わない。
しかし、状況が状況なのでOBを発動させたのだ。
『・・・』
「させんッ!!」
カイは吠えると、回避行動をしようとする敵機の進路方向と思わしき部分にロケットをパージ、投げつける。
『・・・読まれたか』
敵機は呟くとブレードを一閃、ロケットを斬る。
そこへ光の束を従えたカイのAC餓竜がすかさず飛び込む。
「終わりだ!」
ブレードをすくい上げるように刃を滑らす。
『・・・・・・無意味だ』
「!?」
眼前に居た敵機は消えていた。

丁度振り上げたところで刃が消える。
『・・・重りを外した時のスピードを考えていなかったようだな』
「・・・・・・!」
ブースターを発動させようとしたカイは、コックピットブロックに響くブザーに気付く。
(チャージング・・・! しまった!)
ACは、エネルギーを10分の9程使い果たすと、強制的にエネルギー供給をストップさせ、
チャージングというエネルギー回復状態に陥ってしまうのだ。
『死ね』
ゆっくりと、まさにゆっくりと敵機の紫色のレーザーブレードが、餓竜の装甲を突き破り、コックピットブロックへ到達する。
そのゆっくりとした動きで、カイの背部を刃は焼き焦がす。
「う・・・がっ・・・あああああああああああッ!!」
苦痛で意識が飛びそうになるが、それを更なる激痛が押さえ込む。
刃が引き抜かれ、餓竜がゆっくりとうつ伏せに倒れこむ。
実際はほんの一瞬の出来事のはずだが、カイには永劫に続くのかとも思われる苦痛であった。
「う・・・・・・ッくぅ!! ああぁ・・・!!」
『・・・ACを前進させて直撃を回避したか。
ACの反応速度も上げているみたいだな』
何の感情も無しに呟くと、再び腕を振り上げ――
『・・・』
止める。
『・・・・・・運がいいな。
 また会える事になりそうだ。・・・我名はフレイ・ディノクライド』
言うと同時背中を向けると、滑らかな背面のスラスターが開く。
そこへ光が集中し――
ドンッ
緑色の炎を吹き上げて飛び立つ敵機。直線の動きにも関わらず一瞬にして消える。
その後、別方向からくるAC反応をレーダーで見つめながら、カイは目を閉じた。


「・・・・・・エマ、俺を運んだACのパイロットは?」
「さあ・・・。あのACはグローバルコーテックスにも登録されていない機体でした。
 声の調子からして女性のようでしたが、何故サイレントラインの辺りをうろついていたのか・・・」
「・・・」
カイは何の意味も無いが、とりあえず肩から力を抜く。
「・・・俺のノートはあるか?」
「・・・え? ああ、ノート型パソコンの事ですね。
 今持ってきます」
カイは自分のパソコンの事をノートと呼ぶ。
何故かしらないが、その方がしっくりくるからだ。
「どうぞ」
「・・・」
手渡されたパソコンを開き、立ち上げると自分のガレージへ繋げる。
ガレージを経由して、まず残存パーツを調べる。
スペアとして取っておいたダガー。
元々あった月光。
500発分のマシンガン、MWG−SRFX/70。
ブースター、CBT−FLEETとMBT−OX/9。
元々資金不足でもあった為、手元にあった、所持金も少ない。
「・・・レイヴンは続けられそうにないな」
「・・・」
ぽつりと漏らすと、画面を閉じ、代わりにメールボックスを開く。
新規メール3通。
(・・・企業からのメールは無いな・・・)

リトルベア『休養』
『リトルベアだ。2回目の依頼も失敗したらしいが、大丈夫か?
 噂によれば大分大怪我をしたらしいじゃないか。
 あの未確認ACにでもやられたのか?
 それはさておき。休養もレイヴンの仕事だ。
 休んでおくに損は無いぞ』

