サイドストーリー

HAGANE Ver1 第二章 「同調する巨人 SHIROGANE KUROGANE」

白いACに惨敗したあの戦闘から五ヶ月が経った
その間に白いACはミラージュの基地を襲撃したりと世間を騒がせた
生命反応が無いことからついた名前がレイス(幽霊)だ
その姿を見たレイヴンはみんな死ぬというのも由来の一つかもしれない
ちなみに俺はレイヴンとしてレイスと初めて交戦し、初めて生き残ったレイヴンだそうだ

月に二度ほどのペースで出現しては基地や部隊を襲っている
ミラージュの基地ばかり襲うのでクレストの新型との噂が広まったが、クレストは否定してる
そこに有っても無い事にしよう、ってやつだろうか
軍隊とかじゃ珍しい話ってわけじゃない
あれは、間違いなくクレスト製だ

一度ミラージュが罠を仕掛け、レイヴンを差し向けたらしいが・・・・・・
三人のうち二人が死亡、一人は重傷
コックピットで足を挟まれ、切断する羽目になり、そのレイヴンは引退した
レイヴンや企業の間ではレイスが恐怖の代名詞になり、対ミラージュ派のテロリストには救世主と崇められたりもした
テロリストの中には一連のレイス事件は我々の仕業だなどと言い始める輩もいた
ミラージュの怒りを買ったそのテロリスト達は、後日一人残らず始末された
ミラージュだって解っているのだ、レイスがクレストの物だということは・・・・・・

ところが、今月の初めにクレストの基地がレイスに襲われた
今月はもう五回も出現しているが、そのどれもがクレストの施設だった
五ヶ月間ミラージュを襲い続けたクレスト製の幽霊は、何を思ったか製造元を襲い始めたのだ
それが意味するところは何か・・・・・・?
疑いを逸らすための自作自演?

まぁ・・・・・・どうでもいいことか
レイヤードから地上に進出してから、こういった混乱は珍しくも無い
サイレント・ライン事件なんて有名だろう
じつは旧世代の遺物はあれ以外にもいろいろな事件を起こしている
巨大な旧世代のMTが突然現れて都市を一つ壊滅させた事件もあった
ミラージュとクレストが珍しく手を組んでMTを鎮圧したので結構話題になったが、すぐに忘れ去られた

大衆は常に新しい刺激を求めている
貧困は争いを生むが、豊かになり過ぎたこの世界では、血生臭い強烈な刺激が無ければ退屈が人を腐らせてしまう
レイヤードが出来たばかりのころは貧困で争いが起こっていたのに、今は豊か過ぎて争いが起こっているのだ
争いを無くそうと豊かさを求めた結果がこれだ
まったくもって皮肉な話
そういいう世の中・・・・・・
・・・・・・閑話休題

ともかく、このレイス事件もそのうち誰かが解決し、忘れ去られることだろう
自分は当事者では無く傍観者になったのだ
ただ、何処か気になっている・・・・・・
まぁ、いつも通り暮らしながら事の成り行きを見ていよう
この時はそう思っていた
クレストからのメールを読むまでは・・・・・・

いつものように依頼をこなした次の日の朝、いつものようにメールを確認した
先日のミッションに関するメールと、クレストからのメールが届いていた
内容は、クレストの専属レイヴンになった上でレイスの破壊に協力してほしいという依頼だった・・・・・・
俺は驚いた
いや、俺じゃなくてもきっと驚いた
クレストが自分で作ったACを壊してくれとレイヴンに頼んで来ているのだ

中々面白そうだと思った
わざわざ専属になれと言うのも何か訳有りのようだが・・・・・・
無論、企業から直接依頼を受けるのは違反行為だ
規則を破る者はグローバル・コーテックスから容赦なく追放される
だが、正直俺はグローバル・コーテックスなんてどうでも良い
アリーナには出れなくなるが、元々アリーナには参加していない
コーテックスを追放されて、クレストの専属レイヴンになるのも悪くないかもしれない
専属になっても、やってる事は結局変わらないのだ
殺し、壊し、踏みにじる
依頼じゃ無く、命令になるだけ
敵がある程度限定されるだけ
それくらいしか違いは無い・・・・・・と思う

・・・・・・結局、コーテックスを追放されるというリスクより知的好奇心が勝った
まぁ一つ条件をつけたが、依頼を受けることにした
こうして俺は傍観者から再び事件の当事者となったわけだ
出発は明日
目的地はエリア78の荒地
今日は、ゆっくり休むとしよう


・・・・・・次の日、朝靄が出ている頃に俺は家を出た
開発に失敗して、ダウンタウンと化した寂れた地区にある小さなアパート
何度も住居を変えているので、あまり思い入れは無いが・・・・・・
おそらくここに戻ってくる事はもう無いのだろう
俺は少しだけ感慨に浸ってからターミナルへ向かって歩き出した
ターミナルから出ているリニアに乗って知り合いの元へ向かうのだ

「よぉ、元気だったか?」
と知り合いはやたらとでかい声で俺を出迎えた
彼の名はビル、もう五十近いはずだがやけに逞しい男だ
筋骨隆々とはこいつの為にあるような言葉だ
黒い髭を顎に蓄え、いつも青い作業服に帽子姿だ
元レイヴンで、顔なじみの”何でも配達人”だ
ビルはそれに見合った金さえ払えば何でも運ぶ
それはもう、何でも運ぶ
ACだろうが麻薬だろうが死体だろうが彼には関係ない
たとえUFOだろうが宇宙人だろうが彼にとってはただの荷物なのだろう
何でも配達人の名は伊達じゃない
場所だって選ばない
山の頂上だろうが戦場だろうが何処へだって指定の時間に運ぶ
信用第一がモットーで、契約の時間に遅れたときなどは報酬を頑としてもらわない
こんな頑固者はいまどき珍しいのだが、そのせいか結構繁盛してるらしい
レイヴンになったばかりの頃からの付き合いだ

