サイドストーリー

地上編第十話 強き者
[ミラージュ社とキサラギ社大規模武力衝突か]

先日、環境整備地区にてミラージュとキサラギ部隊との大規模な戦闘が発生した。ミラージュはこの襲撃の情報を独自のルートで入手しキサラギの部隊に大損害を与えるも、クレストのゲート管理施設を襲撃したとされる謎の戦艦がキサラギを援護、全滅には至らなかった。この事件をきっかけにミラージュは謎の戦艦をキサラギの新兵器であると断定し、前のクレスト襲撃事件も含めた責任を追及していく構えである。また、この件に関してミラージュはクレストと共同して武力制裁を与える、とまで言い放ったが、クレストからの明確な返事は返ってきておらず、世界中の緊迫した空気が流れている。仮にクレストがミラージュと手を結んだとしたらキサラギの崩壊はそう遠くはないだろう。

ヨシュア
「これに、、、これだと、、、機動性が下がるな、、、」

ファン
「いよ〜ヨシュアちゃん!!調子はどうだい!!」

ヨシュア
「ファン、、、『ちゃん』はやめろ、、、また整備班に笑われる。」

ファン
「人の目なんか気にすんなって!!」

ヨシュア
「いつにも増して上機嫌だな?なにかいいことでもあったのか?」

ファン
「いや〜明日はデートでよぉ!!一週間頼み込んでやっとOK貰ったんだよ!!わかる!?このオレの気持ちがさぁ!!」

ヨシュア
「いい歳して何がデートだ、、、」

ファン
「バカ野郎!!いい歳だから焦ってんだろうよ、、、もうすぐオレも三十、、、身を固めなきゃと思ってよぉ、、、」

ヨシュア
「焦ってる人間には見えなかったがな?」

ファン
「ときめきはいつになっても色褪せるもんじゃねぇんだよ、、、で、お前はいい人いねぇのか?」

ヨシュア
「いない。それがどうした。」

ファン
「寂しい生活送ってんな、、、作っといたほうがいいぜ?彼女ぐらいはよ。」

ヨシュア
「その気になれないだけだ。何か、大切な人がいた気がするんだ、、、」

ファン
「ってもなぁ、、、もう生きてはいねぇだろう?」

ヨシュア
「、、、、、、、、、」

ファン
「あっ、、、悪い、、、」

ヨシュア
「いや、別に気にしてないさ、、、」

ファン
「そっか、、、で、AC作りの方は進んでんのか?」

ヨシュア
「最後の詰めといったところか。パーツの変化に最初は戸惑ったがな。」

ファン
「ま〜、んなこと言われてもオレにゃさっぱりわかんねえけど。」

ヨシュア
「、、、じゃあ聞くなよ、、、」

ファン
「コミニケーション、コミニケーション♪」

ヨシュア
「コミュニケーション、だ。」

ファン
「言葉なんか意味が伝わりゃどうでもいいんだよ。」

ヨシュア
「歴史以外のことになると途端にこれか、、、」

ファン
「頭でっかちは人生損するぜ?」

ヨシュア
「言ってろ、、、よし、出来た。」

ファン
「完成か?黒、っつーか、鴉色か?喋りながらよく出来んな?」

ヨシュア
「安心しろ。思考の80%はこっちに集中していた。」

ファン
「、、、おい。」

ヨシュア
「さて、名前はどうしたものか、、、」

ファン
「オレに任せな。」

ヨシュア
「お前に?」

ファン
「そうだな、、、【フォルティスト】なんてどうだ?」

ヨシュア
「【フォルティスト】、、、」

ファン
「音楽でフォルテっていう記号があってな、それは『強く』って言う意味合いがあるんだが、そこから取って、強き者【フォルティスト】だ。」

ヨシュア
「いい、名前だな。」

ファン
「だろぉ?」

ヨシュア
「お前、歴史以外にもシリアスになれたんだな。」

ファン
「うるせえ!!」

ヨシュア
「はははは、、、怒るなよ。」

ファン
「フン!!で、今日からレイブン家業活動開始か?」

ヨシュア
「ああ。今のところそれしかできないし、さっさとあの狭い部屋を出たいしな。」

ファン
「てめぇ!!!」

ヨシュア
「悪い!悪かったって、、、」



―新規登録―

レイブンネーム 『カラミティ・スター』

ACネーム 【フォルティスト】

備考
T;本名 ヨシュア=ユーティライネン。新人には似つかわしくない実力あり。
U;全シティを検索するも該当名は発見されず。詳細不明
V;過去にレイブンをやっていたという証言を得るも、確証はとれず。
W;その戦闘能力の高さから、試験的にOP−INTENSIFYを与える。適正あり。
X;イレギュラーの可能性あり。監視の必要ありと判断。



