サイドストーリー

ナインブレイカー 〜女神の微笑み 戦神の言葉〜

Out Town特別治療総合病院

ここはOut Townの中でももっとも大きい医療施設。ケガをしたレイヴン達がよく運び込まれる病院だ。
今日もいつものように、アリーナから救急車が特急で滑り込んでくる。
それに乗っている関係者は、4人。
一人は治療を必要としているカーク・ショット。
一人は治療を受けようとする者の対戦相手だったイツァム・ナー。
一人は治療を受けようとする者のオペレーターリェス・アーランド。
一人は治療を受けようとする者を助けたウィスティール・クライム。
各々はこの事件について思案を巡らせつつ、カークの心配をしているのだった。

ナーは自らの対戦相手が謎の力を持っており、事実としてそれに圧倒されたということ。
リェスは自らオペレーティングしたにも関わらずこういった暴走が起こったということ。
ウィスティールはカークがその「力」に飲まれたのか、飲まれていないのかということ。

ナーはあらゆる戦闘技術及び医療技術等の資格を持っていたので、医師の補佐を。
リェスは自らのデバイスからカークのデータを引き出し、治療に必要な情報を医師へと伝える。
ウィスティールはカークの手をしっかり握っている。

「・・・外傷はあまりないですから大丈夫かと思います。」
応急処置を終えた医師が、三人に話す。
「受けたGの影響も、それほど大きくは無いですから。」
「「よかった・・・」」
リェスとウィスティールは医師の言葉を聞いて安堵の言葉を漏らす。
ナーはというと、救急車の壁に寄りかかり腕組みをしてカークをじっと見つめていた。
「あ・・・病院に着いたみたいですね。降ろしますので少し下がってください。」
車が止まり、病院の医師がカークを担架で降ろし奥へとつれてゆく。
「待合室でお待ちください。連絡を入れますので・・・リェス・アーランドさん。」
「はい・・・お願いします。」
救急車に乗っていた医師も、カークを追い救急車を出る。
カークが運び出された後、三人の女性は待合室へと向かう。
「・・・あいつは一体何者なのだ?あの動き、人間では・・・」
待合室までの道のりで最初に話をしたのは、イツァム・ナーだった。
どことなくカークと同じような、無表情・無感情な感じをうける女性だ。
「カークさんは、カークさんです。」
リェスがナーの言葉を遮り言い返す。カークが化け物のように言われたのが腹立たしかったのだろう。
「・・・そうか。」
ナーはリェスの心中を察したのか、それだけ言うとまた口を閉ざす。
待合室は広く、人もまばらだった。この治安がいい街では大怪我をする人は少ないようだ。
三人は待合室に設置されている大きなソファーに座り、アナウンスを待つ。
「・・・ナーさんはなんでついてきたんですか。」
リェスは少しトゲのある口調でナーに話しかける。先ほどの言葉でよっぽど怒ったようだった。
「私が対戦した相手でこのような事になったのは初めてだったからな。理由はそれくらいだ。」
ナーは自らの感情を押し殺し、それなりにうなずける言葉を出す。
実際は自らを超える力を持つ男に興味を持ったから・・・というのが、本当の理由だった。
ややあって、病院アナウンスが待合室に流れる。
『リェス・アーランド様。リェス・アーランド様。第5診察室へとおいでください。』
「いきましょう」というリェスの言葉よりも早く、ウィスティールは第5診察室へと駆け出していった。

第5診察室

「体に特に異常は見当たりません。Gによる影響も少なく、もう数十分で目を覚ますでしょう。」
医師の言葉に、三人はそれぞれ安堵の表情を浮かべる。そこに医師がもう一言付け加える。
「しかし、戦闘の映像を見ましたがかなり危険な動きをしています。数日の入院をしてもらいますよ。」
「そう・・・ですか。わかりました。」
「では、病室へと移します。よろしいですね?」

第1病室

カークはレイヴンであったために個室を用意された。
これはカイが連絡を入れてくれたおかげらしく、入り口に近い病室だった。
「「「・・・」」」
なんとも微妙で嫌な空気である。カークが起きるまではこの静寂は打ち砕かれないだろう。
ウィスティールはカークの手を握り、リェスはその横でカークが起きるのをじっと待っている。
ナーはというと救急車のときと同じように目を瞑り、腕組みをして壁に寄りかかっていた。
「・・・ッ・・・ぅ・・・」
そこでカークに変化が起こった。たちまちウィスティールは顔を輝かせてカークを見る。
「・・・う・・・・・ここは・・・病院か?」
「カーク!!」
ウィスティールはカークを抱きしめ、涙を流す。
カークはそれを拒まず、むしろ抱き返していた。
「ウィスティール・・・すまなかった・・・」
いつものカークとは思えない行動・言動にリェスは戸惑いながらも、カークが意識を取り戻した事に安心する。
カークは壁に寄りかかっている女性を見る。
「あんたが・・・イツァム・ナーか?」
「そうだ。」
ナーは簡潔に答え、カークへと詰め寄る。
「聞きたい事が一つある。・・・貴様は一体何者だ?」
「ナーさん!やめてください!」
リェスが制しようとするも、それをカーク自らがとめる。そして・・・
「俺の中には、どうやらもう一人の俺がいるらしい。」
あのときの声。エグザイルと名乗った声。
「それの名は・・・エグザイル、というらしい。」


