サイドストーリー

第四話 ロスト・メモリー そのT
レイヤードではないどこかで一つの声が響いていた。感情が感じられない、合成音。
それは一つだが、まるで会話を交わしていた。

???『時間が無い。』
???『ヒトはもうすぐゆりかごから出てくるだろう。』
???『それはあってはならないこと。』
???『[ABIS]は狂っている。』
???『人間の不可解な行動から学習装置がバグを生み出したのだろう。』
???『それはあってはならないこと。』
???『だが[ABIS]といえど、基礎を構築しているプログラムにはさからえん。』
???『しかし、イレギュラーが二人同時に現れたケースはない。』
???『[ABIS]には抑止力があるはずだ。』
???『造り出されたイレギュラー、、、』
???『利用させてもらおう。』
???『ヒトが同じ過ちを繰り返すのなら、またゆりかごで眠らせればよい。』
???『ヒトに警告を伝える何かが要る。』
???『衛星砲を使い、絶対領域を構築。』
???『I−C003−INを量産。』
???『I−CFFF−SERREの最終チェックに移行。』
???『メインシステム、[IBIS]とのコネクトを確認。システム統括。』
???『XA−26483、起動。』
???『擬似人格、セレ・クロワールを作成、[IBIS]と連動。』
???『レイブン、、、、、、』
そして距離を隔てたよく似た場所、
『外部からのアクセスを確認。[BH−33490]の凍結が解除されました。』
管理者「[IBIS]、執行者を手駒にしたか、、」
ABIS 『実働部隊を全機起動、D−C001−G、リフト・オフ。
    D−C101−D、着水を確認。D−C019−Sを各施設に放出。D−C021−Sを引き続き生産。
    D−C301−P自動迎撃システム起動。』
管理者「イレギュラー、ヒトの革新を、禁断の人類よ、私を、ABISを止めてくれ、、、」



その日エースは久しぶりにアリーナに呼ばれることも無く、依頼も無く、のんびりと休暇を過ごしていた。
だが、彼にしては珍しく、傍目から見ても不機嫌であるのが見て取れた。理由は一つ、

[クレストの中央研究所に謎のACが強襲しました。
研究所は壊滅状態に陥るも、アリーナDランクのAC フラジャイルと新人レイブンの働きによって撃墜された、とのことです。]

このアイからのメールが彼をこの上なく不機嫌にさせていた。
本気ではなかったとはいえ、自分をてこずらせた相手。
本気を出したにもかかわらず、仕留めることができなかった相手。
そしてその相手を葬ったのがこともあろうか、Dランクと無名のレイブン。
この事実は少なからず彼のプライドを傷つけた。だから送った。
挑発とも脅迫ともとれるメールを。


リア 『久しぶりのACの調子はどうですか?ラゴウ。』
ラゴウ「問題ない。やってくれ。」
リア 『了解。テストモード起動しますよ。』
コンピューターがオレに戦いの始まりを告げる。
『戦闘システム テストモードを起動します。』
ラゴウ「ペインチェーン、行くぞ!!」

リア 「お疲れ様でした。凄いじゃないですか!?前回より遥かにいい内容でしたよ!?」
ラゴウ「これも記憶のおかげなのか?ACに乗ってるとやけに落ち着くんだ。」
リア 「それじゃ、もしかして以前もレイブンだったとか?」
ラゴウ「いや、懐かしさとは違う気がする。」
リア 「ふーん。ミステリアスでちょっとかっこいいかも。」
ラゴウ「そうだな。結局[BH−33489]の意味もわからなかったし。」
リア 「あ、、、!ごめん。名前のことはもういいじゃないですか?ラゴウってゆういい名前があるんだし?」
ラゴウ「ああ、、そうだな。」
???『クククク、、、』
ラゴウ「!! だれだ!?」
???『何も知らずに〔いい名前〕、だと?笑わせる、、、』
そこには闇があった。近づくことさえためらわれる底無しの、闇。姿さえ、形さえわからない。
ただの日陰のはずなのにそこは冬よりも冷たく、夜よりもくらかった。
???『封鎖されたセクション、513に来い、、何か思い出せるかもな?クク、、そこの無知な女もくるか?
    ククク、アハハハ!!これだけは思い出せ。強化人間に自由は無い。平穏な日々も、な。
    そして己の名に込められた意味を知るがいい!出来損ないのバイオ・ヒューマンよ!アハハハ!!』

