必然なる運命
―――― 7th ――――
「ぐ……ぁッ!!」
その淡い青色のACは、既に黒煙を噴いていた。
機体は大破し、その巨体は地面に手をつき、もはや戦闘不能だった。
「終わりね…。」
白。何もかもを信じ、映し出す、白。
無惨な姿をしたACを見下ろす、もう一つのACは、純粋な心そのもの。
その手の銃口は、正確に、冷徹に、そして…哀しく、コックピットに向けられていた。
「引き金を引く前に、最後に聞いておきたいことがある……。」
「……何?」
「まだ、名前を聞いてなかったな…。」
「………わ、私は…私は…ッッ!!」
銃声。
ああ、ようやく。
これでようやく、お前の元へ行けそうだよ。
……。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
―――― 1st ――――
長い間…というわけでもないが、私はレイヴンをやっていて、まさかこうなるとは思わなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
『追放』
送信者:レイヴンズアーク
貴官はクレストインダストリアルと不当な手続きを行ったことにより、
今からこのレイヴンズアークより追放いたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
…そう、レイヴンズアークからの脱退。
と同時に、クレスト専属レイヴンになったのだ。
レイヴンズアークにずっといて、何のために戦いをするのかわからなくなった自分にとって、
クレストからの勧誘、そしてアークからの追放はいいチャンスだった。
別にクレストに礼があるわけではないのだが、何かのために戦ってみたかった。
ただ、それだけ。
…そう、本当に……それだけだった。
先日、試験があった。
AC4体のバトルロイヤルで、生き残ったもののみが選ばれるというシンプルな試験だった。
(単純計算で、合格率は4倍といったところか)
…しかし、本当に受かってしまうとは思わなかった。
………「生きる目的」を調べる、いいチャンス、ね。
―――― 2nd ――――
クレスト本社内で講習が行われた。
選ばれたレイヴン達(合格者)全員が招集され、クレストの方針などが話された。
1時間ほどだろうか?講習が終了し、全員がぞろぞろと会議室から出て行くときだった。
出口から出て数分後に、声をかけられた。
「…キミも、合格者の一人か?」
はっと見ると、美しくもしっかりとした顔立ちをした男性が、そこに立っていた。
「ええ、そうよ。…それが何か?」
この講習に来ているんだから当たり前だろう、と思ったが……。
「いや……綺麗な顔立ちをしているもので、少し意外だなと思ってな…。」
彼はその少し低い声で、もう一度話した。
私は少し、吹きだしてしまった。
「やあねえ、新人の女の子にはみんなそうやって声をかけてるの?」
「いやいや…!そういうわけではないのだが……。」
私は人付き合いは嫌いじゃない。
むしろ、人そのものが好きだ。
感情を持って、時に笑い、時に怒り、時に分かち合う、人そのものが。
「あなた、名前はなんて………。」
そう尋ねようとした、そのときだった。
彼の後ろ……廊下と階段を区切るそのドアの近くを歩く人物。
……異様な風格だった。
白髪の髪はくしゃくしゃで、肩まである。
伸び放題の白い髭は、胸のあたりまで。
服装は、濃い緑色の、薄汚いコートが目立っていた。
後姿しか確認できなかったが、その印象はとにかく「異様」かつ「不潔」そのものだった。
私は彼の後ろ(その老人らしき人影)を指差して、彼に尋ねた。
「…ねえ。あの人、誰…?」
彼は後ろを振り向いて、その人影を確認したあと、すぐに言った。
「ああ、彼か…もう何十年もクレスト専属レイヴンをやっている、超ベテランだ。
社内で彼を知らない人間はいないよ…。」
名前は、と聞こうとしたが、言う前に彼が答えた。
「彼の名はケヴィン。無愛想で口も聞きやしないさ。」
……ベテラン…?
こんな仕事だ。やはり「ベテラン」はみんなあんな風格なのだろうか?
…このとき私の中で、異常なほどの「好奇心」が芽生えた。
何が原因で、どんな理由で好奇心が芽生えたかはわからないが…。
「ごめんなさい、ちょっと失礼!」
気付いたら、私はその『ケヴィン』と呼ばれる人物に向かって走っていった。
…走る、
走る、
走る、
走る、
走る。
……ドアを開けると、ゆっくりと階段を上る『ケヴィン』が見えた。
大きな音を立てて開いたドアに『ケヴィン』は少し驚いたのか、ドアのほうに目をやった。
「わ、私は…わたしは…。」
まずい。
とりあえず彼とコミュニケーションを取りたいというだけでここまで来た自分は、
いったい何をすればいいのかわからなくなった。
何を言えばいいのだろう?
