サイドストーリー

地上編第八話 『苦悩』という名のプロローグ
あの日、ボロボロになったACと一緒に彼は帰ってきました。でも、まるで赤子のように眠り続け、目覚めることがなかったのです。
サルビアにとって初出撃、初戦闘、初撤退、そして、そんな中で彼が暴走したのは既に三度目でした、、、


イーガル
「まだ、目覚めんかね?」

リア
「はい、、、でも、きっと大丈夫でしょう。」

イーガル
「強いな、君は、、、」

リア
「慣れっこですから、、、」

イーガル
「トールハンマーの影響か、いまだジェネレーターの調子が悪い。もうしばらくは出撃もないから安心しなさい。」

リア
「艦長、、、ご迷惑をおかけしてまことに申し訳ありません。」

イーガル
「艦長とは艦だけではなく、そのクルーの命も預かる存在だよ?傷ついたクルーがいれば休ませるのは当然というものだよ。」

リア
「、、、有難うございます。」

イーガル
「ふむ、、、そろそろおいとましようかの?お大事にの、、、」

リア
「目覚めたら、また戦うの?こんな姿になって、私をこんなに苦しめてでも?答えてよ、、、どんな答えでもいいから、目を、、、覚ましてよぉ、、、」



苦しみは人それぞれに存在する。



ネームレス
「、、、彼女は?」

イーガル
「だいぶやつれてるの、、、四日も飲まず食わずじゃ当然といったところか、、、」

ネームレス
「それで、どうするんだ?とっくに艦は万全な状態になっているというのに。重役の連中がうるさく言い始めるぞ?」

イーガル
「あと二日、それでもなんの変化もないようなら、、、降ろすしかあるまい。」

ネームレス
「そうか。代わりの要員はこちらから出す、そこらの奴よりは頼りになるだろう。私は特務があるから付いては行けんが、、、」

イーガル
「随分とあっさりしとるの?」

ネームレス
「なんのことだ?」

イーガル
「死線をともに潜り抜けた仲だったのだろう?」

ネームレス
「今の私はネームレス、、、ネームレスは彼らに会ったことが無いからな、、、これでいい。」

イーガル
「名前を変え、素性を隠し、仮面を被った、それでも過去は消えん。過去とは消すものではなく、積み重ねるものと気付いておろう?」

ネームレス
「貴方は過去を積み重ねることでなにか得たのですか?素性を隠しているのはお互い様でしょう?」

イーガル
「貴様、、、」

ネームレス
「消せぬ過去なら、いっそ捨て行く。それが私の選んだ道です。」

イーガル
「美しき思い出と共にか?」

ネームレス
「、、、後になって気付いた。この手に残る彼女を殺した時の感覚に、、、」

イーガル
「惚れていたのか?」

ネームレス
「違いますよ、、、ただ、仲間だったことは確かなんです。そして、『仲間殺し』は許されない。誰が許しても、自分自身が、ね。」

イーガル
「彼女が人でなかったとしてもかね?」

ネームレス
「、、、そろそろ時間ですので、失礼します。」

イーガル
「難儀なもんだなぁ、、、まったく。」



だが、苦しんでいる者は、優しさも憐れみと受け取り、どんな言葉もその心に届くことなかった。



ネームレス
「失礼する。」

リア
「あ、貴方は、、、」

ネームレス
「まだ名乗っていなかったな。ネームレス、だ。無論レイブンネームだが。」

リア
「、、、、、、、、」

ネームレス
「どうかしたか?」

リア
「あっ、いえ、なんだか初めて会った気がしなくて、、、」

ネームレス
「、、、気のせいだろう、疲れていることだしな。」

リア
「そう、そうですよね?アハハ、なに言ってんだろう、、、」

ネームレス
「あまり時間がないのでこれで失礼するが、何か食べたほうがいいな。彼が目覚めたときに君が痩せ細っていたら、彼が苦しむだろう。」

リア
「は、はい。わざわざどうも有り難う御座いました。エースさん。」

ネームレス
「 !! 私は、、、ネームレスだよ、、、」

リア
「あっ!す、すいません!!」

ネームレス
「じゃあ、な、、、」

グナー
「(あれは、、、!!)」

ネームレス
「く、くくく、、、あははは!!クソォ!!」


ダァァァン!!


ネームレス
「オレは、オレは誰だ、、、」

グナー
「苦しむぐらいなら開き直ったほうがいいのではなくて?」

ネームレス
「グナー、か。久しぶりだな。」

グナー
「ええ。一体いつまで仮面を被れば気が済むのかしら。」

ネームレス
「余計なことは言うな。」

グナー
「余計?馬鹿言わないで。私にとっては一番大事なことよ。」

ネームレス
「それが余計だと言っている。お前の憧れはもう潰えたと言ったはずだ。」

グナー
「認めない、とも言ったはずよ?」

ネームレス
「フン、ならいつまでも付き纏えばいい。現実に気づくだろう、、、」

グナー
「一体なにから逃げているの?」

ネームレス
「お前には関係ない。それに私は逃げてなどいない、、、」

グナー
「じゃあどうして自分を偽る必要があるの!?」

ネームレス
「黙れ!!」

グナー
「なっ!!」

ネームレス
「いいから黙れ、、、私に、干渉するな。」

グナー
「エース、、、」

ネームレス
「エースはもう死んださ。彼女を殺した『あの日』にな。」

グナー
「あの日って何!?理由も告げずにただ『死んだ』で納得できると思ってるの!?」

ネームレス
「納得する必要はない。だが、エースは死んだ、体が存在しようとエースの魂は朽ち果てた。ここにいるのはネームレス、それがすべてだ。」

グナー
「きっと、、、以前の貴方を取り戻してみせる。必ずね、、、」



そして、逃げる者にとって、縋る者の言葉は追及にしかならず、



通信士
『ハッチオープン。【ミステリー】、どうぞ。』

ネームレス
「了解。出る。」


コオオオオオ  ゴオオオゥ!!


