サイドストーリー

第五話 Broken his heart and revaival his mind
元パラサイト・エッヂ、今となっては名無しのレイブンのガレージ兼住処。そこに一人の女性がいた。
無造作に腰をおろし、コンテナに座っている彼女の様子は一目見ただけでも憔悴しきっているとわかる。

リア 「ラゴウ、、、」

一言そう呟くと、俯き、小刻みに震えていた。泣いていた。

エース「どうだあいつの様子は?」
リア 「エースさん、、、いいえ、何も、、、いまだに食事もとらず全てを拒絶しています。私も、、、」
エース「そう、、か。あれからもう三日も経つというのに。何をやっているんだあのバカは、、。」
リア 「仕方ないと思います、、、行く直前に自分は大量虐殺者だったかもしれないなんて言ってましたけど、その方がまだマシだった、、、」
エース「自分は人間じゃないなどと思い込んでしまったか。気持ちはわからんでもないがな、、、」
リア 「エースさん、私はどうしたらいいんでしょうか?もう、なにがなんだか、、、」
エース「あいつのこと、嫌いになったか?」
リア 「そんなことありません!!でも、私じゃあの人を立ち上がらせることができない、、、」
エース「君に無理なら誰にだって不可能だ、、、信じて待つしかあるまい、、、」
リア 「はい、、、」

知りたいと願った真実。しかしそれは自分だけではなく、その周りにまで暗い波紋を残していた。



『ハハハハ!!反動制御をINTENSIFYなしでやってのけるのか!!素晴らしいよ。これが、強化人間か!!』

エース「強化人間?」

主の心と共に朽ちた機械巨人、ペインチェーンに残されていた戦闘記録からエースは気になる単語を聞き取った。『強化人間』。

(執行者と名乗った者、エグザイルの言い方からするとラゴウがその強化人間らしいが、、、妙だな。
ラゴウが強化人間であるということを執行者は知っていた。ということは奴等、実働部隊の長である管理者が知らないはずは無い。
もし強化人間がINTENSIFY無しで反動制御なんかをやってのけることができるのだとしたら、何故管理者はラゴウにINTENSIFYを、、、?
INTENSIFYにはまだ何かあるというのか?)

???「エースさん、、、」
エース「!!リアさんか、驚かさないでくれ。」
リア 「すみません、、あの、お願いがあります。」
エース「オレに?なんだ?」
リア 「私に、ACの操縦法を教えてください!」
エース「な、何を言ってるんだ!?」
リア 「あの人は、戦闘においては確かに強いです。ACの性能が劣っていたためそうは見られませんでしたけど、
    並みのレイブンよりは遥かに強い人です。」
エース「オレや執行者と比べるとACの性能の低さが目に付くのは確かだ。それに力の一部を取り戻してからはろくに実戦に出てなかったしな。
だが、だからといって君がACに乗る理由にはならないだろう?」
リア 「私は、あの人の心を守りたい。ACに乗って、あの人と同じものを感じ、一緒に悩んであげたいんです、、、」
エース「しかし、、、」
リア 「お願いします!!」
エース「言っても聞かんようだな、これは。わかった、、、だが条件がある。」
リア 「条件?」
エース「君が戦場に出るときは、必ずオレかラゴウの僚機として、だ。単独での出撃は君がどれだけ強くなろうと一切認めない。」
リア 「、、、わかりました。」
エース「そしてもう一つ、グローバルコーテックスに登録をしないこと。」
リア 「それは、、、何故ですか?」
エース「簡単な話さ。君がレイブンになるのはあいつが嫌がる、、、」
リア 「はい、、、」
エース「ACの方はアリーナで貯めといたのがある。ACの二〜三機なら用立てれるはずだ。まずは訓練からだがな。」
リア 「はい!よろしくお願いします!!」


アンチロウ「で、どうして俺が巻き込まれるんだ?」
エース「お前に頼みたいのは彼女の訓練じゃない。彼女のACを組み立ててやって欲しい。それと、、、」
アンチロウ「パラサイト・エッヂか?」
エース「知っていたか、、、」
アンチロウ「反企業のテロから命を救われたことがある。二年も前の話だけどな。それとなくマークしてた。」
エース「そうか、、、答えは?」
アンチロウ「あのときの借り、今返しておいて損は無いな。それに、オレのヒーローが腑抜けじゃ困る。」
エース「すまんな、、、」
アンチロウ「礼なんか言っていいのか?あんたの金でオレのACもアセンブルを変えようと思ってたんだが?」
エース「好きにしろ。報酬の内だ。」
アンチロウ「しかし、あんたどれだけ金があんだよ?」
エース「アリーナは勝ち抜きだろう?つまり、オレに挑んでくるのはA2のランカーしかいないわけだ。無論賞金もそれなりのものになる。」
アンチロウ「納得だよ。ったく。」


ラゴウ「、、、、、、、、、、」

暗い部屋、明かりも窓も無い部屋で彼の心は日に日に追い詰められていた。
眠ると狂った自分が親友を撃ち、恋人に銃を向け、高笑いしている姿が目に浮かび、眠ることすらできなくなった。
執行者の言葉が幾度となく脳裏に浮かび、自分の存在意義を見失っていく。
他人に近づくことさえ恐怖になっていた。自分の名前に込められた意味、そんな非科学的なものさえ彼の心を蝕んでいた。