「で、何を何処に何時に運ぶんだい?」
「俺をココにこの時間に運んでほしい」
俺は会話しながら携帯端末から座標と時間のデータをビルの携帯端末へ送った
「ほう・・・・・・クレストの勢力圏・・・・・・荒野のど真ん中じゃないか。この辺りには何も無い筈だぞ?」
確かに、昨日一番最近の地図を携帯端末にダウンロードしてみたが、近くに基地どころかぼろ家一軒見当たらなかった
「荒野にまともな装備無しで突撃するのか、ひょっとして自殺か?」
などとニヤニヤしながらバンバンと俺の背中を叩く
「いや、連中が指定して来たんだ」
いつもの事だが、中々痛い
「連中って・・・・・・?いやいや、聞かないでおこう」
「賢明な判断だな」
「厄介事は御免だからな。それに、お前から土産話を聞く楽しみが減るだろ?」
等と笑いながらヘリの方へ歩いていく
厄介事は勘弁?
大量の麻薬を運んだ時にマフィアと一緒に逮捕されたり、テロリストに命を狙われたり、輸送機を企業に撃墜されそうになるのは厄介事じゃないって言うのだろうか
などと思っても口には出さない
どうせ「俺は死地を何度も潜り抜けた男だからな、例えば・・・・・・」などと昔話を延々と聞かされるだけだ
「ん?ACはどうした?」
「持ってこなくていいそうだ」
「そうか・・・・・・出発は二時間後だからな、奥の部屋で茶でも飲んでてくれ」
「茶はいらない、寝てるから時間になったら起こしてくれ」
そう言って俺は奥の部屋のソファーに横になった

きっかり一時間五十五分後
出発五分前に俺は起こされた
今は小型のヘリで目的へ移動中だ
出発してどれくらい経ったのだろうか
またうとうとし始めた俺にビルが話しかけてきた
「エリア78って言うとアレか・・・・・・幽霊絡みか?」
「・・・・・・厄介事は勘弁じゃなかったのかよ」
「まぁ好奇心のほうが勝る場合も有るってな。それに、ほら、お得意さんだからな」
「金づるって言ったらどうなんだ?」
「まぁそうトゲトゲするなって」
などといいながらビルは笑っている

「・・・・・・俺が引退したときの話をしてやろうか」
俺は思わず目を丸くして驚いた
「何だ突然、寿命で死にそうなジジイみたいに・・・・・・」
「まぁ聞けよ、俺には家族が居たって知ってたか?」
「いや、知らない」
「まだ現役だった頃は、妻と二人で暮らしてんだ」

現役レイヴンだった頃の自慢話なら何度も聞かされたが、引退したときの話は始めてだった
妻と一緒に暮らしていたという事実にも驚かされた
レイヴンはいろんな所から恨みを買う職業だ
仇討ちされたレイヴンだって一人や二人では無い
だから、傭兵訓練所では、身を守る方法を徹底的に叩き込まれる
レイヴンは人質に取られる事を防ぐために家族の存在を明かさない
別居して、会う時もばれないように気をつける
それが普通のレイヴンの家庭というやつだ
俺の場合は一人身だから別に気にしなくていいが・・・・・・
「俺はレイヴンの仕事が忙しくて、あまり家には居なかったがな、なかなか幸せだったさ。ところが突然な、俺が依頼で一週間留守にしてる間に妻が急病で死んじまったんだよ」
などと、遠い目をしながら語り続ける
「そりゃぁ悲しかった。ショックで一週間寝込むくらい悲しかった。仕事に出てた事を相当後悔したね」
とても現役時代、倒したレイヴンは必ず殺すという非情さで恐れられたレイヴンとは思えない発言だ
「それでな、一週間でどうにか立ち直って依頼を受けたんだよ。いつも通りMTを倒し、ターゲットを破壊し、ACを行動不能にし、とどめにブレードを突き刺そうと近づいたんだがな・・・・・・」
声の調子もいつもの陽気な声ではなくなっている
「刺せなかったよ・・・・・・何故だか知らんが、刺せなかった。ほんの少しの力で、あの軽いトリガーを引くだけでよかったのにだ。今まで何十回何百回と繰り返して来た事が、妻が死んだだけで出来なくなっちまったんだ」
俺は黙ったまま何も言わずに前を見ている
正直なところ、何を言ったら良いかも解らない
「人を殺せないレイヴンなんて、糞の役にも立ちやしねぇ。それで引退したのさ。どうしてもレイヴンだった頃のスリルが忘れられなくて、普通の生活に戻れずにこんな仕事をやってるがな」
「・・・・・・おまえ、自殺でもするのか?」
と思わず聞いてしまった
それくらい、今日のビルの言動はおかしかった
そんな問いにビルは
「まさか、土下座して頼まれたって死んでやらねぇよ」
などと言って笑っている