「・・・」
無言で目を流すと次のメールを開く。

グローバルコーテックス アリーナ運営局『出場停止』
『貴方にはかなり期待しており、今後の活躍も、と思っておりましたが、この度の不幸なる事故には残念と言わざるを得ません。
 しかしながら当局は、貴方のアリーナ出場停止を決定致しました。
 治療が終わった後、更に休養してから再び、アリーナへその勇姿を見せてください』

「・・・出場停止?」
カイが説明を求め、エマを仰ぐ。
「アリーナは、個人の生命を最優先しているため、もしも登録者が事故を起した場合など、
怪我をしたときには出場権を一時的に剥奪し、治療に専念させるのです」
「そうか・・・収入源の1つは断たれたな」
「ええ・・・」
カイがマウスを滑らせる。

スタークラッカー『忠告』
『貴方は今[死神]に狙われているわ。
 無闇にサイレントラインへ近づかない事ね』

本文のみの簡潔な文。
「・・・エマ、俺を助けたレイヴンの名前は?」
「え? ・・・確か、スタークラッカーよ。
 彼女からメールでも届いたの?」
「ああ・・・」
生返事を返すとメールを閉じる。
ピッ
「・・・」
電子音がなる。メールが届いた時には鳴るように設定してある。
(ミラージュからのメール・・・)
複雑な思いで見ていると、再び電子音が鳴る。
(! スタークラッカー・・・!)
「・・・また彼女からのメール?
 ・・・・・・怪しいわね」
いつの間にか後ろにいてパソコンを覗いていたエマは無視し、ミラージュのメールから開く事にする。

ミラージュ『処分』
『2度目の作戦も失敗に終わったようですね。
グローバルコーテックス上層部から情報が回り、レイヴンの容態を知りました。
勝手にですが、ぼろぼろでいつ起爆するともわからない為、処分させてもらう事に致しました。
お詫びと言ってはなんなのですが、見舞金として500000Cを貴方の口座へ振り込みます。
早く傷を癒して復帰してください――レイヴン』

「・・・」
「これって・・・?」
「・・・・・・ミラージュ・・・・・・・!」
見舞金と言うよりは情報料・・・コアに記録された戦闘データの徴収だ。個人の私物を持ち出すぐらい、ミラージュには訳も無いだろう。
「こんな犯罪紛いの事・・・どうしてミラージュが・・・・・・!?」
「・・・」
無言でカイは次のメールを開く。

スタークラッカー『僚機依頼』
『目は冷めたみたいね?
 ミラージュからお金は入っているでしょうから、ACを完成させなさい。
 傷が治り次第アリーナに来て。会場の入り口で待っているわ。
 その時に仕事の内容を話しましょう。
追伸
見たと思うけど、もし私が送ったメールを読んでない場合は必ず読みなさい』

