サイドストーリー

第一話 昂ぶる鼓動
ふう。面倒だ。こんな依頼受けなきゃよかった。目の前をミサイルが過ぎる。ビル越しにミサイルの向かってきた方向に神経を集中する。
MTニ、三十機くらいかな?レーダーに目を向けるとレーダーの一ヶ所に多くの赤い点が集まっている。まるで赤い帯のようだ。
「面倒だな。どこか手薄なところないのか?」
レインに聞く。なに、あいつならそんなところ見つけられるだろう。
「手薄な場所ですか?そうですね・・・見て取れるように固まった陣形ですが、空はどうですか?戦闘ヘリもいないことですし。
空から奇襲のようにして中心に飛び込めばあなたなら同士討ちを誘うことくらいできるでしょう?MTは旋回能力が低いので、追いつけないでしょう。」
なるほど。さすが頼りになる参謀だ。早速ビルを飛び越えながらOBを起動する。人型機械の背中にあたるところに淡い色のエネルギーを蓄積する。
飛び越える時、数発近くを通り過ぎるが、当たりはしない。瞬間的に背中のエネルギーが爆発する。一瞬で目の前までMTが接近する。
OBを停止し、ブースターをふかしすぐ反応できるように衝撃を抑える。当然MTは反応できない。
―――タイミングを逃すな―――
勘に従い地面を蹴り飛び出す。その瞬間足のすぐ下が光った。ミサイルが狭い空間に密集し大爆発が起こる。光が世界を覆う。
空間近くのMTは前面が焼け焦げてその場に崩れた。
「レイン、あと何機だ?」
「十八機です。レイヴン。この混乱に乗じて攻撃を仕掛けるといいかと。」
・・・冷静だな。その作戦を実行するため、MTをロックオンする。即座にマシンガンを撃つ。三機ほどが火花を出し、立て続けに爆発する。
まだ十五機もいるのか。ああ。面倒だ。本当になんでこんな依頼を受けたのか。報酬に目が眩んだな。マシンガンを撃ち続ける。
徐々に数は減っているが、まだ十機はいる。それにたまに飛んでくるミサイルも目障りだ。・・・一気に片をつける。武器を変えた。
右肩のロケットを構える。乱射。これだけいる。適当でもあたる。高威力であり弾薬費も安い。最高だ。
初心者には扱いづらいかもしれないが、俺なりに自分はACの扱いは巧いほうだと自負している。MT側も武器を変えてきた。マシンガンだ。
近距離だからな。当然だろう。今まで変えないほうがおかしい。一斉射撃の中、集中してACを躍らせる。さすがに全弾回避とはいかないが、当たったのはお粗末程度に塗装が剥がれる程度だ。その間もロケットを連射する。


――――ふう。数十秒で片がついた。これで終了だな。レインの報告をまつ。
「これで終わりです。お疲れさ・・・レイヴン!ACの反応です!ランカーACフレイアです!!」
・・・思っていた反応と違う。よりによって更にめんどくさく・・・
「ランクは?」
「Bです。油断しないで。」
Bか。まあ油断さえしなければやられたりはしないだろう。
・・・自分はつくづくこの雇われ家業に向いていないとおもう。自嘲の感覚とともに、俺らしいある考えが頭に浮かぶ。
「殺さないようにするよ。いいか?」
レインは一瞬沈黙するが、返答は帰ってきた。
「・・・私はあなたの専属オペレーターです。私に決定権はありません。あなたならそういうとも多少思いましたし。」
ふっ。思わず笑いがこぼれた。二年も一緒にいるとそうなるのか?
「そうするよ。後味悪いしな。」
OBを起動する。フレイアに近づく。さあ、もうひと頑張りだ。