「おまえ、初めて人を殺したときの事覚えてるか?俺は覚えてるぞ。初めの一人ってのは苦しいもんだ・・・・・・今まで人を殺すなって散々教えられてきたのに、人を殺すのが仕事になるんだからな」
「・・・・・・そうかもな」
「人を殺すにはそれなりの決意が必要なんだ。誰かを守りたいとか、金が欲しいとか、名声を得たいとかな。俺は始め金だった。あんまり裕福な家じゃなくてな。お袋のためにちょっと大金が必要になったんだ」
「それでレイヴンか?」
「いや、テロリストになった」
「・・・・・・マジか」
「マジだ。俺には才能があったらしくてな、MTのパイロットをやってた。で、しばらくしたら、コーテックスが罪を帳消しにしてやるからレイヴンにならないかって誘ってきてな」
引き抜きか
強いレイヴンを育てたり資質のある人間を探すのはコーテックスの仕事の一つだ
アリーナで活躍し、活気を与えるレイヴンは客を、視聴者を喜ばす
依頼を着実にこなすレイヴンがコーテックスにいれば、それだけコーテックスの価値が上がる
優秀な人材をコーテックスのレイヴンにするためなら、何でもやってしまうのがグローバル・コーテックスだ
「で、売れっ子レイヴンになったころに結婚した。今度は妻を守るために殺した。妻と一緒に居たいから殺した」
違う
「普通の人が聞いたらいい話だと思うかもな」
ビルが倒した相手を必ず殺すのは、ランキングを上げるためとかでは無く、レイヴンの報復を止めるためだった
全ては、妻の為に

いや・・・・・・それは違う
悲しい事だが、絶対に違う
それは・・・・・・

「それはエゴだろ」
「・・・・・・そうさ、俺はそう思うことで誤魔化してきたんだ」
険しい目つきをしている
ビルは怒っている・・・・・・多分、指摘した俺ではなく自分自身に向けられた怒り
「妻を本当に守りたければレイヴンなんて辞めてどこかへ隠れ、ほかの仕事を探せばよかったんだ。そっちのほうがずっと良い。あんたの稼ぎなら十分出来た筈だ」
「その通り。確かに始めの一回は金のため、親を守るためだった。けどな、俺も気づいたんだ。様々な障害を乗り越え、相手を圧倒し、壊し、奪い、殺す快楽に。俺は壊すことが、奪うことがあれほど気持ちいいことだとは知らなかった」
やっぱり、こいつも狂ってた
多分、例外など無いのだろう
レイヴンになれば狂ってしまう
レイヴンは皆、狂ってる
「それでも人を殺すという罪悪感は消えなかった。お前は、その苦しみを母や妻を利用して誤魔化したんだ」
「そうだ、俺は利用した。人を殺す罪悪感だけじゃ無い、人を殺すことに快感を感じる自分自身も誤魔化した。お袋のため、妻のためと言って誤魔化しながら、自分のために殺してたのさ。あれは、麻薬だ。いや、きっと麻薬より酷い」
「あんたが最後に殺せなかったのは、誤魔化すことに慣れて、忘れていた事を思い出してしまったからろう?」
「分かってるじゃないか、俺は妻を・・・・・・その、なんだ、愛してた。いや、今でも愛してる。俺はその妻を利用した。守ると言いつつ、自分を正当化するための盾にしてたんだ。俺は俺がたまらなく嫌になった。それで、殺せなくなったんだ」
「・・・・・・」
それは、ビルの懺悔だったかもしれない

「おまえにはそういうの、あるか?」
「無い・・・・・・ひょっとしたらあるのかもしれないが、思い出せない。俺が覚えているのは、顔も思い出せない同い年の少年と、血のにおいがする真っ赤な部屋だ」
「・・・・・・まぁそうじゃないかとは思ってたけどな」
ビルはとくに驚いた様子も無かった
「何でそう思ったんだ?」
「何となくさ、教官の中に知り合いがいてな。依頼を受けて荷物を取りに行ったついでに、今度の新人レイヴンはどんな奴等か見ててな、その時おまえを見つけたのさ。俺はピンと来たね・・・・・・こいつは戦いに何も感じてない、快楽を求める訳でもない、何かを守るとかって訳でもない、慣れて何も感じなくなった訳でもない。こいつは多分、人を殺しても何も感じてないんだってな」
「それで興味を持って俺に話しかけてきたって訳か」

訓練所にいたとき
「レイヴンになって運びたいものがあったら俺に言いな」
などと突然話しかけてきたのがビルだった
まぁ他に頼むあても無かったからビルの運び屋を利用し始めたわけだ
「そうさ、興味本位さ」
ビルが真面目な顔でこっちを睨んでいる
「教えてくれよ、何故おまえはそんなに、何も感じずに人を殺せるんだ?」
「そんなこと、知らん・・・・・・というか、何で今そんな話をしなきゃいけないんだ?」
俺がそう言うとビルは、少し寂しそうに前を向き直して言った
「おまえ自身も判らないと判ってたから俺が理解するかおまえが気づくまで待ってようと思ったんだがな・・・・・・。おまえとはこれっきり会えなくなりそうだからな」
「何故?」
「長年の勘だよ」
「くだらない」
「そうかな?・・・・・・っと、目的地だ」
そう言いながら比較的平らな場所にヘリを着陸させる
「時間通りだ、ちゃんと金振り込んでくれよ」
「今振り込んでるよ」
と俺は携帯端末を操作しながらヘリから降りた
「ん、確認した、達者でな」
ヘリは砂を巻き上げながら飛び去っていく
ビルは、最後にヘリの爆音にも負けない大声で言った
「じゃぁな、理由無き殺人鬼」

