サイドストーリー

CODE:07 U N K N O W N ・ A T T A C K ! !
み ん な き ら い だ
心の中に、そう呟く少年が居る。
み ん な が す き だ
その傍らに、全く別の事を叫んでいる少年が居る。
な に か を こ わ し た い
破壊衝動に駆られる少年と。
な に か を つ く り た い
創作心が滲み出る少年。
ただ笑う少年、ただ泣く少年。
怒る少年、悲しむ少年。
優しい笑みを浮かべる少年、残酷な笑みを浮かべる少年・・・。
数え切れないほど少年が重なり、纏まり合い、自分という個人が紡ぎ出される。

だが。

もし、それらを排除したら・・・?
それらの自分というモノを全て、いや、幾つかの自分を排除したら?
その時は、
その時は――
(――その時は、『自分』という存在が消滅する時だ)
そして。
(鋼の檻に囚われ、鋼の棺桶と同化する時でもある・・・)
暗い闇の中。
断続的に聴こえる破壊音だけがその闇を支配していた。

『ご苦労様でした。中々の結果です。
 ただ、この戦闘結果により[FO]――ファーストオメガのエネルギー消費効率の悪さが浮き彫りになりました。
 今は貴方の腕のおかげで保っていますが、一般化させる為にはまだ研修が必要なようです』
「・・・・・・一般化?
普及させるのか」
『ええ。
なにかお気に障る事でも?』
「・・・いや、我に関係は無い。
気に障る事も無い」
『・・・そう言うと思っていました。
 テストは終了です。帰還してください』
「了解した」
不気味に光る黄金の双眸を従え、白いマントを翻す。
ズシ ン
軋む音をたてず、その人型の機体は足音だけを残し――火の海と化した施設を後にした。


『――レイヴン! キサラギ社からの緊急依頼です!』
唐突に来た通信に、カイはACの足を止める。
「緊急?」
キサラギ社の依頼により、新造施設周辺の哨戒任務にあたっていたところに来たのだ。
さすがにカイも訝しむ。
『詳しい事は今そちらに送るメールに記されています』
「緊急だろ?
 読む暇は無い。目標地点に向かいながら聞く」
『それが、これを読む事を厳守するように、と・・・』
(・・・・・・緊急事態でか?)
「・・・わかった」

キサラギ社『電力施設崩壊阻止』
『施設の哨戒任務に当たっているところを申し訳無いが、ここからすぐ先――俗に言う、サイレントラインと呼ばれる未開拓地区付近に新しく建造した我が社の電力施設が、何者かに急襲された事により、小破。
 それ自体の被害は護衛である少数のガードメカだけで済み、無視しても構わない程度だったのだが、その後各フロアに異常が発生、新造施設のコントロールが効かなくなり、動力炉の爆発による施設消滅という危険な可能性が考えられ始めた。
 施設の従業員に避難勧告は出されているが、避難し遅れた者を気遣うつもりはない。
 が、我が社の信用を下げないためにも、電力施設の消滅だけは防いでくれ。邪魔をするものは全て破壊して構わない。
 先に僚機であるACを待たせてあるので、協力しあって任務遂行を。
 なお、この事件には幾つもの不審な点がある。
 準備を万全にして望んで欲しい』

依頼料 23000C 成功報酬のみ 先の依頼の報酬に上乗せする
作戦領域SL付近新造の電力施設・ポイントM9-3
敵勢力 ガードメカ・逆間接MT機数不明
作戦目標 新造電力施設崩壊の阻止

「・・・・・・妙だな」
『全くです。
 あれだけ急がさせている割には、わざと遅らせるような事を言っています・・・。
 充分、裏があると見ておくべきですね』
「いちいち探らんでいい。
 お前の立場が危うくなるぞ」
自分の考えを代行して言ったようなエマの台詞に、カイが釘を刺す。
「とりあえずは急ぐぞ。
 緊急は緊急だ。オペレートを」
『分かりました。
・・・この前みたいに、道、間違えないでくださいね?』
「・・・多分な」

ピッ
モニターに映し出される、1機のAC・・・ドランクレイド。
「・・・」
『・・・レイヴン? どうかしたのですか?
 ACに確認される前に、早く帰還を』
「・・・野暮用ができた。
 まだ帰還はしない」
『ですが、レイヴン――』
「・・・我が名はフレイ。
もう、レイヴンではない」
『・・・・・・失礼しました、フレイ殿』
オペレーターの言葉を聞くと同時に、通信回線を切る。

