サイドストーリー

CODE:XX outstory.FrIend.
去来する過去の想い


――ッ! 動力部破損、もう保たん!
――何なんだあいつは!?
――ダメだっ! 装甲が・・・爆発する!
――くそぉ、死神め・・・・うわああああああッ!!

戦場の至る所から、外部マイクに拾われて聞こえる悲鳴。

ズガガガガッ
タンッ タタタタッ
ズドォン
ザギュッ ザンッ

様々な重火器類の音の合間合間に聞こえる、装甲の引き裂かれる音。そして・・・

――!
――――――ッ!!

その地獄のような爆撃網と、それに似つかわしい、それこそ破壊されていくACに乗るレイヴン達の声よりも、最も悲痛な少年の叫び声――。

――なんで・・・ッ!

至場所に損傷の跡をちらつかせる黒いボディ。
そこから発せられる少年の悲鳴と雄叫びと――

――どうして・・・・・・・・・!!

その少年の問いに答える者は無く、ただひたすらに鉛や鮮やかな光を叩き込む。

ど う し て ぼ く に か ま う ん だ

「ッ!!」
布団を跳ね除け、石造りで出来たベッドから、1人の女が身を起す。
はあはあと息を荒げ、女は額に浮き出た汗の玉と、そこに張り付く髪を払った。
2:38分。
すぐ隣にある時計に目をやると、無機質なデジタルの文字が表記されている。
「あ・・・ヤっばい遅刻ぅッ!?」
女は叫ぶと、慌てて身支度を始める。
「ええっと、コートコートは、と・・・・・・?」
女の目が止まる。
「このコートは・・・・・・」


40分後

「・・・それで?
 どーして遅れてきたの?」
「あ、あははは・・・これには大人のヂジョウが・・・」
「まだ未成年でしょうが」
女――スタークラッカーの言葉を、そのオペレーターであるミリアが一蹴した。
輸送機に積まれる自分の愛機を見ながら、スタークラッカーが反論する。
「なに言ってるの!
 ミリアだって、寝坊してオペレーター無しで依頼を遂行した私にそう言って・・・」
「それとこれとはべ〜つ!!
 それに、なによその白いコートは! 着飾るなんて50年早いッッ!!」
「そんなに待ってたらババアになってるって・・・」
「ぃやかましい。早く、コックピットブロックに乗りなさい。作戦領域に到達するまで、たっぷりとお説教してあげるわ・・・」
「そんなぁ・・・」
「とっとと乗る!」
情けない声をあげるスタークラッカーを叱り飛ばすと、その背中を押す。
ミリアは慌ててACのコックピットブロックに向かっていくパートナーを眺めると、先程とは一転した暗い表情をつくる。
「あれから1年近く経って・・・・・・初めて受ける依頼だけど。
 大丈夫かしら・・・」


「このコート、まだあったんだ!
 へぇ〜、懐かしいぃ〜」
はしゃぎながらロッカーの奥にかけられていた白いコートを取り出す。
「へっへ〜、まだサイズ合うもんね・・・よし、これ着よう!」
嬉しそうにコートに袖を通し――
パサッ
「ん?」
乾いた音と共に1枚の写真が落ちる。
「・・・!
 こんなの、まだ残ってたんだ・・・・・・全部捨てたと思ってたのに・・・・・・」
スタークラッカーの視線の先にある、1枚の写真。
その中には、左側に腕組みをして笑う男、左に笑っている自分。
そして――その笑っている自分に抱きつかれて、かなりはにかんだ笑みを浮かべている少年が写っていた。


『クラッカー、今回の作戦領域と場所、その依頼内容をそちらに送ります。
 到着前には必ず確認してください』
「・・・・・・メンドクサイ」
『なんか言った?』
「えっ!? あ、いや、そのあのえ・・・・っとぉおお・・・
 なにも言ってないよ、うん」
『・・・・・・あとで司令部に回しておくわね』
「どうしてッ!?」
悲痛な声が響く。


「この写真・・・確か初めての共同任務を成功したときのヤツ・・・」
写真を拾って、スタークラッカーはまじまじと見つめる。
背景にテーブルや客のようなものがちらほら写っているあたりから、おそらくそこらのレストランだろうと推測する。
「・・・あの頃は良かったかな」
この少年と初めて会ったのはいつの頃だったか。
無邪気な笑みを浮かべ、時には怯え、泣き、怒り・・・同年代と比べ、些か純真・・・いや、純真過ぎた少年。
良く自分に子供扱いされてはむくれ、自分を認めてほしいとでもいうように、
アリーナなどを通じてメキメキとACの操縦テクニックも上がっていった。