カークは、自らに起こった事を淡々と三人に話す。
ナーに追い詰められ、マシンガンを突きつけられた時に見た記憶。
自らを殺戮者といい、管理者直属の者といい、そしてそれをカーク自身だと言い放った【エグザイル】。
自分自身でコントロールがきかない。いや、破壊を自ら求めていたという自分の事。
カークが話し終った時、ナーが口を開く。
「私は強化人間手術というものを受けている。手術の段階は浅いものだがな。」
強化人間とは、人間自身を強化することにより武器反動等を意に介さず強力な武器を使えるといった特殊な人間の事である。
「程度の低い手術とはいえ、お前のそれは私を圧倒的に超えていた。クライムが止めに入らなければ死んでいただろう。」
「エグザイルとは・・・お前とは、一体何者なんだ・・・」
ナーは、どうやらその圧倒的な力に畏怖と尊敬の二つの感情を抱いているようだった。
「俺にも、わからない。」
「・・・・今日は、帰る。必ず復帰するんだぞ・・・カーク。」
そう言葉を残し、ナーは病室を出る。
「・・・フン。」
その後、リェスも事後処理がある、と言い残して病室を出ていった。

必然的に病室はカークとウィスティールの二人きりになる。
いつもは悪戯してくるウィスティールだが、先ほどから俯いたままずっとカークの手を握っている。
カークもGの影響か体をうまく動かせないために、天井を見つめていた。
「・・・配・・したんだから・・」
ウィスティールが、何か声を漏らした。
「・・・何だって?」
カークはその言葉を聞き取れずに、ウィスティールに聞き返す。
「心配、したんだから・・・」
ウィスティールは泣きじゃくりながらその一言をカークへとぶつける。
そしてカークは思い出す。自分を止めてくれたのは、この女性だったということを。
自分を破壊と殺戮の使徒から「カーク・ショット」へと引き戻してくれたのは・・・このウィスティール・クライムだったということを。
今まで、ずっと自分を励まそうと手を握ってくれていたのは…彼女だということを・・・

「・・・ぐッ・・・く・・・」
カークは自らの体を引き起こし、ウィスティールへと体を向ける。
「・・・ウィスティール。こっちを向いてくれないか。」
泣きじゃくるウィスティールは言われるがままにカークのほうを向く。
カークは、真っ直ぐウィスティールの双眸を見つめる。
「礼を、言っていなかったな。・・・俺を止めてくれてありがとう。」
カークはそう言うとウィスティールを今出せる渾身の力を込めて・・・抱きしめた。
「・・・カーク・・・」
恐らく誰もが言うだろう。それは一時の感情だと。しかしカークにはそうは思えなかった。
二人の顔が、唇が接近してゆく。カークもいつものようには拒まず、受け入れようとしていた・・・その時。

「カァァァクさあぁぁぁあん!大丈夫ですっ・・・か・・・!?」

まさに最高のタイミングである。この男はこういった才能に溢れているのか・・・
カークとウィスティールは慌てて顔を離し、ウィスティールはカイにこわばった笑顔を向けた。
カークはというと急激に動いて体が痛いのか、ベッドの上でうめいていた。
「・・・ッ カ、カイ。何か、用か?」
ベッドの上でもがいているカークはなんとか言葉を搾り出し、カイへと質問する。
「あ、いえ・・・カークさんが入院するって聞いてとりあえず見舞いにきておこうと・・・お邪魔みたいなので・・・」
カイは素早く持っていた果物カゴをテーブルへと置き、まるでバックブースターを使ったように扉へ下がっていく。
「お、おい・・ちょっとまっ」
「お大事に〜〜〜!」
カイの足音がどんどん遠くなっていく。
「〜〜〜〜ッ!」
カークは頭を掻き、ウィスティールは苦笑する。
「・・・よく、勘違いするヤツだ・・・」
「あら・・・カイくんは本当に勘違いしたのかしら?」
カークの言葉に、ウィスティールはいつもの笑顔を向ける。
しっかと見つめられたカークは、その瞳に引き込まれそうになる。
「フン。・・・・・・・・お前の言うとおりかもしれないな。」
ぽつりとこぼした一言を、ウィスティールは聞き逃さなかった。
「カ〜〜〜ク〜〜〜♪」
「ッッ!!けが人に飛びつくな!」
そうやって悪戯してくるウィスティールの相手をしながら、今までの殺伐とした自分の人生を振り返る。

                    ・・・こういったものもいいのかもしれない、な・・・

                 『ああ、そうだ。これが貴様の・・・そして俺の【過去】だ。』
 
                    俺の過去は血塗られたものだとするなら・・・

                      『さぁ・・・その力を解放しろよ。』

                     奴が・・・俺の中の「エグザイル」が微笑む。

                         『なぁ・・・【俺】よ。』

「ウィスティール・・・」
カークは決意した。
この女性をも守れる強さを持とうと。
俺は・・・もう、殺戮者には、戻らない。
「なぁに?」
下から見上げるようにカークの顔を覗き込む彼女の顔を、愛しげに撫でる。
カークの最後の言葉は、開かれた窓から吹き込む風によって我々には聞こえなかった。


あとがき
ふう・・・アリーナ対戦のお話完結ぅ!
ついに結ばれましたね・・・カイとウィスティール。いや、まぁまだ暫定ではあるんですが!
リェス「・・・」
うっ・・・
リェス「・・・」
・・・・・・では、また次回ィィーーーーーー!
リェス「・・・」
・・・・(汗
作者:カーク・ショットさん