イーガル
「抗いか、贖罪か、唯一つ言えることは、ワシもお前もろくでもない人間ということだけじゃの、、、」

操舵士
「え?何か言いました?」

イーガル
「な〜んでもないわい。出航準備を怠るなよ?どう転んでも明後日には戦場じゃ。」

操舵士
「了解であります。」



キサラギ本社ビル


レイ
「そうですか、、、まいったなあ、まさか初日でドロップアウトだなんて、、、」

カツラ
「掘り出し物だったんですがねぇ、、、」

ネームレス
「代わりの人間はいる。アイツでなければならない必要性はない。」

カツラ
「ですが、【死神】の名前は心理戦において非常に効果的なんですがねぇ、、、」

ネームレス
「相手に脅威を与える存在が必要ならもう一人乗っていただろう?【紅い魔物】だったか、、、」

レイ
「ラゴウさんが降りるってのにあの一家が残ると思います?」

ネームレス
「ならラゴウとの個人契約のみを打ち切れ。そもそもこんな状況は想定外だったはずだ。いくらでも手段はあるだろう?」

レイ
「イヤです。私はあの人を手放すつもりはありません。」

ネームレス
「なぜ!?」

レイ
「あなたこそ何故ですか?何故そうまで降ろしたがるのですか?」

ネームレス
「使えない戦力など邪魔なだけだ!!」

レイ
「それは違う。怖いのでしょう?正体を見破られることが、過去を思い出させる彼らが!」

ネームレス
「違う、、、断じて違う!!」

レイ
「ふぅ、、、こんな問答に意味はありませんね、、、【ロイヤルガード】所属、ネームレスに任務を伝えます。各所の研究所を探し出し、研究内容及び、施設の破壊に向かってください。」

ネームレス
「その意図は?明確な利害関係がなければ命令とはいえ拝命しかねる。」

レイ
「対面的な理由は、、、これ以上軍事面で遅れをとるわけにはいかないから、です。」

ネームレス
「フン、、、了解した。」

カツラ
「【フタバ】の用意ができております。どうぞお使い下さい。」

ネームレス
「わかった。」



バタン



レイ
「ラゴウさんが、ねぇ、、、」

カツラ
「いかがなさいますか?プランにも支障が出ないとも限りませんが、、、」

レイ
「ここはイーガルさんに委ねましょう、、、」

カツラ
「イーガル、ですか。信用できるのですか?彼は、、、」

レイ
「はいそこまで。」

カツラ
「は?」

レイ
「聞かれてるよ。」

カツラ
「なっ!?」

レイ
「早めに地下を均しておかなきゃなぁ。行き場がなくなっちゃうよ、、、」

カツラ
「社長、、、」

レイ
「まっ、苦しんでるのは僕だけじゃ無いしね?やれることをやってやるさ。」

カツラ
「微力ながら全身全霊を持ってお力添え致します。」

レイ
「ありがと♪」

ネームレス
「、、、、、、、(クソ!これじゃ、まるで道化じゃないか、、、)」



愚かさを知りながらも逃れることもできない。そして、二日後、、、



イーガル
「索敵開始、施設とのシステムコンタクトを全てシャットアウト。針路20、サルビア発進する。目的地、環境整備地区。ミラージュの前線基地を叩き、密林の部隊を援護する。」

グナー
「結局、予想通りでしたわね?」

イーガル
「仕方あるまい、、、非情なようだがこれが最善なんじゃよ。」

グナー
「わかっています。彼は不確定要素が多すぎますもの。暴走状態でこちらに牙を向けられたら太刀打ちできませんわ。」

イーガル
「彼女の話によると、強化による一種のリミッター解除なんだそうな。」

グナー
「だとしたらあれはもう人間ではありませんね。人間を人間でいさせるのは理性ですもの。理性を失った人間なんて獣と大差ありませんわ。」

イーガル
「強化、か。何のために、どんな意味があるというのだ、、、生きるため以外に必要な力など、ありはせんだろうに、、、」

グナー
「理想は常に現実に打ち砕かれるもの、、、認めたくはありませんが。」

イーガル
「ワシの言ってることは理想かね?」

グナー
「人の興味や探究心の前ではどんな言葉も意味を成しませんわ。」

イーガル
「だとしたら、悲しいことじゃのう、、、」

グナー
「だから彼は危険なんです。仮に興味本位で植えつけられた力だとしたら、どんな副作用があるかわかったものではありませんもの。だから彼らを艦から降ろしたのでしょう?」

イーガル
「ふむ、、、」

グナー
「まぁ、私たちがそれを議論したところで世界は変わりませんわ。変えれるものから始めましょう、、、」

イーガル
「、、、そうだの。所詮先日のは前奏、これからが戦争の幕開けじゃ、、、」



戦争が始まる。



第九話へ続く




あとがき

最近停滞気味だったのであとがきカットします(オイ!!)【フタバ】については次回紹介予定。
ぢゃ、ごめんなさいませ。
作者:ミストさん