――スカーさん

「・・・!」
いきなり耳に入った声に、スタークラッカーは慌てて辺りを見回す。
誰も居るはずはない。
(・・・あの夢を久々に見たから、少しナーバスになってたのかな・・・
忘れなきゃ・・・)
そんな事を考えつつも、脳裏に巡る過去のヴィジョン・・・それが、断続的に現れる。

――えっと・・・確かここをこうして・・・
――なにやってるの?
――・・・スカーさんが壊したカメラを直してるんですよ
――あはは、ごめんごめん
でもさ、新しいの買った方が良いんじゃない?
――そういう訳には・・・

――スカーさん
――いよいよね
――絶対負けませんからね!
アリーナでスカーさんを越します
――あはは、頼もしい言葉ねぇ
けどね、私は彼のように・・・

――スカー!
あの小僧、とうとうやったじゃねえか!
――ええ!
あ、来た来た♪
――スカーさん! ヴァーロさん!
――良くやったわねえ、これで君はアリーナの・・・

そして・・・

――ヴァーロ!
――う・・・グっ・・・・・・
行けっ、スカー!
今の奴を止められるのはお前だけだ!!
他の奴にやらせるな・・・!
――けど!
――けどじゃねえ!!
俺達はレイヴンだ!
ただの傭兵なんだ!!
お前だって、それを覚悟して・・・

あの瞬間が来たのだ。

――・・・スカーさん!?
どうしてここに・・・!
――レイヴン達がココに集っているのよ?
理由はひとつだけ・・・
――嘘だ!
どうして、こんな事・・・
――じゃあ君は!
どうしてヴァーロを!?
――!
――言ってよ・・・どうして!
――僕は・・・!!
――なによ!?
――・・・!
――どうして黙るの・・・?
言ってよ、わざとじゃないって!
手元が狂ったって!
ACが勝手にコアを刺し貫いたって!!
――僕は・・・
僕は・・・・・・!
――やっぱり、君は・・・イレギュラーなのよ!!
――!!!


どうして自分は、あの時あのような事を言ってしまったのだろうか?
言いがかりというのは分かっていた。八つ当たりだという事も。
・・・・・・自分が信頼していた者に、自分の存在を完全に否定された時の気持ちは、一体どういうモノなのだろうか。
特に、彼のように精神的に脆い部分のある者に、存在を完全否定された時の苦しみは・・・・・・?


「えっと・・・『作戦領域内に居る武装集団の全機排除及び、作戦領域内の荒野中心部に設置されている、
敵と回る恐れのある無人AI搭載型のMT排除』・・・結構キツそうね・・・」
『なに弱音を吐いているの。
 ・・・そろそろ作戦領域に到達するわ。ゲートは開いているようだから、進入後は自己の判断に任せるわね。
 期待してるわ』
「大船にのったつもりでまっかせなさいっ!!」
『・・・ドロ舟の間違いでしょ?』
「なんでよ!?」
『輸送機班へ連絡。できるだけ敵のレーダーのレンジ外にACを下ろしてください』
(シカトですか・・・)
輸送機が大きな弧を描き、荒れくれた大地へと着陸した。

「ほぉ〜らほらほら!
 邪魔邪魔邪魔ぁッ!!」
シュドドドドドドッ
遠慮無く放たれるミサイル群に、複数のMTが爆砕する。
『くっ、第一部隊大破ッ! やはりACに勝つ事は不可能です!
『弱音を吐くな!
 援軍が来るまで粘るんだ!』
「ふふぅ〜ん♪ いくらMTが来てもへっちゃらだもんね〜?」
通信を傍受しつつ、更なる攻撃を加えた。


――退いてください!
僕は、スカーさんとは戦いたくありませんっ!
――あたしだって・・・そうよッ!
――じゃあ、どうして!!
――・・・・・・こうするしか、方法が無いからよ!
――何故無いと決め付けられるんですか!?
スカーさんはまだ何も探しちゃいない!
何も見ていないんだ!!
――・・・ッ!
黙れええええええええ!!!