「・・・」
『レイヴン?
 なにか・・・』
「・・・・・・なんでもない。行くぞ」
カイはブースターを起動させた。


『作戦領域に到着。ここですね』
「・・・この施設は・・・」
『知っているのですか?』
「・・・」
『レイヴン?』
カイは黙ると入り口へとACを前進させる。
(新造、か。嘘だな・・・これぐらいの情報は上の連中にも届いているはずだ)
『レイヴン、入り口に破壊の後が・・・ここから侵入したんですね』
「だろうな・・・」
エマの言葉に、カイは入り口をカメラ範囲に収め、記録し始める。
『?』
カイのやっている事の意味がわからずにエマは眉を潜め――たような気がした。
『レイヴン、なにを?』
「・・・どう見ても破壊跡とは言えん。
 だから記録しているんだ」
カイの言う通り、施設の入り口は綺麗な円を描いている。
このような穴を開けるにはまさに凶威力のエネルギー兵器、あるいはダガー以上の出力と範囲を持つブレードで切り開くしかない。
しかし、すぐ奥の壁が破壊されていない事から、ブレードの可能性の方が高い。
『あ、なるほど!』
「・・・本当ならオペレーターの仕事なんだがな?」
『・・・』
カイの言葉にエマが沈黙する。
「・・・何一つ変わっていないな」
『? レイヴン、この施設に来た事が?』
「ああ・・・」
『やっほーっ!
 いらっしゃ〜』
ブツッ
まさに降って湧いた大音量の声に、カイは顔をしかめつつ通信回線を切った。

仕切りなおし。
(怒り気味のスカーとカイ)

『どうしていきなり切るのよ!!』
通信を開くなり、スカーが怒鳴る。
「それはどうでもいい。
 なんでお前がここに居る?」
『・・・・・・・・・・・・ヂツは君の事が心配で?』
「依頼料はいくらだったんだ」
『500000C??』
すぐに返された幸せそうな声に、カイは溜息をつく。
「・・・要は金か」
『え? いやだから君の事が・・・』
「それだけ愛想が良ければウェ」
『絶対や』
『あのー?』
「・・・まだ全部言っていないぞ」
『分かるからいーわよ』
「だが決まっている訳では・・・」
『すみませーん・・・』
『決まってるでしょ、それぐらい!』
「それは」
『うるさあああああいッッ!!』
「・・・」
『・・・』
先程のスカーと比ではない怒鳴り声に、カイとスカーは沈黙した。

『ここは作戦領域なんですから、もう少し緊張感を持ってもらわないと困ります!!
 とくにスカーさん!!』
「は、はい!?」
怒張に押されたらしく、スカーの声に余裕がない。
『オペレーターの言葉ぐらい聞いてあげてください!』
「・・・え? 喋ってたっけ、エルモ?」
『喋ってたじゃないですかあああああああっ!!?!』
「うわわっ」
エルモの既に半泣きの声に、スカーが動揺する。
ちなみに言うと、先程の申し訳無さそうな声がエルモである。
「あはは、ゴメンゴメン」
『ううう・・・』
「なにも泣かなくたっていいじゃない? ねっ!」
『ぱふぇが食べたい・・・』
「・・・・・・は?」

『カイ、他のレイヴンとの無用な口論は止めにして戴けませんか?』
「あの状況でどうしろと言うんだ。
少なくとも周りにガラの悪い奴等がいない限り、あの状況では今のがベストだと思ったんだが」
『・・・ただ受け流すだけでいいんですよ。
それに、ガラが悪いだのなんだのって、何の話ですか?』
「・・・」
いまいち納得出来なかったのだが、エマの言葉通りそれを使って受け流そうとする・・・が。
『レイヴン、聞いているんですかっ!?』
「・・・言われた通り受け流したつもりなんだが」
『私の話は受け流さないでくださいッ!!
 それよりもまず受けてません!! 完全にシカトの状態です、流してるだけです!』
「む・・・」

仕切りなおし。
(疲れ気味のスカーと相変わらずのカイ)

『・・・私が貴方の僚機を勤めるスカーです。
 以後、よろしく』
「・・・なんでそうなる?」
(なに言ってるの! あちらのレイヴンが改まっているから、こっちも!)
「・・・」
小声で言うエマに釈然としない思いを抱きつつ、カイが記憶を辿り、『改まった言葉』を紡ぎ出す。
「こちらこそ。しかし、貴方との出会いはこれを機に完全に消してもらいたい。
 悪く言っている訳では無いのですが、これ以上貴方と顔を合わせると発狂しそうです。
 消えてください」
『 ・ ・ ・ 』
「・・・」
自らのウルズから引きずり出し、完全無欠、完璧至極の会心の出来であったつもりで答えたカイの言葉に、スカー以下2名は激怒した。

更に仕切りなおし。
(装弾数の少なくなったトレノのOPと少し被弾したドランクレイドのOP)