ヘリが飛び去ってから、ビルとの会話の事を考えていた
俺が最初に殺したのはいつだったのだろうか、誰を殺したのだろうか
実のとこ、俺は記憶喪失だったりする
傭兵訓練所以前の記憶はさっきの三つしか無い
ひょっとしたら、血生臭い赤い部屋が俺の最初の・・・・・・
「っ痛・・・・・・」
頭が痛い
気持ちが悪い
いつもこうだ
昔の事を思い出そうとすると・・・・・・

頭痛と吐き気で苦しんでいた俺は、だいぶ近くに来るまで、車が近づいている事に気づかなかった
幸い、敵ではなく迎えの車だった
運転手は・・・・・・凄く無愛想だ
嫌と言うわけではない
むしろ好ましい
騒がしいよりは静かなほうが良い

移動中、俺は窓から荒地を眺めていた
ビルに言われたことを極力考えないようにしながら、ただ何もない荒地を見ていた
それでも頭から離れない
「何故お前は何も感じないで人を殺せるんだ?」
何度も、何度も繰り返し聞こえてくる
何で?
「そんな事・・・俺にだって分からないさ・・・・・・」

三十分くらい経っただろうか、車が止まった
だが、前にも横にも当然後ろにも何も無い
「基地に行くんじゃないのか?」
と運転手に尋ねると
「少々お待ちください」
と言いながら自分の携帯端末をホルダーから外して操作し始めた

「これは・・・・・・」
思わず声が漏れる
前方、今まで何も無い荒地のように見えていた空間が虹色に変色し始めた
突然現れた虹色のドームは解けるように上から崩れていく・・・・・・
中から現れたのはプラントへの入り口だった
入り口の四方に何かの装置が設置され、てっぺんにレンズのような物が見える
「驚きましたか?」
無愛想だった運転手が、自慢そうに聞いてきた
「ああ、驚いたよ」
俺は、素直に答えた

その後、車ごとエレベーターで地下へ下り、案内役に連れられてこの研究所の所長に会いに行った
以外にもこの施設は基地ではなくて研究所なのだそうだ
案内役が、所長室と書かれたドアの横で、何かの機械に手を当て、妙な機械を覗き込み、自分の認識番号を言うと
「何の用だ」
と機械から声がした
「お連れしました」
「御苦労、入れ」
指紋に虹彩眼紋に声紋、結構厳重だなと関心する
まぁ大企業の研究所の、しかも所長室なのだから当たり前なのだろうが・・・・・・

中はいかにも所長室といった感じである
パソコンの画面を見ていた老人がパソコンから目を離してこちらを向いた
白髪の髪をオールバックにし、白い口ひげを蓄えた温和そうな老人だ
「ようこそクレストへ、ディア・アスタルト君。私は所長のモーガンだ」
立ち上がり、手を差し出して握手を求めてくる
「・・・・・・よろしく」
一応握手して、一言挨拶する
「それで、君にはレイスを倒してもらうわけだが、その前にそちらが提示した条件があったな」
「ああ、この事件に関しての情報を教えてほしい」
「ふん・・・・・・君は好奇心旺盛な人間なのかな?好奇心は猫をも殺した・・・ということわざを知ってるかね?」
と所長は握手したときとはうって変わって厳しい表情で俺を睨みつける
「勿論知ってるが?この条件が飲めないと言うなら俺はここを去るだけだ」
所長はまた元の温和そうな表情に戻って
「まぁいい、専属レイヴンになる以上情報が漏れる事も無いだろう。それに我々には君がどうしても必要らしいからな」
言いながら所長は窓(モニターに移された映像だが)の方へ振り返る
「さぁ、何でも聞くがいい」

「レイスについての情報を教えてもらおう」
「あれは・・・・・・世間がレイスと呼んでいる物は我々が作った物だ。この研究所で作り、隣の研究所で実践データを収集していた。あれの本当の名前は白銀、鋼のニ番機だ。旧世代の遺跡から発掘された技術を使って生み出された・・・・・・新しい、新時代のACだ」
所長の声はどこか自慢げで興奮気味だ
やはり元研究者なのだろうか
今はまだ隠さねばならない存在なのだろうが、自分たちの研究結果を早く公表したくてウズウズしているのかもしれない
「新素材による骨格と装甲、新設計のジェネレーターとブースターによる高い機動性、今までの常識を覆す新しい操縦システム・・・・・・鋼は旧世代の、古くて新しい技術を詰め込んだ間違いなく最強のACだ。まぁ、それを実現するために武装のハードポイント以外は従来のACと互換性はまったく無いがな・・・・・・」

「新素材の骨格と装甲・・・・・・それであんな無茶な操縦にも耐えたのか」
「・・・・・・そうか、君は白銀に膝蹴りをされたのだったな」
所長はこちらに向き直り、椅子へ座る
「あれはゲリラ戦のテストで、実験的に格闘戦をさせたらしいが・・・・・・さすがに無理があったようだ。骨格系が歪んだり、駆動系に異常が出たりしてしまった」
「確かに、走ったりはしてなかったな・・・・・・」
とレイス・・・・・・白銀との戦闘を思い出す
人を殴れば手が痛くなる
それはACも同じで、格闘戦にはそれなりの強度が必要だ
中量級ACでも格闘戦をすればあっという間にマニュピレーターがボロボロになってしまう
軽量級で中量級ACに、あんな強烈な膝蹴りをかましておいて歩けるとは確かに驚きの強度だが・・・・・・
「私はいけると思ったんだがな・・・・・・君にとどめを刺さずに撤退したのは限界だったからだよ」
・・・・・・やはり情けとかそんな下らない理由じゃなかったみたいだな
「聞きたいことはそれだけか?」
「まだだ、何故あんたらが作った白銀がクレストを襲う?」

