サイドストーリー

ナインブレイカー 〜見えるのは己の過去〜

一面に緑が広がる公園。
大きな鋼鉄の扉に遮られていたレイヤードの緑とはどこか・・・元気さが違う、そんな緑だった。
そこを散歩するカークはいつもの無表情ではあったが、どこか安らいでいるようであった。
こんなに安らいだのは何時以来だっただろうか・・・
いや、本当に安らいだ事などありはしないだろう。


記憶を失ってからの彼はレイヴンズ・アークに保護され・・・といっても保護というか隔離状態だったが・・・施設に入れられていた。
色々と検査を受け研究所内部の話などを聞かれ、ずっとその施設に缶詰だったのだ。
しかし、結局のところ記憶は戻らず・・・その後、レイヴンズ・アークが親会社の会社に入ったのだ。
俺は一体何者なんだ?あの研究施設は一体何なんだ?
何故【アーマード・コア】という言葉を俺は覚えていた?【エグザイル】とは一体何だ・・・?
その後必然的にカークは【アーマード・コア】を知る。それと同時にそれを駆る傭兵、レイヴンの事も・・・
彼は最もレイヴンと接する事のできるアリーナを観戦することにした。
レイヴンの戦いを見れば・・・アーマード・コアが戦っているのを直に見れば何か記憶を取り戻せるかもしれない。
彼はアリーナトップ同士の観戦チケットを取り、数日後にアリーナへと向かった。

『さぁて!今回のメインイベントォ!トップランカー同士の戦いッ!・・・ジノーヴィVSセレスチャル卿だぁ!』
巨大なアリーナにアナウンサーの声が響き渡る。
カークは一番前の席を取っていた。実は一番前のほうが安いのだ。
過去にアリーナで観客席にACの攻撃が直撃し、耐久力が落ちていた強化ガラスが破壊されてしまったことがある。
そしてそこにいた観客に死傷者が出てしまい、前の席のほうが安く設定されたのである。
『両者準備は万端だぁ!さぁ、伝説の男達の入場だ!』
ガレージに繋がっていると思われるAC用の扉が二つ、開く。
そこから登場したACは自らの敵をじっと見つめる。
『それでは!アリーナ最大級の戦いが・・・今、ここに開幕!』
                          【Get Ready?】
開始のブザーが鳴り響く。
                             【GO!】
弾かれたように動き出す2機のAC。その瞬間カークの心臓がドクン、と鳴った。
そして今までの周りの歓声が嘘のように耳に入らなくなる。
今、目の前で戦っているACに完全に神経が集中していた。
ジノーヴィのデュアルフェイスがグレネードを放てば、セレスチャル卿のアストロフィジックはそれを回避し的確な反撃を行う。
軋む機械の関節。放たれる火砲。そして、被弾し四散していく装甲。
デュアルフェイスはアリーナの開けたフィールドを利用し、中距離から敵をグレネードで仕留めようと動き、
片やアストロフィジックはそれをことごとく回避し、ジノーヴィに距離を取らせまいと動く。
せめぎあう2機のAC。そして・・・事が動く。
デュアルフェイスがアストロフィジックの一歩手前にグレネードを発射し、煙幕を作った。
すかさずブーストを吹かせ、一気にアストロフィジックへと肉薄するデュアルフェイス。
セレスチャル卿がジノーヴィの作戦を知るのは、事が終わってからだった。
グレネードが作り出した爆炎を突きぬけ、デュアルフェイスがブレードを作動させる。
「ダガー」と呼ばれる高威力のブレードが、アストロフィジックのジェネレーターを貫く。
如何に頑丈なACでも動力を断たれてしまっては動く事ができず、ここで試合終了のブザーが鳴り響く。
今回も王者の貫禄を見せつけ、ジノーヴィが勝利した。
しかし、カークにとってはそんなことはどうでもよかった。
その黒いACを見つめ、心臓の鼓動が高鳴るのを感じている。
自分の目にフラッシュバックのようにACのコクピットが鮮明に映る。
そこで、彼は知る。俺は・・・レイヴン、だったのかもしれない。
いや、レイヴンでは無くとも彼は何らかのAC乗りだったのだろう。
これが、彼がレイヴンになろうと思った出来事であった。

