サイドストーリー

ナインブレイカー 〜戦士の苦悩〜

「・・・というわけで、大体のトレーニングプログラムの種類は以上です。」
白衣をまとった男は手に持った電子手帳を操作しながらそこにいる3人に説明を行う。
「敵は全てAIなのですか?」
まぁ、そういう質問が飛ぶであろう。彼の話したトレーニングは全て仮想空間などで行われる物でははない。
実際にACを機動し、実弾を装填。ブレードの出力を最大限まで上げ、敵を打ち砕く事がある、という物だった。
「ええ、我々の用意した全ての敵勢力プログラムは全てAIでの動作を行っています。」
白衣の男、御堂 戒は質問をしたリェス・アーランドに微笑みながら話す。
「実際の戦闘でないと、レイヴンは育たない事が研究によって判明しておりますから。」
「事故死・・・とかは、起こらないのですか?」
さらりと恐い事を言う。だが、これもオペレーターの義務でもある。
いかに「依頼」であっても、「トレーニングプログラム」なのだ。安全を確保するのがオペレーターの務めである。
「大丈夫ですよ。APなどの数値を改ざんし、装甲が薄くならないうちにトレーニング終了させるようにしてありますから。」
カイは自信有り気にそう彼らに言った。・・・が、その内の一人が口を挟む。
「・・・と、言う事はだ。ACが通常より早く撃墜されるという事なのか?」
口を挟んだ男・・・カーク・ショットは眉をひそめながらカイをにらむ。
「大丈夫ですよ。APの対比調整は完璧ですので、通常と変わらないように設定されていますから。」
カイは、またも自信有り気にそう答えた。よっぽどそのプログラムに自信があるらしい。
「ふ〜ん。カイ君は、このトレーニングに凄い自信持ってるみたいねぇ。」
そう言って、ウィスティール・クライムが彼を見上げる。パイロットスーツが妙に彼女を色っぽく見せている。
レイヴンズ・アークのエンブレムが入ったそのスーツは、ぴっちりしたスウェットスーツのようなものだ。
もちろんカークも着ているが、こちらはより身体ががっしりしているようにみえる。
「そりゃそうですよ〜。我々が今まで・・・レイヤード時代から多岐に渡って開発してきた物ですから。」
嬉しそうに語りながら、彼の顔は少し曇っていたようにみえる。「レイヤード時代」・・・
管理者がいたあの時代、このような事を研究するのはとても危険だったであろう。

ゴゥン・・・

「あ、どうやら研究所に近づいてきたようですね。」
少しばかり、この戦乙女は減速しているようだった。
「外・・・見てみますか?」
カイは壁にあるスイッチへと手を伸ばす。壁は少し境目があり・・・どうやらそこが窓らしかった。
「あ、いいんですか?」
「はい。もうここまでくれば特に問題はありませんよ。」
そして壁のスイッチを操作する。
どうやら窓は見る限り3層になっており、内部から見ていた壁・超強化ガラスらしきガラス・外装の装甲。
それなりの強度を誇っているらしく、ACのライフルすら簡単にはじくだろう。
自分達が居た部屋に自然の光が溢れてくる。そこには広大な地平線があり、地上にはさまざまな研究施設らしきドームが点在していた。
実際、こうやって輸送機の中から外を見るのは3人とも初めてのことであり、ある種の感動を覚えていた。
そこにカイが驚くべき事を話しだす。
「ここら一帯、見える所は我々の研究機関の敷地ですよ。」
「「「ええ!?」」」
「我々は企業と完全中立を保っており、こちらの研究しているガードメカAIを提供する代わりに・・・」
「この、広大な研究敷地を侵さないように約束している。そういうわけか・・・」
「その通り。テロリストとかが入ってきても、我々に協力的なレイヴンがなんとかしてくれますし。」
この地平線一帯が・・・彼らの研究敷地といわれてもあまり信じられなかったが・・・
確かにはるか遠くにも研究施設のドームが小さく見えている。
「敷地の約5分の1が居住区及び町施設であり、残りは全て研究区で構成されています。」
ここの敷地の約5分の1、となるとそれでも相当な敷地面積を誇る町だろう。
「町の住民は全て、研究所員及びレイヴンです。結構快適ですよ?」
「フン・・・。」
カークはいつの間にか首に手を回してきていたウィスティールと、腕に組み付いているリェスを振り払い椅子に座った。
窓ではまだ二人が「凄い!あんな綺麗な川見たこと無い!」とか、「今度水浴びに行きたいわねぇ〜」等と話していた。
カークはトレーニングプログラムのパネルをじっくりと手にとって見た。
このプログラム群・・・確かに、コレはレイヴンの力量を測りデータを取るには最適と思われる。
しかし、カイのような男が「管理者」のようなAIを作り出そうとしているとは思えない。
いや・・・カイ達だからこそ、そのような事が無いともいえる。彼らもまた管理者の犠牲者なのだ。
同じ・・・人類なのだから。最初は怪しいと思っていたが、アークの杞憂だったのか・・・?
「そろそろ着きますね・・・あ!ほら、見えてきましたよ。私の第二の故郷・・・Out Town(アウトタウン)が。」
Out Town・・・我々の街。単純明快な名前だが、しっくりくる。
今までは管理者に管理されたレイヤードという場所に住んでいた。管理者の町・・・だったのだから。
「それでは、着陸態勢に入りますので。シートベルトをお願いしますね。」


