サイドストーリー

ナインブレイカー 〜力の天秤〜

深緑の巨人が、その眼差しを前に向けている。手には散弾銃とハンドガンを握り締め、その時を待っている。
『トレーニングプログラム:ATTACK・ACCURACY Lv3 開始します。』
『頑張って下さい、カークさん。』
深緑の巨人を操る男、カーク・ショットはいつものように瞑想をしていた。
「――・・・ああ。」
そしてカークの声がかき消されるような開始ブザーが鳴り響く。
1回目・・・2回目・・・そして、最後の音。それと同時に左右の柱から浮遊MTが飛び出してくる。
すぐさま右腕をそれへと向け、発砲する。浮遊MTに吸い込まれるように散弾が数発めり込む。
そして左腕のハンドガンをその下を通過しようとするMTに向け、2度発砲する。
やはり先ほどと同じようにMTへとめり込む弾丸。その動作はほんの1秒ほどのことだった。
次の瞬間爆発する2機のMT。それの爆煙を潜り抜けるようにしてもう1機のMTが逃げてゆく。
「無駄だ・・・」
一言そう呟いたと同時に、彼はFCSの武器変更プログラムを作動させる。
肩に装備されたロケットの射線がぴたりと軌道に沿う。そしてロケット弾特有の小さな発射音がコクピットにこだまする。
MTへとロケット弾が突き進み・・・先ほどとは対照的な、炎を巻き上げての爆発が起こる。
そして開始と同じようなブザーが鳴り響き、左右の柱はまた同じようなMTを排出していく。
「フン・・・」
カークの目が徐々にレイヴンとしての・・・そう、戦士としての輝きを灯してゆく。
深緑の巨人は主人の命令に従い、敵を弾丸によって貫き、四散させ、綺麗な炎の花を咲かせてゆく。
ガキン!ガキン!
「・・・チッ。」
どうやら撃墜に夢中になっているうちに、ハンドガンの弾丸が切れたようだ。
すぐさまFCSを操作しハンドガンをパージ。格納にある長身のブレード・・・WL14LB-ELF2を取り出す。
「ブレードは近接戦だけじゃない・・・」
カークはそう呟くと、ブレードの出力を上げてゆく。それが臨界点に達しようとしたその瞬間・・・
「喰らえ!」
紅い刀身から放たれたブレードのエネルギー波・・・光波が、目の前を通り過ぎようとするMTへと直撃する。
MTはその光波のエネルギーを丁度胴体に受け、まるでブレードに切られたかのように真っ二つになり落ちてゆく。
右腕の散弾銃は、確実かつ堅実に敵を破壊。そしてロケットによって遠くに出現するMTを破壊する。
弾が間に合わないときはブレード光波だ。このコンビネーションによって確実にMTを破壊してゆく。
そして最後にブレードを振った瞬間、終了のブザーが鳴り響いた。
「・・・終わり、か。」
『はい。お疲れ様でした。・・・いや〜、しかしブレード光波でコレを破壊する人なんてはじめて見ましたよ。』
声の主の御堂 戒は、本当に驚いているようだった。
基本的にブレード光波は牽制に使われる程度であり、主武器としては非力であったからだ。
「ではガレージへと向かう・・・ん?隣も同じトレーニングを・・・」
ガレージへと帰ろうとするカークの目に留まったのは、同じトレーニングらしきものをしている隣のドームだった。
「・・・凄いな。」
カークが感嘆の声を漏らすほど、それは凄まじかった。
浮遊MTが、出現と同時にほぼ全てが破壊されていたのだった。
絶え間なくマシンガンとEOの発射音が聞こえてくる。
これほどならばタイムランクはGold、レイヴン内でのランキングも1位だろう。
『ああ、隣のドームのレイヴンはアリーナ1位の「イツァム・ナー」さんですよ。』
「なるほどな。」
この地区のアリーナは、「テストアリーナ」と「オフィシャルアリーナ」に分かれている。
「テストアリーナ」は、その名の通りACを調整する事を目的に作られているアリーナ。
「オフィシャルアリーナ」は、アリーナランキングが上下するこの地域の公式アリーナ。
そのアリーナのトップに君臨している「女性レイヴン」が、イツァム・ナーであった。
凄まじいマシンガンの火砲と空中動作の制御に定評のあるレイヴンだ。
次々と砕け散っていく浮遊MTを横目で見つつ、カークはガレージへとその脚を歩ませる。
「…いつかアレとも、戦わないといけないのか。」
『不安ですか?』
カイが、心配そうに話しかける。
「不安?・・・不安、なのかもしれないな。だが・・・」
そしてカークはしっかりと目を開き、少しだけ見えている紅いACをしっかりと見つめる。
「俺は、勝つ。」