???
「ほう、、、ヨシュア、か、、、く、くくく、、、はっはっはっはっは!!!!取り戻すのが遅すぎたなぁ?ラゴウ、、、」



キサラギ第6大隊駐屯地



グナー
「これで項78から項130までは修復が完了しました。」

イーガル
「残りは、、、204項か。面倒だのう、、、」

グナー
「修復作業さぼって爆発させますか?」

イーガル
「冗談じゃよ。そういえば、今日からリア君が戻ってくるそうだな?」

グナー
「リア・クリスティーですか?はい。付き添おうにもその対象が行方をくらませましたから。」

イーガル
「キツイ物言いをする、、、そんなに憎いかね?ラゴウくんと、彼に連なる者達のことが。」

グナー
「私情ですので。お答えする義務はないかと。」

イーガル
「ハァ、、、」

通信士
「艦長、補充要員が到着しました。」

イーガル
「ああ、わかった。」



決死の探索にも関わらず見つけることはできなかった。今の彼は別人になっていることなど知る由もない。
捜索中ずっと人と歴史について語り合っていたことなどわかるはずもない。だが、彼女は強かった。



リア
「お久しぶりです!!イーガル艦長!!」

イーガル
「リア、君?」

リア
「何か?」

イーガル
「いや、その、、、」

リア
「ラゴウのことなら大丈夫です。きっと、帰ってきます。」

イーガル
「、、、無茶はするんじゃないぞ。」

リア
「え?」

イーガル
「でなければ、自分のACなんぞ持ち込みはせんだろうからの。」

リア
「、、、、、」

イーガル
「手がかりがあったら、いつでも飛び出していきなさい。君は軍人じゃない。」

リア
「は、、、い、、、、」



あくまで人並みにだけれど、彼女は紛れもなく、強かった、、、

そして一週間後のこと、



[ミラージュ基地攻略支援]
依頼主;クレスト

契約料 15000C
成功報酬 60000C

我々は近くミラージュに対する一大攻勢を画策している。
その前哨戦として、先日キサラギの部隊と戦闘が起きた環境整備地区にある前線基地を攻撃してもらいたい。
敵戦力は先日の戦闘で消耗しているはずだ。我々の本隊が到着するまでの間持ち堪えることが成功条件となる。
では、よろしく頼む。



ヨシュア
「大金だな。」

ファン
「そのかわり危険度はSランクってところか、、、」

ヨシュア
「命を張らないレイブンなんか、必要とされないさ。」

ファン
「やれやれ、、、鴉は生きてるヤツは食わねえぞ?」

ヨシュア
「俺たちは鴉じゃない、『レイブン』だ。」

ファン
「好きにしろ。ったく、、、」







パイロット
『これよりACを投下する。準備はいいな?』

ヨシュア
「頼む。」

パイロット
『幸運を。』



ガシュン



ビーー ビーー ビーー!!



ミラージュ警備兵
「な?何事だ!!」

ミラージュ管制員
『上空よりACの接近を確認。至急迎撃されたし!!』

ヨシュア
「さぁ、精々慌ててくれよ!!」



ドゴォォォン!!!

サイレンを鳴らし続ける管制塔が轟音とともに静かになったのはその一言とほぼ同時だった。
直上からグレネードの直撃を受けたそれは既に『塔』ではなくなっていた。



ミラージュ部隊長
『総員搭乗!!急げぇ!!』

ミラージュ部隊員
「くそっ!!またキサラギの連中か!?」

ミラージュ部隊員
『好きにさせてたまるかよ!!』



次々と起動していくMT、たまたま先頭にいた彼は運が悪かった。

ドゴォォォン!!!

二発目の火球が先頭にいたMTを巻き込み、格納庫に飛び込んだ。



ミラージュ部隊員
『うっ、な、ギャァァァァァ!!!』

ミラージュ通信士
「第三格納庫炎上!!」

指揮官
「チッ!!手慣れだな、、、[マリオネット]!!」

ソウゲツ
『ソウゲツだってば。もう待機してますよ。』

指揮官
「フン、明日移送だったらしいが運が悪かったな。出てもらうぞ。」

ソウゲツ
『ハイハイ。出ろって言われりゃ出てって殺すだけですよ〜だ。』

指揮官
「わかったならさっさと行け。」

ソウゲツ
『、、、チッ、[マリオネット]、【アルテミス】出すぞ。』



黒いACとMTが踊っている。ダンスと一つ違うのは、MTが次々と動かなくなっているだけだ。
コクピットに穴を空けられたもの、胴体が二つになったもの、黒焦げになって原型を留めていないもの、一つ、また一つと棺桶が増えていった。



ミラージュ部隊員
「捕らえ、、、」



ドシュ!!

