サイドストーリー

ナインブレイカー 〜静と動〜

DS5特別私有地区 AM8:00
「――・・・。」
レイヴンズ・アークの手回しにより、恐ろしく早く整備が終わった深緑のAC「SHOT」
そのACの中で目を瞑り、静かに瞑想する。
これがミッション・アリーナにおいてカークが欠かさず行っている、言わば願掛けである。
静かに、そしてゆっくりと進むように思えるこのひと時を、彼は楽しんでいた。
『あのー・・・カーク、さん。何をなさっているのですか?』
そこに、通信が入る。
通常モードではディスプレイ型の通信を使えるため、目を開きモニタを見ると・・・
カークのオペレーター、リェス・アーランドが怪訝そうな顔でこちらを見つめていた。
「瞑想だ。心を落ち着けるために静かにしている。」
『はぁ・・・。そうですか。』
「すまないが、少し静かにしてもらえないか。」
『はい、すいませんでした。』
そして俺はまた、目を瞑ろうと・・
「・・・レーダーに反応あり、だ。所属と機体名を頼む。」
レーダーに友軍、敵軍ともつかない反応がある。この速度からいってACだろう。
『AC名「フィールビット」レイヴンズ・アーク所属のレイヴン・・・ウィスティール・クライムが搭乗者です。』
カークは眉をひそめた。彼女がここを知るには、リェスに話を聞くかハッキングでもしない限り無理だ。
「ヤツが何故・・・ここの情報をどうやって知ったのだ?」
『知り合いなんですか?結構有名なレイヴンですが。』
・・・あまり、思い出したくないことが頭をよぎった。
「まぁな。あまりいい知り合いでは無いが。」
『ちょぉぉっとぉ!いい知り合いじゃないってどういう意味よぉ?』
突如通信に割り込んできた声。確かにこれは、彼女だった。
「住居不法侵入をする奴を、擁護する気は無い。」
『ホント、つれない男ねぇ。昨日はあんなに激しく・・・』
「止めろ。俺はそんなことはしていないし、お前が勝手にやったことだろう。」
『えええっ!カークさん、ウィスティールさんとそういう関係だったんですかぁぁ!?』
・・・カークはため息をついた。

ー 15分後 ―
『ということは、つまり、カークさんのファーストキスをウィスティールさんが奪った・・・という事ですか!?』
『そうよ〜。凄かったわぁ・・・カークの唇、今までの誰よりも・・・』
「止めろ。俺は何もしていない。」
やっと説明が終わったのだが、あまりカークの心は伝わっていなかったようだった。
その時、レーダーの反応があった。友軍の反応を示している・・・と、言う事は。
「来たぞ。」
『はい。こちらのレーダーにも反応がありました。』
そこで通信が入る。ディスプレイにはメガネをした、いかにも研究者らしい男が写っていた。
『レイヴン。はじめまして。我々が依頼をした研究所の職員です。宜しくお願いいたします。』
「宜しく頼む。それと・・・こちらからオペレーターを連れて行きたいのだが。」
『はい、承知しております。・・・それと、そこのACに乗っておられるのはウィスティール様、ですか?』
『ええ、そうよ。あたしも一緒に連れて行って欲しいんだけど・・・どうかしら?』
『願っても無いことです。貴女のようなトップランカークラスの実力者は幾ら居ても足りませんから。』
・・・今、なんと言った?『願っても無いことです。』・・・ということは。
『それじゃ、あたしもカークのパートナーということでいいわね?』
『了解しました。そういう風に登録を行っておきます。』
「ちょっとまて!勝手に話を進めるんじゃない!」
カークはてっきり、断られると思っていたのだ。しかし、研究者の口からは予想外の言葉が出てきてしまった・・
彼女もこのプログラムに同行する・・・カークはこの女は苦手だった。
『我々としてはレイヴンが少しでも多く必要なのですが・・・』
・・・この場合は仕方が無い。ここは「依頼」として受け流すしかない・・・
『カ〜ク♪これからも、よ ろ し く ね♪』
「チッ・・・仕方ない。了解だ。」
カークは舌打ちをし、目を瞑る。
『では、そろそろ輸送機がそちらにつきますので乗り込んでください。』
ACのメインカメラが、その機影を映す。
その機影はどの輸送機にも似ていない物だった。どうやら特別に作られたものらしい。
輸送機はその大きさにも関わらず垂直離着陸可能型らしく、しかも凄まじいまでの機動性能を見せ付けていた。
深緑のACとスカイブルーの四脚型ACの目の前に、難なく垂直着陸を行ったのだった。
そして2機のACと、オペレーター用のトレーラーを積み込んでゆく。
『凄いですね・・・こんな輸送機、初めて見ました。』
リェスが感嘆の声を上げている。確かに、この輸送機は凄い。最新技術を使い開発されたのだろう。
ACは輸送機内部に固定され、トレーラーも同様に固定された。
機内アナウンスが聞こえる。先ほどの男だ。
『ようこそ。我らの輸送機「ヴァルキュリア」へ。どうぞ、中へと御進みください。』
3人はそれぞれの機を降り、通路へと歩いてゆく。