なんて言えばいいのだろう?
「…新人、か…?」
しどろもどろしている自分に、『ケヴィン』は声をかけてきた。
少し驚いた。
「無愛想で口も聞かない」んじゃなかったのか?
でも、そんなこと考える前に口が動いた。
「はい…このたび入った新人の専属レイヴンです。」
「フン―――……。」
…鼻で笑った。
……語尾が聞き取りづらい…。
…でも……。
でも今、確かに……。
「くだらないことを」
そう、言っていた。
「あの、私名前は……。」
「待て。」
名乗ろうとしたときに、突然張りのある声でさえぎられた。
「…聞きたくない。」
「えっ…?」
「これから戦場へ行き、死んでゆくものの名など聞きたくない。
もう……嫌なんだ。他人に感情を移入するのは………。
皆、死んでゆく…。嫌なんだよ……。」
そう言い残して、『ケヴィン』は少し足早に階段を上っていった。
―――― 3rd ――――
専属レイヴンになって、早くも1年余りの月日が立とうとしている。
もともと、腕には覚えがあった(だから何も考えずに試験を合格できたわけだけど)。
私はこの短期間で、社内でなかなか信頼できる地位にまで上り詰めることが出来た。
…そして、
そして私は…、
私はこの1年間、願いつづけたことがついに現実となったのだ。
…そう、『ケヴィン』との共同任務。
あの入社(専属レイヴンになった日)から、彼のことが気になって仕方がなかった。
……一応、ここで断ってはおくが…、
あの薄汚い老人に恋愛感情を抱いたわけではないのだ。
そう、ただ単に「好奇心」。
ただ、それだけ…。
「準備が整いました。」
整備士はそう告げた。
「………。」
『ケヴィン』は何も言わずに、つかつかと歩いていった。
…むせ返るような煙のにおいと、赤いランプで照らされる薄暗い空間と、暑苦しいまでの気温。
そう、ここはクレストのACガレージ。
出撃直前なのだ、広い広いガレージには忙しそうに(本当に忙しいのだろう)走る従業員と、
何を言っているかわからないアナウンスと四方八方から響き渡る人々の怒号。
異様といえば、異様な雰囲気である。
出入り口はガレージの床下10mはあろうか?高いところに設置されていて、
壁にそって細い通路が左右、そしてACへと長々と伸びている。
通路の向こう側には、格専属レイヴンの機体がズラリと横一列に並んでおり、
そしてACとACの間には仕切りがある。
そのどのACも足の部分が、壁から出ているマシンアームで固定されている。
基本的には、右のACほど新しく(新入社員のAC)、左へ行くほど古い。
天井はハッチになっており、ACの足元に設置されているエレベーターで外に出て、出撃する。
私の愛機……真っ白にペイントされた私の愛機「エンジェルハーツ」は、右から6番目。
『ケヴィン』の愛機は…一番左にあった。
「エレベーター起動します!」
ACに乗り込んだ私は、上昇中にシートにしっかり座り、肩を回し、
首を軽く左右にやって、操縦レバーをしっかりと握った。
―――ふと、昔自分が思った言葉を思い出したが、
そんなことあるわけないか、と思って、一人で鼻で笑った―――
―――― 4th ――――
「…行くぞ、新米。」
その一言を言って、彼…『ケヴィン』の機体は、私を先導するように歩き出した。
「新米」か……私だって、ちゃんとした名前はあるのに…。
今回の任務は、クレスト本社を襲撃した謎の軍隊の排除。
クレスト本社は現在、ある目的のために施設の防衛用の配備を出せないらしい。
さらに敵はかなり強力であるとのこと。だから本社にレイヴン出撃要請が入ったのだ。
何故こんなメンバーなのかというと……まず『ケヴィン』。
彼は間違いなくクレスト専属レイヴンの中でトップクラス…いや、
トップの実力と言っても過言ではない実力の持ち主であるから。
次に私は、自分で言うのもなんだが、新人の中でも社内でもかなりの実力を持っている…つもりだ。
だからこんな緊急事態に呼ばれたのだと思う。
……思う。
そう、私はこの任務について、何故私が配備されたかが詳しくわかっていないのだ。
………まあ、緊急事態だから、詳しく言っている時間が無かったんだと思うけど。
「着いた……か。」
「……ひどい…こんな……こんな都市の真ん中で侵略活動なんて…!!」
高層ビルの立ち並ぶ、町のど真ん中に、巨人が2人。
…既に、いた。
赤く塗られたACが2機。
こちらに気付いたのだろうか。
毒々しい黄色い2つのモノアイは、ゆっくりとこちらに振り向き、
やがて、睨み付けた。
…ビルに強固な装甲を貼られたクレスト本社。
その装甲は、既にかなりの量がはがれていて、道路に落ちていた。
既に打ち破られ、ビル内部が破壊されている部分もある。
その回りに立ち並ぶ住宅地、商業ビル、工業ビル……。
そのほとんどが、大破していた。
ガラスは割れ、外壁は銃痕でいっぱいになっていた。
「…許せない……!」
私は、レバーを握る手の力が自然と強く、強くなっていったのを感じた。
「ひどい…あいつら……絶対許さない!!」
私はブーストを吹かし、その赤い塗装のACに突っ込んで行こうとした、その時。
「待て。」
通信機から、声がかかった。
「感情に流される前に、状況を判断しろ、新米。
お前一人で突っ込んでいって、何が変わると言うのだ…?