(私が手本を見せるから、その通りにやるの。いい? わかった!?)
(了解)
『こちらはレイヴンのオペレーター、エマ・シアーズ。
 今回の依頼は共に行動する事となりますので、よろしくお願いします』
『了解です。
 こちらも、そちらと協力し、援護の要請が無くても援護に参りますので・・・』
「そんな事しなくてもいいのだが・・・」
『うるさい!!!』
「・・・」
3人の言葉にカイは撃沈・・・されたと思いきや、いきなり浮上する。
「ところで、依頼はどうなったんだ?」
『あ゛・ ・ ・』
『ス、スカーさん! 現場へ急ぎましょう!』
『レイヴン! もっと早く言って下さい!!!』
「・・・・・・忘れていたのか?」
慌ただしいオペレートが始まり、カイの言葉を聞く者はいなかった。


『とりあえず、手っ取り早い施設崩壊を阻止するための方法は、各フロアの消化装置を作動させ、火災を消し止める事ですね。
 いつ爆発するかわかりませんし・・・』
「各フロアの異常って、火災の事だったのね。
・・・メンド〜」
『そんな事言ってる場合じゃないです。
 ちゃっちゃと片付けてパフェを食べに行きましょう!』
「あ〜はいはい」
最新鋭のコアなのだろうか?
モニターの片隅に眼を輝かせるエルモが写っている。
どうやらそれ・・・パフェの奢りで先程の話は片付いたらしい。
「・・・エルモ、通信回して」
『了解です』
ピッ
『・・・なんだ?』
軽い電子音と同時に、スピーカーからカイの言葉が漏れる。
「このコンデンサルームの先に、ロックが解除されているドアがあるでしょう?」
『ああ・・・エレベータか?』
「そ♪ よく分かったわね? 新造施設なのに?」
『・・・』
悪戯っぽく言うスカーの言葉を、カイが無言で受け・・・もとい、流す。
「とりあえず、そこから真っ直ぐ行ったところすぐに曲がり道があるから、
 そこを通って隔壁開放の装置を起動させて。
 途中、右手に曲がり角・・・だったか隔壁だったかがあるケド、装置も起動させずにすぐそこに行っちゃダメよ?」
『・・・了解した』
カイは抑揚のない言葉で返すと通信を切る。
「さて・・・エルちゃん?」
『はい?』
「私達はココに残るわよ」
『え!? それってちょっとマズいんじゃあ・・・?』
「大丈夫よ、すぐに行くから?」
『・・・了解です』

『・・・・・・あのレイヴン、ついて来ませんね』
「何か企んでいるんだろ。行くぞ」
頭部からの信号でドアを開き、エレベータへと乗り込む。
頭部パーツには全て、ハッキング機能とも呼ばれるロック解除システムが搭載されている。
厳重ロックされているものは、かなり機能を高めなければ開かないが、ロックがされていないものや、軽いロックならこの信号で開く事が出来る。
逆に言うと、ドアシステムの『閉』を『開』にするためにはこの機能が必要不可欠なのだ。
エレベータに乗り込んだカイの体を、すぐに浮遊感が包み込む。
『レイヴン、迎撃装置を感知しました。
 おそらく、こちらにも攻撃してくるでしょう』
「ロックされ次第撃墜する」
カイは言うと、レーダーに映された黄色いポインターが赤になるのを待った。

バラララッ
予想通りロックしてきた天井に設置されている迎撃装置を、カイはすぐに撃ち落とす。
「左だったな・・・エマ、こちら側に本当に隔壁を開放させる装置はあるのか?」
『はい、キサラギ社からのマップによると、そうなっています』
「わかった」
迎撃装置をHALBERDで叩ききり、更にOBを使い奥の迎撃装置まで跳躍すると、零距離からのマシンガンで沈黙させる。
「・・・ここだな」
『気をつけてください、2体のガードメカが・・・』
「それくらいはわかる」
(だから通信は切っておきたかったんだ・・・)
小うるさいとまで思うパートナーに、心の中で付け加る。
と――
『・・・レイ・・ヴ・・・た・・・・・・て』
「! 避難し遅れた者が・・・!
エマ、避難し遅れた者が居る。すぐにその位置を割り出せ!」
『え・・・?』
カイの切羽詰まった声に、エマが困惑した声をあげる。
『レイヴン、何故そのような事がわかったのですか?』
「今電波を拾った! 急げ!」
『ですが、レイヴン・・・こちらからではその電波は拾っておりませんし、その人物というのもこの施設に反応は・・・』
「・・・!?」
次の瞬間、カイがレーダーを最大レンジで探索を始める。
カイのヘッドパーツはレーダー機能も搭載されており、カイが日頃手がけている整備の技術も合間って、レンジの飛躍的アップさせる切替え装置と、バイオセンサー、更には暗視バイザーも追加されている。
この電力施設は縦に伸びるように建設されているため、規模はそこまで大きくない。
カイの手がけたレーダーで充分捜索できる・・・が。
(・・・居るのはトレノとドランクレイドだけ・・・?)
生体反応を表すレーダー。
これはつまり、ACに搭乗したスカーとカイを表している。ここにあるのは全て無人兵器だけだからだ。
「・・・・・・・・・先へ進む」
『わかりました・・・』