「・・・これほどの技術を保有しているということは、どこかの企業が運営している可能性もあるな。」
カークは通路で早速、その技術への感想を漏らした。この輸送機には揺れというのが少ない。
バランサーも恐ろしく高性能らしく地上での運搬より快適ですらあった。
「そうですね。これもレポートにまとめておきます。」
リェスはそう言って、手元にあるデバイスへと簡単なメモを残してゆく。
そこでカークはふと、疑問を抱いた。
「ウィスティール、お前はどうやってランデブーポイントと日時を知ったんだ。」
確かにそうであった。リェスは真面目そうな子だから情報を漏らさないだろう。
アークの情報センターも簡単にハッキングできるものではないだろう。
「え?まだわかってなかったの?あなたの部屋に入ったときにメールボックスを見ただけよ。」
・・・成る程成る程。至極簡単な答えだった。確かに彼はメールを削除していなかったのだった。
「結構鈍感なのねぇ。カークは。ま・・・そこが面白いんだけど♪」
どこが面白いのだろうか。こんな面白みの欠片も無い男のどこがいいのだろうか・・・
「貴様、後で覚えておけ。」
聞かれたッ!?バカな!
「どうしたんですか?カークさん。独り言ですか?」
リェスが怪訝そうな顔でカークを見つめている。
「フン・・・なんでもない。」
ウィスティールのことを言っているのか、私のことを言っているのかわからなかったが通路は終わったようだ。
目の前にある扉は自動で、すぐに開き中へと入る。
「ようこそ!我がヴァルキュリアへ!・・・っと、これは先ほども言いましたね。」
先ほど通信を行った研究者だ。俺より身長が高いが、少し細身という印象を受けた。
「私の名前は御堂 戒(ミドウ 
カイ)と申します。これから私があなた方のプログラム関係の担当を行うものです。」
「カーク・ショットだ。」
「リェス・アーランドです。宜しくお願いします。」
「ウィスティール・クライムよ。よろしくね。」
自己紹介が終わったところで、カイはにっこりと微笑みそこにある椅子へとかけるよう薦める。
「いや〜。今回のような事は初めてなので、上層部がうんと言うか気になりましたが、全然大丈夫でした。」
恐らくリェスとウィスティールのことを言っているのだろう。
「いらぬ心配をかけてすまなかったな。特にこの女の事は・・・」
この女、というのは間違いなくウィスティールの事だろう。いきなりACで乗り込んできて自分も連れて行け、というのだ。
断るのが普通だったのだが。
「もぅ、カ〜クったら。あたしと一緒で嬉しいんでしょぉ?照れない照れない!」
・・・ちょっと話をして、こちらが銃を突きつけてすらいるのに何故このような事をいえるのか不思議でならなかった。
「フン・・・。」
「ははは。仲がいい事で宜しいです。つきましてはあなた方の居住区についてちょっとご相談があるのですが・・・」
カイは少し申し訳なさそうな顔をしていた。カークは頭の中に、一つの可能性を思い浮かべてしまった。
「まさか・・・『居住区が足りなくて、3人一緒に住んでもらう事になってしまいました。』とか言うつもりじゃないだろうな。」
カークは先手を打ってみた。いや、そうしないと心が折れてしまいそうだったからだ。
「・・・はは、カークさん。鋭いですね・・・お察しの通りですよ。」
カイは乾いた笑いを、カークは頭を抱えうめいていた。
「えっ?えっ?私達3人で住むって事ですか?」
リェスは何故か顔を輝かせていた。
「カークと一緒なんて、願っても無いことだわ♪」
ウィスティールは相変わらずだった。
「ええ、こちらの1人部屋はもう埋まってまして・・・今は多人数で住む部屋しか残っていないんです。すいません。」
カイは苦笑いをしながら、弁明をした。しかし、カークはただただ頭を抱え、うめくだけだった。

そして、彼らを乗せた戦乙女は戦士達をいざなうように、ヴァルハラへと向かってゆくのだった。

あとがき
はい!なんかラブコメですね!(死爆
静と動・・・これはカークと残り二人 という意味ですね。主人公が振り回されるのはよくあることです。
カークはこれからどのようになっていくのか!リェスとウィスティールどっちを選ぶのか!こうご期た(銃声
カーク「フン・・・どんな所にいようと、関係ない。貴様はここで・・・」
うおおおぉぉ!殺されてしまう!ガバメントの餌食になってしまうッッッ!では、さよなら〜〜!
カーク「逃がさんぞ・・・」(銃声
ヒィィーーー・・・・・・
作者:カーク・ショットさん