「簡単だ、実践データを収集していた隣の研究所がクレストから分離すると言い始めたのさ、内戦だよ」
「クレストのような大企業からか?」
「ああ、いろいろと事情があってな。あの研究所はあまり良い成果を上げていなかったからな、何故か社内の爪弾き物が集まっていた」
「クレストをよく思ってない連中が集まっていたのか?」
「まぁ、そういうことだ。隣の所長が同期の友人でね、あちらのほうがミラージュの勢力圏にも近いから、実践データの収集を頼んだ。私としては、あんなところに飛ばされてしまった友人に花を持たせたかったのだがね・・・・・・」
所長は苦虫を噛み潰したような表情をして言った
「そして、研究員達が所長を殺して武装蜂起した」
なるほど
研究員達は白銀を土産にして他の企業に渡るつもりだったのだろう
おそらくはその威力を身をもって思い知らされたミラージュに・・・・・・
「私には彼らに白銀を渡してしまった責任がある。出来れば我々の所で始末したい。そこで、彼らと取引をすることにした」
「その取引とは?」
「我々に勝てれば分離させてやるというものだ。あれを使わずに彼らを止めるには相当数の犠牲が必要になるし、
彼らにしてもクレストの主力と殺り合うよりはマシだろうしな。上も彼らも了承したよ」
「・・・・・・あれって何だ?」
「そのうちわかる。そろそろいいだろう?研究室のほうで作戦について説明を受けてくれ」
「まだだ、最後に一つ」
「まだあるのか?」
そうだ、俺はまだ一番大事なことを聞いていない・・・・・・アレは何故・・・・・・

「あれは、白銀は何故幽霊なんだ?」
「・・・・・・AI・・・・・・いや、彼女は・・・・・・」
「彼女だと?パイロットが乗っていたのか?」
AIならジャミングで停止しなかったのもわかる
旧世代の新技術だと言われればあの動きも・・・・・・まぁ、納得できる
だが、所長の言い方に何か違和感を感じる
「残念だが、あれについては私達も判らないことが多すぎる」
私達?あれを作った奴等にも判らないことなのだろうか
所長は・・・・・・何かを隠している?
だが、今は追及しても無駄のような気がした
「・・・・・・そうか」
俺はとりあえずそう言って所長室を出た

所長室を出る前、所長が新しい携帯端末を渡してくれた
携帯端末は乗り換えるのは意外と簡単で、個人情報などが入っているディスクを入れ替えるだけでいい
携帯端末にあらかじめ入力されていたマップを頼りに研究所へ向かう
いつの間にやら指紋や眼紋まで採取されてたらしく、俺の情報は登録済みだった
まぁ流石に所長室ほど厳重でゃなく、指紋センサーだけだったが・・・・・・

・・・・・・何故か傭兵訓練所の教官の言葉を思い出す
「死にたくなければカーテンを閉めろ!人がいない部屋の明かりはつけておけ!窓際に座るな!立つな!帰還の順路は毎回変えろ!車は目的地の玄関先まで必ず着けろ!ドアの正面に立つな!不用意にドアに近づくな!徹底しろ!もし貴様ら屑どもが戦場以外で殺されたなら徹底していなかったからだ!」
・・・・・・訓練所でも一番声のでかい教官だった
まぁ、教官の教えを守るとするならこのドアも所長室並みに厳重でないといけないのだろうが・・・・・・
それではあまりに面倒だ
ここら辺が妥協点なのだろうな
などとどうでも良い事を考えながらセンサーに手を置いた

さほど広くない研究室には十数人の人間がいた
男も女も五分五分くらいの比率だ、年齢も様々のようだ
老眼鏡の老人もいれば妙齢の女性もいる
その中でも若い、十五歳くらいの少年がこちらに歩いてきた
後ろに若い女性が付き添っている
「はじめましてディアさん。鋼シリーズの開発責任者で考古学者のキースです」
まったく、この研究所は驚くことばかりだ
あんな化け物を開発したのがこんな少年だとはな・・・・・・

ちなみに解説しておくが・・・・・・現在の技術より遺跡の技術のほうが勝っている場合がけっこう多い
そのために、考古学者という仕事は優秀な科学者の中でさらに優秀な科学者しかできない仕事だ
流石に十五歳で考古学者というのは天才といっていいのだろう
「初めて僕に会って考古学者だと聞いた人は大抵驚きますね」
「だろうな」
驚きが顔に出てたらしい
笑っているキースを見ると、やはり少年なのだなと思う
・・・・・・どうでもいいことだが
「今何歳なんだ?」
「四月に十六歳になりました」
・・・・・・惜しかった
「それで後ろの人が僕の助手兼護衛兼監視兼予備のモトコさん」
「許子です」
と言って後ろの女性が軽く会釈する