―ガレージ―
圧力が抜ける音がガレージに響き渡り、深緑の巨人がいつもの寝床へとその体を納める。
『お疲れ様でした。今日のトレーニング結果はすぐに転送しておきますね。』
通信パネルのみ開いている「SHOT」のコクピットで、カークはカイの話を聞いていた。
淡く光るパネルに照らされたカークの顔は、いつものように無表情であったがいくらか満足している様子だった。
「わかった。・・・ウィスティールのほうはもう終わっているのか?」
『ウィスティールさんですか?確か1時間ほど前に終わっていたと思いますよ。』
ふと・・・カークは思った。
   (あいつの実力は、どの程度のものなんだ?)
「カイ、ウィスティールのトレーニングデータを送ってくれないか?」
『え?は、はぁ・・・今転送しますね。』
カイは少し訝しげにカークに応じたが、すぐにSHOTのコクピットへとそのデータを転送してくる。
カークは転送されてきた再生プログラムを開き、『ウィスティール・クライム トレーニングデータ』をクリックする。
そしてカークは、その内容に戦慄することになる・・・


そのトレーニングプログラムは、「複数の敵に効果的な攻撃を行う」事を主目的としたトレーニング[HIT:MELEE]だった。
「さぁて、沢山壊すわよぉ〜♪」
『ははは、宜しくお願いしますね。』
ウィスティールとカイの何気ない会話からその記録は始まった。
そしてカメラに映っているのはウィスティールの機体、「フィールビット」だ。
トレーニング開始のブザーが、3度鳴り響く。
「いくわよ・・・」
一言、ウィスティールが呟くと同時にフィールビットは動き出した。
地上のゲートから出てくる筒型のMTが床を高速で滑り、移動してゆく。
と、次の瞬間そこにいるMTが「全て」爆裂四散する。
「まずは4機ね♪」
カークの目にはウィスティールが何をしたのか、まったく見えなかった。
というより、カメラがACに追いついていないのだ。時折見えるスカイブルーの機影が発砲しているのがわかる。
マシンガンの銃撃音と、ライフルの連射音・・・そう、その「音」だけはカークが聞いたことあるものであった。
しかし、彼女のACフィールビットはその高性能のカメラが捕らえきれないほど変幻自在で高速だったのだ。
カメラがやっとフィールビットを捕らえたのは、開始20秒ほど経った頃であった。既に撃破数は2桁に届こうとしている。
電光石火と先ほどの変幻自在をあわせたかのようなその動きで、敵を飛び越しつつマシンガンで破壊。
またはミサイルを発射し、ライフルで他のMTを次々と破壊したり・・・次々と敵を破壊してゆく。
「これでぇ〜〜・・・最後っ!」
ウィスティールの声と共に、フィールビットが最後のMTにマシンガンの弾を叩き込む。
爆発音と共に、撃破数が規定数に到達した事を知らせるブザーが鳴り響く。
「ふぅ〜。結構簡単ねぇ。」
『凄いですね・・・ここのアリーナのトップランカークラスの成績を初回で出すなんて。』
どうやら、かなりの成績だったようだ。この映像を見る限り・・・ウィスティールは間違いなくカークより上級者であろう。
「それじゃ、戻るわね〜。」
そのスカイブルーの四脚ACは、ガレージへと歩いていった。
そこで、再生が終わる。
「・・・これほどとは。トップランカーは伊達じゃないということか。」
カークは素直に感心していた。
性格と腕前が直結する事はあまり無いとわかってはいるが、未だに信じれない感じだった。
ここ数日での急激な変化の中、カークが見た彼女はいつもちゃらんぽらんとしているように見えており・・・
つまるところ、本当は自分より弱いのではないか・・・とさえ思っていた。
レイヴンの世界はやはりわからないことが多いのであった。
「強くなりたいな・・・」
カークは、暫く目を瞑り彼女の顔を思い浮かべた。いつも妖艶な微笑を見せている彼女を・・・
「俺は・・・絶対に超えてみせる。」
誰も聞いていない、コクピットの中。彼はさらに強い信念を持って先へと歩みだそうとしていた。
そして・・・いつものようにコクピットを開き、自分の部屋へと帰路についた。