次々と大破してゆくMT。
「抵抗しないで・・・とっととお宝のトコロまで通しなさいよ!!」
ざんっ
MTをざっくりと切り裂き、蹴りを加えて中心部への進攻路を確保する。
『なんというヤツだ・・・! 援軍もまるで意味が無いじゃないかッ!!』
『こうなれば・・・[AC]を起動させろッ!
 取引として使うつもりだったが、止むを得まい!』
「・・・! AC!?」
傍受した回線からの言葉に、スタークラッカーは自身の耳を疑う。
「ミリアさんっ! なんか無人MTじゃなくてACって言ってますけど!?」
『え・・・!? そんなはずは・・・!
 クラッカー! 前方より3つのAC反応確認!! 排除をッ!!』
「うっそォ〜・・・・」
スタークラッカーの情けない言葉が、コックピットブロックに充満する。
『AC確認・・・来るわ!』
「くッ! ラジャー!!」
右腕に装備してある携行型グレネードを放つ。
ズガァアン
1機はまともに命中し、失速しながら爆砕するが、残りの2機は猛然としたスピードで突っ込んで来る。
「恐怖は無いってコト!
 上ぉー等ぅ〜・・・!!」
すぐさまEOを起動させると、援護をさせる形にし、ミサイル、ロケットの全発射を行う。
しかし――
ビィ ビィ ビィーッ
「!」
1機のレーザーライフルによってロケットは全て打ち落とされ、更に極めつけのデコイによりミサイルを完全無効化され、
EOにいたっては完全に見切られ、ことごとく避けられる。
「このっ・・・!」
レザーブレードを構え、突き出す――が、これもあっさりとかわされる。
そのままAC2機は、スタークラッカーを側面から挟むようにして肉薄する。
(しまった!?)
慌ててブーストを起動させるが、時すでに遅く。
ザザンッ
「!!!」
胴と脚部とを完全に切り離された。


――うわぁッ! く、来るな、化け物ぉ!――
――抵抗さえしなければッ!!――

レイヴンによる懇願を、漆黒のACは少年の言葉と共に青白い刃で斬り下ろす。

――なんだってんだ、この野郎ッ!!
どうしてブレード1本でここまで出来るんだ!!――
――・・・死にたく、無いからさ!――

不満の声さえも切り裂いて、さらにACが切り裂かれる。

――撃て! 鉛玉を全てあいつに叩き込め!――
――弾装がカラになるまでやれぇ!!――
――絶対に、ヤツをここから逃がすなぁああああ!!!――

レイヴン達の叫びに伴い、爆音が形成される。

そし、再び聴こゆる少年の声。

ど う し て

それに答えるかのように乱れ飛ぶ鉛の交響曲。

ど う し て ! !

怒りさえも含むその声は、更に戦場に木魂する。

ぼ く に か ま う ん だ

ズガガァァンッ

少年の魂の叫びの直後に。

戦場に生き残った1人の女の駆るACによって。

漆黒の死神は、屍の類類と横たわる戦場に。

自らの骸をさらす。

粉々となりて。


ずしゃああああん
砂埃を巻き上げて、ACの上半身が地面を滑る。
「くぅぅうう!!」
苦鳴をあげながらも、その衝撃に耐える。
「・・・・・・ACはッ!?」
すぐに顔をあげて画面を覗くが、そこに映る2機の無人機か既に走り出しており、機体操作のままならないこの状態で勝つ事など不可能だ。
「そ・・んな・・・・・・」
迫る無人ACを観ながら、知らず知らずの内にある少年の顔が浮かんだ。
そして、自分はそれに助けを求めていた。
次の瞬間、ACが左腕を振り上げ――
(終わる・・・・!!)
スタークラッカーが覚悟したその瞬間、
バシュゥウッ
蒼い光が画面を焼き、次の瞬間には目の前にACはいなかった。
「・・・・・・!?」
ドシュゥ バシュバシュバシュッ
立て続けに続く音と光により、残りの1機が完全破壊される。
「・・・・・・・・・・・・KARASAWA?」
目の前で、何が起こったのかわからずに硬直するスタークラッカー。
ピッ
「!」
まだ使える通信機能があったらしく、電源が入る。
「ミリアさんですか!?
 応答してください! AC大破、すぐに回収のヘリを・・・」
『――その必要は無い。既に手は打ってある』
「!?」
ピッ
通信が切れる。
「・・・・今のは・・・?
 もしかしてッ・・・!!」
慌てて外部スピーカーを開こうとするが、機能が潰れているのか開く気配がない。
「動いて、ってば!!」
ゴン
パネルを殴るが、自分の拳を痛めるだけで終わった。


「・・・結局、生き残ったのは私だけ、か・・・」
寂しく笑うと、コートに袖を通す。
「・・・あれ? ポケットに何か・・・」
裏側のポケットが少し膨らんでおり、首を捻りつつポケットを探る。
「ふーとう・・・?」
それは古びてしまった封筒で、宛名に『スカーさんへ』と記されている。
「・・・・・・」
スタークラッカーは開くのを躊躇したが、決心したように封筒を開いた。

スカーさんへ
今から書く事を直接話さずに、何故内緒で手紙に書いて、ポケットに入れておいたのか。
それは、僕が『管理者』との戦いで、生き残るかどうかわからないからです。
でも、必ず帰って来るつもりです。これは、あくまで念のための手紙であり、
僕がこの戦いを終えて、スカーさんやヴァーロさんの所に戻ってきたら、そのまま手紙は捨てるつもりでした。
僕の夢は、前にも話しましたよね?
戦争の無い、静かな所で暮らすんだ、って。
でも、その夢はお預けです。
各企業が争い続ける限り、レイヴンという『無名の剣』を振りかざす限り、この夢は実現しません。
だから、僕はこの戦いを終結させる為にまだレイヴンでいようと思います。
そして、無名の剣の下で泣く人々や、企業の影に潰されていく人達を守りたいです。
これはあくまで理想ですが、僕の新しい夢は、
スカーさんや、ヴァーロさんと一緒にお店を開く事です。