余計な死人が一人増えるだけだ。」
「でも、このまま待っていると言うの!?」
「…黙れ。
いいか、集団戦の基本は人数を減らすことだ。
まず2人係で装甲の薄いほうを集中攻撃するんだ。わかったな…。」
「………。」
何も言い返せなかった。
今まで自分が必死に訴えていたことは、何だったのだろうか…。
未だに冷静さの無い幼稚な自分を知り、恥ずかしくなった。
「…わかったわ。」
「あのスナイパーライフルを持ったほうを先に狙うぞ…。」
カメラを移動させ、スナイパーライフルを持ったACをじっとにらみ付ける。
『ケヴィン』もまた、同じだった。
………。
静まり返る都市。
痛いほどに続く沈黙。
張り詰める旋律。
…そして、静かな狂気。
そのACが、銃を持った右手を少し上げようとした、その瞬間。
「今だ!!」
『ケヴィン』が、大きな声で怒鳴った。
それと同時に、私と『ケヴィン』はブーストを吹かして、全速力で相手へ向かった。
――――――戦闘開始。
相手との距離はそれほど離れてはいない。
私は途中で右へそれた。
『ケヴィン』は相手に向かって突き進んでいる。
相手の発砲。
右、左、上と『ケヴィン』は移動し、3発の銃弾を全て避け切ると、
コア部分をマシンガンで掃射した。
ババババババババババ…!!
全弾、避けられることも出来ぬACはまともにダメージを受け、後ろへよろめいた。
…チャンスだ!
私は左腕に装備しているグレネードを相手目掛け、発砲した。
着弾!
相手の左腕に当たり、爆風が起こる。
そして、その左腕が砕けた。
「やった…!」
そう言って、もう一発、発射しようとした。
「馬鹿者!」
通信。
それと同時に、機体に大きな振動が走った。
「きゃあぁ!」
2、3、4……後ろへ振り替える間もなく、次々に浴びせられるエネルギー波。
しまった…。
1機残っているのを意識していなかった。
私としたことが…!!
ドシュッ!
シュオォォォォォ……!!
ドドドドドドドゴォ!!
大量のミサイルが前から飛んできて、すぐ後ろのACに命中した。
『ケヴィン』が撃ったのだ。
私が死角となって、見えなかったのだろう。
すべてがそのまま着弾し、ACは倒れた。
「………。」
助けて…くれたというの?
カチャッ。
ババババババババババ…!!
ババババババババババ…!!
ビシィ!バシバシバシバシ!
ドンドンドンドンドゴオォォ!!
目の前にいる、スナイパーライフルを持ったACが必死の抵抗をするも、
あえなく、大破した。
「……これで苦戦するとは、クレストも落ちたものだ…。」
『ケヴィン』はそういい残して、銃を下ろした。
終わった…のね……。
………。
………。
ほっ…と、胸を撫で下ろした。
突然、銃口がカメラ左に映った!!
後ろのAC……まだ大破してなかった!?
ブーストを吹かしていったん距離を取ろうとした時…。
……!?
ブーストが吹かない!?
さっきの攻撃で、ブーストに異常が…!!
「何をしている!!」
…また、ミスはしない。
左肩を上げる。上げた部分に脇ではさむような形で右手のショットガンを構え、後方に発砲する。
バアァ!