それから1ヶ月彼は徹底的にレイヴンの事を調べた。
レイヴンズ・アーク。クレストやミラージュといった大手企業。そしてアリーナ。
あらゆるレイヴンに関する事を調べ上げ、彼はレイヴンになるための勉強をした。
そしてついにレイヴンズ・アークのレイヴン試験へとこじつける。
筆記試験はごく簡単なレイヴンズ・アークの歴史や、レイヤードの歴史であった。
ここは難なくパスをし面接を経て、ついに実技試験へと進む。

輸送機のブリーフィングルームでアークの制服を着た男と、受験者の二人が立っていた。
「ようこそ。私は今回あなた方の実技試験の担当試験官です。宜しくお願いいたします。」
男は挨拶を済まし、簡単な試験内容を話しだす。
「試験の内容は、この未踏査地区近辺の市街を占拠したテロリストのMT部隊の殲滅です。」
テーブルにあるマップを示しながら試験官は話を進める。
「我々が用意した基本的装備の施されたACに搭乗し、敵を殲滅してもらいます。全敵勢力を殲滅したところで試験終了です。」
「これがコードキーです。これを使ってACを起動させ、スタンバイを行ってください。試験は15分後に開始予定です。」
試験官はカード型のキーを手渡すと、すぐにブリーフィングルームを出た。
カークもそれに続いてブリーフィングルームを出ようとすると、もう一人の受験者が話しかけてくる。
「よォ。一緒にいかねぇか?」
「・・・ああ。」
カークが素っ気無い返事をしたのが気に入らなかったのか、少し気分を害したようだったがカークは気にせず部屋を出る。
受験者は色々と話してきたがカークは「そうか。」とか「ああ。」などと生返事をするだけで、次第に会話が無くなっていった。
カーク自身も記憶を失っているためか少し無口だったため、否応無しにこういう答えになってしまうのだった。
そうこうしている内にガレージへと着き、各々のACへと乗り込む。
カードキーを差し込み、コードが入力される。立ち上がる基本OS。
次々と光が点灯していき、機械に命が吹き込まれていく。
そして、ACの機動モードを待機から通常へと変更する。こうすることによってACははじめて動けるのだ。
すると、唐突にそのモードが戦闘モードへと変更される。
『それでは試験を開始致します。』
試験官の声が聞こえたと同時に、輸送機のガレージが開く。隣を見ると先ほどの男が乗っているらしいACが立っていた。
そして足を踏み出した。何も無い空へと。
自由落下する鉄の巨人2体は次々に雲をすり抜け地上へと迫る。
しかし、このままでは流石のACも地上と激突し爆発してしまうだろう。
カークはまず、ブーストを少しずつふかしてみる。
そして次にレーダー機能を見る。そこには敵軍と見られる光点が数機映っていた。
「・・・・・・・」
カークは自分の鼓動が早くなっていくのに気づく。そう、アリーナの時のフラッシュバックが今ここにあるのだ。
そして、巨人は地面へと足をついた。

『ACが・・・!迎撃しろォ!』
『クソッ!2機も来るなんて・・・だから俺はやめようって言ったんだ!』
『グズグズ抜かすな!さっさとやっちまうんだよ!』
どうやら敵方の通信機器はあまり性能が高くないらしい。会話は筒抜けだった。
とりあえずACを歩かせ、MTを索敵する。そして交差点に差し掛かったところで・・・
『喰らえぇぇ!』
通信からこの声が聞こえた瞬間、カークは自らの機体を元いた方向へブーストを使いスライドさせる。
そしてACの目の前をロケット弾が通り過ぎてゆく。対AC用らしいロケット弾はそれなりに脅威だ。
沢山喰らえばACだろうと危険に陥るため、一旦様子を見る。
『かわされた!?・・・ならァ!』
一機のMTが、交差点へと踊りだしてくる。カークは静かに、冷静に、的確に敵を見、ブレードを作動させる。
『なっ・・・』
これがそのMTパイロットの最後の言葉だった。
ブレードから発生したエネルギーがMTの装甲とぶつかる。MTの装甲は簡単にブレードに切断されていった。
MTの内部は抉られ、ブレードの熱量によって沸騰する装甲。そしてカークが少し下がってから、爆発する。
「まずは・・・一機目・・・ !?」
カークは背筋がぞくりとする感覚に襲われ、ビルの影に隠れる。そしてカークが元居た場所に「ミサイル」が着弾する。
確か敵MTの装備は、「ロケット」と「マシンガン」だったはず・・・
『はっはァ・・・かわしやがったかァ・・・』
通信が入る。こいつは・・・俺と同じ、レイヴン試験の受験者の声?
『レイヴンってのはなァ・・・蹴落とさないと上にあがれネェんだよ。今ここで・・・最初に、お前を蹴落としてやるぜェ!!』
そういってライフルを連射し、ブーストをかけてこちらに迫ってくるもう1機のAC。
どうやらそいつは既に他のMTを破壊していたらしく、レーダーの光点はそいつのものしかなかった。
カークはすぐにACを反転させ、ライフルだけビルの角から出し応戦する。
『てめぇはきにいらねぇんだよ!ここで・・・死ねェ!』
耳障りな通信が入るがカークには既に聞こえていなかった。
あのアリーナの時のように・・・ACに完全に集中しているのだ。
自分がどう動けば敵を倒せるのか。
自分がどう戦えば敵に負けないのか。
カークの鼓動は速くなってゆく・・・