「・・・ふふっ、そろそろ良い頃合ね・・・」
『? なにがですか?』
「今から起きる事、他言しちゃぁダメよ?」
『・・・・・・・・・ふるーつぱふぇ、食べたいなぁ』
指を加えつつ言うエルモに、スカーは引きつった笑みを浮かべると、
「・・・いいでしょう! お姉さんに任せなさい!」
『やったぁ〜?』
かなり軽い会話を続け、スカーはある装置に手を向けた。

・・・・・・ずずぅぅぅん
その振動音が聞こえたのは、ようやっと全ての消化装置を作動させた時に聞こえた。
『・・・なに!?』
「今の爆音は・・・エマ、急いで調べろ!」
『了解・・・!』
焦り気味な声をあげてエマが回線を切る。
「・・・あの女・・・何をした・・・!」

「ふふぅん♪」
『スゴイですねぇ。それって、この前の共同任務にも使ったあのヘンなのですよね?』
「・・・ヘンって言ってほしくないわね」
自慢気だったスカーは、エルモの言葉で消沈する。
「それよりも、この辺りで役者は揃いそうねぇ・・・」
『役者・・・? っ!?
 未確認機、サイレントライン付近から作戦領域内へ近づいて来ます!
 これは・・・・・・!?』
「おぅ〜けぇ〜い!
 エサは充分払ったもんね!!」

『・・・助か・・・した・レイ・・ヴ・・・』
「・・・またか・・・・・・」
唇を噛みしめながら呟く。
最大レンジにするが、その意味が無い。
全く反応しないのだ。
「どうなっているんだ・・・」

白い機体の右腕に持つ、巨大な銃から蒼い水のような、太いプラズマが射出される。
「くっ・・・!」
大出力のOBにより、一瞬でそこから離れる・・・が、それを連続で撃つ機体に対し、完全に避けきる事は出来ずに被弾する。
「くあっ!
 あ、あの機体・・・!!」
『敵機エネルギーチャージ・・・来ます!』
「・・・くうう・・・・・・!」
スカーがコントロールパネルに手を伸ばした。


『レイヴン!』
「・・・今度は!?」
ドランクレイドをエレベータへと急がせるカイに対して、エマが切迫した声を上げる。
『この施設内部に未確認機・・・あのアンノーンが侵入しています!
 今、スタークラッカーのトレノと交戦中!』
「・・・・・・サイレントラインに出没するとか言う機体か!」
カイがブースターを起動させ、エレベータのドアを開くと、中に突進する。
ブオオオ
更にブースターの出力を上げると、エレベータの上昇する時間を待つことさえもせずに、一気にドアへと上昇する。
エレベータ等のドアには危険対処として始動時にはロックがかけられている。
しかし、緊急時を想定し、大体のものはそのロック部分を露出させている。
・・・例外無く。
「――HALBERD・・・!
 切り裂け!」
ザギュン
ロック装置を切り裂き、破壊すると、すぐにドアをこじ開けて通路に着地する。
ドランクレイドの装甲さえも貫通して爆音が聞こえる。
「エマ、ドアを開く・・・ダミーと一緒に戦闘記録を!」
『・・・!
了解!』
カイの言わんとしている事を即座に理解して、オペレーションルームに送り込まれるドランクレイドからの映像を記録し始める。
そして。コンデンサルームへと続くドアが開かれる。