ロックできたのは実力じゃない、ただ接近していただけ。そう気づいた時、彼の体は既に蒸発していた。
接近と同時にブレードでコクピットを貫き、死んだMTを盾にライフルが前方の3機のMTの時間を奪う。永遠に。



ミラージュ部隊員
『よくもショーンを!!』

ヨシュア
「軍人がそういうセリフを吐くんじゃないよ。」



怒りに燃える一機のMT、しかし、彼をあざ笑うかのように漆黒の凶鳥は苦もなくMTの四肢を奪った。
そして凶鳥は空へ舞い上がった。手には動けぬMTを持って。



ミラージュ部隊員
『くっ!!貴様、どういうつもりだ!!』

ヨシュア
「こういうつもりさ。」



そう言い放つと手に持ったMTを地上へ、、、落とした。



ミラージュ部隊員
「な!?」

ミラージュ部隊長
「いかん、受け止めるぞ!!他の者は迎撃を!!」



正義感に駆られた数機のMTが落下予測地点へと移動を開始した。だが、



ヨシュア
「救えぬ命までもと、欲張るからこうなる!!」



四肢のないMTを追う様にして、火球が放たれた。



ミラージュ部隊員
「ひ、、、うわあああああ!!」

ミラージュ部隊員
「なっ、、、、」



ドゴオオオオオオオン!!!!

慈悲鳴き一撃は悲鳴と共に5機のMTを同時に薙ぎ払った。



ヨシュア
「弱い、、、こんなにも弱くなったのか、、、」



ビー ビー ビー



ヨシュア
「ロックオンアラーム!!」



ドシュゥゥゥ!!



ヨシュア
「チィ!!」



自然落下に身を任せその攻撃をかわすと、ヨシュアは迷うことなくMTの群れの中にその身を投じた。



ヨシュア
「レイブンの戦い方を見せてやるよ、、、」

ソウゲツ
「かわされたのはわかるけど、、、何考えてんだ?ま、いっか。様子見様子見。」

ヨシュア
「群れるだけじゃ倒せんぞ!!」



本来周囲360度を敵に囲まれるのは絶望的な状況を意味する。
しかし、彼は逆に360度を囲ませることで同士討ちを誘発し、敵の攻撃を最小限に抑えていた。
これが常に戦場に身を置き、その中で生き抜き、自らの技量を高めていったレイブンの戦い方であった。
集団戦闘を常とし、自分一人で生き残るということを考えもできない企業の部隊との差でもあった。



ミラージュ部隊員
「なぜ、、、だ、、、来るなぁぁガッ!!」



そしてまた一人、肉体を失った。



ヨシュア
「そろそろか、、、捕らえた!!そこ!!」

ソウゲツ
「マズッ!!」



あくまで敵の攻撃を避けるために見せかけ、建物の陰に入る。そこには様子を伺っていたアルテミスが呆然と立っていた。



ヨシュア
「ハハハ!!こうも思い通りかよ?」

ソウゲツ
「なんだ、、、って、、、クソ!!つえぇ!!」



狩猟の女神とも呼ばれるアルテミスの攻撃も、漆黒の凶鳥には当たらない。



ヨシュア
「少しはできるな、、、強化人間の類らしいが、そんなんじゃ力に踊らされているだけだ、、、」



攻撃を避けながらいとも容易く懐に入り込む漆黒の凶鳥。斬撃を警戒したアルテミスがエネルギーシールドを展開する。
しかし、襲い掛かったのはブレードではなく、AC自身だった。



ソウゲツ
「グハァッ!!体当たりだと!?」

ヨシュア
「読みが浅いな、、、40点といったところか。」



全くの意表を衝かれ次の動作が遅れた。そのことにソウゲツが気づいたとき、既に月の女神は鴉に捕らえられていた。

ギギギ、、、メキ、、、

耐久限界を超えた圧力により装甲が軋み、悲鳴を上げる。



ソウゲツ
『撃てよ、、、なんで撃たない!?』

ヨシュア
「俺としてはそれでもいいんだがな、時間だ。」

ソウゲツ
『何、、、?』



ドドドドドオオン!!!!!



ソウゲツ
『なっ!?』

ヨシュア
「俺の仕事は時間稼ぎだ。殲滅じゃない。時間外労働なんて真っ平ごめんだしな。」

ソウゲツ
『ぐっ、、、』

ヨシュア
「拾った命だ。大切にするんだな。」

ソウゲツ
『まっ、、、』



ゴオオオオウ!!!!



ソウゲツ
「クソ、、、このままで、終わるかよ、、、」



変わらぬ力、しかし、以前の彼とは比較にならないだろう。それは命を奪う覚悟故か、それとも守るべきものを失った人間だけが持ち得る力か。
消える命を惜しむかのように燃え盛る戦場を振り返ることもせず、漆黒の凶鳥は自分を知る唯一の人がいる街へと帰っていった。








第十一話へ続く








あとがき

まとめて更新という形になりましたが、私としてはこまめに更新していきたかったんです。え?ほ、本当ですとも、、、
作者:ミストさん