「ちィィ!何故だァッ!何故当たらないッ!」
男はあせっていた。
MT相手とAC相手はわけが違うとわかってはいた。しかし、相手も初心者のはずだ。
大して強くは無いだろうと思っていた。しかし・・・
この男は何かが違う。
「ッッ!クソッタレがぁああァァ!」
男は痺れを切らしたようにACを前進させる。
その先に、死が待っているのにも関わらず。

「来たか。」
相手のACがこちらに向かってくる。
レーダーも、手に持っているライフルも、ブレードも全て万全の状態だ。
自らの手足のようにそれらを操れる。
そして、次の瞬間ACの無機質な目が合う。
カークはあらかじめロックしておいたミサイルを「頭部」へと放つ。
四散するACの頭部。相手方のコクピットは今頃ブラックアウトしているだろう。
だが、なおライフルをこちらに向けようとしている。
次の瞬間、ブレードが敵のコアを貫く。
寸分の狂いも無く、コクピットブロックを。
そして、相手のACは完全に沈黙する・・・

『ご苦労様でした。帰還してください。「レイヴン」』
通常モードへと変更されたACを歩かせ、輸送機へと向かう。
「・・・いいのか?俺は受験者を殺したんだぞ?」
カークは正直落とされると思っていた。あちらから仕掛けてきたとはいえ受験者を殺したのだ。
『構いません。レイヴンは強き者がなるものです。彼はここまでの男だったということですから。』
「・・・そうか。」
論理的に言えばそうだろうが、ここまで冷淡とは。
そして今頃実感が沸いてきた。どんな状況でも・・・自らの敵を倒す。それがレイヴンであった。
「・・・俺は・・・レイヴンになったんだな。」
カークは一言そう呟くと、輸送機へとACを乗り込ませた。


カークは公園のベンチに座っていた。緑に囲まれたその場所は、とても気持ちがよかった。
太陽の日差しに照らされたその場所は、カークが見つけたいわば「お気に入り」の場所だった。
少々お転婆のリェス。そしていつも悪戯してくるウィスティール(こちらはこの頃見る目が変わったが)。
この二人には「散歩してくる。」としか言っておらず、この場所も教えていないため邪魔はされない。
「ふう・・・」
ベンチでこの静かなひと時を楽しんでいるカークは、人が近づいてくるのに気づいた。
「カークさんじゃないですか。」
横を向くと、そこにカイがいた。
「・・・」
「確かトレーニングの前にも瞑想してましたね。静かなところが好きなんですか?」
カイはいつもの笑顔を見せながらベンチへと座る。
「・・・ああ。」
カークは必要な言葉を一言言うと、また静かな時を楽しもうとする。
カイもどうやらカークの意図がわかったらしく、同じように静かな時を楽しむ。
「・・・」
「・・・」
カークはこのように静かな時間を共有する友人は一人もいなかった。
少し経って・・・今度は、カークから話しかけた。
「カイ。お前達はどうしてAIを作っているんだ?」
カイは少し驚いたようにカークを見た。
そして、心に秘めた彼なりの「信念」を話し出す。
「私達は・・・もう、人が死ぬのを見たくないんです。」
「AIなら、我々がMTに乗って戦わなくても済むでしょう?危険な作業もAIでこなす事ができる。」
ここでカークは確信した。彼らは管理者を作るような人達では無いと。
「そうか・・・。変な事を聞いてすまなかったな。」
「いえ。いいですよ。」
会話が終わった後、彼らはまた静かな時間を共有する。
その十分後にウィスティールに見つかり、カークはまたため息をつくことになるのだが・・・

あとがき
カークがレイヴンになったきっかけのお話です。
ちなみにこの公園の名前は「フレイ公園」です。(ぇ
作者:カーク・ショットさん