『・・・カイ君、遅い!』
「・・・馬鹿言え。これでも急いだんだ」
まっさきに飛び込んできた言葉を返しつつ、カイは目の前に広がる光景に、少し釈然としないものを感じる。・・・少しでは無いのだが。
OBをフル稼働を『持続』させて、流れ飛ぶエネルギー・実弾兵器をかわすタンク型AC・・・。
それの放つグレネード、大型ロケットを楽々とかわす超重量型の白いAC・・・。
「・・・この世の情景じゃないな」
『ですね・・・』
『こぉらそこっ!! 早く助けなさいよ!!』
「了解・・・!」
スカーに言われ、ブースターを起動させる。
ピッ――
すぐに反応したAC、アンノーンはこちらに大口径の銃を向けるが・・・
「遅い!」
ズジャッ
さすがに低威力のHALBERDで破壊できる訳ではないが、切り払って時間を稼ぐ。
「――スカー!」
『今度こそ!』
ズドゥン
ピピッ
阿吽の呼吸で放たれたグレネード弾だったのだが、アンノーンがブレードで切り払う。
『嘘ぉっ!?』
「! ちぃッ」
あらぬ場所で爆発を起した弾を見て毒づくスカー。
『なんであんなの斬れるのよ!?』
「知らん! とにかく接近戦だ・・・援護を!」
『OKぃ!』
ドシュシュシュッ
すぐさま放たれたロケットがドランクレイドのすぐ横を走り、アンノーンに直撃する。
ズガガガン
「くらえ・・・!」
ピッ
ギャギィ
アンノーンがブレードを使って受ける。
ギャン ギィン
『――邪魔!!』
「!」
しばし続けたブレード戦であったが、スカーの通信により慌てて離脱。
ピッ
ドドガゥンッ
更に追撃しようとしたアンノーンを2発のグレネードが捉える。
ズドゥン ズガガガガガッ
文字通り吹き飛んだACに、更にグレネードとドランクレイドのマシンガンで追い討ちにかける。
ピッ ピッ ピピピピッ
アンノーンがカバーガラス越しにアイライトを点灯させると、更なる追撃を逃れるために砲撃を開始する。
「見え見えだな」
『私だって・・・って、あ・・・・』
「・・・?」
疑問符を浮かべつつ、ブースターを起動させてカイがよけつつマシンガンを撃ったその瞬間である。
ズガゥン ズガゥウン
「!?」
後方での爆発反応がトレノの反応と重なり、爆音が響く。
『あだだだっ!!』
『なにしてるんですかぁ!?
 さっきのヤツでちょちょいと避けてください!!』
『エネルギーが切れたの! 時間切れよ、時間・切・れ!!』
『ならさっきのでっかい・・・』
『他言しちゃメぇって言ったでしょ!?』
『あたしまだスカーさんにしか言ってないですぅ』
『通信機が繋がってるの! 回線が開いてるから聞こえてるの!!
・・・あ〜、神経等も私の組み込んだスラスターも滅茶苦茶じゃないの・・・』
「・・・」
なんの事かは良く分からないが、とりあえず先程の無茶な動きが出来なくなったようだ。
こっそり溜息をつくと、完全に立て直したアンノーンと対峙する。
『カイ君! こっちも砲台代わりにくらいなれるわ!!
 君と一緒にあの白っちぃの闇に葬るから、私に構わずやっちゃって頂戴!』
「・・・お前の息の根を先に止めた方がよさそうだな・・・」
『冗談ですって兄さん?』
『・・・今、貴方のオペレーターに回った事、もの凄く後悔してます・・・』
「・・・」
マシンガンを向けただけでころりと態度の変わったスカーは放っておき、アンノーンに仕掛ける。
ピッ
ブーストで突っ込んでくるドランクレイドを真正面から捉え、大口径の銃を構える。
(さっきの実弾とは違う・・・? !)
慌ててグリップを切るカイを追いかけるように、エネルギー弾が連続発射される。
気付くのが早かった為すぐに避ける事ができたが、もう一瞬でも遅ければただでは済まなかっただろう。
(――だが、その分・・・!)
「相手にも隙ができる!」
アンノーンが両手で構えていた大口径のプラズマキャノンから、左手を離しブレードを繰り出す前にドランクレイドが大きく踏み込んでHALBERDで切り払う。
ヂャギャッ
深々とHALBERDをアンノーンの胸元に突き刺し――嫌な予感がしたのでブーストを起動させ真横へと退避する。
ズドウゥン
グレネード特有の大爆発の衝撃波と閃光、更にその後にきた強大な爆発―大型ミサイルの反応を確認する。
『あっ・・・』
『・・・狙ってたんですかぁ・・・?』
『貴方と言う人は・・・!!』
『えっ? あ、いやぁ・・・その・・・ねぇ? あははははは・・・』
エマまで会話に加わり、乾いた笑い声を上げ始めるスカー。
そこに以外な助け舟が。
「・・・・・・丁度良いタイミングだったようだな」
『へっ?
・・・あ、HALBERDにより損傷した胸部へグレネードと大型ミサイルの直撃です!!
スゴイ・・・動力炉と思われる部分から崩壊していきます!!』
『・・・!』
爆炎に飲み込まれるアンノーンに油断無くHALBERDを構えるカイとは違い、スカーはこれを好機と見て取ったのか、急に態度が大きくなる。
『どうよ! 私が本気を出せば、あの子の動きを読んでアンノーンを破壊する事だって出来るんだから!』
『そうだったんですか!? じゃあ、さっきの攻撃は・・・』
『もちのろんで! カイ君があそこで回避するとわかったのよ!』
『尊敬しますぅ!!』
『これからはお姉様とお呼びッ!』
『はい、お姉様!!』
『・・・・・・・・・・・・レイヴン、あの2人は放って置いて良いのですか?』
「ああ」
どんどん態度が肥大化するスカーに対して本気で尊敬の念を込めるエルモ。
それに対して答えを求めるエマに、カイは素っ気無く一言で終わらせる。
「・・・・・・エマ、アンノーンの活動反応は?」
『・・・今だ爆発のエネルギーにより、反応が掻き消されているため、捉える事ができません。
 ですが、さすがにもう大丈夫では? 動力炉にまで大型ミサイルを受けては・・・』
「そうだな・・・」
『目標、今だ炎上中。
・・・では、ACのシステムを通常モードへ移行させてください』
「ああ」
すぐにコントロールパネルに手を走らせて、ACの機能を停止させる。
最も、非常時の為に内部機能が停止される事はないが。
その為、あの2人の声がまだ聞こえるが。
『お姉様! やっぱり、ぱふぇは自腹で食べます!』
『いいっていいって、私が全部払っちゃう!』
『飲み物料も!?』
『任せなさい!』
「・・・・・・緊張感が無いな」
『ふふっ、その方がいいわ。
 レイヴン、貴方も少しは見習えば?』
「遠慮しておく・・・慣れてないからな」
嘆息しつつ、雑音とも言えるスカー達の声を排除するため、通信機能のコントロール装置へと手を伸ばし――
――ピピ ピッ
「!?」
再び外部マイクの拾った電子音に、カイの背筋が凍りつく。
『なっ・・・!?
 目標活動エネルギー固定! ・・・まだ動けるというの・・・!?』
「ちぃッ! エマ、戦闘モードに再接続だ・・・急いでデータを書き換えろ!」
鋭く舌打ちしてエマに命を下し、コントロールパネルに手を置いて戦闘モードへと移行させる。
ピッ
ズシン
再び拾った電子音と共に、アンノーンが踏み込み、先程使っていたプラズマキャノンを構える。
「こちらは・・・ロックオンされていない・・・!?」
これも修羅場を抜けたおかげとでも言うべきか。カイはかなりのスピードで腕を動かし、ロックオンマーカー探知プログラムをトレノへと向ける。
ロックオン反応有り。
(ドランクレイドは再起動準備中・・・!
 砲台は危険・・・だからこれを見越してトレノを狙うのか!?)
この為に起動停止を見せかけたとでも――!?
「くそっ!」
考える間も惜しく、回線を今だ会話にふけるトレノに繋げる。
「スカー、聞こえるか!? ヤツが再起動を・・・狙われているぞ!」
『ん? 奴って・・・・・・!?
 ちょっと、こっち動けないんだからなんとかしなさいよ!』
「こちらも無理だ!
 戦闘モードに戻すまでは・・・!」
『それって大分時間かかるじゃないの!?』
「だからだ! 一撃で破壊されるようならトレノから降りろ!
 奴も神経等や中枢を火達磨にされているんだ。動きも鈍い!」
『それも止む無し・・・ってコト!?』
その言葉と同時にコックピット開放、スカーが飛び出してくる。
ピッ ピピピ
ウィーン  ガコン
「!?」
明らかに。
スカーを逃がさんとでもするように首、そして腕を動かす。
「バイオセンサーも搭載しているのか!?」
『・・・・・・レイヴン! 戦闘モード起動!』
「・・・!」