珍しい
黒髪、黒い瞳、白でも赤でも黒でもない黄色い肌
「・・・・・・日本人?」
日本人のような名前だし・・・・・・
「違いますよ、彼女の親はどちらも日本人じゃありません」
とキースが変わりに答える
「そうです。父も母も東洋系の血が色濃く出ていましたが、日本人ではありません。両親が日本人の名前を付けたのは、私に蒙古斑があったからだそうです」
ふむ・・・・・・珍しいこともあったものだ
というかさっきの説明も何かおかしい
助手は判る
護衛と監視と予備って何だ?
「早速ですが、ガレージに行きましょうか。あなたの新しい機体を見せましょう。ああ、その前にちょっと注射をしましょうか」
キースが言い終わる前に、モトコは既に注射器とガーゼを用意していた
なんという手際の良さだ
「動かないで下さいね」
「何の注射だ?」
「後で説明します。多分無害ですから安心してください」
といって首筋を消毒し、注射器をあてる
浸透式ではないらしく、首筋に鋭い痛みが走る
正直、注射は苦手だ
「はい、オッケーですね。じゃあ行きましょう」

研究所は広いが、通路も広い
ガレージに行くのに小型の電気自動車を使う
研究所が地下に建設されているために、電気自動車でないと喚起など大変なのだろう

どうでもいいことだが、酷く落ち着かない
モトコとかいう助手
まったく存在感が無い
空気のようだ
気を抜くと後ろにいることを忘れてしまいそうなほどだ
邪魔にならないようにしているのだろうか
しかし、ここまで存在感を断たれると逆に気になるのであって・・・・・・

「さぁ、着きましたよ」
車から降りて、ガレージへと入る
ガレージの中にはクレスト製のMTや戦闘機だけでなく、ACも二機置いてあった
今の御時世、基地だけではなく研究所でも襲われることが多々あったりする
なので研究所にそれなりの戦力があってもおかしくは無い
そして、ガレージの奥のほうに見たことのある機体がベッドに固定されていた
細身だが、力強いシルエット
対人兵器やミサイル迎撃用の固定兵装が装備され、装甲が黒く塗装されているが・・・・・・
間違い無い、こいつは白銀の同型機だ

「あなたの新しい機体、黒銀です。鋼の三番機で、黒銀は有人機です。白銀も黒銀もあなたが戦った時より三回ほど改修されてますから、ちょっと違うところもありますが」
「なるほど、同じ機体ならあいつとも戦えるかもな」
「ええ、しかし、こいつに乗れる人間は限られています」
「それはまた、何故だ?」
キースは肩をすくめて言った
「困ったことに新しい操縦システムは誰にでも使えるわけじゃないんですよ。適応できる人と適応できない人がいるみたいで・・・・・・」
「俺は適応してるのか」
「ええ、しかもあなたは白銀とACで戦闘して、五体満足で帰ってきた唯一のレイヴンですしね」
「それは白銀が限界だったからだろ」
「白銀に傷を負わせたんですから、あなたは優秀な方だと思いますよ。ランキングに入ってないのが不思議なくらいだ・・・・・・何か、こだわりでも?」
「買いかぶりすぎだな。俺はそんなに優秀なレイヴンじゃない。それに傷っていったって掠り傷だったろ」
「意外と謙虚なんですね」
子供は、あまり好きじゃない
好奇心が強すぎるから
俺はなるべく目を合わせないようにしながら話題を変えることにした
「それで、その例の新型操縦システムってのは?」
「それは言うよりシミュレーターで体験してもらったほうが早いですね。シミュレーションルームへ移動しましょうか」

・・・・・・というわけでシミュレーションルームだ
部屋の真ん中にシミュレーターが置かれており、周りには何台かコンピューターが置かれている
「これはS・C・SのシミュレーションだけでGなどは再現しませんが・・・・・・とりあえず、新しい操縦システムについてお話しましょうか」
キースはシミュレーターのハッチを開けて手招きする

シミュレーターのハッチを覗き込む
中にあるのは従来のクレスト製コアのコックピットとあまり変わらないように見えた
ただ、ハーネスが少し多い
シートベルトというより、拘束具のような雰囲気だ
「・・・・・・普通のコックピットとあまり変わらないじゃないか」
「ええ、従来の操縦方法でも操縦できるようになってます。一番大事なのはこのヘルメットと、シートの首あたりにある装置です」
と言いながら机からヘルメットを持ってきた
そのヘルメットは少し大きめで、後頭部のあたりからコードが何本か生えている
「遺跡から発見されたデータを解析してたら”プロジェクト・ファンタズマ”という計画についての資料を見つけたんです。人の脳髄を巨大MTに直接つなげて最強の機体を作ろうっていう無茶な計画でしたけどね」

「・・・・・・まさか俺を脳味噌だけにするつもりじゃないだろうな」
恐ろしい話だ・・・・・・
「そんなまさか、そんなことしませんよ。で、現代のマイクロマシン技術と組み合わせて発展させたのがこの”シンクロ・コントロール・システム”です」
「・・・・・・よくわからんが」
「その名の通り、ACとシンクロするんですよ。自分の体がACになると思えばいいんです」
想像力のない俺にはさっぱりわからない
「この間流行った映画みたいな感じか?」
「・・・・・・ともかく、さっきの注射で手術は終わってますから、ヘルメットをかぶってシステムを起動させればいいんですよ。習うより慣れろってやつです。やって見れば解りますって」
「そうか・・・・・・」
と言ってから気づいたが・・・・・・
「手術?さっきの注射にマイクロマシンが入ってって、勝手に俺の脳味噌をいじくりまわしたのか?」
と言って俺が睨むとキースは笑いながら
「大丈夫ですって、無害ですよ無害。自分も試しましたから安心してください」
・・・・・・恐ろしい話だ