ラゴウ「人間じゃない。災いを振りまくもの。化け物、、、」
アンチロウ「本当に腐っちまってんな。」
ラゴウ「、、、誰だ?」
アンチロウ「周りがどうなってんのかも知らずに暢気なものだな?あんたはここで何もせず、ただ腐っていくだけか?いい身分だな?」
ラゴウ「だからどうした、、、オレが腐ろうがどうしようがお前には関係ないだろう、、、」
アンチロウ「ま、な。オレはただのメッセンジャーさ。あんたの恋人、AC乗りになるつもりらしいぜ?」
ラゴウ「!!!なんだと!?」
アンチロウ「あんたと同じものを感じ、共に悩んであげたいんだそうだ。馬鹿らしいよなぁ?」
ラゴウ「違う、、、」
アンチロウ「あんたの悩みはあんただけのものでほかの奴にどうこうできる問題じゃない。」
ラゴウ「違うんだ、、、、」
アンチロウ「それを自分から首を突っ込んでややこしくしようってんだからいい迷惑だよな?」
ラゴウ「やめろ、、、、」
アンチロウ「とっとと自分に見切りをつけて他の男にケツ振ってりゃいい生活できんのになぁ?」
ラゴウ「黙れ、、、、」
アンチロウ「そもそも頭が悪いんだよあの女は。自分から好き好んで戦場にでるなんざ、よほどのバカだな。」
ラゴウ「黙れぇぇ!!」
アンチロウ「それもこれも全てはあんたがそうなっちまったからだ。」
ラゴウ「!!!」
アンチロウ「己の境遇を呪い、他人に突きつけられた現実を鵜呑みにし、しまいには自分から周りを不幸にしてる。
      誇りはどこにいった?あの人への思いは偽りか?どうして、どうして現実を受け入れるばかりで戦おうとはしないんだ!?
      失ったのなら取り戻せ!見失ったのなら探し出せ!つまづいたのなら立ち上がれ!あんたならできるだろう!?」
ラゴウ「お前は一体、、、誰なんだ?オレのことを、知っているのか?」
アンチロウ「、、、、、二年前、反企業派のテロに巻き込まれたオレは家族が死に、絶望の中で死に掛けてた、、、、
そこへあんたが来て、オレを助けた、、、あの時は無口で、無愛想だったけど優しくて、
自分のことが何一つわからないってのに一度も弱音を漏らさなかった、、、」
ラゴウ「かすかに憶えている、、、それから一ヶ月でお前は回復し、オレはお前の下を去った、、、」
アンチロウ「それからあんたがレイブンになったって知って、オレもレイブンになった。もう二年もたってたけどな、、、
      オレにとってのあんたはヒーローだ。エースにとってのあんたは親友だ。あの人にとってのあんたは掛け替えのない存在なんだ。
      人間だろうとなんだろうと関係ない。あんたがあんたでいる限り、あんたは消えていい存在なんかじゃないんだよ、、、」
ラゴウ「、、、」
アンチロウ「あんたは何度でも立ち上がる。それだけは、あんたを知ってる誰もが信じてる。じゃあ確かにメッセージ伝えたぜ。」
ラゴウ「オレが、オレである限り、、、か。」

エース「そういういきさつがあったのか。」
アンチロウ「趣味わりーな。」
エース「何故か言われたことがある。立ち上がるさ、あいつは。」
アンチロウ「ああ。だが、時間がねぇ。」
エース「どういうことだ?」
アンチロウ「オレのところに管理者打倒の依頼が入った。」
エース「とうとう、か。」
アンチロウ「巨大MTと戦ったりっていろいろ派手なことやったからな。いいとこあと二週間ってとこだ。」
エース「なんとかなる。いや、なんとかするさ。」
アンチロウ「あんたなら大丈夫だろう。任せたぜ。」
エース「ああ。」


リア 「えーーっと、FCSの制御はパターンAから、、、なんだっけな?」
???「パターンAからパターンCまでだ。」
リア 「え? !! ラ、ラゴウ、、、、」
ラゴウ「心配をかけた。もう、大丈夫。また前に進めるようになった。」
リア 「バカ、、、ほんとに、バカァ、、、」
ラゴウ「もう迷わない。オレがオレである限り、、、」
リア 「もう一度いいます。あなたの過去がどんなものでも、今のあなたを、愛します、、、」
ラゴウ「ありがとう、、、オレは弱い存在だ。支えがいる、、、」
リア 「だからこそ、人間なのよ、、、」


一度壊れたものは元には戻らない。こわれたコップをつなぎ合わせてみてもヒビまでは消せないように。
だが、その破片を集め、新しい命を吹き込むことはできる。今度はもう、割れないようにと、、、、

第六話へ続く



あとがき
最後の詩のようなものはハンプティー・ダンプティーという歌を元に、コップを例にしてアレンジを加えたものです。
今回は謝りません。出し切ったって感じがしてきぶんがいいので。では、六話にて。
作者:ミストさん