輸送機「ヴァルキュリア」がそのOut Townのガレージに到着したのは、大体AM10:00くらいだろうか。
しかし、新鮮な事を多く味わっていた3人はそれほど長いとは感じなかったようだった。
その後、カイが居住区まで案内してくれた。その際「愛車なんですよ、コレ。」といって用意したのは青いスポーツカーだった。
色々な店が出ている。これらの人全てがここに居住し、働いている。そう考えると恐ろしく大規模であった。
「ホームレスだった人や、ロストチルドレン達。スラム街の人々ですら、ここの町への居住を許されています。」
カイの言うとおり、ごろつきらしい輩も多数目に入った。しかし、彼らすら郵便配達を行っていたり何らかの仕事をしていたのだった。
カークは素直に驚いていた。これほど統制の整った街など久しく見ていなかったのだから。
「凄いですね・・・ここまで完璧な街は見た事が無いですよ。」
リェスも驚いたように目を見張っていた。
その道中、ウィスティールは珍しく押し黙っていた。

「さぁ、ここです。ここが雇われたレイヴン達の大部分が住んでいる場所です。」
そこには見上げるような大きなビルだった。
レイヴンズ・アークの居住区なぞ、比較にならないほどの巨大さだった。
「では、この登録証とカードロックキーを。」
いつ撮られたのかわからないが、写真が貼られている登録証と同じようなカードキーを渡された。
渡されるときに横目で3人全員の部屋番号を見たが・・・やはり3人とも一緒の部屋であった。
「とりあえず、部屋に行ってみてください。連絡は後ほど入れますから。」
そしてカイは愛車を滑らせ、さっさと行ってしまった。
「・・・と、とりあえず部屋に行ってみましょう!二人とも!」
そう切り出したリェスはそのビルの入り口へと歩いていく。それにつられて残りの2人のレイヴンも歩みだす。
かなり治安がいいためか、カードロックは入り口、ロビー、そして部屋のみであった。
アークの頃はしょっちゅう警備兵が出動していた。レイヴンに恨みを持つものが乗り込んできたりしていたからだ。
「アークとは比べ物にならないくらい、いい所ねぇ・・・」
「そうですねぇ・・・」
女二人、よく同調するようだ。確かにカークも悪くない、と思っていたが彼は言葉には出さない。
「部屋番号は・・・13−D−5か。13階のD区画5号室・・・というわけだな。」
案内板を見ながらカークは自分達の部屋がどこにあるか確認する。
「さっさと行くぞ。」
「は〜い。」
「あ〜ん。待ってよぉカークぅ♪」
片や子供のような、素直な答え。片や猫なで声。
性格では明らかに・・・いや、これ以上は考えるのを止めよう。そう頭で思いながら、エレベーターのスイッチを押した。