ヘルメットをかぶってコックピットへ入った
いつもクレスト製のコアを使っていたせいか、ヘルメットが少し重いのとハーネスが窮屈なのを除けばいつもと変わらないように感じた
ヘルメットのスピーカーからキースの声が聞こえる
「準備はいいですか?今から脳から体への信号を切断してACに繋ぎます。同時に手と足も拘束しますから、きちんとレバーを握って、足もペダルの上に置いといてくださいね」
「了解」
「五感が効かなくなって、目の前も真っ暗になりますけど、精神を落ち着けて、リラックスしててくださいね」
「難しいことはいいからはじめてくれ」
「OK 行きますよ」

通信が途切れて数秒後、俺の全ての感覚がシャットダウンされた
あいつの言っていた通り、真っ暗になった
夜の闇どころじゃない、目を凝らしても何も見えない
とにかく暗く感じた
いや、感じていないから暗いのか
そもそも自分が目を開けているのか閉じているのかもわからない
それ以前に俺の足は、手は、頭は何処だ?
上はどっちだ?
左右は?
何も解らない、不安だ、俺はどうなってしまったんだ?
暗い暗い暗い
本当の闇というものがこれほど恐ろしい物だとは思わなかった・・・・・・

突然、視界が復活する
テレビでもつけたかのような感じで目の前に地面が現われた
「大丈夫ですか?心拍数がだいぶ上がってますが・・・・・・」
キースの声がする
聴覚が復活したのか?
とも思ったが、何か違う感じだ
頭の中で声がしているような気がする・・・・・・
「大丈夫だ」
と言ったが、声は喉から出てはいなかった

「OK、気分はどうですか?」
「最悪だ、頭の中でお喋りしてる気分だ」
「でしょうね・・・・・・とりあえず、これが無線通信です」
「これが、通信だと?」
「そうです。今あなたが見ているのはACのカメラの映像です」
「これも直接脳に映像が来てるのか?」
「そうです。今は慣れるためにメインカメラしか接続してませんけどね。サブカメラ全部接続してみます?」
「・・・・・・その前に動けるようにしてくれ。金縛りみたいで気持ち悪い」
「OK、いいですよ。今から接続します。あまり激しい動きは控えてくださいね」
突然、触覚や平衡器官などが回復したように感じた
今、俺の体(ACだが)は四つんばいの格好になっている
「立ってみてください。いつも通り自分の体を動かす感じで」
言われた通りに立ってみる
何とか立ち上がったが・・・・・・
凄い違和感を感じる
ACは人型を模してはいるものの、関節の稼動範囲や位置などは人間のそれとは違う部分が多い
肘はまっすぐ伸びないし、ひざの位置もやたら高い
体をめぐる血は全てオイルになり、心臓の鼓動はジェネレーターの振動に代わった
筋肉はアクチュエーターに、鼓膜はセンサーに、呼吸は給排気に・・・・・・
まさに今、俺はACになっていた

「じゃあサブカメラ接続してみますね」
「・・・・・・ちょっ・・・・・・!」
ちょっと待ってくれと言いかけたところでサブカメラの映像が接続される
何とも不思議な気分だ
前を向いているのに後ろや真上、真下の映像も頭に飛び込んでくる
頭が痛い
頭がパンク寸前だ
メモリー不足の上に処理速度が足りないコンピューターが複雑怪奇な演算をする時ってのはこんな気分なのだろうか
「気分はどうですか?」
「最悪だ、気持ち悪い。頭痛もする」
「じゃあここらで一度休憩しますか?」
「いや、もう少し・・・・・・」
「まだいけるんですか?じゃあACに装備されてる各種センサーも全部接続してみますか」
「いや、ちょっ・・・・・・」
あれだけで十分気持ち悪かったのに、さらに情報が詰め込まれる
「放射能、電磁波、磁力、熱、温度、レーダー、レーザー、赤外線・・・・・・まだまだありますよ」
などとキースは容赦無く接続する
センサーの情報が俺の頭に次々と送り込まれる
今の俺の脳はここで限界だった
頭が割れそうだ
胃の中のものが逆流して、喉を焼き、口の中にすっぱくて苦い味が広がる
何とか吐き気を抑えたが、貧血を起こした時のように、目の前がノイズに埋め尽くされ次第に真っ暗になっていく・・・・・・
「あれ、大丈夫ですか?もしもし?・・・おい、接続・・・して・・・・ト・救・・・」
俺は気絶した

・・・・・・
ここは・・・・・・どこ?
右手の人差し指がすごく痛い
どころか体中が痛い
ああ、痛いはずだ
人差し指が逆に曲がっちゃてるじゃないか
・・・・・・誰だ?この人は?
何で僕を殴るんだい?
何でそんなに楽しそうな顔をしているの?
人を殴るってそんなに楽しいことなのかい?
大人は子供を殴っていいものなのかい?

視界の隅に男の子が見えた
きみは誰だ?
何でそんなに苦しそうな顔をしてるんだい?
何でそんなに悲しそうな顔をしてるんだい?
ああ、泣くなよ
君が泣いているのを見ると、何故だか僕も悲しくなる
殴られているのは君じゃなくて僕なんだから
だから泣くなよ
そうだ、友達になろう

