サイドストーリー

ナインブレイカー 〜心〜

第2エキシビジョン・アリーナ

『さぁ!本日3回戦目のエキシビジョンアリーナの開幕ですッ!』

『そしてー・・・これが!この試合が!恐らく観客の皆様全員の目的でしょう!』

『今やこのアリーナを見るものにとって知らない人はいない・・・』

『深緑の狂戦士・・・『ブレッド・レイン』カーク・ショットだぁぁぁぁ!!!』

「深緑の狂戦士か・・・フン。」

自らの戦いをまったく覚えていないカークにとって、この評判はあまりピンとこない。
しかし、「SHOT」を見る限り相当な物だったのだろうとは思っていた。

『カークさん、コレはあまり気にしないように。』
「ああ・・・」

『そしてぇ!その狂戦士に相対するのはー・・・』

『その狂戦士を止め、命の危機に瀕した彼を救った女神!ウィスティィィル・クライム!!!』

「・・・・・・」

『命を救われ、そして命を救った者同士の戦い!今・・・愛するもの同士の戦いが始まる!!』

『・・・』
「・・・」

                   【Get Ready?】

                       【Go!】

新しい相棒を駆り、カークは同じく武装を一新した「フィールビット」へと向かう。
そこに、リェスから通信が入る。
『今回の対戦の目的は、両機の性能を確かめるテストバトルです。あまり無理をしないように。』
「わかっている。」
カークは業務的にも聞こえる言葉を返し、「SHOT」から移植したOSを確かめる。
さらに、今まで積み上げてきた戦闘データを展開させOS機能を向上させる。
通常のOSと戦闘データをリンクさせることにより、効率的なEN変換と機能制御を行うことができる。
「・・・よし。OSとバトルデータリンク完了・・・滑り出しは上々だ。」
『カ〜ク〜。そっちの調子はどう?』
「それなり、だ。」
カークは今から戦う相手へと答える。
『提案があるんだけど・・・』


リェスはまたも頬を膨らませていた。
しかしそれを見ているのはカイだけで画面の向こう側の二人には見えていなかった。
「はぁ・・・なんでこうなるのやら。」
カイは珍しくため息をつく。
その理由は、ウィスティールがカークに言った「提案」だった。
『もし貴方が勝ったら、あたしがその機の開発費を全部出すわ。』
これが、カークが勝った場合の話。そして・・・
『あたしが勝ったら、明日あたしとデートしてもらうわ!』
問題はコレである。
いかにカークとウィスティールがそういう関係だとはいえ、こうも皆の前で言われてはカークも頭をかくしかない。
カイは呆れ、他の通信のスタッフ達もくすくす笑っている。
「・・・」
『・・・リェス。』
「・・・なんですか。」
口を膨らませながら、リェスは通信する。
『俺の今の財布の状況はとてもキツいものがある。』
「そうですか。」
いつもとは違う無機質な言葉を返すリェス。
『・・・とりあえず、勝つために・・・オペレートしてくれ。』
「・・・」
カークが制式にオペレートを頼んできたのは、これが初めてだった。
「・・・わかりました。」
リェスの顔は膨らんでいるものから、いつもの顔へと変化してゆく。
『頼むぞ。』
「絶 対 に! 勝ってくださいね!」
『・・・わかった。』