「・・・・・・早速情報漏れだな」
「そんな・・・! だってミラージュの情報整理については些細な事でも秘密事項のはずなのに・・・」
「・・・ミラージュの情報を知りえる女、か・・・」
カイは呟くとメールボックスを閉じ、ガレージ経由でショップへと繋ぐ。
「あの女やミラージュの動向よりも、まずはACだ。
 今与えられたチャンスは活かさねば意味が無い」
「・・・それも・・・そうね」
とりあえずは頭の中で自分の作りたいACを思い描く。
軽量、中量、重量・・・とりあえず軽量型。
できるだけ敵には反応できた方がいい。防御はOPとエクステンションの追加装甲でカバーする。
「・・・」
「何を買うか決まったの?」
「・・・すぐに決まるわけないだろう」
キーボードに手を走らせながら答える。
とりあえず目に留まったヘッドパーツが、CHD−02−TIE。
軽量でレーダー機能もついており、何より安値だ。
項目欄に×1と入れると、エンターキーを入れる。
『お買い上げありがとうございます』
合成音の声がパソコン画面から流れ、すぐに次の項目へ移動する。
コアパーツ――これは意外とすぐに決まり、CCL−01−NERを購入。
最軽量のOB型コアで、OBの出力は高めである。
さすがに装甲は脆いが。
次は腕部パーツ。
武器腕のパーツは元々論外で、すぐに最軽量のアームを買う。
「???」
先程からポンポン買っていくカイに対し、なにがどうなっているのか分からないエマは疑問符を浮かべるばかりである。
続いて脚部。
こちらも軽量であり、積載量の一番高いCLL−03A−SRVT。
とりあえず今回はスピード重視である。
・・・少しでもあいつに対抗出来るように。
続いてはFCS。先のACに着けていた事もあり、PLS−ROAを選ぶ。
ジェネレータではKGP−ZXV1。少々重量が気になるが容量は大きく、FREETに対するジェネレータとして購入したのだ。
長時間滞空は無理だが、その代わりに高起動を持続できる。
ラジエーターには緊急冷却に主眼を置き尚且つ軽めのRMR−ICICLE。
常時冷却も緊急冷却も、先のACより高い。
インサイドは無し。出来るだけ軽い事に損は無い。
エクステンションには使用エネルギーを廃止した追加装甲――CSS−IA−64S。装甲は上げた方が良い。
直撃弾を受けて終わる可能性も否定出来ないのだ。
バックユニットとしてはMWR−M30で、威力としては申し分ない。
あとひとつはCWR−S/50。両方並びにロケットだが、うまく扱えば充分な戦力となる。
重量は気になるが、攻撃力を落とすのは無理だと思ったのだ。
左腕武器にはMLB−HALBERD。軽量で刀身が長く、使いやすい。
ダガーや月光に比べ威力は落ちるが、フレイ戦のように切り札として使えない事は無いだろう。
右腕武器としてはMWG−MG/1000。1000発分の弾丸を詰め込んだマシンガンである。
元々右腕は補助兼 命中率の向上という事で決めていたので、弾数の多いこのマシンガンを選んだのである。
「・・・あとは重量制限か」
「重量制限?」
「・・・・・・・・・・・・エマ、お前の役職はなんだ?」
「う・・・」
溜息をついてカイは計算を始める。
重量制銀とは、そのAC脚部の積載量である。つまり、分かりやすく言うと乗せられる重さ。
これをオーバーすると軽量機が重量機並のスピードになったりもする。
合計積載量は4498。SRVTの積載量は4535。
ぎりぎり制限内である。
「・・・とりあえずはこれで決定だな。
 エマ、このパーツでACを製作するようにそこら辺の整備士に言ってくれ。
 ブースターはこちらで用意しておくからと伝えろよ」
「わかったわ」
メモ用紙を受け取り頷くエマ。
「・・・・・・エマ」
「なんでしょうか?」
「フレイ・ディノクライドという人物を調べてくれ」
「え? あ、はい、わかりました」
一通りやる事もやったので、ノート型パソコンを閉じ、出来るだけ背骨を動かさないようにして脇へ置く。
「・・・これで終わりか。
 寝るから出て行ってくれ」
「――いいえ、それは無理です」
いつもより強い口調のエマに、カイが反応して振り向く。少々背骨が痛かったが。
「作戦開始直後の話・・・覚えていますか?」
「・・・」
考えを巡らす。
現地に行く途中に進路を間違ってどやしつけられ、その後愚痴をこぼされつつ現場へ直行。
ミラージュから受け取った武器の話をし、それから・・・。
「・・・・・・・」
「思い出しましたか?」
「知らん。忘れた。覚えていない。帰れ。寝る。」
いつものように単語を並べるカイに、エマの怒りが炸裂した。


何故あのような事を言ったのだろうか。
そう考えつつ退院するまでカイは、エマの怒りの捌け口とされ初任務より凄い集中砲火を浴びたと、リトルベアに話している。
もちろん、リトルベアにその意味が分かるはずもないが。


Code:04   Rest And Buy              success
作者:安威沢さん