そう言って手を伸ばすと
そいつは泣きながら頷いた
・・・・・・

「・・・・・・クソッタレ」
気がついたらベットの上だった
いつも夢はすぐ忘れてしまうのに
さっきの夢が頭から離れない

右手を上げて、指を見る
俺の人差し指は、少し曲がっていた

体を起こして、腕に刺さっていた点滴を引き抜いた
ちょうどその時に、ドアをノックしてキースが中に入ってくる
「・・・・・・お目覚めのようですね」
俺がベットに座って黙っていると
「その・・・・・・少し調子に載ってしまって・・・・・・申し訳ありませんでした。やりすぎました。反省してます」
などといって頭を下げている
「・・・・・・まぁいいさ。それよりあのS・C・Sとかいうやつ。あんな物使い物になるのか」
「なりますよ。あれこそ僕等が作った世界一の操縦システムです」
「お前、自分で試したんだろ?あんな物、人間が使えると思ってるのか?」
「使えます、彼女には使えました」
「じゃあその彼女に乗ってもらえばいいじゃないか」
それは本気の本音だった
正直、俺はあんなACを使いこなす自信は無い

「それは・・・・・・出来ません」
キースは俯いて、黙ってしまった
「・・・・・・何故?」
「彼女はもういないんです」
「死んだのか」
「・・・・・・」
悪いことを聞いてしまったようだ
「・・・・・・じゃあ白銀みたいにAIを乗せてみたらどうなんだ?」
「それも出来ません」
「何故だ?」
「あれはAIじゃ無いんです・・・・・・あれは作ろうと思って作れる物じゃないんです」
「どういうことなのか俺にもわかるように言ってくれ」
「・・・・・・僕らだって何もわかってませんよ。白銀のテスト中、彼女が意識不明になって、白銀が勝手に動くようになった。それだけです」
「・・・・・・ちょっと待て、さらにややこしい話になってるぞ」
「多分彼女が白銀のAIなんですよ。そしてあなたは、形だけでもこの研究所でカタをつける最後の手段。僕にとっても最後の手段です。あなたの代わりなんていないんですよ」
またよく分からないことになってきた

「待て待て、順を追って説明してくれ。形だけでもってなんだ」
「口が滑りましたね・・・・・・まぁ、喋るなとは言われてないので言いますが・・・・・・あなたは白銀だけでクレストと戦って、逃げ切れる思いますか?」
「それは・・・・・・思わない」
「そうです。いくら優れたACである白銀でも、圧倒的な物量には適わないでしょう。造反した彼らだってそんなことは百も承知のはずです。だからこそ所長との取引に応じた。けど所長達は約束を守る気は全くありません。あなたが負けたら、周辺のクレストの部隊を総動員して白銀を潰しにかかります。黒銀と白銀が潰しあって、弱ったところを叩いた方がクレスト側は被害が少なくて済みますからね」
ああ、きっとそうだろうとは思っていたが・・・・・・

「そして、あなたは多分白銀には勝てない・・・・・・あなただってわかってるんじゃないんですか?」
「・・・・・・ああ、わかってるさ。俺が乗ってるからだろ?」
「そうです。鋼シリーズは、マシンマキシマム構想で設計されてます。ショックアブソーバーの性能を機体性能が凌駕しているんです。もし、鋼が全力で機動したらパイロットは無事では済みません。しかし、パイロットが乗ってない白銀は・・・・・・」
「パイロットの限界を気にせずにマシンの限界を引き出せるってわけだ」
おそらく所長も俺が勝てないと知っているだろう
知ってて造反者達と取引した理由は・・・・・・
俺がある程度まで黒銀を乗りこなすまでの時間稼ぎか?
俺が白銀を倒せればそれはそれで良し
失敗したら、多少の犠牲は出るが、弱った白銀をクレストで潰す

「・・・・・・俺がどうでもいい捨て駒だっていう話は分かった、もういい。俺がお前にとって最後の手段ってのはどういう意味だ?」
「・・・・・・あなたに、彼女を連れ帰ってほしい」
・・・・・・彼女?
「彼女ってのは白銀のことか?」
「そうです。白銀を倒して、コアの中のメインコンピューターを持ち帰ってほしいんです。僕からの、個人的な依頼です」
「ふん・・・・・・白銀に勝てないって言ったのはお前だろう?」
「ですから、残り二週間で何とかして白銀に勝てるようにしてみせます。報酬は、あなたの言い値で結構ですから・・・・・・」
・・・・・・何故そこまでその彼女とやらにこだわるのだろうか
まだ数時間しか顔を合わせていないが、キースは人を助けるためにこれほど必死になるようなやつじゃないように見えたのに・・・・・・
彼女とキースとの間には何があるのだろうか
・・・・・・しかし、まぁ
「・・・・・・断る理由も無い」
「引き受けて・・・・・・くれるんですね?」
「ああ、報酬は・・・・・・」
そうだ、こいつなら調べられるかもしれない

「前払いで俺の記録を調べてくれ。レイヤードから出る前のこと全部だ」
キースは驚いた表情で
「そ、そんなことでいいんですか?お金じゃなくて?」
「なんだ?何か不満でも?」
「い、いえ。三時間で調べて送ります」
「頼む」
「それじゃあ、改めて」
といって差し出された手を、握り返した

「・・・・・・勝てるなんて、保障はできんぞ」
「僕も全力でサポートしますから・・・・・・それじゃあ」
といってドアへ向かって歩き出した少年の背中に聞いてみた
「なぁ、もし、俺がお前の依頼を引き受けなかったらどうするつもりだったんだ?」
キースは、立ち止まって
「あなたは、引き受けてくれると思ってましたよ」
「何故だ?」
「あなた質問ばかりしてますね・・・・・・勘ですよ、勘」
「・・・・・・研究者らしくない言葉だな」
「自分でも、そう思いますよ。それにね」
少し間を置いて

「ディアさんって何も考えてなさそうですから」
そう言ってキースは部屋を出て行った
作者:NOGUTAさん