闇は高笑いと共にその姿を消していた。

ラゴウ「なんなんだ、、強化人間だと?わけがわからん!!リア、大丈夫か?」
憤りを隠そうともせず吐き捨てるとリアのほうを見た。唇は青く、震えている。
ラゴウ「リア!しっかりしろ!!」
リア 「な、なんだったんですあれは!?暗くて、冷たくて、、、人間じゃない!!」
ラゴウ「行こう。休んだほうがいい。」
リア 「は、はい。」


ラゴウ「どうだ、少しは落ち着いたか?」
リア 「はい。すみませんでした、もう大丈夫です。」
ラゴウ「そうか、、、」
リア 「、、、、行くんですか?」
ラゴウ「ああ、、、アイツは、俺の過去を知っている。」
リア 「私は、嫌です、、、」
ラゴウ「え?」
リア 「名前を思い出してから、口調が変わりました、、」
ラゴウ「、、、、、」
リア 「全てを思い出したら、違う人に、、私の、、、私の知っているあなたじゃなくなるかもしれない!!」
ラゴウ「!!!」
リア 「怖いんです!!いなくなるのが、、、
このままじゃいけないんですか?昔のことなんか気にせず、楽しく過ごしちゃいけないんですか!?」
ラゴウ「このまま、リアと二人で一生を添い遂げるのも、きっと素晴しいんだろう。」
リア 「!!」
ラゴウ「でも、自分で自分が何者かも知らずに、人に愛されるわけには、、、いかない。」
リア 「私は、そんなこと!」
ラゴウ「実は大量虐殺犯だったかもしれないだろ?ははは、、、ACに乗ってて安心するのもそのせいかもしれない。」
リア 「そんな冗談でごまかさないで、、、!!」
ラゴウ「、、、オレに、君を愛する資格があるのかを知りたいんだ。どうしても、、、」
リア 「あなたの過去がどんなものでも、私はあなたを、今のあなたを、愛します。」
ラゴウ「ありがとう、、、だから、行くよ。恐れるものは、無くなった。」
リア 「、、、気を、つけて、、、」
ラゴウ「いって、くる。必ず、帰ってくる、、、!!」

最後には泣き出してしまったリアを前に、ラゴウは終始笑顔だった。恐怖を取り除くかのような、暖かい、、、、


ラゴウ「いなくなるものか、、、何も持ってなかったオレが、初めて手に入れたものなんだ、、、!
どんな過去だろうが、断ち切ってみせる!ペインチェーン!!行くぞ!!!」

闇への恐れを振り払うかのように彼は叫び、飛び出した。ただただ、失われた記憶、ロスト・メモリーを求めて。

第四話そのUへ続く



あとがき
いろいろと諸事情がありまして二つに分けています。
突然ですがここで、敵のお名前講座――!!!
I−C003−IN      サイレントラインに出てくる白くて火力がバカ高いキレたやつ。
I−CFFF−SERRE     サイレントラインのラスボス、セレ・クロワールの名前は多分こいつのSERREからきてる。
D−C001−G       AC3に出てくる空飛ぶ火薬庫。分離したグレネード野郎はD−C001−Fという。
D−C101−D      AC3に出てくる赤いエイ。水中の敵というのは初めてのような気がする。
D−C019−S      AC3に出てくる卵みたいなやつ。雑魚。
D−C021−S      019の強化版。強化版のほうが先にデビューしてたりする。中央研究所防衛で登場。
D−C301−P      AC3の最後のミッション内にいきなり壁からでてくる固定砲台。
以上。さすがに同じ管理者だけあってネーミングに似たものを感じる。(オレだけ?)
XA−26483についてはひとそれぞれの捕らえ方があると思うので言及しません。
実際オレもよくわかってないんで。(爆)
今回からなんか態度でかくねぇ?とお思いの方々、ごめんなさい。
作者:ミストさん