相手がひるんでいる隙に、180度の回転。
体制を立て直す前に、相手のコアにグレネードを撃ち込む。
…ドゴォッ!
相手は更にバランスを失う。
よろめいている間に、チェインガンを構え、速射する。
ドッドッドッドッドッドッドッドッド……
ドチュチュチュチュチュチュ……
ドガァ!!
そしてACは音も無く、
倒れた。
――――戦闘終了。
―――― 5th ――――
「―――どういうことだね?」
廊下を歩いていると、使われているはずのない会議室から
濁った中年の声が聞こえてきた。
「……?」
私は不思議に思い、その会議室の前で立ち止まり、
壁に背をつけ、耳をドアの向こう側に傾けた……。
「君は我々を裏切ったことになる。わかっているのか?」
「………。」
「作戦を忘れた訳ではあるまい。君にまとわりつく者を消すのが目的だったんじゃないのか?
共同作戦と偽って仲間を呼び、途中でその仲間を倒す…。そうだろう?」
「………ああ。」
聞きなれた声…?
「分かっていながら、何故我々を裏切ったのだ?ケヴィン…」
――――――!!
「君が危険にさらされるだけだぞ…!君が我々に荷担しているのが本社にバレたら、
君は確実に消されるだけなんじゃないのか?」
「わかっているさ…。」
「自らを危機に追い込んでどうする…!!」
「俺は……。」
………。
「俺は、目の前で人が死ぬのが、見たくなかっただけさ…。」
「……それが、君の答えかね?」
「……答え?…違う。俺の考えだ。」
「ふぅ…話にならんな……。他人との接触を拒むお前が、他人を死ぬのが見たくない?
ふざけるのもいいかげんにしたらどうだ、ケヴィン?」
「ふざける…?」
「君の身勝手な行動のおかげで、大切な同志2人を失った…!この代償は……。」
「………俺は……俺は、もう…。」
「……?」
「俺はもう、目の前で仲間が死んでいくのは……見たくない…!!」
「………な、仲間、だと…?」
「…ああ。」
「ふ、ふざけるなぁ!!貴様、我がクレスト支社の同志2人はどうなる!?
お前が殺したんだぞ…!!ケヴィン!おいッ!!待てぇッ!!!」
ガチャッ……!
―――――――!!
突然ドアが開いた。
「………!!」
「あ…!」
「お前は………!」
私は、どうやら最悪のタイミングで、
彼と廊下で鉢合わせてしまったようだ……。
「……。」
ドアの前で少し硬直していた彼は、
何も言わずに、私の横を通っていった。
………。
………。
………?
クレスト支社…?
確か、さっき、そう言って…?
―――― 6th ――――
『―――というわけで、もう一度君とケヴィンでベイロードシティに赴いてくれ。』
今日の朝、突然上層部にそう言われて、任務につくことになった。
かなり急なことだが、クレスト専属じゃなかった時代に何度も経験しているので、
別に苦しいことではなかった。
……むしろ、嬉しい限りだった。
もう一度、ケヴィンと共に任務につくことができる…ということが。
「AC、投下します!!」
輸送機の操縦席からの通信。
開く、ハッチ。
落ちてゆく、白と青……。
……
………
………………
着地!
一面に晴れ渡る空。
今まで輸送機の中にいたせいなのか、その青は痛々しいほど眩しかった。
雲一つ無い、清々しい空と。
暗雲立ち込める、緊迫感溢れるこの心と。
何も無い、ただ空と。
何でもある、ただこの床の鉄の塊と。
中に乗る、人と。
巨大兵器の、機械と。
数々の矛盾を抱えるこの空間は、最も重要なその「矛盾」をうやむやにしていたのだ。
敵が、いない。
「どういうこと…?敵なんて、どこにも…?」
私がふと、その言葉をもらした時。
目の前のACは、
ケヴィンのACは、
私に銃口を向けていた。
「―――!!」
…どういうことなの?
これは一体!?
また、矛盾?
ありえないことが交錯していて、何が矛盾ではないのか、もう、わからない。
何事もありえるような、この空気、この感覚。
…その空気を切り裂くように入ってきた、通信。
「…悪い、な。」
それはケヴィンの声だった。
どうして…?
「どうして…どうして貴方が!?貴方は…!?」
「………。」
しばらく黙った後、彼は答えた。
「あの話を聞かれたからには、生かしてはおけん…。」
あの話…?
