サイドストーリー

ナインブレイカー 〜最強への誘い〜

ピピッ・・・ ピピッ・・・ ピピッ・・・
「・・・っ。いつの間にか、寝ていたか。」
頭を掻きながら、カークはベッドから起き上がった。
そして自分の目が覚めた原因であるノートパソコンに目をやった。
「メールか。」
カークはいつもの通り、カーソルをメールボックスへと合わせてメールを開いた。

送信者:アンノウン

はじめまして。レイヴン。今回、依頼を持ってまいりました。
我々は現在、特別なトレーニングプログラムを作り出し、レイヴンをより洗練されたものへと
進化させる試みを行っています。
そこで、貴方を凄腕のレイヴンと見込み、このプログラムへの参加を要請したいと思います。
報酬は、このプログラムにおける「レイヴンとしての実力の向上」
及び「各々のトレーニングクリア時の特別パーツ支給」です。
宜しくお願いいたします。
依頼を受諾する場合は、以下の場所・時間に自己のACに搭乗した状態で待機しておいてください。
 DS5特別私有地区 明日AM8:30

「思ったより早いな。ACの準備が出来てればいいんだが。」
昨日右腕が大破したSHOTは、今現在も恐らくガレージで修理を受けているだろう。
機体の修理が滞りなく行われているのを願いながら、コップに牛乳を注ぎ一気に飲み干す。
とりあえずガレージに向かわなければならない。
あの男が整備をしくじる事はないだろうが、やはりきになる。
「さて・・・行くか。」
コップを洗い、その後顔を洗い、ガレージへと向かった。

「――おーぃ!そこの電子パーツの交換は終わったかぁ!?」
いつも以上にガレージが騒がしい。殆どの作業員が俺の「SHOT」の整備に当たっているように見える。
「おい、一体全体何の騒ぎだ・・・?」
カークは昨日自分の機体を預けた親方に話しかけた。
「んん?カークか?ちょっと今忙しいから後にしろ!」
邪険に追い払われたカークは暫く自分の機体を眺めていたが、本当に忙しいらしい作業員達の邪魔になるのは嫌だったので
その場を後にしようと・・・
「あの・・・すいません。貴方がカーク・ショットさんですか?」
・・・した時、不意に声をかけられた。その声の主はこのガレージには似合わない・・・清楚な女性だった。
「ああ、俺がカークだが。何か用か?」
「はい、私の名前はリェス・アーランドといいます。今回貴方の専属オペレーターになりました。」
「今回の任務のか。アークも手の込んだ事をやる・・・」
オペレーターを数ヶ月にわたって一人のレイヴンにつけるのはよくあることだが、今回の任務は特殊だ。
アークからの専属オペレーターなど、奴らが許してくれるのか・・・?
「まぁいい。とりあえず出ようか。」
カークは踵を返すと、ガレージから外へ出る扉へと早足で歩いていった。
「あ、はいっ。」
ハイヒール独特の高い足音が俺を追う。


「つまり、お前を通してアークに情報を送る。そしてお前は俺のオペレーティングを行う、ということか。」
その女性の説明はとても簡潔だが理解しやすいものだった。
「はい、その通りです。貴方はオペレーターを使ったことが無いらしいですが私がきっちりオペレーティング致します。」
実際、オペレーターなど使わなくとも自らで全てをこなすことが出来る。
レイヴンの仕事の量を減らし戦闘に専念させるように作られたのがアークの「オペレーティング」というシステムであった。
「フン・・・所で、あのガレージの所業はやはりアークの差し金なのか?」
アークガレージのほぼ全員が1つのAC修理作業に当たるなど聞いた事が無かった。
よほど今回の仕事をしくじりたくないようだった。
「ええ、アークは今回の仕事をとても重要視しているようですから。」
重要視・・・確かに。管理者のようなAIが作られてしまえば、またあの惨劇が繰り返されてもおかしくはない。
人間とAIの戦いなど、不毛すぎる。その中で死んだ者は一生を悔やむだろう。
「とりあえずこのメールをそちらに転送する。これも情報のひとつだろう?」
「あっ、もうメールが来たのですか?わかりました。こちらのデバイスに接続をお願いします。」
携帯モバイルから、ノートパソコンからリンクさせているメールを引き出す。
「差出人は不明だが、とりあえずはな。」
「ありがとうございます。」
柔らかな笑顔をするリェスは、デバイスをしまいつつこう言った。
「頑張りましょうね。レイヴン。」
「フン・・・任務を頑張らずに、何を頑張るんだ。」
いつもの悪態をつきながら、自らの部屋へと戻ろうとする。
「あ、名前で呼んだほうがよかったですか?カークさん。」
カークは失笑しながらこう呟いた。
「レイヴンでもカークでも、『ブレッド・レイン』でも好きなように呼ぶがいい。どれも本名じゃぁ無いがな。」
カークはどうやら、人に悪態をつくのが癖のようだ。
「じゃあ、カークさんって呼びますね!」
「・・・フン。元気なヤツだ。」