「むぅ〜〜〜!」
カークが帰ってきた部屋には、怒っているらしいがどうみても怒っているように見えない女の子がいた。
「なんで!なんでなんで、私じゃなくてカイさんがオペレートしてるんですかぁ!」
・・・まぁ、確かにそうなのだが。リェスは頬を膨らましながら二人のレイヴンを見つめる。
「まぁまぁ、リェスちゃん。いきなりきたオペレーターが機密事項満載の部屋に入れるわけないでしょう?」
片方の女性・・・ウィスティールは諭すようにリェスに話す。一方カークは、
「フン・・・俺は別に誰でもいいんだがな。」
などと言い出し、その言葉にさらにリェスが頬を膨らませる。
ウィスティールはいつもとは違う苦笑いをうかべ、頭を掻いている。
「カークさんっ!私は一応あなたの専属オペレーターなんですよぉ!そんなこと言わないでください!」
「フン・・・」
確かに、専属オペレーターは常にレイヴンのオペレートをしているものだ。
しかし彼女が今日行った行動は、近所の散歩とウィスティールに言われた食料と生活必需品の買出し。
そして、ご近所(レイヴン)へのあいさつ回りだった。
確かに任務中にオペレーターがすることではない。
「仕方ないだろう。カイがうんと言うまではお前はオペレート出来ないんだからな。」
入社3年目のオペレーターがこんなに駄々をこねるのは普通ではないが、恐らく相手がカークだからだろう。
ウィスティールはそんなことを考えると少し微笑ましく思えた。
そうこうしている内に、リェスは「もう、いいですぅ〜〜!」とか言いながらベッドへと逃げてゆく。
カークは頭を掻きながらコップに注いでいた牛乳を飲み干す。
そして唐突にウィスティールがこう切り出した。
「カーク、夕飯作るけど・・・食べる?」
「・・・っ! っお前が飯を作るだと!?」
カークは危うく牛乳を噴きだすところであった。この遊び好きっぽい女性の口から、夕飯を作る等という言葉が出るとは。
「何よぉ〜。失礼ね。これでも結構料理は上手いのよ?」
そう言いながらリェスが買ってきたらしいエプロンを私服の上に着用し、キッチンへと向かう。
カークは自分で料理する事はほとんどなく、レトルトで済ませていたので手作り料理というのは初めてだった・・・が。
       (・・・食べれるものであってくれ。)
などとかなり失礼な事を祈りつつ、上機嫌でキッチンで夕餉の支度をしているウィスティールを見ていた。
       (こうやって見ると・・・普通の女性、だな。)
カークは先ほどの凄まじいトレーニングの内容と今の彼女の姿が交互に頭に映し出されて、少し混乱していた。
       (フン・・・俺としたことが。この女に・・・)
好意、を持ったのか?それとも尊敬?自分の感情がわからないカークは暫くぼーっとウィスティールの姿を見ていた。
「なぁに?カーク。ずーっとあたしを見て・・・エプロン姿が気に入ったのかしらん?」
その視線に気づいたウィスティールはカークにウィンクをしてきた。カークははっとしたように目をそらす。
「考え事をしていただけだ。」
等と誤魔化しながら、カークは頭を掻く。
「フン・・・くだらん。」
いつものお決まりの文句を言い放つカーク。
そして3人の生活は、ゆっくりと静かにスタートしていくのであった。



あとがき
戦闘シーン入荷しました!ですが、ビミョウですね。トレーニングだし・・・
あ、あとウィスティールがいきなり上級トレしてるのはトップランカーという実績があるからです。ハイ。
そういうことにしておいてください・・・
あとアリーナの設定も私が考えついたものです。ナーさん早速登場ですが機体だけです。
この人は後から結構絡んできます。では今日はこのへんで〜
作者:カーク・ショットさん