チーン♪
エレベーター独特の音が、内部にこだまする。13階へと着いたようだ。
D区画5号室は、少し歩を進めるとそこにあった。それほど遠くはなかった。
カークは自らのカードキーを通し、扉を開く。
そこには、かなり広い部屋が広がっていた。家具が一通り揃っており、レイヴンズ・アークの部屋とは到底比べられない・・・
比べるのが失礼なほどのいい部屋だった。
そして寝室には・・・
「何故ベッドが二つしかないんだ?」
どうやらあちら側はオペレーターは想定はしていたらしいが・・・さらにもうひとつお荷物がついてくるのを予想していなかったようだ。
「リェスちゃんはこっちねぇ。」
そういいながら窓際のベッドを指差す。そして・・・
「カークとあたしは、こっちよ〜♪」
そういいながらもう一つのベッドへと飛び込む。
カークはとりあえず目の前にある現実を無視し、先ほど1階にあった売店で購入した牛乳を冷蔵庫へとしまう。
そして持参したノートパソコンを部屋の隅にあるモジュールへと繋ぎ、ここのサーバーへとアクセスする。
『ようこそ、レイヴン。あなたの我々のサーバーへの接続状況は現在「第一層」までとしております。』
そう表示され、現在の町の状況やトレーニング施設、このビルの基本構造などの情報が並ぶ。
「流石にこの程度だろうな・・まぁ仕方ないか。」
少々残念だが、ここからメインサーバーに接続できるわけが無い。仕方なくノートパソコンの電源を落とした。
「さて・・・牛乳でも、飲むか。」
そう呟き、キッチンへと向かうカーク。コップをすすぎ、牛乳を流し込む。
「・・・ウィスティール。なにをしている。」
コップを掴んだカークの前にウィスティールが立っていた。
その目は何かを「狙う」目だった。当然過去の記憶を思い出したカークはその横をすり抜けソファーへと座る。
にこにこしながらウィスティールがこちらを見ている。
また・・・キスでも狙っているのだろうか。
とりあえず牛乳を飲み干し、乱暴に口を拭く。
「あ〜ん。カークったらつれないのねぇ・・・それとも恥ずかしいのかしら?」
「・・・フン。」
どういう行動をしても切りかえしてくるこの女は苦手だった。
ピピピッ ピピピッ
その時、入り口のほうから電子音が聞こえてきた。
リェスがぱたぱたとそちらへと向かう。
「は〜い。こちら13−D−5のリェス・アーランドです〜。」
「あ、はい。カークさんですか?わかりました。今かわりますね・・・カークさ〜ん。」
恐らくカイからの電話だろう。カークは電話をとった。
「カークだ。」
『どうも、カイです。どうです、部屋は。快適そうでしょう?』
こちらの気も知らずに・・・そう思いながら、カークはとりあえず寝室の現状を訴えた。
「ベッドが2つしかない。コレでは足りないぞ。」
『え?ああ、すいません。今受注してますが、1週間後になるそうなんですよ・・・本当にすいません。予期せぬ事でして。』
チッ・・・と舌打ちしつつ、カークは頭をかいた。
「で、何か用事か?部屋の事だけじゃないだろう?」
『ええ、早速明日からトレーニングプログラムを行いますから。さっき渡したプログラムのパネルをですね・・・』

カイの言うプログラムシステムはこういうものだった。
まず、プログラムパネルで自らが行いたいトレーニングプログラムを選択し、それを今この話している電話・・・
これに横から通す事により、いつそのトレーニングが行えるか通知が来るそうだ。
『そういうわけなので、プログラムパネルは2枚用意しておきました。宜しくお願いしますね。』
「ああ、わかった。それじゃ切るぞ。」
電話を切ろうとすると慌ててカイがそれをとめる。
『ああ、待ってください。カークさん。最後に言い忘れてました。』
「・・・なんだ?」
『気をつけてくださいね。』
「・・・?」
『いえ、その。ウィスティールさんの事を・・・』
「殺されたいのか?」
『あっ、その、すいませんでした!では!』
今度は別の慌て方で電話を切る。
カークはため息をつきながら電話を置いた。
そして後ろを向くと、そこには笑顔の女の子と、今にも悪戯を仕掛けてきそうな妖艶な微笑をしている女性。
そこでカークは、もう一度大きくため息をついたのだった。

あとがき
はい!戦闘シーン皆無ですね!本当に小説っぽく展開していってますが、決して戦闘が無いわけじゃないです・・・
とりあえず戦闘シーンを入れ、ちゃんとしたAC小説にしたいと思っています(;´Д`)
今回は無いですが、今度はあります!絶対ちゃんと!
これはNBを主軸とした小説ですが、結構どころかかなり妄想入ってますのであしからず。
・・・今回はカーク来ませんね。今の内に終わっておきましょう!でh(銃声
作者:カーク・ショットさん