―――ハッ・・・ここは?確か俺は銀色のACに破壊されたはずだ。かなわなかった。圧倒的に。だが生きている。戦場であれほどやられて生きているとは。
・・・また死にぞこなった。死にたいわけではないが、生きたいわけでもない。そんな考え自体あいつらに申し訳ない。
コックピットが開いている。風で目が覚めたのか。頭が痛いが起き上がる。ACは無理だな。起動させなくてもわかる。とりあえず外に出る。
―――男がたっている。何か棒状の菓子をほおばりながら、戦場に佇んでいる。
「よお、起きたか。」
男は赤じみた茶髪をたなびかせ、茶色い目をこちらに向けて話す。誰だ?
「・・・お前は誰だ?」
この状況では当たり前の質問だろう。
「そうだな。・・・俺はお前をたおした奴だ。」
は?頭がおかしいのか?なぜそんなことを軽くいえる。本当かどうかも疑わしい。
目の前にいるこのやさおとこが先刻の覇気に満ちたACを駆っていたとは思えない。
「意味がわからんか?」
俺の顔がよほど困惑していたのか男が菓子を咥えながら笑う。
「・・・当然だ。なぜ生かす?」
「なんだ、死にたかったのか?」
・・・そういうわけではないが・・・。この男はどこかぬけてる。
「なぜ戦場で殺さなかったのかと聞いている!!」
自然と大声になった。男はまた笑った。
「それだけ元気なら何とかなるな。俺はクリファーだ。よろしく。お宅はグレイシアさんでいいんだよな?」
俺の前にAC免許が放られる。右手で受け取りながらはなしかける。この男はなんなんだ?
「茶化すな。質問に答えろ。」
「そうだな〜。なんとなくかな?ああ。なんとなくだ。」
・・・そうか。ここまでくると逆にすがすがしい。
「では、お前は何者だ?」
一瞬沈黙する。答えはだいたい予想がつく。男が微かに笑った。
「わりいが秘密だ。そういうやつらの集まりだろう?」
・・・そうだな。
「そうか、わかった。クリファーだな?覚えておこう。」
踵を返し、その場を後にする。適当に帰れるだろう。面白い奴に会った・・・。久しく気分がいい。
「・・・悪いな。もう少し生きてみたくなった。許してくれるだろう?お前らなら。」
小声で言う。あいつには聞こえてはいまい。聞こえたところでどうということはないがな。


「・・・行ったか。レイーン。輸送機まだか〜?」
中の通信機に聞こえるように大声で言う。コックピットの中からぼそぼそ言葉が聞こえる。
「・・・機がまも・・・うちゃく・・・そのま・・・て・・・くだ・・・」
まもなくか。ここから聞こえるとは自分でもたいしたものだと自分でも思うよ。それにしてもさっきのあいつの言葉・・・なんつったっけな?
「・・・なんか暗いこと言ってたな。声のトーンも低かったし。色々あるんだな。」
そう。レイヴンなんてのは世の外れものの集まりだ。中には坊ちゃんもいるが、大概は「わけあり」だ。まあそうでもなくては間接的とはいえ人殺しを仕事にはできまい。俺もよくこんなことできるようになったものだ。
ついさっき自分のした「殺人」の跡をみる。
MTがぼろぼろになって転がっている中、ACも同じく鉄屑とかして倒れている。・・・きっとこのMTも有人機だろう。
人を殺した。間接的とはいえ。しかし、唯一「依頼」による殺人のみ合法になる存在。
レイヴン。「企業」に飼われた鴉。俺もその鴉の内の一人。
世界の安定のための存在が、世界の混乱の中心にある。皮肉だな。いや、もとから混乱のために生まれたのか?
―――遠くから音が聞こえる。輸送機が来たな。


―――五分後。輸送機が来た。ACを載せコックピットから降りる。しばらくするとライアンが来た。俺の専属メカニックだ。
「どうも。どうでした?ACが来たって聞きましたけど。」
俺を見ずにACに顔を向けながら話し掛けてくる。あいつの頭ではすでに修理代がはじき出されているだろう。
「おお。なかなかいい奴だったぞ。」
驚いた顔でこちらを見つめる。
「はなしたんすか!!?敵と!?なんで!?」
「おお、悪いか。別に攻撃されるようなこともなかったし。結果オーライだ。」
ライアンがため息をつく。レインも同じ事をしそうだな。そんなに悪いか?
「・・・まあいいですよ。何もなかったわけだし。で、だいたい修理代が七千くらい。相変わらずすごいっすね。MT数十機+AC相手に。」