カークは部屋に戻り、いつもと同じように部屋を見渡す・・・
そしてベッドに向かって腰の拳銃を向けた。
「貴様。何者だ。」
その銃口の向かう先には、女性が寝ていた。先ほどのリェスではない・・・そして俺には、彼女もフィアンセもいない。
その女性は気だるげに頭をあげ、俺を見た。
「・・・眠いの。寝かせて。」
女性はそれだけ言って、またベッドに頭を突っ伏そうとしている。
「いや、まて。ここは俺の部屋だ。そしてそれは俺のベッドだ。というか、どうやってここに入ったんだ?」
「・・・ちょっといじったの。それだけ。」
・・・的を射ていない。本当にこれは誰だ。俺を狙った暗殺者という線もあるが、こんな暗殺者は聞いた事無い。
「チッ・・・では最初の質問に答えてもらおう。貴様は何者だ。」
会話にならないので、最初に戻り質問をしてみる。
「〜〜〜〜〜〜んっ!ぁああーーーーーー!」
その女性は唐突に起き上がり、背骨をバキバキと鳴らした。
「ん〜〜ん♪いい お・と♪」
「あたしの名前は、ウィスティール・クライム。貴方と同じレイヴンよ。」
そう答えた女性はベッドから起き上がり、こちらへと歩み寄ってくる。
「レイヴンが、何故俺の部屋にいるんだ。」
俺は目のやり場に困った。この女性は、下着以外何もつけていないのだ。
「あ、ゴメンゴメン。服着るの忘れてたわ。」
そう言って脱ぎ散らかしていた服を拾い集めた。
「いや〜。意外と質素なのねぇ。結構ミッションこなして、アリーナでもそこそこやってるのに。」
ウィスティールと名乗った女性は部屋を見渡し、率直な感想を口に出す。恐らくそういう性分なのだろう。
「フン・・・次の質問だ。何故俺の部屋にいるんだ。」
「ん・・・貴方、アークから依頼受けたでしょ?それに、あたしも僚機として出撃させてほしいのよ。」
一番手っ取り早い方法は、レイヴンに直接会い、交渉することだろう。だが・・・
「どこからその情報を得た。あの任務は極秘扱いのはずだし、僚機なぞ申請していないぞ。」
アレは「レイヴンズ・アーク」からの超極秘依頼であり、僚機依頼なぞまったく申請されていないのだ。
「そんなことどうでもいいじゃない♪YESか、NOか!早く答えてよ。」
さっきとは正反対の女性を見て、少し困惑した。
「フン・・・俺は知らん。アークに聞くんだな。」
ウィスティールにそう告げると、いつものようにコップに牛乳を注ぐ。
「あらぁ・・・つれないわねぇ。」
客観的に見れば、彼女は美女と言えるだろう。妖艶な立ち振る舞いとその服装・・・未だに下着のままで服を握っているだけだが。
しかし相手が悪かった。カークは女性にまったく興味が無い。もちろん同性愛という意味でもない。
「話は終わった。さっさと出て行くがいい。警備兵を呼ばれない内にな。」
カークは一気に牛乳を飲み干す。
そして次の瞬間、その女性が一気に距離を詰めてきた。カークは身体能力は高いほうなのだが、この速さは彼に匹敵するものだった。
・・・と、同時に。彼に思わぬ事が起こる。
唇に暖かな物が触れる感じがする・・・
「・・・ッ んっ!!?」
彼女が、そう。キスをしてきたのだった。
十秒ほど、だろうか。
カークは初めて・・・といっても、記憶を無くしてからだが・・・キスをした。
目を白黒させながら、彼はウィスティールを引き離した。
「・・・何をする、貴様・・・!」
ウィスティールは微笑みながら口元を指でこする。
「牛乳、ご馳走になっただけよ。それじゃね♪」
カークは牛乳を飲んでいる時・・・ずっと一人だったので、かの有名な「白い髭」を気にしていなかったのだった。
ウィスティールが居なくなった自分の部屋には、彼女の残り香があった・・・

あとがき
はい!女性陣登場ですね!とりあえずオペレーターとレイヴンどちらも女性出したかったので出しました。
無駄にキスシーンとかあるけどそれは気にせずに!
作者:カーク・ショットさん