サイドストーリー

ナインブレイカー 〜終焉の始まり〜

「くッ…!もう右腕は使い物にならんか…!」
そう悪態をつきながら、その巨大な「人」らしき物は深緑の色をした身体を滑らせて行く。
次の瞬間、右肩の後ろから起き上がってくる兵器。ロケットと言われるそれは敵を確実に捉える。
「コレで… 終わりだ!」
右肩から発射されたロケット弾は空気の壁を突きぬけ、もう一人の巨大な「人」らしき物に猛進していく。
顔には紅く、淡く光る眼がひとつ。そこにロケットが突き刺さり、その「人」を仰け反らせる。
かなりの距離があるにも関わらず、一瞬にして顔を無くした「人」へと肉薄する緑の身体。
「ッオォォオオ!」
下半身と上半身を接続している部分に、長く、紅い刃が滑り込み敵を切断…いや、溶かし切っていく。
    ズ…ン…
どうやら、勝敗が決したようだ。勝ったのは言うまでも無く深緑の巨人だった。

…この巨人は【アーマード・コア】通称をACという。地下世界レイヤードにおいて作られた殺戮兵器…
元々作業用として作られた【マッスル・トレーサー】MTを完全に兵器として特化し、開発されたものだ。

戦いが終わり、徐々に通常の感覚に戻っていく。戦いの最中、彼らの研ぎ澄まされた感覚は外界からの情報を遮断する。
戦いとは関係の無いものは完全に無視することができる。
『…っとォ!ついに決着がつきましたァァ!今回の勝者は[ブレッド・レイン] カーク・ショットだぁぁ!』
歓声が、外部スピーカーを通して伝わってくる。
ここは…闘技場。レイヴンズ・アークが運営するアリーナと呼ばれる場所だ。
カラスと呼ばれる傭兵達…レイヴンが所属する斡旋組織レイヴンズ・アーク。この組織の収入源はこのアリーナと、
企業からの「依頼」だ。
『ショットガンと肩のロケット、そしてブレードを操るその腕前はトップランカークラス!これから楽しみです!』
アナウンサーの少し過剰とも思える評価がアリーナにこだまする。
「フン…俺は、まだそんな強さを持ってはいない…」
静かにコクピットに響く声。レイヴンの呟きは、アリーナの観客には聞こえない…
「…トップランカー・・か。」
彼は一通り【アーク】に言われたとおりACパフォーマンスを行った後、元来たガレージへと機体を滑らせた。

油の匂いと鉄が焼ける匂いが充満するガレージで、深緑の巨人「SHOT」は横たわっていた。
「ほぉ。コレはまた手ひどくやられたなぁ…右腕はバズーカか?」
一目見て熟練工と思われる男は使用された武器を見抜く。
「ああ。」
「対戦相手は、今売り出し中のレイヴン…だな。中々強かっただろう?」
そう言いながら男はパネルを操作し、ガレージの男たちに指示を促す。
「ショットガンは既に撃ちつくしていたから、気にはならなかったがな。」
「はっはっは!そうかそうか。まぁ…お前のことだ。何かを思い出そうとしたんじゃないのか?」
「さぁな…」
カークはそういいながら、ガレージの男達に細かい指示を与える。使いやすいよう、前と同じチューンにしてもらうようだ。
「記憶喪失のレイヴンなんていうのは結構いるからな…まあゆっくり思い出していけばいいさ。」
そう、このレイヴン「カーク・ショット」は記憶喪失なのだ。
彼が倒れていたのはかつて、サイレントラインと呼ばれた一帯の先にある小さな施設だった。
彼が覚えているのは、【エグザイル】【アーマード・コア】という単語だけだったが、一般常識は全て覚えていた。
彼は今までの「思い出」を完全なまでに欠如していたのだった。
「俺は帰るぞ。いつもどおりに仕上げておいてくれ。」
「ああ…あまり根詰めるんじゃないぞ?」
そしてカークはガレージを後にした。

レイヴンズ・アーク本社。ここにはレイヴンが居住するための区画が存在しており、申請すればここに住む事が出来る。
カークは数回の認証ロックが施された扉をくぐり、自分の部屋があるD−3区画に歩を進める。
途中数人の男とすれ違ったが、元々レイヴン同士は関わりを持たないため、無視して進む。
自分の部屋へとつき、カードロック式のカギを開け中へと入る。
まず、自分の部屋がいつもどおりか確認する。たとえレイヴンズ・アーク内部だとしても油断は出来ない。
そしてその後ノートパソコンを機動し、メールの確認を…
『1通メールが届いています。』
「ん…依頼 か?」
カーソルをメールボックスへと滑らせ、確認する。

送信者:レイヴンズ・アーク

こんにちは、レイヴン。アリーナでの対戦 お疲れ様でした。
今回は貴方に特別な仕事の依頼を行います。
現在、我々はある組織を追っています。
その組織は特殊なトレーニングプログラムをレイヴンに課し、AIプログラムを育成しているらしいのです。
AIプログラム…。我々はこの組織を『危険な存在になりうる』と判断し、この組織の調査を依頼します。
第二、第三の管理者を生む可能性を秘めている物を、野放しに出来るほど我々は愚かではありません。
恐らく数日後には組織からのトレーニングプログラムの依頼が届くでしょう。
レイヴン、宜しくお願いいたします。管理者の悲劇を、繰り返さぬために…

「…ここの所レイヴンが数ヶ月姿をくらますのはコレのせいだったのか…?」
カークはコップに牛乳を注ぎ、それをもってベッドへと座った。
(確かに危険な存在になりうる… 
管理者を作るなどと…管理者… ?…なんだ…この妙な懐かしさは。)
カークはコップの牛乳を一気に飲み干し、ベッドに横たわった。
(何故、記憶にすらない…「事実」としてしか知らない物に懐かしさを感じるんだ…?)
「フン…くだらん。」
そう呟いて、カークは目を閉じた。

あとがき
初めて投稿するSSです。ACNBを軸に展開して行く予定です。主人公がやたら根暗ですが(;´Д`)
作者:カーク・ショットさん