「ACから降りてもこっちを狙うなんて・・・いい度胸してるわね・・・!」
アンノーンのアイライトの光を見つめながら呟く。
「そんなにアレが欲しいのね・・・・・・ケド、貴方たちには渡さない。
 ・・・・・・絶対に」
ピッ
答えるように電子音がなり、真っ赤に燃える炎が吹き出る頭部で、ゆっくりとスカーに狙いを定める。
その背後に、白いフレームと紅い光が近づき――
「・・・前回は黒い王子様だったけど、今回は――」
ザギュゥン
ブレードの鉄を焼ききる音と共に。
ドガアアアアアァァァアアン
背部ジェネレータが破壊されたアンノーンは、そのまま引火、爆砕した。
「・・・白い・・・王子様だったわね・・・?」


「さすが・・・って言っておいてあげる」
「・・・褒めるぐらいなら俺の前に現れるな」
「・・・可愛くない・・・」
スカーは半眼で呟くと、煤などで汚れた施設の床に座り込む。
「ふぅ〜、疲れた疲れた」
「・・・あの状態で機能するとは・・・いくらなんでも思わなかったがな・・・」
今や火が止まりつつあるアンノーンを見上げつつ、カイが呟く。
「誰だって思わないわよ。
 ・・・・・・てかさァ、カイ君?」
「なんだ?」
「勘違いならいいんだけどさ・・・普通はコアのシステム生きてるから、貴方のコアに搭載されてる対ミサイル迎撃装置とか・・・ケンセイとしてでも、撃てるよね?
ひょっとしてなんだけどさァ、私のコト、囮として使ってなかった?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・馬鹿言うな」
「うっわ何その沈黙!!
 ベッタベタな嘘つかないでよね!?」
「ついていない」
「それも嘘でしょ!」
「・・・何故そう思う?」
「女のカンってヤツ?」
「・・・」
ドコかで聞いた台詞だと思いつつ、カイは沈黙した・・・。