2機のACは開幕、FCS(ファイア・コントロール・システム)の設定を行うためにそれぞれ軽く射撃を行った。
「BUSTER」はマシンガンを。「フィールビット」はミサイルに替わりに搭載したレールガンを。
レールガンは恐ろしく弾速が早く、しかも着弾時の発熱量がこれまた恐ろしく高い。
試射なのだがBUSTERは必死にOBを使い逃げ回っていた。
『じゃぁ、そろそろ・・・』
その言葉と共に、二人にスイッチが入る。
BUSTERは既に作動させていたOBを使い、フィールビットへと迫る。
FCSを変更しロケットを作動させて砲撃する。
それを難なく回避し、左腕のスナイパーライフルをBUSTERに向け2連射するフィールビットだが・・・
OBでそのまま離脱するカークを捉えきれず弾は空中へとそれてゆく。
次の瞬間、レールガンのチャージ音とターゲット警告音がBUSTERのコクピット内に響き渡る。
『カークさん!右にブーストしてください!』
「・・・!」
緑色のEN弾がBUSTERの肩を掠める。後数秒判断が遅れていればコアに直撃し、熱暴走を起こしていただろう。
回避した先から、さらにOBを使いフィールビットの死角へと回り込む。
『!?』
ウィスティールは予想外の動きに少しだけ、動きを止める。
右手のマシンガンと左手のショットガンを、撃てるだけ撃ちまくる。
そのままOBで通り過ぎ、態勢を整えているフィールビットにロケットを撃ち込む。
『ッ!まだまだよッ!』
フィールビットはすぐさまブーストを使い、ロケットを回避する。
さらに、スナイパーライフルを使いBUSTERに牽制を行う。
さらにマシンガンとのダブルトリガーで弾幕を張り、近づけないようにする。
『カークさん、ロケットで牽制です。敵の弾幕が薄くなるタイミングを計って一気に接近してください。』
カークはリェスのオペレートに応えるようにBUSTERを操る。
マシンガンは弾がばらけ、スナイパーライフルにさえ気をつければそれほど手痛いダメージは受けない。
マシンガンのマガジン装填に入る数秒前に、カークはOBを再度発動させる。
BUSTERは本日2桁にも及ぶ高速移動を再度行い、マシンガンとショットガンでフィールビットの装甲を剥がす。
「一気に沈めるぞ!」
そう言い放つと、FCSコントロールでショットガンを手放しELF2を格納から取り出す。
すれ違いざまにコアにブレードを当てるBUSTER。疾風迅雷のごとき速さで駆け抜けてゆく。
しかし、背後からあのチャージ音が聞こえてくる。
『回避は不可能です。態勢を建て直し、もう一度ブレードで勝負を仕掛けてください!』
BUSTERは右手でコアをかばう様にガードをする。次の瞬間高速のEN弾が着弾し、コアが熱暴走を起こす。
さらに、マシンガンもその衝撃で弾かれ強制的に手から離れる。
エクステンションを使用し、さらに同時にOBを作動させる。
もう、どちらの耐久ポイントは少ない。これが最後の攻撃になるだろう。
「俺の『BUSTER』が耐えるか・・・」
『あたしの『フィールビット』が撃ち勝つか・・・』
「『勝負!』」
BUSTERはELF2を最大出力まで放出し、フィールビットへと迫る。
フィールビットはマシンガンとEO、スナイパーライフルをBUSTERへと放つ。
BUSTERはマシンガンとEOは無視し、スナイパーライフルのみを回避して突き進む。
そして、フィールビットのコアへとELF2が殺到する。
コアを袈裟懸けに斬るBUSTERと、近距離でマシンガンを連射するフィールビット。
試合終了のブザーが鳴り響き、2機の巨人は停止する。
「・・・ッ・・・どうなったんだ?」
『おおぉーーっとォ!!!これは・・・引き分けだぁぁぁああ!!!』
「『『何ィーーーーーーーーーーーーー!!?』』」


Out Town レイヴン居住施設 13−D−5

「ふ〜んふんふふ〜ん♪」
ウィスティールは上機嫌で着替えをしている。
いつもとは少し違う服を選んでいるようだ。
「・・・」
カークはいつもと同じ顔で、私服のジーパンとジャンパーに袖を通している。
昨日行われたアリーナの試合の最後に、ELF2とマシンガンが寸分たがわず同時に炸裂し引き分けとなったのだった。
それならば何故デートの準備をしているのだろうか。それは・・・
『引き分けだったんだし、両方の提案を呑むか・・・もしくは、どちらも破棄ってことになるわね。』
カークの財布は少し寂しくなっており、悩みに悩んだすえにこうなったのだった。
リェスは今頃、カークに貰ったお小遣い(止むを得なく渡した)を持ってカイとパフェを食べに行っているだろう。
「ほら!カーク、どう?綺麗でしょ?」
いつもとは違う黒のロングスカートに、セーター。
スカイブルーの髪は髪留めでまとめられている。
「・・ああ。」
驚きを隠せないカーク。
「ここまで化けるとはな・・・」
皮肉を込めた言葉を放つものの、ウィスティールには効かない。
「カークも結構かっこいいじゃな〜い♪」
「フン・・・」
「さってと!行きましょ、カーク♪」
いつもとは違う元気いっぱいの笑顔を浮かべながら、カークの腕をひっぱるウィスティール。
やれやれ・・・と頭を掻きながら、ウィスティールにつれられてゆく。