あの、先日会議室で話していたことだろうか?
「そんな…それで貴方が……!?」
「……俺じゃ、ない…。」
「え…?」
「俺が決めたことじゃない。上が…決めたことだ……。」
「……。」
その時、私はケヴィンの様子に始めて気がついた。
彼の声は…
今まで聞いた事は無かった。
彼の声は悲しかった。
今にも泣きそうな声を、彼はしていた。
そこまでして…
そこまでして、覚悟を決めたというの?
彼のその声を聞いて、私はたまらなくなる。
悲しみ。
怒り。
憎しみ。
そして…
喜び。
「お前を、排除する…。」
「………。」
私も彼と同じく。
覚悟を、決める。
「避けられは、しないのね……この、戦いは。」
「…ああ。」
「わかった……なら私も、全力で行かせてもらうわ…!!」
「………フン―――……。」
また語尾の聞き取れない、この返事。
でも確かに聞き取った。
「くだらないことを」
と言っているのを。
………それは、誰に対して言っているの…?
―――戦闘開始。
―――― 7th ――――
後戻りが、できないというのなら…!!
私は目の前に対峙する、青色のACに向かってブーストを吹かし、突っ込んでいった。
相手は中量2脚。おまけにグレネードを積んでいる…。
機動力ならば、軽量2脚のこっちが上なはず!
ならば近距離機動戦闘に持ち込めば、こちらが一方的に有利に戦闘を展開できる!
近づく、近づく、近づく……。
「フン…。」
通信。
「見え見えの魂胆、だな。」
ケヴィンの声だった。
目の前のACは右手に持つマシンガンを乱射する。
狙いを定めずに……掃射する。
………く…ッ!
なるほど……
連射力を利用して、壁のように、弾を配置するように撃つ。
「弾幕……か…!!」
私はすぐにブレーキをかけ、止める。
これでは……あまり近づけない。
「まるで撃ってくれと言っているような行動は、しないほうが身のためだ。」
どうする……?
………。
……ならば…!!
武装をミサイルに変更する。
「あたれぇーーーーーー!!」
3連装ミサイル、発射。
白煙を噴きながら、3つの爆発物は相手を…淡い青色のACをめがけて飛んでいった。
だが…。
「お前には……」
再び通信が入る。
「この、肩についたモノが見えないのか?」
…ああ。
やっぱり、か。
エクステンションの、ミサイル迎撃装置。
ケヴィンはミサイルの処置をエクステンションに任せ、ブーストを吹かす。
そして、瞬発的に、猛スピードでこちらに向かってきた。
ミサイルは、全て迎撃された。
「くそぅ…!!」
私は、ショットガンをむやみに撃つ。
弾幕を張ろうと考えていた。
だが中量級の相手に、ショットガンの数発などほとんどダメージは無い。
ケヴィンは気にせずに突進してくる。
「くっ…うわああ!!」
もう、すぐそこにケヴィンはいる。
私は左手のグレネードを発砲しようと、構える。
…発射!!
「甘いッ!!」
ケヴィンは瞬時に右へと反れる。
グレネードの弾は、そのまま彼方へ飛んでゆく。
……右か!
とっさに機体を右へと向けると、そこには
ブレードを振りかぶったケヴィンのACの姿があった。
一太刀!!
「…ァァッ!!」
私の機体は後方へ大きくバランスを崩す。
そこへ、多量のマシンガンの弾が追い討ちをかけ、飛んでくる。
チュチュチュチュチュチュチュ…!!
くそっ…!
落ち着け…!
落ち着け……!!
左足を後ろへ出して、まず体制を立て直す。
後、後方へブーストをかけ、マシンガンの被弾率を下げる。
そして、十分な距離を保つ…。
……ブレーキ!!
ギリッ、と、脚部で地面……ベイロートシティ屋上の甲板にしっかり力を入れさせる。
ダメージは!?……致命傷には至っていない。極めて軽傷で済んだようだ。
しっかりと、落ち着いたところで、メインカメラをケヴィンの方に向ける…。
「そう、睨むな…。」
通信。
「戦いは、まだ始まったばかりというのに……。」
「ばかりというのに……何?」
私は聞き返す。
「この程度とはな。」
「……!!」
「もっと、勉強してから来るべきだった…な。」
「……くッ!!」
抑えて。
今ここで逆上しても、戦局が反転することは無い。
今、どう考えても、この戦闘の流れは彼に…
ケヴィンにあることは間違いない。
その、打開策は……?