「・・・・・・!」
スタークラッカーは声も出せずに、その手紙を投げ捨てた。
まだ文には続きがある。しかし――
「・・・読めないよ・・・」
ぽつり、と呟く。
瞳から涙も溢れ、今にも零れ落ちそうになる。
「こんなの・・・・・・これ以上読めないよ・・・・・・!!」
悲鳴をあげながらも、自分では気付いていた。
自分にはこれを読む義務がある、と。
彼の最期を視た自分こそが、これを読むべきである、と。
「・・・」
少し汚れているコートの袖で顔を拭うと、意を決したように手紙を拾う。

僕はそのお店で高性能なAIを搭載させた、無人機を創り出したいと思っています。
各企業は、色々な地の情報を欲しがっているんだから、その無人機で探索した情報を提供しようと思っています。
そうすれば、衛生砲で護られたサイレントラインや、その他の未開拓地にも人が血を流さずに捜索できるはずです。

真っ直ぐな。
とても真っ直ぐな意見の書かれた手紙に、スタークラッカーは再び手紙を投げたくなる。
純真に物事を捉え過ぎている――
このような事だけで争いが消えるというのなら、企業が対立する事など有り得ない。
この少年は、本当にそう思ったのだろうか?
疑問を抱きながら、目を動かした。


『作戦終了・・・良かったわ、貴方が無事で』
「・・・・・・これだけボロボロにされて、どこが無事だって言うのよ?」
ミリアの言葉に、スタークラッカーは不機嫌な声で答える。
『まあ、少しはお灸をそえられたと思う事ね』
「・・・」
ミリアの言葉にスタークラッカーはこっそりと溜息をつく。
「ねえ、ミリア・・・」
『・・・なに?』
少なからずも落ち込んでいる様子の声に、ミリアは多少不安を覚える。
「あの子ってさ・・・・・・結局、まだ見つかって無いの?」
『・・・・・・・・・・・・残念だけど』
しばしの無言の後に加えられた言葉に、スタークラッカーは下唇を噛みしめる。
「・・・あんな作戦、参加しなければ良かった・・・」
『でも・・・貴方が引き金を引いた事によって、決着は着けたんじゃないの?
貴方は・・・』
「・・・ゴメン、通信切るね」
ブツッ
音と共に、通信機の向こう側からの声が完全に消える。
「・・・・・・」
スタークラッカーは、声もなく泣き崩れた。


僕は、この戦いの向こうに、まだ戦いが続いているとわかっています。
でも、止めたいからこういうお店を出したいと書いたんです。
スカーさんは、また僕を子供扱いして笑うと思うけど、これが僕の精一杯考え出した答えです。
・・・いつか、戦いが終わった日、
また3人でレッドハルトのお店に行きましょうね!!

自然と溢れ出す涙を、今度は止める事が出来なかった。
この少年は、帰って来ると記してあったが、自分の運命をすでに気付いていたのかもしれない。
この手紙を自分が開くのは、彼が自分の元に現れなかった時のみ。
つまり、今この手紙に書いてある自分の夢や理想は、叶うはずが無いのだ。
3人で夢を叶えるのも、記念としてお店に行くのも・・・・・・。
最後の2行。

スカーさん。貴方達に会えて、本当に嬉しかったです。
ずっと、貴方の傍に居ます。忘れないでください。

「・・・・・・・」
熱くなった目頭を、スタークラッカーは人差し指で払った。
それと同時に決心する。
もし、傍に居るというのなら――
「探し出すから・・・フレイ」
ビリッ
彼女の手のひらで、手紙は紙くずと成り果てた。


了



後書
・・・・・春じゃねぇー・・・・・・
えー、馬鹿は放っておいて、後書へと移りましょう。
なんていうか、もう・・・本編書くの、疲れた・・・
早すぎという意見もありやしょーが、こちとら遊び盛りの年頃。
肉体的に疲れた後、精神を磨り減らすというのはどぅも・・・
とりあえず、いつもとは違うモノを書こうと思ったのですが、
全然ダメでしたァねぇ〜。
ストーリーは、こんな感じかな? とか思ったりするんですけど、それを表現するのがどうもね・・・(´―)y-。OO
あとね、銃器類の音とか、祗園・・・じゃなかった、擬音語? そんな感じのが不得意です。
とりあえず先輩方のモノを参考にさせて戴きつつ、気長に書こうと思っています。
それぢぇは。

終。
作者:安威沢さん