Out Town メインストリート
研究施設のベッドタウンとは思えないほど大きなその街は、南北に通るメインストリートを中心として作られている。
そこから、古代の町並みを再現するように碁盤の目のようなサブストリートが沢山走っているのだ。
そのサブストリートには色々な名前がついているが、それは割愛しておこう。
カークはポケットに手をつっこみ、ウィスティールはその腕の輪に手を回している。
二人の素性をしらない人が見れば、美男美女のいいカップルだな と思うだろう。
「あ!ここの服屋さん、行ってみたかったんだ〜。」
ウィスティールは半ば無理やりに店内へとカークを引き込む。
「ほら〜 この服なんてどうかしら?」と、カークへと返事を促す。
大抵のカップルだと、「いいんじゃないかな?」とか、「似合ってるよ。」とか言うのだろうが・・・
「・・・まぁまぁだな。」
カークにそういう答えを期待するほうが無理だった。
しかし、相手も相手である。ウィスティールはカークが反応してくれるだけで嬉しいらしく・・・
「でしょ〜〜!ほらほら、これなんかもいいカモ♪」等と言い、かなり上機嫌だ。
ウィスティールの騒ぎを他所に、カークは女性物のコートを手に取りサイズを確かめる。
「・・・これなんてどうだ?」
ウィスティールの体にあわせるように、それを差し出す。
「あら・・・結構いいわね、これ。」
そしてカークは会計へと向かう。
「あのコートを。」
一言そう店員に伝えると、代金を払う。
「カーク、プレゼントしてくれるの?」
「ああ・・・この程度、ACに代えれば安いものだ。」
ウィスティールは人目を気にせず「カ〜〜ク〜〜♪」と言いながら抱きついてくる。
カークは苦笑いを浮かべながら、店の出口へと向かう。
買い物袋を手に、二人はメインストリートを歩いてゆく。
その後、カイが言っていた「美味しいケーキ屋」に行きケーキを食べた。
ウィスティールはデートにかなり満足いったようだった。
そしてウィスティールは最後に、カークのお気に入りの場所「フレイ公園」へと向かう。

静かに風が吹く公園にはまばらに人が居るが、やはり少ない。
カークはこういう静かなここが好きだった。
そしていつも座っている、あまり人が来ないベンチへと向かう。
ベンチに二人で座りカークは静寂を楽しみ、ウィスティールはカークの肩に体を預ける。
「・・・ここに人を連れ立って来たのは、初めてだ。」
「・・・」
「ねぇ、カーク。」
「なんだ?」
「あたしの事、どう思ってるの?」
「・・・」
「答えて。」
「・・・良い言い方が浮かばない。」
「心を、そのまま出せばいいのよ。」
「病院で言っただろう・・・それじゃだめなのか?」
「だめよ。今ここで・・・」
ウィスティールは、カークの手を握る。
「あたし達は、いつも死と隣り合わせの世界に住んでる。」
「言える時に言っておかないと、後悔するよ?」
「俺は・・・」
         『殺戮者の俺が人を愛していいのか?』
「・・・俺は・・・」
         『暗い過去をもつ俺が人を抱きしめていいのか?』
「過去は・・・変えられないけど・・・これからの事は、変えられるよ?」
「・・!」
「俺は・・・愛して、いいのか?」
「・・・あたしで、良かったら・・・」
カークは、涙を流していた。ウィスティールの、その優しさに・・・
ウィスティールを静かに抱きしめ、耳元で自らの心を打ち明ける。

『愛している。』

・・・豊穣の神の名を冠する公園に、静かに風が吹く・・・


あとがき
Love&Loveですね(死爆
なんかこの頃こういうのが多いような・・・(;´Д`)
作者:カーク・ショットさん