「どうした………?」
再び、通信。
「そちらから責めないのであれば、こちらから行かせていただく。」
そう言って、目の前のACは肩のグレネードを構えた。
発射!!
私は即座に左に避ける。
あの攻撃ぐらい、囮だっていうのはわかってる。
次に来る攻撃がおそらく本心。
目の前のACはグレネードを折りたたみ、こちらをロックオンしている。
すぐさま発砲はしないようである。
「……ミサイルか!!」
その通りであった。
6発のミサイルがこちらに飛んでくる。
「…貴方こそ……。」
私は通信を入れる。
「貴方こそ、この肩のモノが見えなかったの!?」
エクステンションの迎撃装置。
すぐさま発動し、こちらに向かってくるミサイルを次々と撃ち落としてゆく。
「行くわよ!」
私はブーストを吹かす。突進していこうと考えた。
前方に高速移動しながら、相手目掛けてショットガンを撃つ。
ケヴィンは右、左と交互に避ける。
彼の移動する方向に向けて、グレネードを射出する。
ケヴィンはすぐさま反応し、地面を蹴って右上に跳ねる。
そして、マシンガンをこちらに浴びせてきた。
チュンチュン、チュン……!!
「く…ッ!」
多少、被弾をする。
大丈夫!大丈夫…!そんなにダメージは無いはずだから…!!
右手のマシンガン、左手のグレネード、肩のミサイルとチェインガン…。
この距離で両手の武器が避けられたなら……。
どうする…?
…………
………!!
そうだ!!
武装は……
これだけじゃないはず!
私は武装をミサイルに切り替え、ロックオン。
発射。
「…お前に。」
通信。
「学習能力は、あるか…?」
ケヴィンは迎撃装置を発動させる。
たちまちミサイルは迎撃される。
その隙にケヴィンは再びブレードを構え、こちらに突進する。
私は右手のショットガンを構え、迎撃体制をとる。
発砲。
同時にケヴィンは再び右へ反れる。
私はすぐさま右を向く。
今にも振りかぶろうとするACの姿がすぐそこにあった。
………。
「今だ!!」
ボン!!という音と共に目の前のACは後方へバランスを失い、
ブレードを振りかぶっている体制はすぐさま崩れる。
「なっ…!」
相手が体制を立て直す暇を与えず、私はすぐさまショットガンを撃ち込む。
「く……!」
左へブーストを吹かすAC。
移動すると同時に、左手のグレネードを撃ち込む。
着弾!
機体は大きくバランスを失う。
もはや武器すら構えるような状況ではないACに、私は最後の攻撃にとりかかる。
肩のチェインガンを構え、前のめりになっているACに照準を合わせる。
「――――!!」
「そこだァーーーーーーッ!!!」
あの時……。
一緒に出撃したときは、
私の「あの」武装だけは彼は見ていなかったんだ。
知らなかったんだ。
それが、私の…最後の「切り札」になった。
そりゃあ、見てないわよね。
インサイドの、浮遊機雷なんか。
―――― 8th ――――
「ぐ……ぁッ!!」
その淡い青色のACは、既に黒煙を噴いていた。
機体は大破し、その巨体は地面に手をつき、もはや戦闘不能だった。
「終わりね…。」
白。何もかもを信じ、映し出す、白。
無惨な姿をしたACを見下ろす、もう一つのACは、純粋な心そのもの。
その手の銃口は、正確に、冷徹に、そして…哀しく、コックピットに向けられていた。
「引き金を引く前に、最後に聞いておきたいことがある……。」
「……何?」
「まだ、名前を聞いてなかったな…。」
「……!!」
そんなことを、彼は、こんな時に…?
「………わ、私は……」
唾を飲み込む。
そして、答える。
「私はアグラーヤ…
私の名前は、アグラーヤ……!!」
「アグラーヤ、か……いい、名前だな……。」
銃声。
ああ、ようやく。
これでようやく、お前の元へ行けそうだよ。
ジョニー……。
―――― 3rd ――――
ふと、昔自分が思った言葉を思い出したが、
そんなことあるわけないか、と思って、一人で鼻で笑った。
何かのために戦ってみたかった。
何かのため…。
私は……
ケヴィンのために。
ケヴィンのために、戦ってみたかった。
ただ、それだけ。
私は……そう、
本当に……それだけだった。
でも………………。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
作者:アーヴァニックさん
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