話しているうちにコーテックス本社についた。専用ガレージにつく。レインがいた。金髪に青い目、スーツを着て機材の上に腰掛けている。
彼女はここに来る時いつもスーツだ。
「や。報酬どうなった?」
レインが立ち上がり、こちらに向かって歩きながらメモ帳を胸ポケットから取り出した。
「はい。元の報酬58000に、AC破壊での特別報酬、8000で64000、そこから弾薬代、修理代をこれから出しますので。」
「8000か。妥当だな。あとは機体の詳細か。じゃあ、頼んだ。」
ライアンに顔を向ける。
「はーい。あとから差し入れでも持ってきてくださいよ。」
「へいへい。そういや俺も腹減ったな〜。差し入れなんていわずどっか食いに行こうぜ?レインもどう?おれがおごるし。」
・・・来るだろう。こいつはプライベートと仕事の雰囲気が違う。言葉遣いは敬語だが、印象が別人だ。なんつーか・・・学生みたいな・・・。
実際数年前までオペレーター養成校みたいなところにいたし。
「そうですか?じゃ、お言葉に甘えていただきます。」
ほーら来た。でもまだ仕事モードだ。プライベートだとかなり軽くなるからな。
「じゃあ、終わったら呼んでくれ。どこ行きたいか二人とも決めといて。」
50C程で充分だろう。カード更新しなきゃな。・・・よく考えるとレイヴンてひとつのミッションで、一生遊んで暮らせるんじゃないのか?
考えながら歩く。部屋についた。ここは、GCから500Mもないところに立つマンションだ。この区域ほど安全なところはあるまい。
一般的には、レイヴンはこのあたりに住む。
・・・生身で生き残れるだけの「力」に自信がある奴のみ。当然といえば当然だ。こんな仕事をしてれば恨みなどいやでもついてくる。同じように、いまどき暗殺者なんかもついてきたりする。
そんな中で生き残れることもレイヴンとして大事な素質のひとつだ。なに、それがいやならどこかに引っ込んでればいい。
ミッションの時のみでてくればいい。実際、そんな奴らもいる。だが、坊ちゃんばかりだ。別に批判する気は全くない。
だが、それで戦場で生き残れるのかが疑問だ。「ころす」ことは重い。耐えられないと気が狂う。それもレイヴンとして必要だ。
その重みに耐えられるかどうか。
ピロリーピルー♪ケータイがなる。着信音は昔はやった曲だ。この曲はメールだな。

(題名  終わりました
題名のとおりです。GC前に集合で! ライアン)
いくらくらいになったかな?修理、弾薬あわせて。収穫が50000台だといいな。そうこう考えながら部屋に鍵をかける。すぐそこだしな。どこで食うんだろ。
「おす。もう2人ともいるのか。」
遠目からも確認できたが、声が聞こえるほど近づいてから声をかける。
「お。来ましたね〜。おれ、中華がいいです」
「あ〜、わたしは、ピザとかグラタンとか、スパゲッティとかがいいです!」
・・・これがレインの本性だ。いや、どっちが本性かな?仕事中か、今か。
「どっちかにしろよ。お兄さん二つも店まわりたくないよ。」
「それが決まらないから待ってたんですよ〜。どっちがいいですか?」
レインが頷く。
「・・・知るか。俺は早く食いたいのに。食い放題でも行くか?」
安あがりだ。俺含めよく食うメンバーだ。だが、瞬間的に却下された。
「いやですよ〜。おごってもらえるのならもっといいものが食べたいです。」
「そうですよ〜。だいたい今日の依頼で得だらけだったのは私の適切なオペレーターのおかげでもあるんですよ?」
「あーはいはい。わかった、わかりました。お好きなところへどうぞ。」
・・・お前らが決まらないというからいい方法を考えたというのに。
「それが決まらないから困ってるんですよ〜。」
やれやれ。しばらく待つべき・・・
!?
背中に殺気を感じた。これは・・・やばい!!
「伏せろ!!」
さすがにこの世界にいるだけのことはある、2人はほぼ反射的に銃を抜きながら近くの壁のでっぱりに張り付いた。
―――しかし。殺気を感じたところには、誰がいるわけでもない。
「・・・だれもいないじゃないですか。」
「たまにははずすんですね〜。珍しい。」
「あ・・・?ああ、わりいな。まあどこでもつれてってやるから許せ。な?」
つとめていつもどおりを取り繕った。だが、あの殺気は気のせいではない。背中がいやな汗をかいている。
そこらのちょっとした程度の奴らじゃあの殺気は出せまい。
「・・・どうしました?」
レインが顔をしかめて尋ねる。知らぬ間に顔が少し笑っていたらしい。
「いや?ちょっとな・・・」
久々に何かありそうだな。戦闘にスリルを求めるほうではないが、少し興奮する。この感覚はまだちらちらこちらを見てる。
これは同じレイヴンだな。なんとなくだが。そしてACで俺に挑む。これもなんとなくだが、なぜか確信に近いものがある。
ハッ!上等だ!
「よーし、景気づけにパーっと食いまくるぞ!」
「「おーっ」」
針のような殺気を気にせずに、まず中華に向かうことになった・・・。



あとがき
どうも。ルーカスです。長かったっすね〜これ。いや、やっと終わってほっとしたら誤字脱字で、ダメダメでした。
なんか文章書くのって難しいですね。抽象的な感じでアイデアはうかぶんですが、なんかぴったりな文章が浮かばないんですよね。
こんな長ったらしい文章を読んでくれてありがとうございました。
続編かくつもりありますので、よろしく!
作者:ルーカスさん