「・・・我がFOが出るまでもなかったか・・・」
薄暗いコックピットの中で呟く。
『・・・まさか、助ける気だったのですか?』
「ふっ・・・無論、違う。
 だが・・・試作機は完全破壊するつもりではあった」
『何故です?』
「それは些細な事だ」
『・・・』
「だが・・・セレ・クロワールよ・・・」
フレイの声が妙に響く。
「何故、コンタクトを取る必要がある・・・?」
『それは、貴方という存在が完全に消えてしまう時の対応策です』
「ふん・・・」
『これより、帰還してください』
「了解した」
ズシン・・・
軋む音をたてず・・・ただ重い音のみを残して、漆黒の機体は去った。


ザァァァァァァ・・・・
熱い水滴に打たれながら、今日の出来事を模索する。
アンノーン・・・近頃サイレントライン付近の施設を破壊して回る無人型の白い重装AC。
今までの研究でわかった事はそれだけである。
他にも遭遇したレイヴンは居たが、破壊するかされるかの2つに1つで、大抵は完膚無きまでに破壊されており回収しても意味が無く、大抵の事はわからず終いだ。・・・あの異常な頑丈さとしぶとさからして当然だが。
あのアンノーンは、途中からトレノへ狙いを切り替えた。
確かに援護射撃は邪魔であるし、動かない砲台ならこちらを破壊したほうが得である。
確かに筋は通っている・・・が。
それだけでは無い気がする・・・。
普通ならば、パイロットまで狙う事は無いはずだ。
「・・・・ちっ」
ムシャクシャして舌打ちすると、シャワーを止めて側にあったタオルで体を拭く。
手っ取り早く着替えてシャワールームから出ると、パソコンを起動させてメールのチェックを始める。
内容4件

キサラギ社『成功報酬』
『レイヴン。今回の任務、立て続けでありながらもご苦労だった。
 今作戦の成功費及び哨戒任務時の報酬はレイヴンの銀行へ振り込まれている。
 間違いのないよう、確かめてくれ。
 またこの先、このように我が企業を脅かすアンノーン・・・他の企業、そしてテロリスト共が襲って来る事もあるだろう。
 その時は、よろしく頼む』

「・・・・その時は、か・・・。
 いつ裏切るとも知れない企業めが・・・」
嫌悪を抑えきれずに吐き捨てると、すぐに次のメールを開く。
(この名前は・・・)
カイは自分の記憶に無い差出人の名前に眉を潜める。

セレ・クロワール『感謝します』
『初めまして、レイヴン。私はセレ・クロワール。貴方に通信を送った者です。
 今回の件はまことに有難う御座いました。
 貴方達の活躍のおかげで電力施設の崩壊も免れ、私もこうして助かる事ができました。
 あの未確認機は、未踏査地区から出現している事はもうお分かりですね?
 あの機体については調べたい事もあり、情報収集をしているのですが、サイレントライン近辺に現れるアンノーンに襲撃を受けました。その後、何の為に戻ったのかは不明ですが・・・。
 それにしても、地上進出を果たした企業達の紛争は激化を辿る一途で、一向に静まる気配が見えません。
 その為、私達の研究も進む日差しはありません。
 これでは、地上進出をせずに、あの管理された世界がましだったとさえ言えるのではないでしょうか?』

「・・・・・・だろうな」
思わず嘆息しながら呟く。
そう――ここ最近各大企業は他の企業を味方につけ、他の大企業の信用を落とすための破壊工作やハッキングなどを勤め、一向にこの争いが絶えるような状態ではない。
むしろこのメールに書かれている通り、激化を辿るのみである。
「サイレントラインの白い悪魔・・・・・・エゴの塊の企業共には打ってつけだな」
肩を落としてひとりごちると、メールを閉じて次のメールへと指を動かす。

エマ・シアーズ『ダミーとAI研』
『レイヴン、初の依頼成功、おめでとうございます。
 これからも、この調子でいける事を願っています。
 作戦中貴方の言っていたダミーの事ですが、案の定とでも言うべきですか・・・ミラージュ社の代行を名乗る者に押収されました。ですが本物は無事です。
 ダミーの発信機は途中破壊されましたが、本物の映像はこのメールと共に貴方に送りますので、私の方で焼却しました。
 作戦終了後、キサラギ社の社員に保護されたセレ・クロワールですが、彼女がAI研の者だという事は知っていましたか?
 AI研・・・AI研究所は、無人機に組み込む人工知能制御チップ開発を主としている、技術者の集団です。最近は戦闘で無人MTが続出しているのは、おそらくそのせいでしょう。
 しかし、AI研究所に対しては良くない噂も絶えません。事実、ダミーの発信機が破壊された辺りの場所はAI研究所領域内となっております。
 くれぐれも注意を』

「・・・ヒントは・・・AI研究者、か・・・」
顎に手を添えると、そのまま沈黙する。
スカーに会った時、氷山の一角となる謎を知っているのはAI研究者と話している。
確かに、怪しい。
それだけならばすぐにでも接触を取るのだが、それ以前にAI研には途方もない技術力があるのも確かだ。もしあの通信時、あの場にいなかったとしたら・・・? こちらと直接の接触を避けるためにその行動を取ったのであれば・・・?
推測に過ぎないとは言え、可能性が捨てきれない訳でもない。もしこれに似たような事でもあれば、AI研の者と会うなど夢のまた夢である。しかし・・・
(それでも会う事ができるのならば・・・・・・氷塊の一部は崩れるな)
こちらの知りえない情報も、AI研の者ならば易々と手に入れられるだろう。
企業との距離もかなり近いのだから。
「・・・・・・?」
閉じようとした時にまだバーを下へスクロールできる事に気がつき、不振に思いつつメールを下へと進める。

『レイヴン、今回の任務の無事成功を祝って、2人でパーティーでも開きませんか?
 おりしも明後日は空いてますし、きっと楽しくなると思います。
 しかし、明日空いている訳では無いので、下に記しておくモノを買ってきてください。簡単な事なので、安心してください。
 買うものは――』

「 ・ ・ ・ 」
カイはいつもの無表情で考え込む。
そこには店の名前と何かの食べ物らしい言葉が記されている。
確かに、それをメモしてその店に行って、その店で買い物をすればそれで終わるような簡単な事だ。しかし・・・
(地図が無い限り必ず道に迷うんだが・・・・)
おそらく、エマの頭の中に方向音痴という言葉は無かったのだろう。
この問題は後に回す事にして次のメールを見る。
「・・・・・・」
カイは題名だけ見て取るとすぐにそれをゴミ箱へ・・・。
最後のメールはスカーからのものであった。
しかし、カイは自分の本能赴くままにメールを捨てたのだ。
「せめて・・・しばらくの間は厄介事を持ってこないでくれ・・・」
言って首の骨を鳴らし、そのまま立ち上がった。


人とは、いつでも身勝手なモノであり、そうなるように造られている。
神とは、それらをより良い方向へ導くために、もしくはそれらを罰するためだけに。
存在する。
ならば・・・この薄暗い天は?
迷宮の檻。
ならば・・・この汚れた海は?
生命の起源。
ならば・・・この鋼鉄の檻は?
汝が操る棺桶なり。
ならば・・・この月光の帯は?

「・・・・・・死に行く者に手を・・・か・・・・」
「どうかしたのですか?」
「いいや・・・何もありはしない」
「・・・」
ちらほらと降り始める灰色の雪を見つつ言うフレイを、セレは無言で、見つめる。
「それよりも・・・セレ・クロワールよ」
「なにか?」
「『あれ』はどうなっている」
「ふふっ・・・育っていますわ、順調に・・・」
「それなら良いが・・・使えるのか?」
「もちろんですとも。
 なにか不満な点が?」
「・・・・・・・・・・・・無いはずがないだろう」
「ごもっとも」
単調な会話が続き、フレイが眺めていた窓の正反対に位置する、自分の真後ろにある巨大なモニターを見上げる。
「復讐鬼・・・・」
「その言葉が一番似合っている」
「そうですか?」
淡く微笑むセレの顔を見返そうともせずに、フレイはモニターに広がる肉塊を冷めた目で見つめる。
「それで・・・2号機のパイロットは、もう?」
「・・・ああ、見つかった」
モニターから目を離すと、出口へと歩みだす。
「適応性は?」
「大丈夫だ・・・」
「ふふふ・・・・貴方の事を、信じていますよ?」
「・・・」
フレイの出た室内に残ったセレの顔面は、邪な笑みが張り付いていた。


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Success?



後書

どーも、みなさん。最近朝が冷たいのにも関わらず、扇風機を夜通しかけて腹の調子が悪い安威沢です。
当初、これを書き始めたのが1,2週間前で、危うく本来のものからかけ離れてしまうところでした。
それにしても・・・出てきませんねぇ(キョロキョロ
クーオとかいうヤツ・・・さては計画倒れかな?
まあ、新でオリキャラなんてそんなもんでしょう。・・・出すつもりはありますけど;
はぁ〜・・・相変わらずAC3買ってねぇ・・・とっとと3のシナリオを考えねば・・・もしもまかり間違えればネクサスが先になってしまうやも;;
それでは、また会う時までひばひの別れ・・・

終
作者:安威沢さん